マルチウィンでウィン、ウィン、ウィン
みなさんは、テレビドラマ「ルーズヴェルト・ゲーム」をごらんになっていたでしょうか?
不屈の闘志、あきらめない心。逆転につぐ逆転。わたしはそんなテーマのドラマが大好きなので、ずっと見ていました。
倒産の危機にいたものづくり会社が、どこにもまねできない動画を撮影できる部品を開発して大逆転、その部品を大手カメラメーカーが採用する、というのが最終回でした。
ドラマでは触れられませんでしたが、きっとその部品を搭載したカメラは、売れに売れたことでしょう。このとき、カメラメーカーはおおいに稼ぐことでしょう。英語でいえば、Win(ウィン)、勝利です。
カメラが売れるのですから、部品をつくったものづくり会社も、おおいに稼ぐことでしょう。こちらも、Winです。
これを、「Win―Winの関係」と呼ぶことがあります。これから社会人になるみなさんは、きっといろいろな場面で、この言葉を聞くことになると思います。
ウィンウィンなんかじゃあ、物足りない。目指すものは、マルチ・ウィンだ。
そんなマーケティングの会社が、東京にあります。場所は、2020年の東京五輪に向けて建て替えられる国立競技場のほど近く。会社の名は「インテグレート」。創業は2007年と若い会社です。社員はおよそ90人です。
マルチウィン、って意味がわからないかもしれません。そもそもマルチって何? と思うかもしれません。
野球が好きな人なら、マルチヒット、なら意味はわかりますよね。複数のヒット、ということです。司会も俳優もするお笑い芸人などを、マルチタレント、と言いますよね。いくつもの才能、という意味です。
マルチウィンとは、おおくの人が勝つ、稼ぐ、喜ぶ、という意味です。
つまり、企業も喜ぶ、社員も喜ぶ、株主も喜ぶ、地域も喜ぶ、消費者も喜ぶ。おおくの人が勝つ、ウィン、ウィン、ウィン、ウィン……。
このマーケティング会社をつくったのは、藤田康人さん。みなさんは、キシリトールガムをかんだことがあるでしょう。あの虫歯予防のキシリトールを日本ではやらせた人物です。
人事担当の取締役、鈴木正人さんに、マルチウィンについて聞いて見ましょう。
キシリトールのマルチウィンって、なんですか?
「厚労省が医療費削減で喜びます。おかあさんも、子どもの虫歯が減るので喜ぶ、子どもも、虫歯がなくなるので喜ぶ。ガムなどのメーカーさんも、ものが売れて喜ぶ。ガムの材料会社も、売れて喜ぶ……。だれも損しないんです」
そういえば、「美魔女」という言葉を広げるのにも一役かったそうですね。35歳以上の女性を対象にした「国民的美魔女コンテスト」の広報事務局を担ったとのこと。美魔女のマルチウィンってなんですか?
「女性たちが自信をもつ、希望をもつ。美魔女の女性を奥さんにもつ旦那さんが喜びます。本が売れる。ビジネスチャンスがあるので、化粧品や衣料品などのメーカーさんも喜びます。」
この会社、ただ商品を売ろうと考えているだけではありません。
魚鱗癬(ぎょりんせん)という病があります。魚のうろこ(鱗)のように皮膚の表面が硬くなり、はがれおちる病です。厚生労働省などにはたらきかけ、難病指定にさせるなど、社会的な活動もしています。
つまり、日本社会の課題を解決して元気にしよう、という、でっかい志をもっているマーケティング会社なのです。
マルチウィンをどうやって実現するかは、長くなりますので省きます。たんねんな情報収集、インタビュー、そして綿密な戦略立案をしている、とだけ記しておきます。
創業7年の若い会社ですが、新卒のみなさん大歓迎です。鈴木さんは言います。
「日本を、日本企業を元気にすることに役立ちたい、という方、ぜひ来てください。技術はいりません。失敗を恐れずにチャレンジする方、いっしょに仕事をしましょう」
鈴木さんは、技術はいらない、と言います。ホントかねえ、とわたしは疑いました。そのあとの説明を聞いて、納得しました。
「学生のみなさんが憧れているような広告代理店、PR会社、コンサルタント会社、事業会社。そこからの転職者が、たくさんいます。いっしょにはたらき始めれば、技術、ノウハウは身につきますよ」
この会社は、自由な社風の中にも、責任感あふれた人たちばかりがそろっています。規則でがんじがらめではないけれど、自分で自分を律し、自分の気持ちの中に、前へ進むアクセルがなくてはなりません。めまぐるしく変化する世の中についていく精神力、好奇心が必要なのでしょう。
だから、わたしのようなヤツは、インテグレートでは勤まりません。「いまのデジタル社会にはついていけない。あきらめた」という男ですから。
えっ、おっさんと一緒にするなですって。そうですね。失礼しました。