SDGsに貢献する仕事

大日本印刷株式会社

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  • 気候変動に具体的な対策を
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大日本印刷〈前編〉印刷技術から多方面に発展 「未来のあたりまえ」つくる【SDGsに貢献する仕事】

2024年03月21日

 SDGs(持続可能な開発目標)関連の業務に携わっている若手・中堅社員に直撃インタビューする「SDGsに貢献する仕事」の第15回は、世界最大規模の総合印刷会社、大日本印刷(DNP)です。社名に「印刷」がつきますが、事業の幅は紙をはじめとする素材への印刷にとどまらずマーケティング・セキュア分野などの「スマートコミュニケーション部門」、食品パッケージやモビリティ(人やモノの移動)分野などの「ライフ&ヘルスケア部門」、半導体関連部材やディスプレイ用光学フィルムなどの「エレクトロニクス部門」など幅広く、総合技術メーカーといえる企業です。印刷プロセスから発展させて培ってきた独自の技術を生かし、SDGsに結びつく製品開発に取り組む若手社員2人に登場いただきました。(編集長・福井洋平)

(冒頭のSDGsアイコンは、大日本印刷が重視するゴール)

【お話をうかがった社員のプロフィル】
事業開発本部環境とエネルギー事業開発ユニット 住田裕代さん(右)
2020年早稲田大学大学院先進理工学研究科応用化学専攻卒業、同年入社。2022年の9月までは高機能マテリアル事業部で北九州の戸畑工場に勤務し、2022年10月から現部署に。

基礎技術開発本部コンバーティング製品開発ユニット 春木暁人さん(左)
2017年慶応義塾大学大学院理工学研究科基礎理工学専攻卒業、同年入社。福島県白河郡の泉崎工場で2年間生産技術を担当し、2019年から現部署に。

「印刷技術」「情報技術」から発展

■大日本印刷とSDGs
 ──「大日本印刷」という社名から、紙をはじめとする素材への印刷がメインの会社という印象を持つ学生は多いと思います。まずは、事業の全体像をお聞かせください。
 住田裕代さん 当社は「人と社会をつなぎ、新しい価値を提供する」ことを企業理念としています。いわゆる「紙に印刷する」という祖業の活版印刷で培った技術を発展させ、事業を拡大してきました。DNP独自の技術やパートナーとの対話によって、新たな価値をつくりだし「未来のあたりまえをつくる」ことを目指しています。

 ──事業が素材への印刷にとどまらず、多岐にわたっているのはなぜですか。
 住田 印刷には、幅広い技術やノウハウが必要です。それがDNPの強みである「情報技術」と「印刷技術」です。発売前の書籍や雑誌、個人のDMや明細などを製造する上で、発表前の情報や個人情報をお客様から預かって安全に管理することで培ったのが「情報技術」です。これが、現在のマーケティングやセキュリティ関連の事業などにつながっています。

 「印刷技術」は、印刷に使う金属板(ハンコ)を作るときに、金属を溶解させて凹凸を作る微細な加工技術や、印刷時にインクなどの溶剤を均一に紙に載せる技術など、印刷に必要な技術です。これらを発展させることで、さまざまな機能を持たせたフィルムやエレクトロニクス関連、メディカルヘルスケアなどの事業に活かしています。さまざまな技術やノウハウを掛け合わせながら、新しい時代、社会課題に合った製品サービスを開発しています。

 出版印刷からエレクトロニクスまで、事業はかなり多岐に渡っていますが、元をたどると「印刷技術」「情報技術」につながっています。SDGsでは、環境に配慮したパッケージや、電力を使わずに温度管理が可能なボックス、太陽光を使用したデジタルサイネージなど環境に配慮した製品サービスなどを展開しています。

 ──フードロスにつながる製品・サービスもありますね。
 春木暁人さん パッケージの性能を向上させて食品の長期保存を可能にしたり、ICタグを使って管理するプラットフォームを作ったりすることで、フードロス減少にも貢献しています。また、ICタグや認証・決済システムは、小売店舗の働き方改革、省人化という意味でもSDGsに関連します。

 ――働き方にもSDGsで掲げる目標が反映されています。
 住田 例えば、ジェンダー平等についてですが、DNPはもともと「製造業」ということもあり、女性の活躍推進、管理職登用が大きな課題でした。いま、新卒採用では男女比率に差はありませんが、40代以降など年齢が上がるにつれて男性比率は高くなっています。そういった中で、経営層、役員クラスの意思決定層に女性が入ってこないと、企業としての真のダイバーシティは実現できないと考え、意志思定層の多様性を高めることを意識した取り組みも進めています。女性管理職を増やすだけではなく、「多様性がある職場」の価値をすべての社員に分かってもらい、社員一人ひとりが強みを発揮できる環境づくりをすすめているところです。

