
■コース別採用
──コース別採用については5年前の「人事のホンネ」でもうかがいましたが、今は約100コースも!
吉田 学生に興味を持ってもらい、何をしたいかイメージしやすくするのも私たちの仕事です。入社後のギャップを減らすためにも、実際に入社後に携わる職種に応じてコースを細かく分けています。内定者に「もっとコースをまとめたほうがいい?」と聞くと、「いや、これくらいないと自分が入社後に何をするか分からないし、各コースの紹介動画で具体的なイメージを持てるのでこれくらい細かくて問題ないです」と答えてくれます。
浅井 コースは年々増えています。学生にやりたいことを問い、パッションや思いをぶつけてもらって、入社後に実現できるので、入社するまでどこに配属されるかわからないといったような、いわゆる「配属ガチャ」はありません。内定者に聞くと「配属が確約されているからソニーに決めた」という人が非常に多いですね。入社後も社員には「自分のキャリアは自分でつくるんだよ」と言います。社員はやりたいことに取り組み、会社はその場を用意する。それがソニーの働き方です。
──コースによっては学部・学科の指定はありますか。
浅井 ありません。コースの9割近くが技術系で、ソニーはエレクトロニクスのイメージが強くて専攻が電気や機械じゃないと内定しないと思っている人がけっこう多いんです。毎年アンケートを取っていますが、専攻と入社後の仕事がマッチする学生は半分くらいしかいません。半分は大学での勉強とはちょっと離れたところでマッチングして活躍しています。女性が比較的多い生物や化学専攻でもマッチするチャンスは大いにありますが、現状はエントリーの数という意味ではまだまだ限定的ですので、そういった専攻の学生であってもソニーでは十分に活躍できるフィールドがあることを今後はよりアピールしていこうと思っています。
──生物や化学の専攻がどう生きるのでしょう。
浅井 AIのアルゴリズムを書くコースだと難しいなど濃淡はありますが、ものの考え方、実験のやり方など基本的な素養があれば、扱う技術が変わるだけなので大丈夫です。
──約100コースもあると、選考も複雑でしょうね。
吉田 内部のオペレーションはとても大変です……。コースごとに面接を設定しますし、コースごとに求人充足を緻密に計算して過不足がないように管理しないといけないので。
浅井 すべて個人面接なので、面接の回数は6000回以上、面接員は1400人にのぼります。
──現場の要望でコースの設定も変わるのですか。
吉田 はい。コースは毎年見直しを行っています。これまで通りでいいか、何を追加・削除するか、各事業の実態を踏まえてニーズを堀り起こします。
たとえば、私が採用統括しているソニー株式会社では、旧来のエレクトロニクス分野の域を超えて事業を捉え直し、事業名称を「エンタテインメント・テクノロジー&サービス」と改称しました。ネットワークによってあらゆるサービスが拡張可能な昨今ですが、テレビ、オーディオ、カメラなど商品単体の枠を超え、ソニーの幅広いテクノロジーを駆使して、クリエイターとユーザーをつなぎ、新しい付加価値、未来のエンタテインメントを創出することを目指しています。新しいビジネスを考える組織の形態に沿ってコースも変わります。とくに新規事業においては、お客様に継続したサービス・ソリューションとしてお届けするビジネスモデルの構築・拡大を意識していて、その実現に向けて必要な「クラウドソリューション」や「人工知能(AI)・機械学習機能設計」などの技術領域の採用を強化しています。
──コースが多すぎて決めきれない学生もいるのでは。
吉田 専門性が合致しない学生は決めきれない場合もあるかもしれません。ただ、専門性が合致するからという理由で応募コースを決めるのではなく、実現したい思いやチャレンジする気持ちを大切にしてもらいたいです。それでも決めきれない学生もいると思っていて、そのような人には「WILLコース」を活用してもらいたいです。WILLコースでは、コースの絞り込みが難しくそれでもソニーに入社への強い思いがあるという学生をキャッチするためにソニー株式会社では2023年卒採用から導入しました。とくに学部生や理学・農学などを専攻する学生にアピールしたいです。
──WILLコースは前からありましたね。
吉田 これまでのWILLコースは事務系中心でしたが、技術系にも広げました。
浅井 WILLコースを選択しない場合でも、第3希望まで希望するコースをエントリーシートに書いてもらいます。基本的には第1希望で選考が進みますが、第2、第3希望、場合によっては「こっちのコースが合うんじゃないの?」とこちらからおススメをして内定につながるケースも結構あります。
──「ポテンシャル確認希望」欄があるそうですが。
吉田 「よりマッチングが図れるコースがあれば会社からの提案を希望します」という意思表示欄で、書類選考や面接を通じて、こちらからコースをオファーすることもあります。学生の希望もそろえば、コース替えして選考を続けます。
浅井 かなりの数がポテンシャル採用で決まっています。約100コースあるとたいてい学生の琴線に触れるところが見つかりますが、会社側も適性を見ます。自分の頭の中で想像してまずは応募する、だめだったとしても他の幅広い領域から会社が提案する──両面があるシステムです。
──人気のコースは?
吉田 事務系だとプロダクト&サービスプランニング(商品企画)、セールス&マーケティングのコースが人気です。
浅井 グループ全体でみますと、R&Dセンターやゲーム事業も人気です。他にはaiboなどを生み出したAIロボティクスビジネスグループ。ただ、繰り返しですが、学生のみなさんがやりたいことにチャレンジをしてもらうことが大事だと思っていて、そのために必要な情報を極力オープンにするようにしています。
■採用実績とエントリー数
──採用数のうち女性の比率は?
吉田 技術系コースに関しては3割を目標にしています。エレクトロニクスに親和性がある工学系は女性が10%ほどしか在学していないなので、それを踏まえると高い目標だと思っています。
浅井 事務系は女性が増えていて、技術系もエレクトロニクス以外の専攻で入る人が少しずつ増えているところです。
──エントリーの数と増減の傾向は?
浅井 グループ全体でプレエントリーは数万人、エントリーは1万人ほどです。2021年卒では3~4割増えて、2023年卒は横ばいです。同規模の他社が10%くらい減っている中で変わらなかったのは、ソニーの業績が好調という面ももちろんありますが、等身大のソニーを伝える地道な工夫の結果だと思います。
(
後編に続く)
(写真・小暮誠)
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