人事のホンネ

株式会社朝日新聞社

2020シーズン【第7回 朝日新聞社】(前編)
筆記やめSPI…記者志望広がる 「人」に興味ある人来て!

人材戦略本部 人事部 採用担当部長 諸麦美紀(もろむぎ・みき)さん

2018年11月27日

 人気企業の採用担当者を直撃する「人事のホンネ」2020シーズンの第7弾は、朝日新聞社です。「マスコミといえば筆記試験」が常識で、多くの就活生にとってハードルになってきましたが、朝日新聞社はついに記者部門でも筆記試験を廃止し、SPIを導入しました。えっ!? 定番の小論文も採点はしなくなったの? 思い切った変革にはどんな狙いがあって、どんな学生が受けに来たのでしょう? 新採用担当部長に聞きました。(編集長・木之本敬介)

■筆記試験廃止
 ――2019年卒採用で記者部門の筆記試験を廃止しましたね。新聞記者を目指す人が時事問題を知らなくてもいいんですか。
 これまで時事問題を中心とした独自の筆記試験をずっと続けてきましたが、SPI3(適性検査)を受けてもらうように変えました。時事問題にはもちろん関心を持っていてほしいですが、それを暗記しているからといってジャーナリストに向いているわけではありません。SPIは全国にテストセンターがあって、地方の学生も含め大きな負担なく受けられることも切り替えた理由の一つです。

 ――マスコミといえば筆記試験。記者部門での廃止に社内で抵抗はなかった?
 意外になかったですね。ビジネス部門で1年早くSPIに変更し、筆記試験と同水準の結果が得られることが分かっていましたから。

 ――もともと記者志望ではなかった学生も来ましたか。
 マスコミ筆記試験対策をしていない優秀な学生も一定数受けてくれました。夏の第2回選考では、大手広告会社や流通業界、コンサルの内定を持った学生が受けてくれ、いずれも内定をとりました。

 ――学生の反応は?
 SPI導入の発表がエントリーシート(ES)募集開始の2カ月ほど前だったこともあり、それまで筆記試験の準備をしてきた記者志望の学生には戸惑いがあったようです。ただ、そもそも暗記はジャーナリストの資質に関係ないので、「より深く考える勉強方法に変えて」と伝えました。
 マスコミ志望者はSPIの準備をしていない人が多く、「いきなり受けることになり困った」という声がありました。それでも、内定した学生はSPIのテキストを1冊しっかりやるなど準備して臨んでくれましたね。

記者に欠かせない論理的思考力 SPIの「非言語」で測る

■SPI
 ――導入のメリットは?
 リクルートによるとSPIは年間延べ200万人が受けるそうです。そのうち、どんな学生が弊社を受けているのかなど貴重なデータが得られました。かなり優秀な学生層がジャーナリストを志望していることもわかり、ありがたく思いました。

 ――すると、内定者は早慶など上位校ばかり?
 そんなことはありません。今年の内定者の出身大学は約30大学にのぼります。それだけでも「学歴フィルター」がないことはわかってもらえると思います。弊社の場合、学生の資質を「素」で見てもらいたいので、1次や2次の面接委員には大学名は伏せて学生に会ってもらっています。

 ――SPIの「言語」「非言語」のうち、記者部門は「言語」を重視するのですか。
 「言語」は国語力ですから大事ですが、「非言語」も欠かせません。非言語は算数というより論理的思考力を測るものです。前後の文脈を追い、「さっき言ったことと今おっしゃったことは矛盾してますよね」などと記者会見で突くのは非言語能力。言語能力が高くても非言語能力が低かったら新聞記者としては厳しい。バランスの良さが大切です。

 ――グローバルな取材が増えていると思います。英語力も大事ですよね。
 「言語」「非言語」に加えて、SPIの「英語」も受けてもらっています。英語力もあったほうがいいとは思いますが、新聞記者の相手は「人」であり、「現場」です。片言英語でも相手からいいコメントを引き出せればいい。英語が得意ではない学生も内定していますよ。

 ――書類選考はSPIの得点でバサッと切る?
 ESとSPIの結果を総合して書類選考します。ES重視ですから、ESが良かった学生はSPIの点数が低くても面接に来てもらいます。

 ――エントリーは増えましたか。
 2018年卒採用は各部門とも手書きのESからWEBエントリーにしたことでかなり増えましたが、2019年卒採用は例年並みでした。

 ――日程は?
 2019年卒採用の取材記者のES受け付けは2月5日から3月9日まででした。SPIを3月9~19日の間に受けてもらいました。もちろん、SPIをそれ以前に受けたことがある人については、その結果を提出してもOKとしました。

