人事のホンネ

株式会社朝日新聞社

2020シーズン【第7回 朝日新聞社】(後編)
記者に必須!デジタルマインド インターンは他業界も見て

人材戦略本部人事部 採用担当部長 諸麦美紀(もろむぎ・みき)さん

2018年12月04日

 「人事のホンネ」2020シーズン第7弾、朝日新聞社の後編です。朝日新聞デジタルをはじめ、ネットでの多様な発信に力を入れる中、記者の仕事はどう変わったのでしょうか。人気のビジネス部門やAI(人工知能)活用が広がる技術部門についても聞いてきました。(編集長・木之本敬介)
(前編はこちら

■デジタル
 ――ネット時代になって記者の仕事は変わりましたか。
 記者のやりがいは以前よりも増していると感じています。紙の新聞には一覧性やパッケージ化された情報発信という利点があります。ただ、たとえば「原稿は60行あるけど、1面に入れるには30行にしなくてはならない」という世界でした。デジタルにそんな制約はありません。同じネタを、紙の新聞、朝日新聞デジタル、ヤフーなど配信先ごとに「読まれる記事」に書き換えることもあります。紙媒体だけのときよりたくさんの人に情報を届けることができています。

 ――動画撮影の研修もしている?
 もちろん研修はしていますが、入社10年以内の若い記者たちは、ツイッター、フェイスブック、インスタグラムを普通に使いこなす世代です。特に上司が指示しなくても、必要だと思ったら動画を自分の判断で撮ってきてくれます。デジタル空間でより多くの人に効果的に情報を届けるという時代ですから、記者にデジタルマインドは必須です。

 ――ある分野に特化した「バーティカルメディア」を次々に立ち上げていますね。
 新聞や朝日新聞デジタルは広く伝えるメディアです。多様な価値観を伝えることで分断を乗り越え、「人と人をつなげる」役割をもっています。これに対し、バーティカルメディアは特定の人に情報を届けることを目的としています。ペットを飼っている人、独身の人、本を読みたい人などターゲットが明確です。現在は読書、ペット、大学スポーツ、認知症の人とその家族向け、など7サイトあり、今後さらに増やしていく予定です。朝日新聞創刊以来140年間のリソースを新しい形で発信できる時代でもある。面白いですよ。

■ビジネスと技術の採用
 ――ビジネス部門と技術部門は?
 ビジネス部門は記者部門の少し後に選考して、4月中に内定を出しました。技術部門は6月半ばまでに選考を終えました。

 ――新聞社のビジネス部門って、わかりにくくないですか。
 ビジネス部門は2018年卒採用で筆記試験をやめてSPIに変えたことで、エントリーがほぼ倍増しました。認知度が上がり、説明会に行くと「ビジネス部門に興味がある」という学生が多く、ありがたいですね。展覧会などを開く企画事業の仕事はもともと人気があるのですが、最近では弊社のデジタル戦略や新規事業などへの姿勢に共感してくれる学生が増えていると感じます。

 ――記者とビジネスを併願できるようになりましたね。
 記者とビジネス、技術も併願可能です。部門にかかわらず「朝日新聞社に入りたい」という学生が増えているのはありがたいことです。

 ――技術部門の現状は?
 デジタルビジネスは技術者なしでは何も進みません。技術者はいま各業界で取り合いになっています。弊社の技術部門は約650人いて、業界内ではかなり手厚いほうだと思います。AI(人工知能)の活用やVR(バーチャルリアリティー=仮想現実)技術を使ったアプリ開発などに挑戦しています。技術者がメインになってプロジェクトを立ち上げたりもできるので、魅力があるようです。

インターン選考落ちても本選考あきらめないで

■インターンシップ
 ――インターンシップについて教えてください。
 記者は夏に「5日型」と「1day」、冬に週末を利用した「4日型」を東京と大阪でやっています。各回30~40人。4日型、5日型では1泊2日で地方総局に行き、取材体験をしてもらっています。インターン生が書いた記事が実際に地域版に載ることもあります。若手の記者からも話を聞けるので人気です。

