中島隆の輝く中小企業を探して 略歴

2014年08月21日

HPだけではNG。ネットで検索、企業をチェック (第19回)

大企業への就職、大丈夫?リストラも…

 今回、すこし長くなります。ですが、原爆、敗戦という8月です。敗戦から69年、ときには、みなさん、戦後の日本経済について考えてみてはいかがでしょう。そのきっかけになれば、と思って、つづりました。最後までおつきあい願えれば、光栄です。

 アベノミクスという大企業に優しい政策のおかげで、大企業の採用意欲が復活しているそうです。みなさんの中には、大企業に入るチャンスだ、と考えている方がいるかもしれません。
 ですが、とにかく有名な大企業にはいろうと考えて就職活動をすすめてしまうと、ろくなことはありません。よーく考えたほうがいいです。

 若いうちはいいんです。有名企業に就職できたら、うれしいでしょう。でも、10年後、20年後、あなたはどうなっていますか。社内にライバルがたくさんいます。好不況の嵐のなかで閑職に追われたり、リストラされたりしてしまうかもしれません。大企業に入れば何とかなる、という時代では、もはやないのですよ。

 えーー、その大企業がリストラするかどうかわからないじゃん、という声がきこえてきます。
 リストラするかどうかは、簡単にチェックできます。ネットで検索してみればいいんです。まず、その会社のホームページで、基本データなどを集めましょう。でも、これだけでは何も分かりません。

 肝心なのは、ネットで、過去に大規模なリストラをしているかどうか、をチェックすることです。ホームページには、まず書いていないことを探るのです。ただし、あまりに感情的な記述は、そんな見方もあるんだ、ぐらいに理解しましょう。

 ネットの時代になり、過去は消せなくなってしまいました。嫌な世の中になってしまったものですが、だったら、大企業について調べるのに使いましょう。過去のニュースをチェックするのです。大規模リストラをしたことがある大企業は、これからも、何かあったら、リストラをするでしょう。
 また、大株主に外国の会社がずらりと並んでいるような会社は、業績が悪化すると、リストラをしがちです。日本の大企業の株式を買う外国の人たちは、たいてい、会社は株主のもの、と思っているのです。会社は利益を追いかけるものであり、会社は、従業員より株主のことを考えなくてはならない、と考えているのです。

 もちろん、そういう大企業に行くな、といっているわけではありません。覚悟をしたうえで、おおいに挑戦してみてください。
 さて、中小企業にも、たいていホームページがあります。わたしも、ときどきいろいろな会社のものを見ます。基本方針や経営理念などが書いてあります。

 そのなかでも、ふつうでは考えられないことを書いている会社があります。
 「日本コンピュータ開発」
 東京の品川区に本社、神奈川の海老名市に支店がある会社です。業務は、システム開発、業務用プログラム開発、ホームページの企画・制作、保守などで、従業員は130人ほど。新卒採用を、景気の動きに関係なく、毎年している会社です。

 ここまでなら、どーってことありません。ここからが違うのです。

「いつ倒産してもいい」当社の常識は、一般企業の非常識

 高らかに宣言しています。
 「当社の常識は、一般企業の非常識」
 ホームページ上で、さまざまな「一般企業の非常識」が説明されています。

 さて、ここで、この会社を20年以上にわたって育て、いまは相談役最高顧問になっている高瀬拓士さん(75)にご登場いただきます。この会社の基本方針を、考えに考え抜いて、つくりあげた方です。
 高瀬さんは、敗戦の6年まえ、大分の貧しい農村にうまれました。大学に行きたかったけれどおカネがなくて断念、日立製作所に就職し、コンピューター部門に勤務します。経営支援のため転属した中小企業時代に、ろくに英語がしゃべれないのに単身渡米して、会社をつくったこともあります。

(写真:相談役最高顧問の高瀬拓士さん)
 中島:高瀬さん。まず、あの基本方針について、説明していただけますか?

