SDGsに貢献する仕事

日本ガイシ株式会社

  • すべての人に健康と福祉を
  • エネルギーをみんなに そしてクリーンに
  • 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 住み続けられるまちづくりを
  • 気候変動に具体的な対策を
  • 海の豊かさを守ろう

日本ガイシ〈前編〉製品で社会課題解決 地域新電力にも進出【SDGsに貢献する仕事】

2024年02月21日

 SDGs(持続可能な開発目標)関連の業務に携わっている若手・中堅社員に直撃インタビューする「SDGsに貢献する仕事」の第14回は、大手セラミック製品メーカーの日本ガイシです。送電に欠かせない「がいし」(碍子)の国産化を実現するために誕生し、セラミック技術を軸に自動車の排ガス浄化用セラミックスや半導体製造装置用セラミックスなど社会課題の解決に役立つ製品を世に送り出してきました。受け継がれてきた理念を基盤に、積極的な情報開示や地域新電力事業といった新しい事業へと乗り出しています。(編集部・福井洋平)

(冒頭のSDGsアイコンは、日本ガイシが重視するゴール)

【お話をうかがった社員のプロフィル】
●寺中万智(てらなか・まち)さん=左
ESG推進部 環境経営グループ
2017年静岡大学工学部卒業、同年技術職として入社。製造技術統括部で生産技術開発に携わる。2022年から現職。

●坂東克起(ばんどう・かつき)さん=右
NV推進本部ビジネスクリエーション バッテリーソリューション
2017年北海道大学農学部卒業。メーカー、専門商社を経て2022年7月に日本ガイシ入社。

創立以来「社会課題の解決に貢献」を理念に

■日本ガイシとSDGs
 ──寺中さんはもとは技術職ですが、どんなお仕事をしていましたか。
 寺中万智さん 製造技術統括部で、研究段階のものを量産するプロセスに落とし込んでいく生産技術開発をしていました。そのときは特定製品の一部分に関する生産技術開発にかかわっていましたが、ローテーション制度で2年前に今の部署に配属され、全社にまたがる広範囲な仕事をしています。

 ──「日本ガイシ」という会社について教えてください。「ガイシ」とは何でしょうか。
 寺中 電気を絶縁し、電線を支えるための器具です。当社は1919年、約100年前に創立しました。当時は日本全体で電力化が進み、電線で電気を遠くまで送るときに使う「がいし」(碍子)の需要が高まりました。当時はがいしを輸入品に頼っていたため、当時の社長である大倉和親が国産化を目ざしたのが日本ガイシの起源になります。
(写真は「懸垂がいし」=日本ガイシ提供)
 ――創立以来、社会課題への貢献を重視してこられました。
 寺中 はい、日本ガイシには創立以来、「『がいし』を製造することによって、社会課題の解決に貢献する」という社会奉仕の理念があり、それが今でも続いています。初代社長の大倉和親はがいしの国産化について「営利ではなく、国家への奉仕としてやらねばならぬ」と語っていたそうです。がいしから始まり、自動車の排ガスが問題になったときには排ガスを浄化する触媒担体「ハニセラム」というセラミックスを開発し、2000年頃からはIT化を支える半導体の製造装置用セラミックスも開発しています。独自のセラミックス技術を使って世の中や社会のためになる製品を生み出し、新しい価値を提供してみんなで幸せになろうというSDGs的な発想が当社には根付いているのです。
(写真は「半導体製造装置用セラミックス(セラミックヒーター)」=日本ガイシ提供)
 ──現在は特に、環境課題に対して積極的に取り組まれていますね。
 寺中 はい。環境課題に対しては「NGK(日本ガイシ)グループ環境ビジョン」を策定しました。特にカーボンニュートラルについては「カーボンニュートラル戦略ロードマップ」も策定し、2050年までにCO₂排出をネットゼロ(排出するCO₂と除去するCO₂を差し引きでゼロにする)にしようという取り組みを進めています。カーボンニュートラル戦略ロードマップは戦略1から4まであり、戦略1では後ほどお話する大容量蓄電池の「NAS電池」を中心に、カーボンニュートラル社会の実現に貢献できる製品とサービスの開発をしています。また、省エネ強化(戦略2)、技術イノベーション推進(戦略3)、再生可能エネルギー拡大(戦略4)などを通じて自社のCO₂排出の削減や燃料転換による化石燃料フリー化、再生可能エネルギーの導入・購入といった取り組みを進めています。

