SDGsに貢献する仕事

株式会社ヤクルト本社

  • すべての人に健康と福祉を

ヤクルト本社〈前編〉「すべての人に健康を」は会社の姿勢そのもの【SDGsに貢献する仕事】

2024年06月26日

 SDGs(持続可能な開発目標)関連の業務に携わっている若手・中堅社員に直撃インタビューする「SDGsに貢献する仕事」の第17回は、乳製品乳酸菌飲料を中心に化粧品、医薬品など健康づくりにつながる商品を手がけるヤクルト本社です。「乳酸菌 シロタ株」を発見し、誰もが手に入れられる価格でおいしく健康に役立つ乳酸菌飲料「ヤクルト」をつくりあげた創始者・代田稔の想いを「代田イズム」として受け継ぐ同社。とくにSDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」は、ヤクルトがめざす姿そのものといいます。サプライチェーン全体を通したサステナブル調達や、情報開示などに取り組む若手社員に話を聞きました。
(編集長・福井洋平)

【お話をうかがった方のプロフィル】
広報室CSR推進室 石飛領斗(いしとび・りょうと)さん
2021年明治大学商学部卒業、同年ヤクルト本社入社。新入社員研修後、現職の広報室CSR推進室に配属。

乳酸菌で人々の健康を保つ 創業の想いはSDGsに直結

■ヤクルトとSDGs
 ──石飛さんのお仕事の内容を教えてください。
 広報室CSR推進室に所属し、SDGsやサステナビリティ推進に携わる業務を担当しています。

 ──同期は何人ぐらいいらっしゃいますか。
 総合職、一般職、製造職といろいろな職種があって、全体で65人ぐらいです。総合職は関東圏内で働く同期が多いです。

 ――ヤクルトグループにとって、SDGsとは何ですか。
 ヤクルトグループは「人も地球も健康に」というコーポレートスローガンを掲げています。人が健康であるためには、人だけでなくその周りの地球環境や社会など、すべてが健康でなくてはならないという考えです。
 このスローガンのもと、グループの企業活動はSDGsの17目標の達成に広く関わっています。そのなかでも3番の「すべての人に健康と福祉を」に関しては、当社の事業活動と非常に関連が深く、当社のめざす姿そのものです。そもそも当社は社会課題の解決が事業の出発点ですので、成り立ち自体がSDGsと深く関わりがあります。

■ヤクルトの「代田イズム」
 ――どういった成り立ちなのでしょうか。
 ヤクルトの創始者は、当社の乳酸菌の名前の由来でもある代田(しろた)稔です。代田が学生だった1900年代前半はまだ衛生状態が良くなく、感染症で命を落としてしまう子どもが多くいました。その状況に胸を痛めた代田は微生物の研究を始め、生きたまま腸内に到達する「乳酸菌 シロタ株」の強化培養に成功しました。「乳酸菌 シロタ株」を一人でも多くの人の健康に役立てるため、誰もが手に入れられる価格でおいしい乳酸菌飲料として生み出されたのが「ヤクルト」なのです。
 このように当社の事業は、人々の健康状態を保つことで社会課題を解決しよう、という想いが出発点でした。いまも当社は代田の想い=「代田イズム」を受け継いで事業を行っています。
 ──代田イズムのなかで、特に大切な点は何ですか。
 代田イズムには、

1 病気になってから治療するのではなく、病気になる前に予防する「予防医学」
2 腸を丈夫にすることが健康で長生きすることにつながる「健腸長寿」
3 一人でも多くの人に手軽に飲んでいただきたいということから「誰もが手に入れられる価格で」

 という3つの軸があります。3つすべてが大切ですし、それがいまも受け継がれて事業活動をしています。その中でも「誰もが手に入れられる価格で」はSDGsのスローガン「誰一人取り残さない」と合致している、と考えています。

