中島隆の輝く中小企業を探して 略歴

2014年12月25日

マッサージチェアに専念、大手家電メーカーにも負けない鳥取魂(第25回)

(商品のマッサージチェアと稲田二千武社長)

 みなさんは今回の衆院選挙、投票に行きましたか? 行かなかった方、もったいなかったですね。せっかく、政治や経済について考えるチャンスだったのに。ぜひ、次回の国政選挙では、考えて投票しましょう。

 ところで、みなさんは、例のアベノミクスって知っていますか? 安倍政権がいま、「これしかない」と突き進んでいる経済政策のことですね。

 では、その中身を知っていますか? 知っている方も多いとは思いますが、改めて簡単にご説明します。

 わたしたちが使っているおカネの通貨は、日本の円。アメリカでは、米ドル。ヨーロッパではユーロですね。このような通貨は、外国為替市場というところで売り買いされています。

アベノミクスでは、円の価値を下げる「円安政策」をしています。すると、輸出をしていたり外国に工場をもって生産していたりする自動車産業、電機産業などの大企業が、大もうけすることになります。

たとえば、ここに100万円の車があり、日本から米国に輸出しているとします。もし1ドル=50円の「円高」だったら、米国での販売価格は100万÷50=2万で、2万ドルとなります。

 ところが、「円安」になったらどうなるでしょう。たとえば1ドル=100円になったら,米国での販売価格はどうなりますか? 100万÷100=1万。つまり、1万ドルとなります。

 アメリカの消費者は思います。2万ドルだったら高くて手が出せなくても、1万ドルだったら買えるぞ、と。アメリカで日本の車が売れるようになりますから、日本からの輸出が増え、そして、大企業が大もうけするのです。

 また、海外に工場をもって生産、販売している場合についても考えてみましょう。たとえば、アメリカにある工場で自動車をつくり、100万ドル分を売り上げたとしましょう。1ドル=50円のとき、日本円での売上高は、100万×50=5千万、つまり5千万円です。ところが、1ドル=100円なら、100万×100=1億、1億円になります。円安になったら売上高が増える、ということなります。

 こうしてアベノミクスは、大企業を豊かにしていきます。そして、大企業がもうけて、社員の給料を増やし、取引先への仕事を増やす。すると、いつかかならず、中堅、中小企業の業績も良くなりますから、いまは待っていて下さい…… これが、アベノミクスです。

つまり、大きな会社がますます大きくなるのがアベノミクスです。この世の中、悲しいけれど、おカネをもっている大きな会社が、ちいさな会社に勝つ。そうできている……。

 どっこい、かならずしもそうならない、だから会社の世界はおもしろいのです。

 大阪市に、「ファミリーイナダ」という会社があります。創業は半世紀あまりまえ、従業員およそ450人。

 つくっているのは、マッサージチェアです。もんだり、たたいたりなどで体をほぐしてくれる、あのイスです。

 社長は稲田二千武(にちむ)さん、74歳。鳥取県の大山で生まれました。だれですか、「おおやま」と読んだのは。「だいせん」です。高校を卒業して大阪の鉄工所で4年、そして独立、いまの会社をつくりました。
(商品におさまる社員の新葉さん)

 かつて、マッサージチェアをつくる会社は国内に何十社もありました。ですが、競争がはげしくなって淘汰(とうた)され、いまでは3社しかありません。

 ファミリーイナダのライバルは、パナソニック、そして、東証一部上場企業の傘下にあるフジ医療器の2社です。この3社で、日本でのシェアを3分しています。

 ファミリーイナダの資本金は1億円。ちなみに、各社のホームページによると、パナソニックは2587億円、フジ医療器でも3億円です。ふつうに考えれば、資本金が多かったり企業グループとして広がりがあったりする方が競争に勝つはずです。

 ところがどっこい、イナダは、2社といい勝負をしています。トップをとることもあります。そして、ダントツの無借金経営。さらに、世界70カ国に輸出もしているのです。

 なぜ、こんな闘いができるのでしょうか。

 それは、仕事をマッサージチェアだけに絞っている、すなわち専業だからなのです。450人の社員の知恵と技術を、マッサージチェアに集中しているのです。

 パナソニックの場合、マッサージチェアは一部門にすぎません。フジ医療器はほかの製品もつくっています。いくら資本金が多くても、グループが大きくても、力が分散されているのです。

 70カ国に輸出していると書きました。日本の企業が輸出をするとき、おおくの場合は、現地とはドルでやりとり、つまり決済します。これを、ドル建てといいます。しかし、ファミリーイナダの場合は、円でやりとり、すなわち円建てで決済しています。円が安くなろうが高くなろうがビクともしない方法をとっています。もちろん、いまは円安ですから、海外では、イナダのマッサージチェアは安くなっていますので、現地の消費者の心をくすぐっています。

 マッサージチェアは、進化してきました。いまや、ハイテク、ITのかたまりです。熟練のマッサージ師を超える気持ち良さを実現しています。

 ファミリーイナダは毎年、10人ほどの新卒を採用しています。社長の稲田さんは言い切ります。

 「わたしどもの会社に入社したら、しあわせになると思います。ファミリーイナダで成功するのも良し、独立して成功するのも良し、よその会社に転職して成功するのもの良し、だと思っていますから」

 じっさい、新卒で入社してきた社員がしばらくして独立、会社をつくって成功しているケースがあるそうです。

 じつは稲田さん、会社をつくった20代のころはもうかってはいたのですが、「おれは経営の天才だ」と錯覚し放蕩(ほうとう)ざんまいでした。30歳になってすぐのころ、倒産の危機に。そのとき救ってくれたのが、社員さんたち。団結して金策にも協力し、みごと倒産を回避したのです。

 だから、稲田さんは思うのです、社員の幸福を追求しよう、と。

 別の会社から転職してきた営業企画課の新葉麻世(にっぱあさよ)さん(31)は言います。

 「ものづくりメーカーとしてどうあるべきなのか、自分自身はどうあるべきなのか、考えながら仕事ができています。やりがいをすごく感じています」

 全従業員の物心両面の幸福を追求し、世界の人々の笑顔を願い、心身の健康に貢献すること
                  --ファミリーイナダの経営理念より


 みなさん、よいお年を。来年もわたし、明治神宮にお参りに行ってきます。みなさんの就活成功、しあわせをお祈りしてきます。

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