 ──日本ガイシは「NGKグループビジョン」で「ESG を中核にする」というコーポレートメッセージを出していますね。
 寺中 もともと、当社のグループビジョンとSDGsは親和性が高いものだと考えています。SDGsにある17項目全てが重要と考えていますが、当社がグループビジョンを達成するためにサステナビリティ視点で社会と当社、双方にとってより重要な課題を「マテリアリティ」として特定しています。ステークホルダーと事業への影響度が高いものが特に重要だと考え、中でも気候変動への対応を重視しています。SDGs項目でいえば7番目「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」、9番目「産業と技術革新の基盤をつくろう」などに相当する分野です。

自社以外が排出するCO₂も9割削減へ

■寺中さんの仕事
 ──そのなかで寺中さんはいま、どういったお仕事をしていますか。
 寺中 「NGKグループ環境ビジョン」に関わることが主な担当業務です。2050年までのカーボンニュートラル戦略ロードマップ以外にも、例えば外部評価で社会から求められていることと、当社が進めていることとのギャップを認識し、どのように取り組まなければいけないかというところの戦略作りに取り組んでいます。

 今はNGKグループ のCO₂排出削減(=温室効果ガス算定・報告の国際基準にもとづく「スコープ1」および「スコープ2」)に注力していますが、自社以外が排出するCO₂(同「スコープ3」)の削減も社会から求められていますので、それを進めていくことが今後の課題です。2050年に向かっては、SBT(Science Based Targets/科学的根拠に基づく目標)に基づく削減が求められており、自社のCO₂排出量(スコープ1および2)はゼロに、自社以外のCO₂排出量(スコープ3)も90%ほど削減しないといけません。SBTに基づいた削減は投資家の判断要素にもなりますので、インパクトの大きいミッションだと思います。
■CO₂削減への取り組み
 ──具体的には、どういった取り組みをしていますか。
 寺中 簡単に言うと、投資家から「いい会社だね」と評価してもらえるように、社内の取り組みをどう進めていくかを具体化する作業を担当しています。たとえばSBTの設定を進めたり、自社以外で排出しているCO₂(スコープ3)をどう削減していくか関係各所の調整を進めたりしています。
 スコープ3については原材料など購入したもの、輸送や通勤、出張といった社外で発生したCO₂がどれぐらい出ているかを計算し、最終的にそれを90%削減するために何をどう減らせばいいかを考えています。購入品であれば実際に購入する資材部、輸送であれば物流部門メンバーと話し合ったりします。

 ──それは相当大変なお仕事ですね。どこの部分を調整することが、CO₂削減にとってインパクトが強いのですか。
 寺中 具体的には、カテゴリー1の「購入した製品・サービス」とカテゴリー11の「製品の使用」ですね。

 ――製品の使用というと?
 例えば、当社が製造販売している自動車エンジン排ガス用のNOxセンサーは電気を使いますし、半導体製造装置用セラミックスはシリコンウエハーを保持するときにもエネルギーを使い、そこでもCO₂を排出します。だから製品の使用時についても、CO₂の排出を削減できるようなことを考える必要があるのです。カテゴリー1である「購入する製品やサービス」は資材部門と相談して社内で決められますが、販売した製品の使用についてはお客様と相談していかなくてはいけません。そういうことをこれから検討していく必要があり、取り組みが結構難しいと考えています。
 ──部署に配属された2年間で、そうした計算やデータベースの構築をされてきたのですか。
 寺中 はい。ほかの業務を担当しながら各事業部からスコープ3算定に必要な情報を集めて、スコープ3削減に向けての準備をしていました
 今の部署にきて1年目は、CDPという国際的な非営利団体に対し、二酸化炭素排出量や気候変動への取り組みに関する質問に回答する形で情報開示、評価を得る業務を行っていました。また、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)という気候変動に対する企業の取り組みの現状や、シナリオ分析に沿った機会やリスクなどを具体的に開示する枠組みに沿って分析や開示を行う業務に携わりました。
 例えば、当社の自動車排ガス用セラミックスは空気を浄化する装置ですので、内燃機関が中心の現在では環境に貢献する製品であると考えています。ですが、今後EV化がどんどん進むとこれは必要がなくなります。そのため、今の内燃機関関連の需要は減少する リスクがあるのです。
 逆にNAS電池や亜鉛二次電池「ZNB」のような蓄電池の需要はこれからどんどん拡大していくでしょうから、会社にとっては機会になります。そうしたリスクと機会をそれぞれ検討し、気候変動によって会社にどのぐらいの影響があるかを明確にしてウェブサイトで公開しました。
 これはもちろん私1人の力ではなく、社内の多くの関係者の力も借りました。TCFDに沿った情報開示によって、外部からもいい評価をいただきました。

