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2015年07月03日

親の資産を上手にもらう? 「生前贈与信託」って何だ

銀行・証券・保険

生前贈与手続きを代行 (朝日新聞6月30日付け朝刊)

 三菱東京UFJ銀行は、毎年の生前贈与の手続きを無料代行する「暦年贈与信託」を全国680店舗で取り扱う。グループの信託銀行が昨年6月から売り出し、1年間で約1万件の契約があった。信託銀より店舗や取引客数が多い三菱東京UFJ銀行が代理店として取り扱うことで、契約上積みを目指す。

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 信託銀行については4月28日の業界トピックス「信託銀行って何? 実は意外に身近な存在」でも扱いました。今回はその信託銀行や銀行が扱いを増やしている「暦年贈与信託」を取り上げます。
 増加の背景の一つは、今年1月から実施された相続税改定です。これにより、相続税がかからない「基礎控除額」の部分が従来の<5000万円+1000万円×法定相続人の人数>から、<3000万円+600万円×法定相続人の人数>へと4割も減らされました。亡くなった家族の遺産が相続税の対象になるハードルが引き下げられたのです。そうなると、「みすみす税金にとられることなく子孫に少しでも多く残したい」と、だれでも思いますよね。そこで注目されるのが、親から子へ、祖父母から孫へと、財産を生きているうちに相続する生前贈与という制度。毎年110万円までなら贈与税はかかりません。

 でも、どうして信託銀行や銀行は無料で生前贈与手続きをしてくれるのでしょう。暦年贈与信託では親・祖父母のお金は自行の口座から、自行の子・孫の口座へと流れます。お金が他の銀行とか国庫とか外に出ていかないわけですから、無料でもじつはありがたい話なのです。高度成長期にがんばった高齢者の世代は、バブル以降に育った世代に比べてお金を持っている層です。この富裕な世代の資産を取り込み、長く自分のところに繫いでおきたい。これが銀行や信託銀行の長期的な思惑でしょう。ちなみに、依頼者に替わり財産の管理を行うのが信託業務ですが、規制緩和によって信託銀行と銀行の垣根が取り払われたので、銀行でも同じように手がけられます。

 「タンス預金」ということばを知っていますか。どこにも預けず家にしまってある現金のことです。将来に対する不安が高ければ高いほど家庭の財布のひもは締まります。日本銀行の資金循環統計によると、個人が持つ預金や株式などの金融資産の残高は2015年3月末で、過去最高の1708兆円にのぼります(国債や短期借入金など“国の借金”1053兆円をしのいでいます)。家計がもつ株式残高は、最近の株高によってリーマン・ショック前の2007年6月末以来8年ぶりに100兆円になったといいます(「家計の株100兆円回復」朝日新聞6月30日朝刊)。ところが、同じ統計で個人の現預金は、その9倍近い883兆円もありました。

 家計が持つ莫大な「現預金」を引き寄せるにはどうすればよいか。金融機関を目指すなら、ぜひ自分なりのアイデアを絞ってみてください。そうでなくても、親や祖父母の世代の資産継承は、みなさんの世代共通の問題でもありますね。小さな記事の中に大きな問題が潜んでいますよ。

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