 「当社の常識は、一般企業の非常識』としましたが、もちろん、本音は、一般企業の常識がまちがっている、と思っています。わたしは貧しい時代にそだちました。でも、不孝ではありませんでした。いまの日本を見て下さい。こんなに豊かになったのに、なぜ国民はこんなに不孝なのでしょう。なにごとだ、と思うんです」

 「経済発展をひっぱってきたのは企業です。ということは、企業の行動がまちがっていたから、こんな日本になってしまったということですよね。日本の常識になってしまった『ものやカネを追いかけることで幸せになれる』、それが間違いだったのです」

 中島:高瀬さんたちの常識、の各論にはいります。まず、生き残る経営より、いつ倒産してもいい経営を目指している、そうですね。

 「生き残ろうなんてするから、悪いことをするんです。日本の経済社会には、お客をだます詐欺まがいの商法が、絶えません。取引先にめちゃくちゃなコストダウンを強いることなど、日常茶飯事です」

 「いつ倒産してもいい、と思ってみましょう。もちろん、倒産したら困ります。でも、倒産をまぬがれようとリストラされた人は、いまだって、困っているんです。だから、発想をかえるのです。社員を『社蓄』にせず、ひごろから自立できる人材に育てておこう、ということなのです」

 中島:社蓄、というのは、会社に飼いならされ、会社のためならなんでもする家畜のこと。だから社蓄です。

 「自立できる社員に育てることです。どの会社でも通用する人材なんだけど、この会社が好きだから、この会社ではたらいている。そういう状態にしておくことなんです」

 「社員を、こきつかって、こきつかって。そして、指示待ち人間にしといて、経営に困ったらリストラでクビにする。そんなばかなことがありますか。だから、自立した社員を育て、いつ倒産してもいい会社にしようと考えているのです」

 中島:では高瀬さん。自立した社員は、どうやって育てるのですか?

 「売上高を追いかけ、利益をだすことが、会社の目的である。それが、日本の常識ですよね。すると、社員は、その道具になってしまう売り上げ、利益は、目的ではなく結果。そう考えたら、社員は道具ではなくなります。社員は、社会にとって必要な社会人として育て、社会に役立つ仕事をしてもらう社員が育てば、結果として利益、売り上げがあがるのです」

 この会社では、中小零細企業のIT化を、全面的に支援しています。十分な資金や人材を得難い中小零細は、とりあえずパソコンは置いているけれど、その能力を活用しきれていない、なんてケースがざらです。だから、全面支援しているのです。社会に役立つ仕事をして、その結果として売り上げにつなげているのです。

 「だから、企業が社員を企業戦士にするなんて、ぜったいに間違っています。いい社会人が、いい仕事をしなければ、うそです。人間は環境で育つ、日常の行動が影響する。だから、会社は、最高の社会人教育機関にならなければなりません」

 毎年、かならず新卒採用をしています。
 「学生さんたちに、よくいうんです。うちに、誇れる技術ないよ、誇れる製品もないよって。でも、うちには誇れるものがある、それは信頼できるすばらしい社員だよって」

 そんな社員が100人以上も育ってきています。だから高瀬さんは、代表取締役を退いていたのです。

 おーーーっと、忘れるところでした。地方にいる学生のみなさんを、この会社は地方出身者を大歓迎しています。ただの歓迎ではありません。一人前になったら、故郷に帰って、故郷に住んで、故郷で働いて下さい。と奨励するのです。Uターンを奨励しているのです。

 高瀬さんが語ります。
 「今やインターネットの時代。東京や神奈川で視野をひろげ一人前のIT技術者に成長したら、日本中どこに居ても今まで通り働けます。社員のまま故郷に帰って、今まで通り仕事を続けるのです。同時に首都圏での経験を生かして、地域の中小企業を支援し、地域の中小零細企業を元気にしてほしいのです」

 長くなりました。最後に、高瀬さんから、就活するみなさんにメッセージをいただきましょう。

 「地方の学生のみなさん。若いうちは地方に引きこもらず、首都圏に出てこよう。先ず視野を広げ、最先端の技術、知識を仕入れて、ふたたび地方に戻り、若者の居る、地方の元気を取り戻し、地域の中小企業を元気にしましょう。そうすれば、親も安心し、自分も安心して働け、故郷は元気になります。そして将来、自分の子どもたちが、地域で就職できるかもしれない。地方の崩壊を止めるのは、きみたちだ」

 ネットサーフィンをすると、おもしろい中小企業にたどりつくことがあります。それが、あなたにとって「運命の出会い」になるかもしれません。
(全国の製造業でブームになっている「コマ大戦」で、いい成績をおさめています)
(社員のみなさんと。障がいがある社員にもやさしい会社づくりをすすめている)