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2023年02月08日

政治

同性婚で「社会が変わってしまう」…問われる首相の人権感覚 LGBT法案進む?【時事まとめ】

「見るのも嫌」発言で首相秘書官更迭

 性的マイノリティー同性婚について首相秘書官が「見るのも嫌だ」などと差別的な発言をし、岸田文雄首相は「内閣の考え方には全くそぐわない、言語道断の発言だ」として更迭(こうてつ)しました。秘書官の発言は、同性婚について「社会が変わってしまう課題」と述べた首相の国会答弁がきっかけで、首相自身の人権感覚が疑われる事態になっています。同性婚は世界30以上の国・地域で制度化されており、主要7カ国(G7)で同性カップルに法的保障がないのは日本だけ。5月のG7広島サミットを前に、さすがにこのままではまずいと危機感が強まり、「LGBT理解増進法案」を成立させようという動きが出てきました。国会での議論と法案の行方に注目してください。LGBTなどの多様性を大事にすることは社会の活力につながります。みなさんの企業選びでも、多様性を重視する企業かどうか、説明会や面接など社員と接する中でしっかり見極めてください。(編集長・木之本敬介)

(写真・衆院予算委員会で荒井前首相秘書官の発言について陳謝する岸田首相=2023年2月8日、国会内)

スピーチライターも務めた側近

 問題の発言は2月3日夜、8人いる首相秘書官の1人で経済産業省出身の荒井勝喜氏が、首相官邸で記者団に語りました。広報担当で首相のスピーチライターも務めてきた側近です。性的少数者や同性婚をめぐり、「隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」「見るのも嫌だ」「認めたら国を捨てる人が出てくる」などと述べたとされています。どんな感情を持つかは個人の問題ですが、差別は絶対悪だと思いますし、「多様性のある包摂社会」を目指すとしている政権の中枢にいる人の発言としては完全にアウトです。首相は翌日、荒井氏の差別発言を批判し、「多様性が尊重され、全ての方々の人権あるいは尊厳を大切にし、共生社会の実現に向けて取り組んでいく」と述べました。

きっかけは首相答弁

 そもそも荒井氏の発言は、同性婚法制化をめぐる首相の国会答弁に関する補足説明の中で飛び出しました。野党議員が法制化を求めたのに対し首相は「極めて慎重に検討すべき課題だ」として、「家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だからこそ、社会全体の雰囲気にしっかり思いをめぐらせたうえで判断することが大事だ」と強調しました。官僚が用意した答弁書にあった表現ではなく、首相自らのその場での言葉だったことを官房長官が認めています。

 岸田首相は2月8日の衆院予算委員会で「同性婚制度の導入は、国民生活の基本に関わる問題であり、国民一人ひとりの家族観とも密接に関わるものであり、その意味で全ての国民に幅広く関わる問題であるという認識のもとに『社会が変わる』と申し上げた。決してネガティブなことを言っているのではなく、もとより議論を否定しているものではない」と説明しました。

 ただ、「変わってしまう」という表現には、否定的ニュアンスを感じます。1月の施政方針演説で「老若男女、障害のある方も、ない方も、全ての人が生きがいを感じられる、多様性が尊重される社会。意欲のある全ての方が、置かれている環境にかかわらず、十全に力を発揮できる社会」を目指すと語った首相ですが、人権問題に対する意識がポロッと出てしまったのかもしれません。首相の答弁に対し、立憲民主党の安住淳国会対策委員長は「すでに社会、世界の意識は変わっている」と批判。SNS上でも「社会はすでに変化している」「当事者への想像力も、人権への配慮もない」といった反発が相次ぎました。

同性婚「認めるべきだ」が65%に

 前秘書官の差別発言について、海外メディアは先進国の中で同性婚を認めていない日本の異質性と合わせて一斉に批判的に報じました。NPO法人「EMA日本」によると、世界では33カ国・地域で同性婚が認められています。日本は世界で特異な存在となりつつあるのです。

 それでも、現実の社会は同性カップルへの理解が深まる方向に変わってきています。朝日新聞の世論調査では、1997年には同性愛を「理解できない」が65%を占めていましたが、2021年には同性婚を「認めるべきだ」が65%にのぼりました。250以上の自治体が同性パートナーシップを公証する制度を持っていて、人口比率では6割をカバーするほどです。同性婚を認めない民法などの規定について、札幌地裁は違憲と指摘しています。

NPO法人EMA日本のサイト「世界の同性婚」はこちら

(写真・岸田首相を支える「チーム岸田」の総理秘書官ら。岸田政権では首相を支える8人の首相秘書官ら側近官僚の全員を男性が占める。安倍政権や菅政権では首相秘書官や内閣広報官に女性が起用されていた=2022年1月、首相官邸)

LGBT理解増進法案成立なら一歩前進

 国の動きが鈍い中で当面注目されるのは、LGBT理解増進法案の行方です。2021年に超党派議員連盟が提出をめざしましたが、自民党内の議論がまとまらず先送りされました。しかし今回の差別発言を機に進むかもしれません。自民党の茂木敏充幹事長は記者会見で「提出に向けた準備を進めていきたい」と述べ、公明党の山口那津男代表も「今国会にこの法案を提出し成立を図るべきだ」と語っています。

 首相が言う「多様性が尊重される社会」とは、今の制度の中で苦しんでいるLGBTなどマイノリティーの人たちが暮らしやすい社会です。同性婚や選択的夫婦別姓を認めるかどうかは、その象徴的なテーマです。困っている人たちが暮らしやすくするものであって、その当事者ではない人の権利を制限したり困らせたりするものではありません。LGBT理解増進法案は同性婚を認めるといったものではなく、理解を深めようというマイルドな内容ですが、成立すれば「一歩前進」でしょう。岸田首相がどこまで本気で取り組むのか注目です。

「選択的夫婦別姓」いつ実現? 自分ごととして考えよう【時事まとめ】はこちら

多様性に取り組む会社は働きやすい

 LGBTの人は10人に1人いるとの調査結果もあります。採用選考でエントリーシートの性別欄をなくしたり、事実婚の相手や同性パートナーを「配偶者」と扱って休暇や手当で異性婚と同等にする制度を導入したりするなど、配慮する企業も増えています。企業選びでは、誰でも働きやすい会社かどうかの視点もとても大事ですよ。

 積極的に取り組んでいる企業の動きについては、こちらを読んでみてください。
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