 ──同業、もしくは同規模の会社でTCFDに沿った情報を開示しているというのは。
 寺中 多くの企業が分析を進めていますが、「内燃機関自動車向け製品の需要が減少したら、2050年には2,000億円規模の売り上げが減少」「蓄電池の需要が拡大したら、2050年には700億円規模の売り上げが期待できる 」と具体的に可能性がある財務影響額を公開している会社は、まだ少ないのではないかと思います。

 ──TDFDに取り組むなかで、日本ガイシの未来は見えまましたか。
 寺中 今までは排ガスを除去する「ハニセラム」などの自動車関連製品が気候変動を通してそこまで影響を受けるものという認識がなかったのですが、財務影響額まで分析することで、既存の製品に頼らず新製品を開発していくことの重要性を痛感しました。社会の要請や期待に順応して、どんどん新しい価値を出していくということが会社を持続させ、かつ社会に対しても重要だと再認識しました。

気候変動対策にともなう機会やリスクを定量化

■大変だった仕事
 ──今の部署に来られて、一番大変だったことは何ですか。
 寺中 TCFDにおける財務影響の定量化を行う際に全社関係者とキックオフをしました。でも、その時は各部署でTCFDに対する捉え方や感じ方が違い、「影響を理解しても財務影響を具体的な数値として公開することには抵抗がある」という意見もあり、調整が難しい部分もありました。ESG関連のフレームワークや基準などはアルファベットの省略形が多く、TCFDという言葉自体にもなじみが薄くて、関係者に少しずつ理解してもらいながら進めていくことが難しかったと感じています。

 ──どうやって説得されたんですか。
 寺中 どういったところが疑問点なのか、打ち合わせをして聞きました。なかなかTCFDの枠組みで定量分析を開示している会社が少ないので、社外の公開情報や専門家の意見を参考にして、開始しました。

 ──前例もそんなにない中、なぜこれをやろうと。
 寺中 当社が内燃機関自動車向け製品という、気候変動に対して影響の大きいものを手がけているためです。定性だけではなく定量的な開示をして、「当社は気候変動によりこれだけ財務に影響する額の可能性があるので、ちゃんとそれらを認識し、そしてほかの機会やリスクにも対応していきます」と社会に伝える必要があります。新製品でも「こういった機会がある」と社会にアピールしていくことが会社の持続性にも影響しますので、ちゃんと財務影響額まで打ち出していくのが重要だと考えました。

 ──経営にも大きな影響が出ますね。
 寺中 はい、やはり数字に一番敏感なのは経営層です。ハニセラムやNOxセンサーを扱う自動車関連事業は気候変動によるシナリオ分析で2050年までにEV化が進むことで現状から売り上げがこれだけ減る可能性があるという財務影響額がデータとして出ています。一方で、坂東さんが現在かかわっているバッテリービジネスでは蓄電池関連で2050年には680億円の機会の可能性があります。そうしたデータを丁寧に説明して、納得してもらいました。

──TCFDの取り組みは相当大変だったと思うんですけども、どういう気持ちで乗り越えていかれたのですか。
 寺中 ESG関連の取り組みは投資判断要素となるものですが、どれぐらい当社に良い影響があるかというと、ちょっと分からない部分もあります。そこがクリアでない分、取り組みを進めるのが難しいところがあります。けれども達成できれば、会社としてすごく良いアピールになると思い、やっぱりこれは達成しなきゃいけない、開示しなきゃいけないと思って乗り越えました。

大容量の蓄電池をつかった新しい事業を

■坂東さんのお仕事
 ──坂東さんは何年入社ですか。
 坂東克起さん 私は中途採用で、2022年7月に入社しました。前職は紙パルプの製紙工場向けに紙パルプを溶かしたり、紙を作るときにムラにならないようにしたりする薬品の営業をしていました。ただ業界の規模が縮小傾向にあり、これから40年も働くことを考えるとどうなるのだろうと心配しているなかで、日本ガイシの募集を見つけました。

