SDGsに貢献する仕事

ヤンマーホールディングス株式会社

  • 飢餓をゼロに
  • すべての人に健康と福祉を
  • 働きがいも経済成長も
  • つくる責任 つかう責任
  • 海の豊かさを守ろう
  • 陸の豊かさも守ろう

ヤンマーホールディングス〈後編〉「生産者と仕事がしたい」 持続的な食の未来へあの手この手【SDGsに貢献する仕事】

2023年04月12日

 「SDGsに貢献する仕事」をしている若手・中堅社員に聞くシリーズの第7回、ヤンマーホールディングスの後編です。「生産者と仕事がしたい」と入社した女性社員は、田んぼに入って一緒に農作業もする泥臭い面もある仕事に「幸せ」を感じるといいます。農家が減って耕作放棄地も増える中、あの手この手で生産者を支えることが、生物多様性を守り、食料の安定供給にもつながります。持続的な食の未来のための取り組みです。(編集長・木之本敬介)
前編はこちら

(冒頭のSDGsアイコンは、ヤンマーホールディングスがとくに重視するゴール)

【お話をうかがった社員のプロフィル】
●井口有紗(いぐち・ありさ)さん=ヤンマーマルシェ株式会社 フードソリューション部 農産グループ(ヤンマーホールディングス株式会社からの出向)
2013年、東京農工大学大学院修了(農学部農業環境工学専攻)、同年、ヤンマー株式会社(現ヤンマーホールディングス)入社。アグリ事業本部開発統括部開発実験部でトラクター開発、ヤンマーアグリイノベーション株式会社 で新規事業担当、ヤンマーマルシェ株式会社 商品部で自社オリジナル商品の開発営業担当などを経て現職。

生産者と過ごせる幸せ 田植えや稲刈りも一緒

■やりがいと苦労
 ──仕事のやりがいは?
 「生産者とともに」がヤンマーマルシェのコンセプトの一つです。ご高齢の生産者もいますが、最近は家業を継いだ若手の方も増えています。みなさんすごく前向きで一生懸命チャレンジしています。私は「生産者と仕事がしたい」と思ってヤンマーに入社したので、生産者の方々と同じ時間を過ごせることが何より幸せです。
 過去何年も約3ヘクタール分を契約していただいていた生産者がいました。今まで栽培していた品種以外にも需要があり、病気や高温障害に強い品種のこと、最新の栽培技術やマーケットの情報を提供し通い続けることで、「今年は10ヘクタール出荷するよ」と契約の拡大につながったことがあります。契約を拡大していただくのは責任も大きく緊張しますが、生産者の新たなチャレンジを後押しできたと感じた出来事でした。

 ──大変なことやご苦労は?
 契約生産者の収量が落ちたときは苦しいですね。お米づくりは病気や天候の影響を受けてしまうので仕方ないことも多いのですが、少しでも安定した収量や品質にできるよう、今後はもっと栽培サポートを充実し、ヤンマーマルシェと契約して良かったと思ってもらえる事業に育てていきたいと考えています。

 ──田んぼに出ることもあるのですか。
 もちろんです。生育調査では田んぼに入り、稲の根がちゃんと張っているかなどを確認します。去年は担当になったばかりだったので、なるべく現場に伺いました。生産者の方々とたくさんコミュニケーションできるよう、田植えや稲刈りの日に行って一緒に作業しました。

 ──SDGsにどう貢献していると思いますか。
 たとえば、お米の中で流通量が多いのは、全国的においしくて作りやすい「コシヒカリ」ですが、異常気象で夏場が暑すぎて収量や品質が落ちているので、今は「にじのきらめき」という新しい品種を提案しています。たくさん収穫できる多収性なので業務用向きで、高温に耐性があり病気にも強い品種です。このように、生産者の方々が持続的に水稲栽培ができるようにするためのさまざまな提案をしています。生産者が離農してしまうと、田んぼは耕作放棄地となり、生物多様性が崩れ、食料も安定的に供給されません。栽培方法や契約方法など、あの手この手で生産者が農業を続けられる方法を探る。持続的な食の未来のための取り組みは何よりSDGsへの貢献だと思っています。