■採用実績
 ――2018年春の新卒入社数を教えてください。
 朝日新聞社は部門別採用です。記者部門50人、ビジネス部門23人、技術部門12人の計85人でした。技術部門はほぼ理系出身ですが、文系も若干名います。

 ――男女比は?
 男性46人、女性39人で、女性の割合は46%です。新聞社はいまだに「男性の職場」というイメージが強いと思いますが、そんなことはありません。採用は性別に関わらず平等です。

 ――2019年卒の内定者は?
 記者38人、ビジネス19人、技術8人の計65人と2018年の新卒入社数よりは減員となりました。男性41人、女性24人です。

記者目指すきっかけ素直に伝えて 小論文、採点はしないが練習必要

■求める人材
 ――ESについては2年前の前部長のインタビュー(「記者だけじゃない『職種のデパート』 多様さ尊重する自由な会社」)でも詳しく聞いていますが、改めて学生に伝えたいことは?
 自分のことが伝わるように書いてください。たとえば志望動機。「朝日新聞はデジタルに力を入れており……」などと書く人もいますが、そんなことは就活生に教えてもらわなくていい(笑)。肩に力が入り、抽象概念や記者になりたい思いを難しい言葉で書いてくる学生もとても多いです。そんなESでは、その本人の姿は見えてこない。「こんなきっかけで記者を目指すようになった」という話を、具体的なエピソードを交えて素直に書いてほしい。
 志望動機に「小学1年生のとき……」などとかなり昔のことを書く人も多くいます。でも、ESには、この職業選択の時期になぜジャーナリストになろうと思ったのか、直近のことを書いてください。面接では掘り下げるので、子どものときのことも話せます。

 ――どんな人が記者に向いていますか。
 「新聞記者=文章を書く仕事」と思っている人が多いようです。説明会などでは、「ジャーナリストとは『事実(何が起きているか)』を掘り起こす仕事、権力を監視する役割」だと伝えています。だから「『人』に興味がある人」「社会の仕組みに興味がある人(疑問が持てる人)」「自分で動き、考えたい人」を求めていると説明しています。

 ――私は入社前、作文が嫌いで苦手でした。それでも記者になった日から記事を書き続け、直され、教わりながら自然と書けるようになり、好きになりました。
 文章力は記者になってからでも十分アップできます。記者が書いた原稿がそのまま新聞に載ることはなく、デスク(現場の記者の取材を指揮し、原稿をまとめるリーダー役)とキャッチボールしながら、「伝える」「伝わる」文章の書き方を学んでいく。文章力よりも、「何を伝えるか」のほうが大事です。
 「思い」も大切です。現場に行って五感を働かせて「これは面白いな、おかしいな、何でだろう」と気持ちが動くこと自体が、「伝えたい」ということの原動力になります。どういうときにあなたの気持ちが動いたのかをESに書いてほしいし、面接で聞かせてほしい。

■面接と小論文
 ――面接の日程は?
 2019年卒の春の記者部門の選考では、1次面接は3月23~25日、通過者に小論文を書いてもらい、複数回の面接を経て、4月中旬までに内々定を出しました。

 ――あれっ、グループディスカッションは?
 やめました。多人数の中でどうかより、しっかり一人ひとりを見極める体制に変えました。最終面接の前に、「人事部面談」も実施しました。30分ほど面談し、たくさんフィードバックをしました。

 ――小論文は続けているんですね。
 もちろん続けています。紙からデジタルへ移行はしていますが、文章力はどちらでも必要です。60分で800字。2019年卒の第1回のテーマは「多様性」、第2回は「平成」でした。
 
 ――どんな練習をしておけばいいですか。
 ある程度慣れていないと時間内に書けないと思います。友人同士でテーマを決めて書いて回し読みするなど、60分で800字を書くトレーニングはしておいたほうがいい。文章力より論理的思考力が大事です。採点はしませんが、2次面接以降で小論文は大きな判断材料になります。

 ――時事問題やニュースへの関心は面接で確認しますか。
 筆記試験をなくした分、面接で時事的なテーマを聞くように1次や2次の面接委員にはお願いしましたが、面接委員たちは「人に興味がある」記者なので、時事問題よりもむしろESの内容を深掘りしていましたね。
 現役の記者だって世の中のあらゆるトピックスに詳しいわけじゃない。たとえば「外国人労働者問題に興味がある」のなら、そこをきちんと語れるかどうか。一つのことに思考を深められる学生なら、記者として現場で壁にぶち当たったときにもしっかり考えていけるのではないでしょうか。
 ただ、時事問題は最終面接でも聞かれることがありますから、油断は禁物です。

 ――夏には第2回採用試験をしていますね。
 第2回採用試験は、2019年卒は8~9月に実施しました。2020年卒は5~6月に実施する予定です。
後編に続く)

(写真・山本友来)

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