人事のホンネ

ソニー株式会社

2024シーズン ソニー〈後編〉
異なる意見楽しめる人がフィット ガクチカはポイント明示【人事のホンネ】

ソニーグループ株式会社 SPPS・採用部・2課 統括課長 浅井孝和(あさい・たかかず)さん
ソニー株式会社 人事総務部門・人事企画部・採用人材開発Gp 統括課長 吉田亜美(よしだ・あみ)さん

2022年09月14日

 人気企業の採用担当者への編集長インタビュー「人事のホンネ」2024シーズン第1弾、ソニーの後編です。採用で大事にしているのはカルチャーフィット。どんな人がフィットして、どうやって見極めるのか。技術系は専門性、事務系は行動を深掘りするそうです。私服での個人面接へのこだわりにも「ソニーらしさ」が見えてきました。(編集長・木之本敬介)
前編はこちら

■求める人物像
 ──求める人物像を教えてください。
 吉田 チャレンジ精神旺盛な人、新しいことに向けて自発的に、モチベーション高く動ける人ですね。
 浅井 グループ各社で違いもあります。コースごとに求める人材が違うので、ひとくくりにするのは難しいんですが、ソニーにカルチャーフィットする人がお互いにベストです。自分の意見を口に出して発言する人、思いを伝えようとする人がソニーはすごく多い。面倒くさい社員が多くて(笑)。「俺はAだと思う」「私はB」「いや、私はC」と言い出して、ヒェーッとなることがあります。A、B、Cと聞いていく中で良いモノが生まれるので、それを楽しめる素養がある人はソニーに向いています。

 ──カルチャーフィットをどう見極めますか。
 吉田 ソニーのPurposeに共感してもらえるかは大事なポイントだと思いますが、人材の観点でいうと、ソニーは創業当初からダイバーシティを大切にしており、異なる人、異なる視点、多様な思考、これらの多様性が価値創造の推進につながると考えているので、ソニーにフィットするかどうかということよりも、その人らしさがソニーで生きるかを見るようにしています。

■ES
 ──エントリーシート(ES)の内容は?
 浅井 質問項目はシンプルで学生のときに力を入れたこと(ガクチカ)が中心ですが、今年から①きっかけ・背景 ②設定したゴール ③体制・役割 ④こだわったこと ⑤結果・学んだこと ⑥学んだことを今後どう生かすか──といった要素を入れてくださいと明示しました。なぜ会社がガクチカを聞くかが分からずに、うまく書けない人がいるからです。「〇〇部の部長をやりました」だけだと、「それで?」となりますよね。どうして部長をやったのか、どんな困難があったのか、何を学んだか、どこに思いがあるか、実はしっかりと考えているけど、書き方を知らない学生も多い。それって、学生にとってもソニーにとってもハッピーではない。であれば、最初から聞きたいポイントを明示しよう、となりました。

 ──どうでしたか。
 吉田 質問項目に予め背景などを補足することで、記載事項をよりよく理解した人もいると思います。
 浅井 コロナ禍を経て二分された面もあります。「ガクチカに書くことがない」とよく聞きますが、行動する学生は制約の中でも自分なりに考えてやります。一方でコロナを言い訳にする学生もいるので、逆に分かりやすくなった面もあるかも知れません。学生にとっては厳しいかもしれませんが。

技術系は専門性、事務系は行動を深掘り

■面接
 ──面接は、個人面接と私服にこだわりがあるそうですね。
 浅井 グループ面接で集団の中での面接となると、場合によっては自分らしさを発揮できないケースもあります。なので、もっとも自分らしさを自然に発揮できるであろう「1対1」にこだわっています。私服面接は、自然体のみなさんと話したいというコンセプトです。「スーツが自然体で話せます」という人はそれでいいし、「Tシャツにジーンズ」ならそれも「どうぞ」です。

 ──奇抜な格好で来る学生はいましたか。
 浅井 「私服でいいと言うけどトラップだ」という噂もありましたが、そんなことありません。髪の毛をピンクに染めている人、全身白いスーツで来た人など、色々な人がいますが、内定しました。自分らしさをアピールするという意味で着たんだと思いますから。

