SDGsに貢献する仕事

花王株式会社

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花王〈前編〉2050年までに「ごみネガティブ」 つめかえパックリサイクル実現には困難も【SDGsに貢献する仕事】

2023年07月21日

 SDGs(持続可能な開発目標)関連の業務に携わっている若手・中堅社員に直撃インタビューする「SDGsに貢献する仕事」の第9回は、大手日用品・化粧品メーカーの花王です。花王は洗剤や洗顔料など、多くの製品につかわれている包装用プラスチック量を減らしたり、リサイクルしたりして、2040年までにプラスチックの「ごみゼロ」、2050年までにはプラスチック再利用量が使用量を上回る「ごみネガティブ」をめざす取り組みをすすめています。その一環として、使用済みつめかえパックを再生し、新たなつめかえパックの材料にリサイクルする「水平リサイクル」技術を開発しました。入社直後からこの技術の開発にたずさわった若手社員は、つぎつぎと出てくる課題をどう乗り越えていったのでしょうか。(編集長・福井洋平)

(冒頭のSDGsアイコンは、花王が今回紹介するプロジェクトで重視するゴール)

【お話をうかがった社員のプロフィル】
●山本幹也(やまもと・みきや)さん=研究開発部門包装技術研究所・リサイクルプロジェクト
2020年千葉大学大学院融合理工学府共生応用化学コース修了。同年、研究職として花王入社。現部署に配属され、リサイクル樹脂の改質技術の開発を担当。その後、リサイクル樹脂を用いたフィルム・容器の評価・設計を担当し、使用ずみつめかえパックの水平リサイクル技術確立に取り組む。現在はさらに技術をブラッシュアップし、革新的な技術の開発をめざしている。

事業全体でCO₂排出量を減らす

■自己紹介
 ──まずは、山本さんの自己紹介をお願いします。
 2020年4月に研究職として花王に入社し、現在4年目です。入社前は千葉大学の大学院で、高分子化学の研究をしていました。入社後すぐ「包装技術研究所」という花王製品の容器開発全般を担当している研究所に配属され、そこのリサイクルプロジェクトに加わりました。それから現在まで、今回の水平リサイクルにかかわる研究開発を行っています。

 ――大学で高分子を研究テーマに選ばれた理由は。
 一番は、「何もないところから何かをつくり出す」ところに魅力を感じたからです。たとえばスポンジも高分子からできていまして、目に見えないぐらいのサイズの原料を混ぜ合わせてスポンジをつくっていきます。何かがどんどん連なって、新しい何かができるというのが面白いと思いました。

 ――小さいころからものづくりがお好きだったんですか?
 そうですね。小学校のころは海や山といった自然の中で遊ぶのが好きでしたが、自分でホームセンターで材料を買ってきて、椅子や棚をつくったりもしていました。
 高校に入って、化学の実験がすごくおもしろく、化学が好きになりました。液体を混ぜたら色が変わったり、急に泡が出てきたり、目で見てわかる変化が起きるのが面白い。何かがつくりだされるというのも、化学の魅力だと思います。それで、大学でも化学を勉強しようと決めました。

 ──大学で印象に残っている研究は?
 色を持っていない物質が規則的に並んだときにきれいな色が出る「構造色」の研究です。クジャクの羽や、CD・DVDの表面をイメージしてもらうと分かりやすいかもしれません。光の反射を利用してきれいな色を出すという研究を行い、最終的にはプリンターのインクに使えないか研究していました。

 ――大学での研究は、いまのお仕事に生かされていますか?
 装置の使い方や実験の評価に関する考え方はすごく役に立ちました。ただ、いまのプロジェクトでは物質をどううまく混ぜて容器にするかを研究するのですが、そこについては最初は理解が追いつきませんでした。
■花王環境宣言
 ――今回、花王は使用済みのつめかえパックを回収し、再度つめかえパックに戻す「水平リサイクル」の技術を開発し、再生材料を一部に使用した洗剤のつめかえパックを初めて製品化されました。このプロジェクトに至る花王の取り組みについて教えてください。

 もともと花王は衣料用洗剤や全身洗浄料など「洗う」製品、お客さまが使用する際に「水」や「お湯」を必要とする製品が多いです。そういった製品を使うときは下水道や、お湯にするためのエネルギーも使うことになり、結果としてCO₂を排出することにつながります。事業全体のなかでもっともCO₂排出量が多い「使用」の部分でなんとか排出量を減らしたいと考えました。そこで2009年に開発したのが、泡切れがよくすすぎが1回ですみ、使う水を減らすことができる洗濯洗剤「アタックNeo」です。
 そしてあわせてこの年、「花王環境宣言」を発表しました。原料の調達や生産、物流、販売、そして「アタックNEO」での取り組みのようにお客様とも連携して、環境活動に取り組みましょうという宣言です。

 ――会社の社会的責任が重視されるようになった時代ですね。
 はい。その後、2019年には生活者のニーズが高まっている持続可能な暮らしを「Kirei Lifestyle」とし、それを実現するためのESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」を打ち出し、「ESG経営」に大きく舵を切りました。

■Kireiをキーワードに
 ──なぜ、Kirei(キレイ)という言葉を使われたんですか。
 「Kirei Lifestyle」という言葉の中に、──こころ豊かに暮らすこと、すべてにおもいやりが満ちていること。自分自身の暮らしが清潔で満ち足りているだけでなく、周りの世界もまたそうであることを大切にすること――という意味を込めています。

(写真・水平リサイクル再生材料を一部に使ったつめかえパックを持つ山本さん)

