
■インドで苦労した点
──対象の学校は日本でいう小学校相当ですか。
渡辺 そうです。リコーダーをメインに鍵盤ハーモニカ、ポータブルキーボードを使っています。教材は日本の学習指導要領も見ながら、大学の先生などを監修者に招いて、ヤマハオリジナルの教材をつくっています。
──ちなみになぜリコーダーを使われるのですか。
渡辺 新興国の教育省ですと予算が限られるため、大きい電子キーボードよりもコストが抑えられるリコーダーにメリットがあります。ギターなどは弦交換などのメンテナンスがありますが、リコーダーは水洗いなどメンテナンスも簡単です。子どもたちが乱暴に扱っても壊れにくいし、トータルで新興国の現場に合っているという考えです。
──日本の音楽の授業では合奏や合唱をやることが多い印象ですが、海外ではどうですか。
渡辺 新興国では「才能のある子どもたちをピックアップする」「学年で一番上手い子を大きい会場に立たせる」という発想になりがちなのですが、そうではなく、お互いに音を聴き合って、音を重ね合わせていく経験が、「協調性」や「協働力」などの「生きる力」を育むのに有用だと、教材でもメソッドの中に落とし込んでいます。
──音楽教育を定着させるのに、大変だったことは何ですか。
渡辺 マインドチェンジですね。教育省の人々は今の教育に何が重要かは認識していますが、現場の先生になればなるほど「楽器の上手な子どもが一番」みたいな発想になってしまうので、「そうじゃないんですよ」と研修や教材の中で伝えていくのは時間がかかります。地道にトライしています。
──「思いが伝わった」と思われた瞬間はありましたか。
渡辺 一通り研修をした後、ペアワークなど我々がお伝えしたことをしっかり主体的に実践してくださっている姿を見ると、「理解してもらえたんだ」と感じます。2023年10月にインドに出張した後、早速メソッドを実践した動画をもらえたときは嬉しかったです。
──それはどんな動画だったのですか。
渡辺 児童がペアになり、お互いにリコーダーの運指や音が合っているかどうかを確認している様子が収められた動画でした。正しく演奏できているかを教員が1人ずつ確認するのではなく、子ども達同士が協力し合って学ぶ児童中心の授業スタイルを研修しており、それを実践していただいていました。できた! という瞬間の子どもたちの表情がとても印象的でした。
──どのくらいの頻度でインドに行っていますか。
渡辺 年2回ペースで、これまで4回渡航しました。行き先はデリーが中心です。それ以外にも現地のスタッフと話をして、毎日「インドとは何か」を勉強しています。インドに限らず「海外あるある」な話ですが、時間軸や考え方の違いはいろいろありますし、我々が絶対に正しいわけでもありません。進捗管理をしっかり共有して、一緒にやっていくのは大変なときもあります。
──それは日本からコントロールするのですか。
渡辺 音楽教育をどう導入していくか、準備に何が必要なのかというノウハウを持っているのは日本の本社なので、現地の販社とも話をしながら、教育省に「こういうスケジュールが必要だ」とその都度共有しています。