(写真・契約農地で作業する井口さん=ヤンマー提供)

「ヤンマーのため」ではなく「ヤンマーという土台であなたは何をしたい?」

■大学と就活
 ──どうして生産者と仕事をしたいと思ったのですか。
 西東京市で生まれ、小中高は大阪、大学と大学院は東京でした。サラリーマン家庭でしたが、管理栄養士の母が食育に熱心で、食べるのが好きでした。いつも「食が人の体を作ってるんだよ」と言い、栄養バランスや薬膳なども身近でした。
 高校2年になるとき理系・文系で迷い、「国連で世界の食料課題を解決したい」と思いました。日本の国連事務所に「国連に就職するには英語学科に入るのがいいですか」と問い合わせたら、「国連では英語を使うのは当たり前なので、大学では専門性を身につけてから来てください」と丁寧にメールを返してくれました。「食なら農業かな」と思ったものの、当時はバイオや作物栽培にはさほど興味がなくて。どうしようかなとテレビを見ていたら、柔道の「ヤワラちゃん」の谷亮子さんがCMでトラクターか何かに乗っていて、「面白そう」と思ったんです。物理は好きだったので「これなら自分でもできるかな」と。そこで東京農工大学に入り、農業機械系の精密農業の研究室に入りました。

 ──どんな研究をしたのですか。
 当時、農作業時の事故で毎年300人くらいの方が亡くなっていることに衝撃を受け、農作業安全を研究テーマにしました。担当教授は「研究室に来ないで農家に行きなさい。農家に全ての答えがあるから」という徹底した現場主義で、研究室に所属した3年間、夏休みや田植え、稲刈りの時期にはインターンのように農家さんのところに行っていました。秋田、新潟、埼玉、愛知などの農家さんのところに行くと、みなさんとても誇りを持って農業をしていて、「食を作るのはすごいことなんだよ」と教えてくれました。彼らと一緒に仕事がしたいと強く思い、就活では「絶対に農機メーカーに行きたい」と絞りました。

 ──農機を作ろうと思ったのですか。
 いえ、ヤンマーアグリイノベーションという会社で「新しいソリューションをやりたい」と人事と話していました。ただ、メーカーに入った以上は農機のことを知っておきたかったので、「初期配属は農機の開発をやり、経験を積んでから異動したい」と言いました。順調に自分の行きたい部署に行かせてもらっています。

 ──ヤンマーの選考で印象的だったことは?
 「ヤンマーのためにこれがしたい」ではなく、「ヤンマーという土台が与えられたらあなたは何をしたいですか」と聞かれました。ヤンマーには人の可能性を信じ、挑戦を後押しする「HANASAKA(ハナサカ)」という価値観が根付いており、人材育成にも力を入れています。ヤンマーというフィールドを大いに活用して、受け身ではなくチャレンジしてほしいというメッセージだと思います。

 ──面接では何と答えたのですか。
 「生産者にもっと入り込んだほうがいい」と提案しました。生産者とヤンマー、時には行政も一緒になり、三位一体になって事業を進める風土を作ることで、もっと現場で活躍する技術や商品、サービスを開発できるんじゃないか、という話をした記憶があります。

 ──ヤンマーの採用はヤンマーホールディングス(HD)一括ですか。
 ヤンマーHDと、9社ある事業会社での採用を並行して行っています。HDは事業横断的にキャリアを積んだりグローバルに活躍したりしたい人に、より事業に特化してキャリアを積みたい人は各事業会社に入社しキャリアをスタートさせています。HDから各社への出向もあります。

■目標
 ──今後の目標は。
 生産者がしっかりともうかる仕組みを構築し、事業としても軌道に乗せることが目標です。農業機械メーカーなのでトラクターなどハードの技術開発の土台はありますが、生育情報などを活かした生産者の意思決定を支援するツールをもっと充実できればと考えています。「テクノロジーで、新しい豊かさへ。」というブランドステートメントのもと、DXによる生育予測など農業経営が安定する事業開発にも携わっていきたいです。