 ――参加すると、選考に有利ですか。
 マスコミでもインターンに参加した人を対象に早期に内々定を出す会社がありますが、朝日新聞社は採用とは切り離しています。インターンからの早期選考は、選考過程が不透明ですし、コンプライアンス的にも問題があると考えています。早期選考をして内々定を出すということは、その後、他社を受けないよう強い拘束をかけることにもつながります。職業選択の自由を奪うようなことを、私たちはしたくありません。ちなみに、記者部門だけでなく、ビジネス部門、技術部門でも早期選考はしていません。
 「それじゃ、インターンに行く意味がない」と思うかもしれませんが、インターンではたくさんの記者の話を聞き、仕事ぶりを知ることができるので、志望理由を明確にすることにもつながります。マスコミだけでなく、複数の業界のインターンを経験することもお勧めしています。「自分はどんな仕事をしたいのか」「どんな仕事人生を送りたいのか」を固めていく過程では、複数の業界を見た方がプラスになると思います。

 ――そうはいっても、インターン参加者が本選考を受けに来たら、気になりますよね。
 もちろん、インターンに参加して本選考にエントリーしてくれた人は、志望度が高いということなので、ちゃんと注目していますよ!

 ――インターンの選考方法は?
 A4一枚の簡単なESで書類選考をし、通過者にはデスククラスと中堅記者が10分間、2対1で面接します。
 面接会場は東京と大阪だけで地方の学生や海外留学生は来られないので、昨年からWEB面接も実施しています。オーストラリアやブラジルに留学中の学生もいましたが、まったく遜色なく面接できましたね。

 ――記者の内定者のうち、インターン参加者はどのくらい?
 その時々で違いますが、大体半分程度でしょうか。
 インターン選考に落ちても、内定を得た学生はたくさんいます。強調したいのは、インターン選考で落ちたからといって、弊社とは縁がないとか、記者に向いていないというわけではないということです。あきらめずに、ぜひ本選考にエントリーをしてください。

 ――ビジネスと技術のインターンは?
 ビジネスは夏に「4日型」を東京で、11月から12月にかけては「1日型」を東京、大阪などで実施しています。「1日型」の選考では、面接にかえて「自己PR動画」を初めて導入し、30秒~1分の動画を撮影してアップロードしてもらいました。学生の人柄や雰囲気、ユーモアなども伝わってきて、ESの文章だけでは読み取れない学生の良さが分かりました。技術は「1日型」を秋冬にかけてと、年明けに実施しています。

■就活スーツ
 ――朝日新聞の採用チームが2018年3月、各社の採用担当者に「『リクルートスーツで来なくていいですよ』と共同宣言しませんか?」と呼びかけて話題になりました。
 前採用担当部長がツイッターでつぶやいたのですが、5000件以上リツイートされ炎上しました。ネットメディアの取材を受け、朝日新聞のフォーラム面でも取り上げられました。議論しにくいテーマについて公論を喚起するというマスコミの役割は果たせたと思います。

 ――服装は変わりましたか。
 記者の面接でスーツではない学生は数人いました。ビジネス部門のほうが多かったように思います。花柄のフレアスカートで来た学生は、似合っていたし目立つので「あの服着ていた○○さん」と印象に残りました。個性をなくすのではなく、個性を見るのが採用選考です。リクルートスーツであるかないかは、選考の判断基準にはなりません。ただ、同じ日に各社の選考を渡り歩くため難しい面がありますよね。

長時間労働減り公休消化は95.3% 「夫婦同一総局」も

■働き方
 ――社内で「働き方改革」が叫ばれています。記者の仕事はかつて間違いなく「激務」でしたが、今はどうですか。
 報道の仕事は、大きな事件・事故、災害など何かあれば数週間休めないことはあります。ただ、長時間労働の是正は確実に進み、全社の公休消化率は95.3%(2017年度)になりました。忙しい総局ではまだ消化率が低いところもありますが、代休を取るのは当たり前になってきましたし、5日以上の連続休暇を年度内に3回取るということも奨励しています。経済産業省などが認定する健康経営優良法人「ホワイト500」にはマスコミでは弊社だけが選ばれています。

