SDGsに貢献する仕事

ヤマハ株式会社

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ヤマハ〈前編〉音楽の楽しさ、教育を通して世界に広げる【SDGsに貢献する仕事】

2024年06月05日

 SDGs(持続可能な開発目標)関連の業務に携わっている若手・中堅社員に直撃インタビューする「SDGsに貢献する仕事」の第16回は、楽器・音響機器の製造・販売から音楽教室、音楽出版まで音・音楽に関する事業をグローバルに展開するヤマハです。今回は、ヤマハがめざしている「世界中の人々のこころ豊かなくらし」を実現するため、音楽の楽しさ、音楽づくりを支える基盤を広げる大切な活動をしている若手社員2人に話を聞きました。キーワードは「世界」と「木」です。(肩書は取材当時)。(編集長・福井洋平)

【お話をうかがった社員のプロフィル】
●楽器・音響営業本部 AP営業統括部 音楽普及グループ 渡辺一樹(わたなべ・かずき)さん 
2021年早稲田大学政治経済学部卒業、同年ヤマハ入社。同年8月から銀座店で店舗研修をうけ、2022年2月から現職。

●ブランド戦略本部 コーポレート・マーケティング部 ブランドプロモーショングループ 海外遥香(かいがい・はるか)さん 
2017年神戸市外国語大学外国語学部卒業、同年ヤマハ入社。同年7月に生産部門の材料調達グループに配属され、ピアノなどに使われる木材の調達などを担当。2022年7月から現職。

SDGs実現のため主要6項目のKPIを定める

■ヤマハとSDGs
 ――音楽事業を長く続けてこられているヤマハですが、SDGsについては今どのような方針で取り組まれていますか。
 渡辺一樹さん ヤマハグループは「ヤマハグループサステナビリティ方針」に基づき、重要な課題を環境、社会、文化、人材の4分野で「マテリアリティ」として特定。それを中心に、サステナビリティ活動に取り組んでいます。SDGsについてはマテリアリティの選定やそれらをブレークダウンした個々の活動、方向性を決めるときの重要な根拠の一つとしており、事業を通したサステナビリティ活動を通してSDGsの達成に貢献していく方針です。

 ――具体的にはどういった取り組みがありますか。
 様々な取り組みがありますが、重要なところでは6つのKPI目標があり、2025年3月までの中期経営計画(Make Waves 2.0)に非財務の経営目標として掲げています。具体的には以下の通りです。
 ・省エネによりCO2排出量を5%削減する
 ・持続可能性に配慮した木材の使用率を75%にする
 ・新興国の学校教育への器楽教育普及を(スクールプロジェクト)を10カ国 累計230万人にする
 =こちらは2024年3月現在で7カ国、累計302万人となりました。
 ・従業員サーベイ(調査)で「働きがい」についての肯定的回答率を継続的に向上させる
 ・同じく「働きやすさ」についての肯定的回答率を継続的に向上させる
 ・管理職の女性比率をグローバルで19%にする(2024年3月現在で19.4%)

新興国の教育カリキュラムに器楽を取り入れてもらう

■渡辺さんの仕事
 ―─渡辺さんの社歴を教えて下さい。
 渡辺一樹さん 2021年入社で、今年で4年目です。就活は解禁日からコロナが重なり、大変でした。ヤマハも入社式まで一度も浜松に来たことがなく、全部オンラインでした。
 ヤマハに入社すると、最初は店舗研修で現場に立ち、実際にお客さんに楽器を販売します。私は4月に入社して、8月から銀座店でギター、ベース、ドラムといった軽音楽系のフロアを担当しました。当時は優里さんの「ドライフラワー」という曲が流行っていました。優里さんはヤマハのギターを使っていたので「優里さんのギターを弾いて練習したいんです」というお客さんがよく来られました。自分もギターの演奏経験があったので、実際にドライフラワーを弾いて「いかがでしょうか」と販売していました。2022年2月からAP営業統括部の戦略推進グループ(現・音楽普及グループ)に異動し、スクールプロジェクト事業に携わっています。