次世代電池を包む包装材を開発

■住田さんのお仕事
 ──住田さんは、今はどんなお仕事をされていますか。
 住田 「バッテリーパウチ」と呼ばれる、電池を包む外装材(写真、大日本印刷提供)の開発です。バッテリーパウチとは、電気自動車やスマートフォンなどのバッテリーに使われているリチウムイオン電池の外装材です。私たちは、より安全で長持ちする次世代電池の実現に向けて、部材開発を行なっています。実際に作ったものをお客様とやり取りしながら、改良をしていく仕事です。近い将来、次世代電池を搭載した車が走り始めると言われているので、そこに向けて開発を進めているところです。

 ──リチウムイオン電池を包むバッテリーパウチは、どういう働きをしているのですか。
 住田 電池の中身を水や外気から守るという役割をしています。リチウムイオン電池は、水や外気に触れるなどさまざまな要因で劣化し、寿命が短くなったり、スマートフォンなどが熱くなったりするといった体感をしたことがあるかもしれませんが電池が発熱したりすることがあります。また、中身に引火性のある溶媒を使用しているため、安全性の面でも中身を確実に守らないといけません。ちなみに普段皆さんが使っている乾電池も同様に缶や樹脂のケースのような外装で包まれています。
 ──電池メーカーからの依頼があって、作り始めたんでしょうか。
 住田 依頼があって開発を始めたわけではないです。当初DNPは、バッテリーパウチをほかの電池用途として開発を検討していました。リチウムイオン電池は外装材が缶のものが先に市場に出ていたのですが、液を使わないゲルポリマーの電池が誕生したことで外装材をフィルムにより実現できる可能性が高まり、DNPもリチウムイオン電池向けの開発を始めたそうです。レトルト食品に使われるレトルトパウチの技術や知見をいかしながらお客様のニーズを集約。試行錯誤しながら開発を継続し、今日に至っています。今もそこは変わらず、開発と営業で一体となってお客様のニーズに素早く応える開発活動を続けています。

 ──メーカーからは、どんなオーダーが来るのですか。
 住田 バッテリーパウチの販売先としては電池メーカーになりますが、自動車やスマートフォン等の最終製品を作っている会社も含め、様々なニーズをお伺いしています。例えば、自動車メーカーから最終製品に向けた要望を聞きつつ、もし新しい外装材ができた時には電池メーカーにうまく使ってもらわないと車に載せられないので、両方からニーズを引き出し、進めていきます。

長く安全に使える電池のために

■包装材開発の課題
 ──今、メインになっている最終製品は何ですか。
 住田 スマートフォンと電気自動車が多いです。ほかにもパソコンやドローンにも使われています。

 ──電気自動車を開発していく上で、理想の電池とはどういうものですか。
 住田 車は2、3年使えればいいものではなく、使われている間は絶対に故障があってはいけないものです。長く乗られることも想定して10年以上安全に使えることが求められます。

 ──その実現に向けて、DNPとしての課題は何でしょうか。
 住田 大前提として、電池の内部に水などが入るのを防がないといけません。また、完璧に密閉できたとしても電池の中には化学反応を起こすようなものが入っているので、それにより通常範囲ではない高温領域に突然なってしまうこともあります。万が一の異常時も想定し、リチウムイオン電池をできる限り安全に使いこなせるように外装材や部材の開発が求められます。

 ──厳重に密閉すればいい、というものではないのですか。
 住田 そうですね。充放電を繰り返す中で電池は少し中身が膨らんだり、縮んだりするので、それによって外装材も影響を受ける可能性があります。また、スマートフォンであれば人が落とすこともありますから、衝撃に耐える性能も必要です。車に搭載する電池も、舗装されてない道路だと衝撃や振動が加わったり、すごく寒暖差があったりするところで使われるかもしれません。バッテリーが入っているモータールーム(エンジンルーム)に影響を与えるかもしれない環境の変化を想定して、常にバッテリーを安全に保つことが求められています。
また、より電池の総数を減らしたり、電池を正常に動かすための部材に割くスペースを減らすことを目指して、高容量、高出力な電池が開発されています。例えば、今まで20個の電池を載せないといけなかったのが、10個で済むとその分スペースが空くので、車をよりコンパクトにすることもできます。電池の重量が減れば、輸送時のエネルギーや、搭載した車が走行するために使うエネルギーを減らせるため、環境配慮につながります。