 ――いまでは世界に広がっていますね。
 日本を含む40の国と地域で、1日あたり約4000万本(2024年3月時点)の乳製品をご愛飲いただいています。

 ──海外でも、ヤクルトレディの方が販売しているのですか。
 はい、一部を除いて海外でも日本と同じスタイルで、「ヤクルト」の有効性をお客さまにお伝えしています。日本では「ヤクルト」はある程度の認知をいただいていますが、海外は全く認知度のない国もあるので、かなり最初はハードルが高いと聞いていますね。生きた乳酸菌の大切さから説明していく仕事です。

困難なトレーサビリティ確立に取り組む

■サステナブル調達
 ――いま石飛さんが具体的に手がけている仕事を教えて下さい。
 「ヤクルト」の原材料を環境や社会に配慮した調達先から調達する「サステナブル調達」を担当しています。その他にも、投資家向けに発行している「統合報告書」や「サステナビリティレポート」、社内や一般向けに発行している「ヤクルトサステナビリティストーリーズ」などの情報開示や、社内向けの研修やキャンペーン立案など、多岐にわたる業務を担当しています。

 ──サステナブル調達とは、具体的にはどんなことをしていますか。
 これは2018年頃から始めた取り組みです。いまは自社だけではなく、サプライチェーン上で環境問題や、原料調達段階での強制労働や児童労働といった社会課題に数多く直面しています。そこでサプライヤー(取引先)と協働しながらサプライチェーン全体のリスクを軽減して、持続可能性を高めていこうという取り組みがサステナブル調達です。具体的には2022年度末に「調達活動における森林破壊・土地転換ゼロコミットメント」を策定し、サプライチェーンから森林破壊をなくすための方針も定めました。

 ──「森林破壊」はイメージできますが、「土地転換」とは何でしょうか。
 原材料の調達先をさかのぼると、最終的に農園や牧場にいきつきます。多様な生物が住む森林を、「ヤクルト」の原材料をつくるために農地に転換していないかをチェックし、そういった転換をなくそうという目標をかかげています。
(写真は本社での打ち合わせ風景=ヤクルト本社提供)
■トレーサビリティ
 ――「トレーサビリティ」の確立にも取り組んでいるのですか。
 はい、原材料の生産地までさかのぼれるようにするトレーサビリティの確立をすすめています。脱脂粉乳といった乳製品でのトレーサビリティを重視していますが、ほかに紙、パーム油、大豆なども森林破壊リスクのある原材料として注目されていますので、それらを中心に第三者から認められた認証品に切り替えるなどの取り組みを進めています。

 ──乳製品のトレーサビリティを確立するのは難しいのですか。
 そうですね。課題は多いです。例えば「ヤクルト」は、牛乳の脂肪分を抜いた脱脂粉乳が主原料で、当社とは別のメーカーが牧場の牛乳からつくっています。牧場から原材料メーカーに届くまでの間には集積場などがあり、いろいろな牧場から牛乳が入ってきているので、そこから前にさかのぼるのが難しいのが現状です。

 ──原料はどこから調達していますか。
 基本的には国内が多いですね。ただ、当社は世界40の国と地域に展開していて、基本的には現地調達、現地生産を行っていますので、海外で原料を調達しているケースもあります。昨年度からトレーサビリティ調査を始め、第三者から認められた認証品に切り替えられるところは、順次切り替えを進めています。

 ──この課題を乗り越えるには何が必要だと思われますか。
 コミュニケーションが大事だと思います。サプライヤーである原材料メーカーと直接対話をしたり、集積場の前工程を確認するためには直接現地にお話を聞きに行ったりするのが非常に有効と考えています。

 ──最終的にはトレーサビリティが確立されて、認証品で製品をつくるのがゴールということですね。現段階はどこまでできているとみていますか。
 指標の1つとして、CDPという評価機関の評価があります。2023年に当社は「フォレスト」質問書において「B」を取得しましたが、これは国内の中でも比較的高い水準だと感じています。