 ──AP営業統括部というのは、どんな部署ですか。
 渡辺 APはアジアパシフィックの略です。ヤマハは日本、北米、欧州、中国に大きな販売会社(販社)があるのですが、それ以外の新興国などの地域販社がAP営業統括部に所属しています。私のいる「音楽普及グループ」は今、基本的に新興国を対象に活動していますので、AP営業統括部に所属しています。
■スクールプロジェクト
 ──「スクールプロジェクト」について教えて下さい。これは海外で音楽を普及する目的でスタートしたのですか。
 渡辺 ヤマハのビジネスは音・音楽に関連した事業が主軸で、全世界の人々を対象にしています。なので、まずは世界中で音楽を好きになってもらう人を増やすのが大事だと考えています。日本では学校教育のカリキュラムの基準を定めた「学習指導要領」により、音楽の授業に器楽が取り入れられています。そのため、学校の授業でリコーダーやピアニカ(鍵盤ハーモニカ)をみなさんが経験します。
 しかし、新興国のカリキュラムでは器楽の授業がなかったり、音楽の授業そのものがなかったりします。そこで私たちは政府機関などと連携しながら、教育現場の中で楽器を使った音楽の授業を体験する機会を増やすことに取り組んでいます。子どもたちに楽しんでもらうことで、短期的にはリコーダーや鍵盤ハーモニカなどの売り上げにもつながる可能性がありますし、そこから子どもたちが趣味でギターをやりたいとか、音楽教室に通いたい、あるいはプロになりたいとか、いろいろな可能性が広がる起点にもなります。まずは音楽普及のスタートラインとして、公教育を対象に音楽普及事業をしているということです。

 ──プロジェクトはいつから始まったのですか。
渡辺 2015年です。最初は講師を派遣するなどいろいろな事業をしていましたが、今の新興国における音楽普及活動は、公教育へのアプローチに絞ってスクールプロジェクトが一手に引き受けています。

 ──活動分野を絞った理由は何ですか。
 渡辺 プロジェクト開始当初は、課外活動へのサポートなどを通じて正規授業への楽器を使った教育の導入・定着を試みましたが、課外活動は教育予算削減の影響を真っ先に受けてしまいます。そこで近年は、正規授業に直接アプローチする取り組みを始めました。 社会貢献的なサステナビリティだけではなく、我々のビジネスとしても両輪でサステナブルにやっていきたいというところがスクールプロジェクトの大前提です。

大使館に働きかけ、教育委員会と連携

(写真はインドでのスクールプロジェクトの様子、ヤマハ提供)

■スクールプロジェクトの規模
 ──今対象にしているのは何カ国ですか。
 渡辺 現在展開しているのは7カ国です。私はインドをメインに、マレーシアも担当しています。ブラジル、コロンビアも少し担当しました。

 ──公教育へのアプローチは、かなり苦労したのではないでしょうか。
 渡辺 音楽の正規授業の目的は、課外活動のようにただ音楽が演奏できるようになればいいというわけではありません。日本の学習指導要領では「生きる力」といって、子どもたちが何を学ぶかということだけでなく、意見を出し合って考えたり、何か1つのものを作り上げたりといった「どのように学ぶか」ということ、さらに「何ができるようになるか」ということも大事にしています。そのプロセスは大人になったときに仕事や社会の中で必要になるものなので、学校でそういった疑似体験をしていくのが日本の現在の学習指導要領のコンセプトです。そうした日本の発想も取り入れて、海外での正規授業にふさわしい教材づくりに取り組んでいるところです。

■インドでの取り組み
 ──渡辺さんは具体的にどういう仕事を任されたのですか。
 渡辺 最初にプロジェクトに加わったときはインドの担当と、デジタル教材づくりを担当しました。インドでは課外活動を引き続き拡大させながら、新しいアプローチとして正規授業にも入っていく、というのが私のミッションでした。
 まず、大使館に働きかけ、どういったところと連携するのが正規授業を展開する上でベストなのかを相談しました。いくつかお話をさせていただいた中で、デリーの教育委員会が協働性などの「21世紀型スキル」を育むことを教育のコンセプトにしようとしていることが分かり、我々と方向性が一致すると思いました。2022年にデリーの教育委員会と連携し、2023年に正規授業をスタートしました。

 ──外国企業が教育委員会と連携するのはかなり大変だったのではないですか。
 渡辺 はい。どこの国でもそうですが、一企業が国の教育に入っていくのはかなりシビアです。大使館 など日本政府の方々にもご協力いただき、我々がやろうとしている案件が文科省の審査を経て採択されたことで、お墨付きプロジェクトとしてむこうの教育委員会と連携することができました。

 ──渡辺さんはどこの部分の交渉を担当されたんですか。
 渡辺 基本的には全部です。インドの販社のメンバーと一緒に大使館や教育委員会と話したり、一緒に小学校の音楽の授業を見学したりしました。それまでの授業には教科書もなく、漠然と歌を歌う活動だけしか行われていないことを確認して、楽器を使った音楽の授業を始めるまでの一通りの準備もしています。
 ──歌の授業だけをやっているなかで、楽器を使った活動が重要だということはどうやって説明するんですか。
 渡辺 予測不可能な時代を生き抜くには、生きる力、非認知能力と呼ばれるスキルなどが重要だと言われており、世界中の学校教育が重視するようになってきています。その流れの中で、スクールプロジェクトは音楽の楽しさを伝えるだけでなく、活動の中に必要なスキルを身に付ける仕組みを組み込んでおり、ただ歌うだけでなく楽器をツールとして様々な活動に取り組む中で、生きる力を育むことを目指しています。それを正しく発信し、相手側に共感していただくことで、一緒にやろうと言ってもらえる流れをつくっています。

