なぜ、こんな話をかいたのかといいますと、東京都文京区に本社がある株式会社「図書館流通センター」をたずねたとき、元社長、いま会長の谷一文子(たにいちあやこ)さんに、こんな話を聞いたものですから。
「『松本清張』を、まつもときよはる、と読む人がいるんです」
もちろん、まつもとせいちょう、です。もっとも、かの文豪の本名は、「きよはる」。それを知っていたのなら、すごい知識の持ち主ということになりますが……。
「図書館の利用者が、職員に『大鏡ありますか?』ってたずねたんです。すると,職員はこたえました。『トイレに大きな鏡があります』って」
大鏡、読み方はもちろん、おおかがみ。平安時代にできた歴史物語です。
図書館流通センター(略称TRC)は、全国にある図書館のあらゆる業務をささえている会社です。みなさんの地元にある図書館はもちろん、あなたの大学の図書館も、このTRCが支えているかもしれません。
そして、活字文化を根っこから支えているのも、TRCです。
毎日のように、どどどどどーっと本が出版されますね。でも、本屋さんの店頭にならぶのは、有名作家や話題の本がおおい。いまはアマゾンなどのネットで買えるものの、店頭にならばない本は、なかなか売れません。
さて、仮に本屋さんの店頭に並んだとしても、日にちがたつにつれ、この本が消え、あの本が消え、あれも、これも、となくなります。
そして、品切れ、絶版という悲しい運命が待っています。つまり、その時点で世の中にある本で打ち止め、あらたに印刷されることはない、ということです。
ということは、もし、そうなってしまった本を買いたくても、もう買えないということです。読みたくて読みたくて、たまらないのに、どうしましょう。
そうです、図書館があるんです!
いまは会長、2006年から13年まで社長をしていた谷一さんは、岡山市のはずれに生まれました。もともと岡山県の病院で臨床心理士をしていました。その病院の体制が変わったために病院をやめ、たまたま公立図書館の職員募集があったことをきっかけに、図書館の世界に入りました。しかし、物足りなくなってしまいます。
そして1991年、夫の転勤のため東京にうつり、TRCに入社したのです。はじめての仕事は、本を図書館で検索するためのデータベースを作成することでした。そのころ、一日200冊以上はいってくる見本の新刊書籍を、内容に合わせて分類します。文字どおり、黙々とこなしたのだそうです。そこから、営業、図書館運営などの仕事に飛び回ってきました。本を、図書館を愛する凜とした女性です。子育てもしっかりこなしてきました。