目標はプラスチックの「ごみゼロ」「ごみネガティブ」

■プラスチック使用量の削減
 ――そのプランの一環として、「プラスチック資源循環社会」を打ち出されたんですね
 はい。私たちの製品は容器などにたくさんのプラスチックを使用しており、サステナブル(持続可能)な社会実現のためにはその削減が求められます。私たちはリデュース(減らす)、リユース(再利用する)、リプレイス(他素材に置き換える)、リサイクル(再資源化する)の4Rを通じ、プラスチックの包装容器の使用量を減らしていこうという取り組みを宣言しています。たとえば「アタックNEO」を出した後、濃縮タイプの洗剤を出し、さらに容器のサイズをコンパクト化しました。さらに頻繁に買い替えなくてすむよう大容量のつめかえパックを出し、使いやすいように容器の重さもどんどん減らしていきました。和歌山県にある花王エコラボミュージアムでは、従来のボトルとつめかえパックでどのぐらいの量が減るか見られる展示があります。つめかえパックにすることで、プラスチックの使用量を75%も減らすことができたのです。

 ──和歌山市の工場に併設されているミュージアムですね。
 外部の方に見ていただけるような研究展示があります。また、「ラクラクecoパック」という簡単につめかえができる容器も開発しました。つめかえパックをホルダーにセットしたりポンプを付けて使うこともできます。
 花王では、「リサイクリエーション」という、つめかえパックをリサイクルして新たな価値を生み出そうという取り組みもあります。神奈川県鎌倉市や北海道北見市といった自治体で住民の皆さんに協力を得てつめかえパックを回収し、それを原材料にした「おかえりブロック」というブロックを使って、リサイクルの啓発活動などを行っています。

■「ごみゼロ」「ごみネガティブ」めざす
 ――最終的な目標は。
 2040年までにプラスチック包装容器について「ごみゼロ」、2050年までに「ごみネガティブ」にすることです。ごみネガティブとは、花王が使うプラスチック包装容器の使用量より、再資源化できたプラスチックの量のほうが多くなる状態のことです。

 ──「ごみゼロ」は、花王1社の取り組みですか。
 社会課題解決は1社だけでは何もできませんので、他社とも連携を取って一緒に取り組んでいます。今回の水平リサイクルも、いろいろな実証実験を他企業とご一緒したり、自治体や別の業種とも一緒になって取り組んだことにより実現したものです。

簡単ではなかった、つめかえパックのリサイクル

■つめかえパック容器の「水平リサイクル」
──使用済みのつめかえパックはいろいろな形でリサイクルすることが可能と思うのですが、なぜ再びつめかえパックに再利用する「水平リサイクル」をめざされたのですか。

 つめかえはお客様の協力を得てこそ進められる取り組みです。つめかえパックがリサイクルされてふたたびお客様の手元にお届けできるという形を示すことで、さらにお客様のリサイクルに対する理解が深まり、「つめかえ製品を使おう」というモチベーションにつながっていくのではないか、と考えました。

──山本さんが入社したときには、すでに水平リサイクルの研究自体は進んでいたのですか?
 プロジェクト自体はその前から少しずつ進んでいたのですが、花王として大々的にプロジェクトを発足させたのが2020年でした。私は入社後の4月からそこに入りました。

──最初に与えられたミッションは何でしたか。
 当初、使用済みつめかえパックでフィルムをつくってみたら、たくさんの穴が空いてしまったんです。「フィルムに穴が空かないようにするには、どうしたらいいか」が最初のミッションでした。
──なぜ、穴が開いてしまうのでしょうか。
 つめかえパックのフィルムはすごく薄いのですが、薄くても容器としての形を保ち、漏れが発生しない強度を達成しなくてはいけません。そのため1枚のフィルムではなく、主体となるポリエチレンと呼ばれる樹脂のほかナイロンやPETといった別の種類の樹脂、接着剤、インク、製品によってはアルミ箔など違う素材の層がいくつも重なってフィルムができているのです。
 ペットボトルですと材料が1種類なので、回収したらもう一度元に戻せます。しかしつめかえパックはそのままリサイクルしようとしても、インクやアルミ箔などが異物として残ってしまい、フィルムに穴が開いてしまうのです。また、ポリエチレンやナイロン、PETといった種類の違う樹脂はうまく混ざらないため、むらのあるでこぼこしたフィルムになってしまうという問題もありました。こういう問題があったため、つめかえパックのリサイクルは難しいとされてきました。

――そんな困難があったんですね。
 プロジェクトはまず、アルミ箔を含む使用済みつめかえパックを選んで取り除くところから研究を始めました。そして、レーザーフィルターをつかってPET、ナイロンを含む異物を取り除く方法を検討したり、取り除けなかったPETやナイロンをうまくポリエチレンと混ぜ合わせるための「相溶化剤」という添加剤を工夫したり、研究を重ねました。最終的にフィルム化するときにもいちばんきれいにフィルムができる温度条件を検討し、最終的にでこぼこのないきれいなフィルム(写真一番右)ができまして、製品化につなげることができました。

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(インタビュー写真・大嶋千尋)

SDGsでメッセージ!

 私はもともと海でよく遊んでいて、浜辺に打ち上げられるごみもしょっちゅう目にしていたため、環境問題にはすごく関心をもっていました。「ごみゼロ」など、花王の打ち出すESG戦略に共感したことは、入社を決めた要因のひとつとなっています。お客様と直接向き合うBtoCという業態で、自分が開発を担当したものが店頭に並ぶということは、仕事のうえで大きなやりがいになっています。

花王株式会社

【日用品】

 花王は、「ハイジーン&リビングケア」「ヘルス&ビューティケア」「ライフケア」「化粧品」の4つの事業分野で、生活者に向けたコンシューマープロダクツ事業を展開しています。「ケミカル」事業においては、産業界のニーズにきめ細かく対応した製品を幅広く展開しています。これらの事業活動を通じて、持続可能で豊かな共生世界の実現に貢献していきます。