 ──こうしたパッケージをつくっているのは、ヤマハさんぐらいですか。
 渡辺 そうですね。教材づくりも大変ですし、音楽授業がないところで教えられる人を育成するのもハードルが高いです。教材(写真)、教員研修、楽器づくりとトータルでやっているのはヤマハだけです。

メソッド実践した動画に感動

■インドで苦労した点
 ──対象の学校は日本でいう小学校相当ですか。
 渡辺 そうです。リコーダーをメインに鍵盤ハーモニカ、ポータブルキーボードを使っています。教材は日本の学習指導要領も見ながら、大学の先生などを監修者に招いて、ヤマハオリジナルの教材をつくっています。

  ──ちなみになぜリコーダーを使われるのですか。
 渡辺 新興国の教育省ですと予算が限られるため、大きい電子キーボードよりもコストが抑えられるリコーダーにメリットがあります。ギターなどは弦交換などのメンテナンスがありますが、リコーダーは水洗いなどメンテナンスも簡単です。子どもたちが乱暴に扱っても壊れにくいし、トータルで新興国の現場に合っているという考えです。

 ──日本の音楽の授業では合奏や合唱をやることが多い印象ですが、海外ではどうですか。
 渡辺 新興国では「才能のある子どもたちをピックアップする」「学年で一番上手い子を大きい会場に立たせる」という発想になりがちなのですが、そうではなく、お互いに音を聴き合って、音を重ね合わせていく経験が、「協調性」や「協働力」などの「生きる力」を育むのに有用だと、教材でもメソッドの中に落とし込んでいます。

 ──音楽教育を定着させるのに、大変だったことは何ですか。
 渡辺 マインドチェンジですね。教育省の人々は今の教育に何が重要かは認識していますが、現場の先生になればなるほど「楽器の上手な子どもが一番」みたいな発想になってしまうので、「そうじゃないんですよ」と研修や教材の中で伝えていくのは時間がかかります。地道にトライしています。

 ──「思いが伝わった」と思われた瞬間はありましたか。
 渡辺 一通り研修をした後、ペアワークなど我々がお伝えしたことをしっかり主体的に実践してくださっている姿を見ると、「理解してもらえたんだ」と感じます。2023年10月にインドに出張した後、早速メソッドを実践した動画をもらえたときは嬉しかったです。

 ──それはどんな動画だったのですか。
 渡辺 児童がペアになり、お互いにリコーダーの運指や音が合っているかどうかを確認している様子が収められた動画でした。正しく演奏できているかを教員が1人ずつ確認するのではなく、子ども達同士が協力し合って学ぶ児童中心の授業スタイルを研修しており、それを実践していただいていました。できた! という瞬間の子どもたちの表情がとても印象的でした。

 ──どのくらいの頻度でインドに行っていますか。
 渡辺 年2回ペースで、これまで4回渡航しました。行き先はデリーが中心です。それ以外にも現地のスタッフと話をして、毎日「インドとは何か」を勉強しています。インドに限らず「海外あるある」な話ですが、時間軸や考え方の違いはいろいろありますし、我々が絶対に正しいわけでもありません。進捗管理をしっかり共有して、一緒にやっていくのは大変なときもあります。

 ──それは日本からコントロールするのですか。
 渡辺 音楽教育をどう導入していくか、準備に何が必要なのかというノウハウを持っているのは日本の本社なので、現地の販社とも話をしながら、教育省に「こういうスケジュールが必要だ」とその都度共有しています。

楽器づくりに使われる森をつくる

■海外さんの仕事
 ──海外さんのこれまでの社歴を教えてください。
 海外遥香さん 私が入社したときは店舗での営業研修がなく、最初の3カ月は集合研修と工場実習でした。2017年7月に調達部門に配属され、そこから主にピアノの部位で「響板」という、音を響かせるための板の材料になる「スプルース」という木の調達業務を担当していました。スプルースは、ピアノの鍵盤にも使われています。そこに5年間いまして、2022年7月に現職であるコーポレート・マーケティング部のブランドプロモーショングループに異動しました。メインの仕事はマーケティング業務ですが、2022年に組織化された「おとの森プロジェクト」の仕事も兼務しています。