大学の外で持続可能な社会に取り組む人に接して

■働き方改革と社風
 ──働き方改革や女性活躍もSDGsの項目ですが、取り組みは?
 ダイバーシティ&インクルージョン(多様性と包摂性)を進めています。機械・エンジンメーカーなので、まだ女性社員の比率は少なく2022年3月末時点で18.1%ですが、2020年度から総合職の女性向けのメンターシップ制度を始めるなど、先輩社員が対話を通じて後輩社員の疑問解消や成長のサポート、社内ネットワークの形成を支援しています。育児休業も推進していますし、今は在宅勤務制度とフレックスタイム制の併用の実現など、ライフステージにあわせ、柔軟に働き方を選択しやすくなっていると思います。

 ──女性が少なくて働きにくさを感じたことはありますか。
 働きにくいと感じたことはありません。私が入社したときの開発部の女性比率は1~2%とかなり少なかったですが、今はだいぶ増えてきていると感じます。女性社員のみならず、すべての社員にとって働きやすい職場や、自律的なキャリア形成を後押しする制度や風土づくりに会社全体で取り組んでいます。

 ──どんな社風ですか。
 「CHANGE&CHALLENGE」というキーワードがあり、「今までと同じことをしているのはよくない」「今の仕事以外に挑戦したいことがあるなら自分で仕事をつくっていい」といった社風です。私の上司は「解決すべき社会課題を見つけて、自発的に取り組みなさい」というスタンスで、挑戦を後押ししてくれます。私は、新規事業のようにマニュアルがない中で挑戦することにやりがいを感じるタイプなので、キャリアを築きやすい環境です。適材適所を実践している会社だと思います。

■普段の生活とSDGs
 ──普段の生活でSDGsを意識していることは?
 お米や野菜に関わっているので、持続可能性のある有機農産物を買ったり、最近はフェアトレードの商品に目がいったりするようになりました。食の分野で貢献できるよう、買い物はそういう目線で選ぶようにしています。

 ──SDGsに興味のある学生が、社会課題を自分事化するにはどうしたらよいでしょう。
 私は生産者の方々と知り合って、彼らの農業をもっともっと持続可能なものにできればと思い、SDGsを意識するようになりました。ふだん学生として生活していると危機感を感じにくいと思いますが、大学の外に出て、個人ででも持続可能な社会を実現するための取り組みをしている人に接すると、魅力をリアルに感じて、応援したくなると思います。そういう人と一緒に仕事をしてみたいと思うことでより身近になります。学生の特権は時間を使っていろんなところに行けること。だから、自分の興味がある分野でも、ない分野でも、いろんな人と出会うことが大切だと思います。

(写真・MIKIKO)

SDGsでメッセージ!

 就職した企業を通じて「社会課題の解決」や「持続可能な社会への取り組み」ができる──という目線で、行きたいところを見定めてください。ゴールを遠くに置いて就活すれば、きっといろんな可能性が広がってくるので、頑張ってください。「ヤンマーに入る」ではなく、「ヤンマーに入って農業界をこうする」「社会をもっとこうする」をゴールに設定したほうがいいと思います。私自身は生産者の方々と出会ったことが大きかったので、自分の行きたい分野に関わっている人と触れ合うことをお勧めします。

ヤンマーホールディングス株式会社

【農業機械メーカー】

 1912年に大阪で創業したヤンマーは、1933年に世界で初めてディーゼルエンジンの小型実用化に成功した産業機械メーカーです。ブランドステートメントである“A SUSTAINABLE FUTURE”の実現をパーパスとして、パワートレインを軸に、アグリ、建機、マリン、エネルギーシステムなどの事業をグローバルに展開。脱炭素社会の実現と顧客価値を創造し、持続可能な社会の実現に貢献していきます。