中島隆の輝く中小企業を探して 略歴

2014年02月12日

日本一をめざすコールセンター(第9回)

「人を思う気持ちを大切にしているアナタ、歓迎します」

 みなさんは、日本一の会社、というと、どんな会社を思い浮かべますか?
 おそらく、自動車業界を考えると、トヨタ自動車だね、と思うでしょう。小売業なら、イオンだね、と思うでしょうか。
 そんな大企業を思い浮かべることでしょう。
 でも、中小企業のなかにも、本気で日本一をめざしている会社があるんです。
 えー、そんなの無理に決まってるじゃないか、と言うかもしれませんね。
 売り上げ、従業員の数などで日本一になる……、なんてえのは、もちろん無理です。
 でも、たとえば技術なら、たとえばサービスなら、中小企業だって日本一になることができるんです。

 福岡市の博多駅といえば、新幹線、JRの在来線、地下鉄のターミナルです。この駅から、歩いて数分。とあるオフィスビルの中に、株式会社「ヒューマンライフ」があります。
 資本金1000万円、従業員は180人。1998年に、社長をしている中山英敬(ひでたか)さん(56)がつくった会社です。
 ここは、コールセンターの会社です。通信販売を利用するときに、電話をしますね。その電話の応対業務をする会社です。じっさいに商品を作っている会社から、その仕事を頼まれている会社です。

 中山さんがいいます。「うちは、日本一のコールセンターになったと思っています」
 何が日本一なのか、お分かりでしょう。それは、電話の応対のすばらしさで日本一、ということです。いつも元気で、明るくて、優しくて、思いやりがあって。もちろん、お役所などの公的機関が、「ここは日本一だ」などと認定しているわけではありません。でも、次のような話をきくと、すくなくとも、日本一をめざしていることは分かると思います。

 ある日、北海道から、1本の電話がかかってきました。ご高齢の女性からでした。青汁がほしいというのです。中山さんの会社の女性従業員と、こんな会話がされました。
 「ありがとうございます。お届けはいつがよろしいでしょうか?」
 「朝9時までに持ってきてほしいんです」
 「おばあちゃん、ごめんなさい。朝は時間指定ができないんです」
 宅配をする大手の業者と、時間指定は午後から、という取り決めがあるのだそうです。
 おばあちゃんは、しばらく沈黙しています。女性従業員は、これは何かあるな、と感じ取ります。
 「おばあちゃん、よければ事情を聞かせてくれませんか」
 「じつは、わたしは目が不自由なんです。いま、自分で電話をかけました。そして、毎日飲んでいる青汁なので、自分で受け取りたいんです。朝9時までなら、家のものもいるので、自分で受けとることができるんだけどねえ……」
 「おばあちゃん、いったん電話を切るわね。ちょっと待っててね」
 そして従業員は、宅配業者の責任者に電話をかけ、事情を説明します。
なんとかおばあちゃんに手渡ししたい。そんな思いが、伝わります。
責任者は、北海道の責任者に電話し、それが、北海道のドライバーたちに伝わります。「わたしが行きます」と、あるドライバーさん。
そして、数日後。
 あのおばあちゃんから、中山さんの会社に電話がかかってきました。
「自分で受け取ることができました。本当にありがとう」
 おばあちゃんのために、という従業員の思いが、「時間指定は午後から」という運送会社のマニュアルを突き破ったのです。

 中山さんの会社には、お礼の電話、ハガキ、手紙がたくさん来ます。お世話になったのでみなさんで、とお菓子などの贈り物も届きつづけています。
 中山さんの会社「ヒューマンライフ」は、毎年2人を目標に、新卒採用をしています。就職すれば、コールセンター業務や経理、総務などをこなす総合職として、はたらくことになります。
 「学生時代にえた知識、スキルはまったく問いません。人を思う気持ちを大切にしているアナタ、歓迎します」