 ──ヤクルト商品は消費者からの知名度もすごく高いです。人々に届けるにあたって、意識されていることはありますか。
 安全性や衛生面には非常に配慮して生産し、届けています。品質基本方針を定め、しっかりと厳しい基準を設けて生産をしています。当社は乳酸菌などのプロバイオティクス(十分な量を摂取したときに有益な効果を与える生きた微生物)を核とした商品を展開していますので、有効性であったり、健康情報を正しくお客さまに伝えたりするということも意識しています。

国内工場の電力をすべてCO₂フリーに

■環境面での取り組み
 ──環境面での取り組みを教えてください。
 当社はいろいろな経営課題がある中で、6つのマテリアリティ(重要課題)を特定しています。具体的には「イノベーション」「地域社会との共生」「サプライチェーンマネジメント」「気候変動」「プラスチック容器包装」「水」の6つですが、環境面に関わるものは「気候変動」「プラスチック容器包装」「水」の3つです。この3つに対して、それぞれ定量目標を定めて、具体的な取り組みを推進しています。自社だけではなくサプライチェーン全体のCO₂排出が我々の責任範囲ですので、全体でCO₂の排出量をゼロにしていこうと目指しています。

 ──特にCO₂削減でインパクトのある箇所はどこですか。
 自社では、やはり工場です。具体的な取り組みとしては、2024年6月時点で国内のすべての工場で使う電力をすべてCO₂フリー電力に切り替えました。

 ──サプライチェーン全体で減らすのは本当に難しい取り組みだと思いますが、どのように取り組んでいらっしゃいますか。
 本当に難しいところで、当社からはサプライヤーに「削減目標を定めていますか」という聞き取りをしたり、当社がいままで行ってきた取り組みから具体的に助言したり、情報提供をしたりしています。

 ──消費者に届けるところに関しては、どのようなCO₂削減の取り組みをしていますか。
 物流においてはそもそも「2024年問題」もあり効率化が求められていますが、それがCO₂削減にもつながると思います。例えば「モーダルシフト」といって、すべてトラックで運ぶのではなく、まとめて運べるところは鉄道を使ったり、船を使ったりして、一括して運びます。また、他社との共同配送もしています。

 ──みなさんが思い浮かべるヤクルト商品はプラスチック容器が多く環境負荷も高いと思われますが、これに関してはどういった取り組みをしていますか。
 定量目標を定めて使用量を削減しよう、再生可能由来の素材に切り替えられるところは切り替えようとしていますが、やはり「Yakult(ヤクルト)1000」をご愛飲いただく方が増え、その分、使用量が増えています。使ったものをしっかりと回収して、それをリサイクルしていこうと検討している段階です。いま、地方自治体と共同して回収実験などを行っています。

 ──水の使用量削減に向けた取り組みは。
 特に、水を多く使用する工場においては、節水できるところは節水するという取り組みを本当に細かい積み重ねで行い、使用量の削減につとめています。

(後編はこちらから

(インタビュー写真・大嶋千尋)

SDGsでメッセージ!

 就職活動中は自分のやりたいこと、そして理想的な働き方を実現できる会社を探すために、たくさんいろんな企業に足を運ぶことをお勧めします。説明会に参加するのも一つの手ですが、インターンやOB訪問で直接社員と話すことで、その企業の特色が見えてきます。SDGsは2030年までの目標で、2030年はこれからみなさんが働いていく会社で中核を担う頃だと思います。これからますます環境問題が深刻化していく中で、それらを解決していくのは若い世代だと思いますので、そういった観点で会社を探すのもいいかもしれません。選び抜いた会社が当社でしたら、非常に嬉しく思います。みなさん、悔いのないように就職活動を送ってください。

株式会社ヤクルト本社

【食品】

株式会社ヤクルト本社は1955年に設立され、食品、化粧品、医薬品等の製造・販売などを展開しています。ヤクルトグループは国内に販売会社が101社あり、ヤクルトレディは3万人以上、海外では39の国と地域で展開しており、ヤクルトレディは5万人以上います。「乳酸菌 シロタ株」や「ビフィズス菌 BY株」などのプロバイオティクスの有用性の解明と商品化で、人々の健康を支えています。