 ──面接のポイントは?
 吉田 職種によりますが、技術系2回、事務系3回が基本になります。技術系は研究内容をプレゼン形式で発表してもらうので1次面接が45分、事務系はだいたい30分、コースにより45分の面接もあります。技術系は発表を踏まえて、専門性を深堀りし、どのように専門性を生かしていきたいのかを聞きます。どんな商品・サービスに興味があるかもヒアリングします。最終面接は技術的な確認も行いますが、入社して活躍できる人材か人物面の見極めも行います。
 浅井 コンピテンシー面接といって、どういう行動をとったのか細かく聞きます。ガクチカなら「部長でした」ではなく、「具体的に何をやったの」と行動を深く掘り下げます。どうしてこの人はこんなことをしたのか、次に同じ場面に遭遇したらどういう行動が取れるのだろうと、事務系では行動ベースの確認が中心です。面接が進むほど、人物面、カルチャーフィット、活躍できそうかの確認が増えてきます。

 ──ニュースや世の中への関心は重視しますか。
 吉田 テクノロジーの会社なので、技術への興味・関心の高さは必要だと思います。たとえば「新しいガジェットが販売された」「サブスクサービスが始まった」というニュースが出たときに、内容や仕組みを調べたり、すぐに試していたり。直接そういう質問を面接でするわけではありませんが、最終的にはそういう人材が集まっているイメージはあります。
 浅井 アンテナの高さとか、「こういうトレンドをこの人はこう解釈しているんだ」というものの見方は見ています。「この媒体にこんなことが書いてあった」という受け売りではなく、自分で消化してどんな目線で見ているか、自分の頭でどう考えているのか、どう表現しようとしているのかは大事ですね。

 ――そのほかに面接で意識していることはありますか?
 吉田 学生のみなさんは多くの企業の面接で、自己PRや志望理由を伝えてきていますが、実際に面接をしている立場で思うのは、ESには書かれていなくて面接を通じて初めて個人の気質が伝わるケースも多くあるということです。その振り返りがないまま就活を続けるのはもったいないので、面接に進んだ人には、今後のよりよいコミュニケーションに生かせるようフィードバックすることを心がけています。
 WILLコースの話もありましたが、学生自身で将来の仕事や自分自身の強みについてイメージを膨らませるのはとても大変なことで、こちらからも提案することで、より視野を広げて就職活動に臨めるきっかけになればと思っています。

■インターンシップ
 ──インターンシップについて教えてください。
 吉田 学生の夏休みと春休みのタイミングに合わせて行っています。2~3週間コースが主で、実際の商品やサービスの新しい機能設計や改善検討を行うなど、業務に近いプログラムに取り組んでもらいます。実際に職場に配属して社員と同じような就業体験をしてもらいます。それくらいの負荷がないとマッチングを確認することは難しいと思います。
 「オープンハウス」という1日型参加イベントも実施しています。社内ツアーや社員との座談会を用意していますが、それだとソニーを十分に知ってもらうのは難しいので、より現場を実感してもらえるインターンシップに注力しています。実際に仕事現場に入り込むことで関心を高める学生も多く、例年内定者の過半数がインターン経験者です。

■働き方
 ──働き方は変わりましたか。
 吉田 職場や職種によってそれぞれですが、今はテレワークの上限回数もありません。時差出勤なども活用し、業務内容に応じて柔軟に働けます。ある程度裁量をもって働く場所・時間を決められるのはソニーらしいところです。

 ──NTTグループが原則自宅勤務を始めましたね。
 浅井 ソニーも新しい働き方を構築しています。クリエイティビティを発揮するためには、会社に来てコラボレーションして……ということにも一定の意味があると考えています。コロナ禍以降、在宅勤務が定着しオンラインでのコミュニケーションに慣れた部分もありますが、逆に目的がない何気ないコミュニケーションはどうしても減ってしまいます。目的を持ってミーティングをして、目的が終わると退出ボタンを押すとミーティングは終わり。対面であれば、その後の会話で付属情報が入ってきたりする。それってけっこう大事だと思うんですよね。
 吉田 偶発的な出会いも新しく何かを創造するうえでは重要だと考えています。また、オンボーディング(新入社員受け入れ)の観点だと、入社から日が浅い人からは「出社したい」という要望も聞きます。

