中島隆の輝く中小企業を探して 略歴

2014年01月10日

「頼まれたら一品でもつくる」ものづくり会社のプライド (第6回)

地域の人たち、取引先に助けられ

 前回のコラムで「公約」しましたとおり、正月2日、東京の明治神宮にいって、みなさんの就活がうまくいきますようにと、お願いして参りました。

 さて、中小の製造業にはどんな会社があるのか分からない、と思っている方がいるかもしれません。ひとつの探し方があります。それは、新聞やテレビなどで話題になった町工場について、ネットなどで調べるのです。
 昨年、東京の町工場が力をあわせてつくった無人の潜水艇「江戸っ子1号」が、8千㍍の深海に到達し、海底の様子を撮影した、とマスコミで話題になりました。
 そのプロジェクトに参加した町工場に、「浜野製作所」という会社があります。東京スカイツリーのおひざもと、墨田区にあります。社員30人ほどで、社長は2代目の浜野慶一さん。


(社長の浜野慶一さん。浜野製作所の屋上から、東京スカイツリーがみえる。「大学生のみなさん、歓迎します」)
 この町工場、すごいんです。江戸っ子1号の開発だけではありません。電気自動車もつくっちゃいました。すばらしい技術力があるからこそ、です。
さらに、頼まれたら一品でもつくっちゃうんです。
 あるとき、30代後半とおぼしき男性から、電話がかかってきました。ベッドの手すりの部分を1週間以内に改造してくれませんか、というお願いでした。
 この男性には、目に入れても痛くない、おさない娘さんがいました。ところが、事故にあって下半身に障害が残ってしまい、車いす生活を余儀なくされます。
 男性は言います。
 「一週間後に娘の6歳の誕生日がきます。いままで、プレゼントといえば、ぬいぐるみや人形など、娘のほしがったものでした」
 「わたしは、娘の歩く姿をもう一度見てみたい、娘といっしょに散歩をしたい。だから、こんどの誕生日に、わたしの思いを伝え、いっしょにリハビリをしていきたいのです」

 ベッドに寝ていた娘さんが自分で起き上がったり座ったりするには、ベッドの手すりに手を置く必要があります。でも、おさない子どもには、手すりの部分が高すぎ、しかもまっすぐに作られているので、思うようにリハビリができなかった、というのです。
 手すりを改造したくて、業者をさがしまわったのですが、どこも引き受けてくれませんでした。そして、一週間後に誕生日が来てしまう、という事態を迎えてしまったのです。
 頼まれたら一品でもつくる。ものづくり会社のプライドです。社長の浜野さん、社員のみなさんは、手すりの部分を低くし、さらにうねうねと曲線にして、誕生日に間に合わせました。
 浜野製作所は、製作・納品も、ばつぐんに速いんです。

 数日後、あの男性から連絡がきました。
 「誕生日の日、わたしの思いを娘に伝え、ことしのプレゼントはこれだよ、と言いました。『こんなの嫌だ、お人形さんがいい』と娘に言われるのでは、と不安でした」
 「すると、娘が大きな瞳に涙をいっぱい浮かべて、パパありがとう、パパありがとう、パパありがとう、と3回。そして、抱きついてきました。浜野製作所のみなさま、本当にありがとうございました」

 一品からでもつくるというのは、本来、効率がよくありません。でも、浜野さんの会社では、こだわりつづけています。
 この会社は2000年、おとなりから出火した火事をもらってしまって全焼し、ゼロからのスタートを切っています。社長の浜野さんは、地域の人たち、取引先に、助けてもらってきました。だから、心の琴線にふれた頼まれごとは、二つ返事で引き受けてしまうのです。

 浜野製作所では、大学生のインターンも受けいれてきました。もちろん、浜野さんは、新卒者の採用に意欲満々。興味がある人は、ホームページをのぞくなり、浜野さんのブログなりを読むなり、してみてください。