群馬県のバネ会社社長のポリシー
この会社の社長さんが、ふたりの学生を面接するとするじゃろ。採用枠は、ひとり。
ふたりのうちひとりは、成績優秀で、入社したら即戦力まちがいなしの学生じゃった。
もうひとりは、おとなしくて、何社も会社を受け、そのたびに落とされてきた、とのことじゃ。おそらく、戦力にするには時間がかかるじゃろうなあ。
ふつうの会社の社長さんなら、優秀な学生を採用するじゃろうなあ。
でも、この会社の社長さんは、おとなしい学生さんを採用しなさるそうじゃ。
この社長さんは、こう考えるのじゃ。
「おとなしい学生さんは、うちでなければ採用されないかもしれない。そして、採用だよと告げたら、めちゃくちゃ喜んでくれるかもしれない。この子の笑顔を見たいなあ」
家庭の事情で中退に追い込まれた大学生、などを採用しなすったそうじゃ。
この社長さんは、社員の数は28人まで、と決めているそうじゃ。そのかわり、社員全員を、しあわせにすると思うておる。だから、よりしあわせを感じてくれる人を採用する、というわけじゃ。
この社長さんはな、社員をしょっちゅう表彰するそうじゃ。
会社の表彰といえば、成績優秀な営業マン、が相場じゃろ。ところが、この会社の表彰はちがうんじゃ。笑顔がよかった、ほかの社員のためにがんばった、とか、表彰の基準は、社長さんの気分次第じゃ。
ただし、金一封は出ないんよ。もらえるのは、たとえば「嫌いな取引先と縁を切る権利」じゃ。
「うちの会社がおまえのところを使ってやっているんだぞ」と偉そうにする取引先、接待を強要する取引先、ひどいコストダウンを要求する取引先。
そんな取引先を、社員は大嫌いじゃろ。表彰されれば、そんな嫌な取引先と縁を切る権利をもらえるんじゃ。
この会社では、どんなに大口の取引先だろうと、東証一部上場企業だろうと、縁を切ってきたそうじゃ。取引先も好きか嫌いかで決めているのじゃ。
つまり、この会社、すべてを好き嫌いで決める、というわけじゃな。
むかし話風に書いてみましたが、もちろん、むかし話ではありません。おとぎ話でもありません。群馬県にある「中里スプリング製作所」というバネ会社のことを書きました。すべては好き嫌いで決める、というのは社長の中里良一さんのポリシーです。