 ──マーケティングではどういう仕事をしていますか。
 海外 ヤマハのソーシャルメディア戦略を担当しています。SNSの「中の人」というよりは、グローバルでヤマハが運用している何百もあるアカウントのルールづくりや、どのように運用されているかのモニタリング、パフォーマンスのチェックがメインの業務になります。

■「おとの森プロジェクト」
 ──「おとの森プロジェクト」について教えてください。
 海外 楽器に適した木材を生み出すサステナブルな森=「おとの森」を地域の方といっしょにつくっていくプロジェクトです。

 ――どのようにして始まったのですか。
 海外 最初は「おとの森プロジェクト」という名前はありませんでしたが、クラリネットなどに使われるタンザニアのアフリカンブラックウッドという木の森林保全の活動が2015年から始まりました。その1年後、2016年に北海道で、スプルースの親戚であるアカエゾマツの森林をつくっていこうというプロジェクトが始まりました。その後、2019年にこれらの活動を総称して「おとの森活動」と呼ぶように定め、2022年にプロジェクトとして組織が立ち上がりました。アカエゾマツはトウヒ(唐檜)という種類の木で、バイオリンやギターの表板、ピアノの響板によく使われます。昔は北海道に生えていたアカエゾマツでヤマハもピアノをつくっていたのですが、楽器に適した太くて木目がしっかり詰まった良い木材が、今ではかなり少なくなってきています。

手間はかかっても価値のある材料を育てたい

(写真はアカエゾマツ植樹祭の様子、ヤマハ提供)
 ──ピアノに適した木は樹齢何年ぐらいのものなのですか。
 海外 100年、150年、200年というレベルです。板をはぎ合わせたものをグランドピアノの形に切ったり、アップライトピアノだと四角い形にしたりします。今はなかなか楽器に適する木材が国内にはなく輸入材ばかりで、スプルースはヨーロッパや北米から仕入れています。

 ──樹齢150年、200年となると、簡単に植林して解決できることではないですね。
 海外 枝が生えている部分は節になり、大きな節があると響板には使えません。ただ、植林をして木が若い間に人が手を入れ枝を落とせば、そこからは節がない状態で育つので、樹齢200年まで待たなくてももう少し早めに使えます。人間が手入れをしないといけないので手間はかかりますが、そういう育て方をしてでも価値のある材料を育てていきたいという北海道の人々の思いもあり、2016年にグループ企業の北見木材(現 ヤマハミュージッククラフト北海道)と、北海道遠軽町、オホーツク総合振興局との3者協定を原点として、北海道での活動が始まりました。

 ──ヤマハミュージッククラフト北海道はどういう仕事をしている会社ですか。
 海外 木材の製材、部品製造です。目利きの人がピアノに適した品質の原木を選木してヤマハミュージッククラフト北海道に入れます。そこでさらに木を見極め、木目や節の入り方を見ながら用途に合わせて製材し、響板や鍵盤をはじめとするピアノの部品をつくって、それをヤマハのピアノ工場に収めて、完成品のピアノをつくるという流れです。

後編はこちらから

(インタビュー写真・谷本結利)

SDGsでメッセージ!

 渡辺 私は就活で、日本と新興国をつなげる存在になりたいと思って、ヤマハに入りました。今こうやって新興国と一緒に仕事をしていることがすごく楽しく、会社のみなさんのサポートもあって、自分の仕事にやりがいを持って取り組めているのが嬉しいです。ヤマハに入るときも「質の高い教育をみんなに」というSDGsのロゴを見て入ったところもあります。みなさんもいろんな企業の掲げているSDGsを参考にしながら、就職活動を頑張ってください。

海外 選考ではグループワーク、エントリーシート、面接とたくさん不安になる部分、緊張する部分があると思いますが、みなさんがやりたいこと、共感していること、それを大事な軸として、まっすぐ伝えてほしいと思います。そのやりたいこと、共感していることがもしSDGsに関係することであればとても素敵なことだと思います。「おとの森プロジェクト」も最初はボトムアップで、そうした思いを持った人が始めた活動です。そういう人を応援する土台もありますので、もし音楽の観点からそういうことをやりたいと思っている人がいれば、選択肢の中にヤマハを入れていただければと思います。

ヤマハ株式会社

【メーカー】

ヤマハは世界最大の総合楽器メーカーです。音・音楽を中心にした事業を通じて磨いてきた感性と多彩な技術を融合し、楽器、音響機器、部品・装置、その他の領域でグローバルに事業を展開しています。「感動を・ともに・創る」を企業理念として、音・音楽を通じて「世界中の人々のこころ豊かなくらし」に貢献することを目指しています。