 ──技術的に乗り越えるべき壁は、どういうところにあるんですか。
 住田 実は、次世代電池は、中身に使う材料や、どこまでの温度で使うかなどがまだ決まっていない、手探りの状態で、さまざまな可能性を想定して外装材も進化させていかないといけません。社会や市場の変化に合わせて、お客様の課題やニーズは変わります。「〇〇の環境で使用することを想定し△△や●●の性能を高めたバッテリーを作ってください」という相談を受けたとしても、半年後には違うニーズが生まれ、別の性能を求められる、といったように開発にスピード感が必要だと感じます。「これ」という課題が1つに決まっていない状態で、時代を先読みしながら、社会や市場、お客様の変化についていかなければいけません。

 ──今の技術から、かなり飛躍する必要がありそうですか。
 住田 今、私たちが作ってきたバッテリーパウチは事故がなく、高い信頼性を得られています。それでも今後もしかしたら電池の中身が変わっても外装材自体は今のまま使えるかもしれませんし、より高い性能が求められる可能性もあります。色々な可能性を想定し、中身などを変化させてみて、仕様を満たさなければ改良し、得意先のニーズと照らし合わせる、というサイクルを繰り返しています。

課題を予想して開発を進める

■試行錯誤
 ──試行錯誤されるのは原料の配合なのか、製造工程なのか、どちらですか。
 住田 どちらも重要なポイントです。どんなに良い材料が見つかっても、量産できないものは使えません。一番良い原料や材料を見つけながら、量産できそうなものを両方見極めていくような感じです。

 ──パウチの素材は、基本的には樹脂なんですか。
 住田 樹脂だけではなく、カレーのレトルトパウチのようにアルミ箔などを何層か重ねています。

 ──今まで一番大変だったことは。
 住田 お客様も探り探りの状況の中で、必要とされるニーズや課題をいち早くキャッチアップすることが大切です。「今の要望はこうだけれども、半年後にはこう変わるんじゃないか」と予想して、複数のパターンを走らせておくのが大変です。
 お客様から新たなニーズを言われた時に、全く手立てが見つかってないのと、ある程度想定できているのとでは、アウトプットまでのスピード感が変わってきます。できるだけ未来を予想して、それに対して先に手立てを見つけておくのが開発ではすごく重要ですし、難しい部分です。


 ──今、目の前にある課題は何ですか。
 住田 次世代電池はまだ材料や使われ方が決まっていないので、色々なニーズを想定しながらお客様と一緒に検証を重ねていくところに難しさを感じます。でも、不確定要素が多い、未来に向けた仕事というところは面白さでもあります。

 ──今までよりも大きな形状変化に対応しなければいけない、と。
 住田 その可能性が高いかなと思っています。これまでの電池と中身が変わることで生じると想定される課題や、新たなニーズに対する解決手法から探っています。
 外装材は何層も重なり合っているので、何か1つを変えれば解決するという単純なことではなく、材料を変えたら違うところに不具合が出るなど、いろんな事象が積み重なっている製品です。

印刷技術を発展させてバリアフィルムをつくる

■春木さんのお仕事
 ──現在のお仕事について教えてください。
 春木 私が今担当しているのは、IB-FILM(アイビーフィルム:Innovative Barrier Film)です。厚さ12ミクロンのPETなどを使ったフィルムですが、我々のコーティング技術を用いて、水蒸気や酸素を通さないバリア性を付与したフィルムになります。DNPが展開している環境に配慮した包材「グリーンパッケージング」のラインナップもあり、主に食品や日用品の包装材に使われていて、内容物を守るという役目を果たしています。

 ──春木さんは、もともとパッケージの事業部所属だったのですか。
 春木 初期配属はパッケージの事業部ではなく、当時本社に設立されていた新しいビジネスを開発する組織で、IB-FILMを使った新規事業を検討していました。

 ─―PETフィルムはDNPがつくっているのですか。
 春木 フィルム自体は自社で作っているわけではなく、他社から買っています。DNPが強みとする「印刷技術」の一つに、材料を部材の表面に薄く均一に付着させて覆う処理をする「コーティング技術」があります。これを利用して、光学特性・バリア性・耐熱性など、さまざまな機能を持たせることができるのです。
巻いた状態のフィルムにコーティングをしてまた巻き取るという「ロールtoロール製法」でIB-FILMをつくっています。