 ――子育てしながら働くことも当たり前になりましたね。
 育児支援制度も充実していて、女性社員の育休からの復帰率は100%です。
 夫と妻どちらも弊社の記者の場合、「夫婦同一総局」といって、同じ総局で勤務する取り組みも始まっています。長野、広島、熊本で導入しています。実家の近くで子育てしやすい本社・総局に異動したり、海外特派員が任地で育児休業を取ったりするケースもあります。

■新聞協会賞
 ――優れた報道などに贈られる2018年度の新聞協会賞に朝日新聞社の「財務省による公文書の改ざんをめぐる一連のスクープ」が、第18回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞の公共奉仕部門には「森友学園や加計学園の問題をめぐる政府の情報開示姿勢を問う一連の報道」が大賞に選ばれましたね。
 学生たちからの反響も大きかったですね。「やっぱりジャーナリズムは必要だ」という素直な反応が返ってきました。ESに「だから朝日」と書いてくれる人たちも多かったです。社会に必要な情報、価値の高い情報を届けるというジャーナリズムの姿勢を今後も貫いていかねばなりません。

■諸麦さんの就活と仕事
 ――どうして新聞記者に?
 もともとは教師を目指していました。修士課程のとき、ボランティアで血友病の子どもたちと遊ぶキャンプに参加したことが、私にとって社会とコネクトする大きな体験となりました。夜になって、一緒に遊んだ子どもたちの中に薬害エイズ訴訟の原告、エイズを発症している子もいると知らされたのです。社会の理不尽さを肌で感じた出来事で、ジャーナリズムに目が向きました。
 その年は朝日新聞だけ受けたのですが、面接で「教師になったほうがいい」「女子には向かない」などさんざんな言われ方をして最終で落ちました。今だと完全にアウトな面接です。でも、こんな私に真剣にワーワー言ってくる面白い会社だなと思ったんです。半年休学して地元の地方紙、全国紙、テレビ局などに行って話を聞き、仕事のイメージをしっかり持ち、再チャレンジして内定をもらいました。

 ――入社後は?
 仙台、和歌山、名古屋、大阪、東京で記者をし、広島と東京でデスクをしました。
 一番印象に残っているのは初任地での連載記事です。1996年、菅直人厚相のとき国が薬害エイズ裁判の原告と和解しました。当時私は1年生記者。「東北で薬害エイズのルポを書きたい」と上司に申し出ました。「そんなことよりサツ回り(事件・事故担当の警察取材)しろよ」と言われかねないところですが、先輩記者の後押しで宮城版で約20回連載しました。この取材経験で、私の記者としての「軸」ができました。

 ――就活との関わりは?
 私は就職氷河期の初めのころの1995年入社です。2008年のリーマン・ショックのときには労働グループの記者として内定取り消しなどの取材をしました。学生が経済状況に大きな影響を受けながらどう職業選択をするのか、社会が人材をどう育てるのかは、私にとってずっと大きなテーマでした。
 採用チームには、希望して2017年夏に来て、2018年10月に担当部長になりました。年100本の記事を書くのと、何十人ものジャーナリストの発掘、どっちが面白いか考え、今の私は後者をやってみたいと思って。学生と対話して、ジャーナリストとしての基礎をしっかりと身につけられる朝日新聞の魅力を伝えていきたいと思っています。

◆人事のホンネ2018シーズン 朝日新聞社「記者だけじゃない『職種のデパート』 多様さ尊重する自由な会社」はこちら

(写真・山本友来)

みなさんに一言!

 弊社の採用サイトで、新規事業担当役員のインタビューを公開しています。「メディアを取り巻く環境は厳しい。けれど、逆風でも、うまく帆を張ればヨットは前に進む。一番しんどいのは無風であること。波は高いけど、いま、風は間違いなく吹いている」。広い世界を見たい人にはぴったりの業界です。もちろん責任も伴いますが、だからこそ成長のしがいがあります。挑戦したい方、お待ちしています。

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