中島隆の輝く中小企業を探して 略歴

2014年02月18日

すべてを好き嫌いで決める会社 (第10回)

群馬県のバネ会社社長のポリシー

 むかーし、むかーし、あるところに、すべてを好き嫌いで決める、という会社があったそうじゃ。
 この会社の社長さんが、ふたりの学生を面接するとするじゃろ。採用枠は、ひとり。
 ふたりのうちひとりは、成績優秀で、入社したら即戦力まちがいなしの学生じゃった。
 もうひとりは、おとなしくて、何社も会社を受け、そのたびに落とされてきた、とのことじゃ。おそらく、戦力にするには時間がかかるじゃろうなあ。
 ふつうの会社の社長さんなら、優秀な学生を採用するじゃろうなあ。
 でも、この会社の社長さんは、おとなしい学生さんを採用しなさるそうじゃ。

 この社長さんは、こう考えるのじゃ。
 「おとなしい学生さんは、うちでなければ採用されないかもしれない。そして、採用だよと告げたら、めちゃくちゃ喜んでくれるかもしれない。この子の笑顔を見たいなあ」
 家庭の事情で中退に追い込まれた大学生、などを採用しなすったそうじゃ。
 この社長さんは、社員の数は28人まで、と決めているそうじゃ。そのかわり、社員全員を、しあわせにすると思うておる。だから、よりしあわせを感じてくれる人を採用する、というわけじゃ。

 この社長さんはな、社員をしょっちゅう表彰するそうじゃ。
 会社の表彰といえば、成績優秀な営業マン、が相場じゃろ。ところが、この会社の表彰はちがうんじゃ。笑顔がよかった、ほかの社員のためにがんばった、とか、表彰の基準は、社長さんの気分次第じゃ。
 ただし、金一封は出ないんよ。もらえるのは、たとえば「嫌いな取引先と縁を切る権利」じゃ。
 「うちの会社がおまえのところを使ってやっているんだぞ」と偉そうにする取引先、接待を強要する取引先、ひどいコストダウンを要求する取引先。
そんな取引先を、社員は大嫌いじゃろ。表彰されれば、そんな嫌な取引先と縁を切る権利をもらえるんじゃ。
 この会社では、どんなに大口の取引先だろうと、東証一部上場企業だろうと、縁を切ってきたそうじゃ。取引先も好きか嫌いかで決めているのじゃ。
 つまり、この会社、すべてを好き嫌いで決める、というわけじゃな。

 むかし話風に書いてみましたが、もちろん、むかし話ではありません。おとぎ話でもありません。群馬県にある「中里スプリング製作所」というバネ会社のことを書きました。すべては好き嫌いで決める、というのは社長の中里良一さんのポリシーです。
会社でつくったバネをもつ中里良一社長。
 「好きな部活、サークル活動をしてきたはずです。好きな友人、異性と楽しく過ごしてきたでしょ。なのに、なぜ、仕事では、きらいな取引先を我慢でするんですか」
 群馬の田舎にある町工場ですが、技術と納期の速さなどで高く評価され、取引先は47都道府県に及んでいます。
 いま、社員は20人ほど。社員の限度を28人と決めているのは、大好きな清水の次郎長を見習ってのこと。次郎長とかわいい子分たちは、あわせて28人衆だからです。鉄人28号も大好き。つまり、28という数字も好きなんですね、中里さんは。