■バリアフィルムの特性
 ──この分野で、DNPの強みは何ですか。
 春木 コーティング技術は、印刷時に均一にインクを塗るというところから始まっています。塗工する材料と、塗工される側の部材(フィルムなど)の種類を広げ、また、量産しても品質を保てるように、技術を高めてきました。実際にこのロールの大きさは横幅2メートル以上、長さも5万メートル以上あります。
 フィルムの種類によって表面の粗さや、どのぐらい液が塗りやすいかという塗工適性が違うので、コーティングの材料や条件を使い分けながら、フィルムに合わせた塗工をします。
 ──バリアフィルムは昔からあるのですか。
 春木 はい。1998年から作っています。もともとは食品を長持ちさせるパッケージに向けて開発されました。それまでは、缶や瓶など厚さや重量のあるものが保存容器としては主流でした。薄手のフィルムに置き換えてバリア性を付与したパッケージを使えば、食品などを輸送するときの重量を減らしたり、効率的な梱包ができるようになります。輸送コストも下がりますし、食品も長持ちするなど、SDGsに貢献する技術です。
■モノマテリアル包材
 フィルム素材の中では、アルミ箔がバリア性は高いのですが、アルミ箔に置き換えることが可能なバリア性をこのIB-Filmで実現できます。アルミ箔がないことで、リサイクルもしやすくなります。DNPでも、単一素材で作ることでリサイクル性を高める「モノマテリアル包材」を提供しており、そこでも、このバリアフィルムが使われています。一般的な食品パッケージはPETフィルム、ポリプロピレンフィルム、アルミ箔など、特性の異なる材料を何層も重ね合わせることで、食品を守るために必要な性能を持たせています。フィルムは複数の素材が一体化しているので、捨てる時に層ごとに分解することはできません。フィルムのPET素材を回収しようと思ってもPET素材だけを集めてリサイクルするということが難しく、リサイクルしづらい現状があります。DNPでは、異なる素材を重ねるのではなく、同じ種類のプラスチックに異なる機能を付与してリサイクル性を高めたフィルムを用いることで、リサイクルしやすいパッケージを作っており、食品パッケージなどで実用化されています。

 ──包装材としては、PETが一番いいのですか。
 春木 一般的にPETフィルムは引っ張ったりしても丈夫だったり、熱に強かったりするところは優秀ですが、その一方で、ヒートシール性といって袋にするために熱をかけて圧着できる性能はありません。その性能があるのはポリプロピレン、ポリエチレンなどのフィルムです。DNPではバリア性の良いポリプロピレン仕様やポリエチレン仕様など内容物に合わせたモノマテリアル包材の設計と開発を進めています。

(3月27日公開の後編に続く)

(インタビュー写真・大嶋千尋)

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SDGsでメッセージ!

春木 SDGsと聞くと漠然としたイメージしか持てないかもしれませんが、SDGsとは「全ての人にとってより良い未来、持続可能な開発目標」です。まずは自分、そして周りの人たちにとってより良い未来や社会を思い描いてほしいと思います。また、会社は、思っている以上に一人ひとりの熱意、思い、働きが、提供する製品やサービスの質に大きく影響すると感じます。1人で成し遂げることは難しくても、その思いは周りに伝わり、仕事を良くしていくきっかけになります。ぜひ、みなさんが思う「より良い未来」を、DNPの幅広い事業領域と多様な人材を活かして一緒に作っていけたらいいなと思っています。

住田 私は学生のとき、社会人になったら、分からないことや仕事の進め方をすべて自分で責任を持って決めないといけないのかな、と少し不安でした。でも、入社してみると本当にさまざまな研修制度や指導制度が充実していますし、たくさんの人たちと関わりながら仕事を進めています。そのおかげで私は今ずっとやりたかったモノづくりの仕事に携わることができています。学生のみなさんも就職活動のときはしっかり自分と向き合って、自分が一番楽しくやりがいを持って働けるような仕事を見つけてもらいたいなと思っています。

大日本印刷株式会社

【印刷業】

 大日本印刷(DNP)は、国内外の顧客企業や生活者に対し、多様な製品やサービスを提供する世界最大規模の総合印刷会社です。
 他社にはない独自の「P&I(印刷と情報)」の強みを掛け合わせ、多くのパートナーと協業を行い、出版印刷やセールスプロモーション、包装、建材、ディスプレイ製品、環境とエネルギー、ライフサイエンス分野などにも進出し、社会課題の解決とともに、人々の期待に応える新しい価値の創出に力を入れています。