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2024年11月21日

業績の明暗がはっきりしてきたファストフード業界【業界研究ニュース】

外食

 牛丼やハンバーガーに代表されるファストフード業界に動きが出ています。「すき家」のブランドで牛丼チェーンを展開するゼンショーホールディングスは、国内外で積極的な出店や企業買収を進めて規模拡大のスピードを上げています。また、ハンバーガーの日本マクドナルドホールディングスは過去最高益を記録するなど好調を維持しています。一方、「ケンタッキー・フライド・チキン」で知られる日本KFCホールディングスはアメリカの投資ファンドに買われて2024年9月に上場廃止となり、新体制で巻き返しをはかります。また、アメリカ発のサンドウィッチチェーンである「サブウェイ」の日本法人は2024年10月に居酒屋チェーン大手のワタミに買収され、その傘下での出直しとなります。ファストフード業界で明暗が分かれている背景には、食材費や人件費の高騰があります。商品の値上げをしても売り上げが落ちないだけの体力のある会社とそうでない会社との間で業績が分かれる結果になっています。
(写真・ゼンショーホールディングスが展開する「すき家」の店舗=2017年、東京都内/朝日新聞社)

ゼンショーがトップで、日本マクドナルドが続く

 ファストフードは少ないメニューを短時間で提供し、食べやすいために客の回転が速いのが特徴です。全国や世界にチェーン展開し、比較的安い値段で大量販売するビジネスモデルを確立しています。売上高がもっとも大きい日本の会社は「すき家」を展開するゼンショーホールディングスで9657億円(2024年3月期)、2番目は日本マクドナルドホールディングスの3819億円(23年12月期)です。両社は利益も大きく伸ばしています。3番目がうどんの「丸亀製麺」を展開するトリドールホールディングスで2319億円(2024年3月期)、4番目が「うまい、やすい、はやい」を掲げる牛丼の吉野家ホールディングスで1874億円(2024年2月期)となっています。このほかモスフードサービスはハンバーガーで2番手、松屋フーズホールディングスは牛丼で3番手に位置しています。ゼンショーホールディングスやトリドールホールディングスは、牛丼やうどんだけではなくさまざまな業態の外食チェーンを抱えています。

すかいらーくは資さんうどんを全国展開

 ファストフード業界は競争の激しい業界です。よく知られたブランドの会社でも業績が悪くなったり、経営者が売り時だと思ったりしたら、経営権の売買が起こります。2023年にはゼンショーがロッテホールディングス傘下の「ロッテリア」を買収し、ゼンショーの外食ラインナップにハンバーガーチェーンを加えました。また、ワタミは「サブウェイ」買収により、初めてファストフードに参入することになりました。サブウェイの今ある178の国内店舗を、20年かけて3千店まで増やすという大きな将来図を描いています。日本KFCについては、アメリカのカーライル・グループが三菱商事の持っていた約35%の株を買い取るなどして完全子会社にしました。2024年10月にはすかいらーくホールディングスが九州を中心に約70店舗を展開する「資(すけ)さんうどん」の資さん(北九州市)を買収しました。すかいらーくは今後資さんうどんを全国展開し、丸亀製麺に対抗する狙いです。
(写真・資さんうどんの関西1号店の今福鶴見店=大阪市鶴見区/朝日新聞社)

問題は原材料費の高騰と人手不足

 ファストフード業界が直面している問題は、原材料費の高騰と人手不足です。牛丼チェーン店では、コメの価格が今夏以降高騰しているうえ、円安で輸入牛肉の値段が上がっていることが痛手となっています。すき家は2024年11月22日から全商品の6割に当たるメニューを値上げします。すき家の値上げは今年度で2度目で、牛丼の並盛は430円から450円になりますが、この価格は過去最高値です。また、ハンバーガーチェーン店でも小麦粉や牛肉が円安などで値上がりしており、商品の値上げを進めています。ただ、すき家やマクドナルドのように商品力やブランド力が強いところは値上げをしても売り上げは伸びて、業績にはプラスになっています。あわせて、人手不足も深刻です。最低賃金の引き上げによりアルバイトやパートの人件費は高騰し、各チェーンがタブレットによる注文などの機械化を進めていますが、人手不足感はおさまっていません。
(写真はiStock)

ゼンショーは海外店舗数が1万店規模に

 日本の人口は減少しているので、国内だけでの展開では伸びしろは限られます。そのため、日本資本の会社は海外への進出に力を入れています。ゼンショーは国内ですき家を約2000店舗展開していますが、海外でも669店舗(2024年6月現在)を展開しています。海外の外食店を買収する動きもあり、ゼンショーは2023年にアメリカやイギリスで持ち帰り寿司店などを約3千店運営する「スノーフォックストップコ」社を買収しました。こうした積極的な買収戦略でゼンショー全体の海外店舗数は1万店規模になっているとみられます。吉野家は海外に989店舗(2024年10月現在)、トリドールの丸亀製麺は海外に271店舗(2024年6月現在)を展開しています。ハンバーガーはもともと外国の商品ですし、日本マクドナルドのようにアメリカの会社の傘下にあるところは海外進出しないため目立ちませんが、モスフードのモスバーガー店は海外に426店舗(2024年10月現在)があります。

成長する本当の力が問われる時代に

 ファストフードは値段が安くて手軽に食べられるため、デフレ時代には「デフレの勝ち組」と言われました。また、コロナ禍でもテイクアウトに対応しやすかったり短時間で黙々と食べたりできるために業績の落ち込みは小さく、「コロナ禍に強い業界」と言われました。ただ、現在はインフレの時代になりつつありますし、コロナ禍は終わり、外食はどこも賑わいを取り戻しています。安さや速さが追い風にはならなくなっています。そうなると、それぞれの会社が成長する本当の力が問われます。ファストフード業界を志望する人は、それぞれの会社の商品開発力や先見性や国際性などについて、さまざまな資料を読んだり先輩の話を聞いたりしてよく研究することが重要だと思います。

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