 ──「ジョブグレード制」があるそうですが、どんな内容ですか。
 吉田 欧米の「ジョブ型」とは少し違います。以前は職能資格制度で個人にひもづくスキルや経験がベースとなり格付けが設定されていましたが、今は「役割」に応じて格付けされます。役割が変われば上がることも下がることもあります。
 浅井 すべての職種にジョブディスクリプション(仕事内容を細かく定める職務記述書)が設定されているわけではなく、今、話題になっているような「ジョブ型」とは少し違います。役割と給料が結びついていて、役割が変わればグレードや給料が変動します。以前は人にグレードがついていました。少し極端な例ですが、私は人事でやってきたので「経理課長をやって」と言われても難しいですが、経理に行っても同じ給料、というが昔の考え方です。今のジョブグレードでは、人事と同じレベルの役割を経理では担えないので、給料が変わることになります。また、昔の制度だと思い切った若手の抜擢人事はなかなかできませんでしたが、今は30代のマネジメントもかなり増えてきています。

「ソニーは変な人が多かった」(笑)

■お二人の就活と印象的な仕事
 ──お二人はどんな就活をしたのですか。
 吉田 リーマン・ショックの影響を受けた2010年の入社です。専攻していた心理学を一番生かせるのは人事だと考え、人事の仕事ができる企業を探しました。「新卒から人事」を経験できる企業があまりなく、「ソニーからは人事で内定をもらったので、入社を決めました。
 浅井 私は中途でソニーに入ったのが2009年です。新卒では2002年に大手電機メーカーグループの商社に入社しました。両親が台湾国籍で、海外に携わる仕事をしたいと漠然と思っていました。米国駐在も含めて人事を7年ほどやりました。

 ──なぜソニーに?
 浅井 転職活動を何社かしたんですが、ソニーは変な人が多かったんです(笑)。面接員もほかの会社と明らかに違う。ユニークで形式ばっていなくて、自分の言いたいことを言うし聞いてくる。こういう人たちの中でもまれて働くのは面白いな、と縁を感じて飛び込みました。

 ──吉田さんの経歴は?
 吉田 だいたい3年に1回異動して、最初がR&D組織の人事。次がソニーグループ全体の労務担当を経験し、現行の「ジョブグレード制度」の導入に携わりました。その後、中国の販売会社で国際人事を担当した後、2018年に帰国してイメージング製品の子会社で人事を担当しました。2021年からはソニー株式会社の採用です。

 ──印象的な仕事を教えてください。
 吉田 印象に残っているのは労務時代に「フレキシブルキャリア休職」という制度を設計・導入したことです。私費留学あるいは配偶者の海外転勤時に社員が休職して一緒に現地へ付いて行くことのできる制度です。制度導入以前は同行して退職するか離れ離れに暮らすかの二択でしたが、休職によってキャリアを継続することができるようになりました。私自身もいつか使ってみたいな、と自分のためにもつくりました(笑)。最近は結構な頻度で使われていて、利用した社員の帰国後の活躍の話などを聞くと、本当に制度ができて良かったなと。これがキャリアとして誇れるところです。

 ──浅井さんは?
 浅井 ソニーに入って3年間はソニーマーケティングという国内の販売会社の人事をしました。2012年から本社の海外赴任者の制度を企画する仕事をして、2015年に米国に赴任、2019年から現職です。今は二足のわらじで、新卒採用に加え、スタートアップの創出と事業運営を支援するSony Startup Acceleration Programの職場担当人事もしています。複眼的にキャリアを見る視点を持ててありがたいですね。

(写真・小暮誠)

みなさんに一言!

 コロナが続き不安が多い世の中だと思いますが、乗り越えれば楽しい時代が待っていると思うので、あまり悲観しないで前向きに取り組んでください。就活は自分を見つめ直す良いきっかけです。転職しやすい時代とはいえ、最初に入った会社は大事なので、自分の中で悔いのない就活をしてください。(吉田さん)

 これから就活を始める人から「何をしたらいいか分かりません」という声をよく聞きますが、それは当たり前です。いろんな会社の説明会、いろんな社員の話を聞くと、自分の中で「この会社は合うな」「合わないな」というのが出てきます。それを何となくで終わらせないこと。どうしてソニーを良いと思ったのか、悪いと思ったのかを考えると、自分が考えや求めるものがどんどん形になって来るんです。いろんな会社に足を運んで、フワッと感じることを言語化して自分のものにしていくと、やりたいこと、やりたくないことが分かってきます。それを突きつめてみてください。(浅井さん)

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【エレクトロニクス】

 ソニー株式会社は、ソニーグループにおいてエンタテインメント・テクノロジー&サービス(ET&S)事業を担います。
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