ゆうちょ ライバル同床異夢(どうしょういむ) 預金上限の引き上げ
ゆうちょ銀行の預金限度額の引き上げに反対する金融業界内に、すきま風が吹いている。顧客を奪われかねない中小金融機関は「断固反対」を唱えるが、大手行などは商売が直接重ならず、いっしょに稼げる連携相手になるからだ。(朝日新聞2015年7月18日朝刊)
ゆうちょ銀行の預金限度額の引き上げに反対する金融業界内に、すきま風が吹いている。顧客を奪われかねない中小金融機関は「断固反対」を唱えるが、大手行などは商売が直接重ならず、いっしょに稼げる連携相手になるからだ。(朝日新聞2015年7月18日朝刊)
政府系金融機関のゆうちょ銀行、かんぽ生命保険は「国の信用力」を背景に持っています。そこで民間の金融機関の資金を吸い上げすぎないように限度額規制をかけられているのです。現在は、1人あたりのゆうちょ銀行への預け入れ限度額が1000万円。かんぽ保険の契約限度額は1300万円です。自民党は6月末、「ゆうちょの限度額を9月末までに2000万円、2年後までに3000万円に引き上げ、将来は撤廃する。かんぽの契約限度額も9月末までに2000万円。将来はさらに上げる」との提言をまとめ、政府に渡しました(朝日新聞7月1日朝刊)。
しかし、おもしろくないのは民間の金融機関。とくに地元密着をうたう中小の信用組合や信用金庫です。集めた預金の貸し出しや運用でもうけるわけですから預金量の少ない信組や信金はたまったものじゃない。「預金と一緒に顧客をゆうちょ銀に奪われる恐れもあり、深刻だ」と冒頭の記事は書いています。ところが、都市型の大手銀行は、「基本的には関係ない話」(ある大手行幹部)というのです。あれれ?
というのも大手行は、ゆうちょ銀とは地域も客層も違うのです。ゆうちょ銀行は住宅ローンを扱わないし、これまで資産運営のノウハウも持ってこなかった。だから限度額を引き上げても脅威にならないというわけです。むしろ三井住友信託銀行と野村ホールディングスはゆうちょ銀と共同で資産運用会社の設立も計画しているそうです。
地銀もゆうちょ銀との「共存」を模索していて、北洋銀行頭取で第二地銀協会長の石井純二氏は、「地銀の店舗が行き渡らない過疎地で共同店舗を運営したり、地方活性化に向けたファンドに共同出資したりすることが考えられる」とコメントしています。同じ民間の金融機関といっても利害が違うのですね。業界研究では、こういう「違い」にこそ目をつけましょう。
ところで、信組や信金など民業を圧迫する規制緩和になぜいま、政府・自民党は踏み切ろうとするのでしょう。表向きは、郵便局は津々浦々にあり、もよりの金融機関がない地方のお年寄りが貯金を増やしたり生命保険にもっと加入できるようになるためというのですが……。じつは、この背景に、今秋予定されている日本郵政グループ(日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命)の株式上場がありました。メガバンクトップの三菱UFJをしのぐ総資産300兆円のグループの上場です。株主である国は1000兆円超の「借金」を抱えています。国としては、上場のときに、グループの市場価値を少しでも高めておきたい。上限引き上げには、この思惑が働いています。
その上、この上場の手続きには、三菱UFJや三井住友、みずほのグループの証券会社が関わっています。どうやら、ゆうちょの預金限度額引き上げで「笑う」のは、国と大手金融機関ともいえますね。ニュースの背景にじつはなにがあるか、新聞記事でつかんでください。
2024/11/23 更新
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