 ──いまのお仕事は、前職とはずいぶん違いますか。
 坂東 業界としては畑違いです。前職ではルート営業ではなく、随時お客様の工程での悩みを聞き、それに対して提案するような営業でした。今の業務も自治体などのお客様に寄り添って提案するので、やっていること自体は似ています。

 ──今のバッテリーソリューションという部では何をされていますか。
 坂東 蓄電池を通したソリューションビジネスの事業性検証をしています。
 もともと日本ガイシは主力製品として、「NAS電池」を製造・販売しています。ナトリウム(Na)と硫黄(S)を使い、電解質にファインセラミックスを使った蓄電池で、鉛蓄電池よりもコンパクトサイズで寿命が長く、大容量です。我々のチームはNAS電池の販売を目的とした営業部とは別に、再生可能エネルギー+蓄電池を活用し、脱炭素に貢献できる新しい事業を自分たちで起こして利益を得られないかを検証しています。このチームができたのは2021年です。
 ──たとえば、どういった新事業ですか。
 坂東 まず「恵那電力」(岐阜県恵那市=写真)という地域新電力会社を立ち上げ、電気の小売事業に取り組みました。
 今までの地域新電力は市場から電気を調達してきて販売したり、自社電源として太陽光パネルを備えたりしていましたが、再生可能エネルギーによる電力は時間や季節により発電量が大きく変わるため、供給したいときに適切に供給できない、発電できないという課題がありました。恵那電力はNAS電池を持ち、昼間に自社の太陽光パネルが過剰に発電しているときはNAS電池に充電し、夜間など電力が足りなくなったら電池から放電できます。これにより、再エネの供給調整ができるようになるのです。
 恵那市は国が2050年までにCO₂排出ゼロを宣言している中で、さらに台風や地震による大規模停電の危険性もあることから、どうクリーンな電力を確保するかという危機意識をお持ちでした。そこで何か貢献できないかと、恵那市にNAS電池を販売するのではなく、恵那市と一緒に恵那電力を立ち上げたのです。そこで得たノウハウを生かし、あばしり電力(北海道網走市)を2例目として立ち上げました。

 ──祖業は電線にかかわるものでしたが、電力小売というジャンルに参入したのは初めてということですね。
 坂東 そうですね。今までは電池を作って、お客様に販売して使ってもらう立場でしたが、今回は電気の小売事業にチャレンジしました。充電自体はリチウムイオン電池などでも可能ですが、再エネが重視されるようになってますます蓄電池の必要性が認められるようになり、大容量であるNAS電池を生かして昼夜の需要と供給にあわせた電力の提供ができるのではと考えています。

(後編はこちらから)

(インタビュー写真・谷本結利)

SDGsでメッセージ!

■学生へのメッセージ
 寺中 NGK(日本ガイシ)は100年以上前の創立時からSDGsとかなり親和性の高い理念で事業を展開しています。みなさんはちょうど今、SDGsという考え方とかなり近いところで生活をしていると感じます。今後のNGKが2050年、また2050年以降も持続可能な企業として事業を展開していくためには、みなさんの力が重要になってきますので、その将来を一緒に作っていけたらと思います。ぜひ、お待ちしております。

 坂東 私は今、地域の課題解決に向けて再生可能エネルギーと蓄電池を使った脱炭素に向けたソリューションの提案を行っています。今まで製造業ということで、NAS電池を販売してきましたが、そこから一歩飛び出して、地域の課題を直接現地でヒアリングすることで、課題解決を模索しています。非常にやりがいもありますし、チャレンジングです。日本ガイシというのはそういったチャレンジングな仕事を後押ししてくれる環境が整っていますので、ぜひ選択肢の1つとして考えてください。

日本ガイシ株式会社

【メーカー】

日本ガイシは1919年の設立以来、独自のセラミック技術を駆使し、社会課題を解決する製品を数多く提供してきた総合セラミックメーカーです。 カーボンニュートラルとデジタル社会の2分野に注力しており、世界20カ国以上で活動しています。 再生可能エネルギーの効率利用に寄与する大容量蓄電システムや、世界のIoT化を支える小型・薄型のリチウムイオン二次電池など、 革新的な製品やサービスの提供を通じて持続可能な社会の実現に貢献します。