私が私が、という個人主義的な人はうちにはいりません
社長は言いきります。
「社員のみなさんのことは、一生めんどうみるつもりで経営しています。家族なのですから、当然です」
お菓子、料理の質に自信をもっているからこその言葉です。ただし、社員にはあることをする義務を課せられています。それは――。
典型的な家族、を想像してみてください。親は、子どもたちを優しく見守りますね。ただし、子どもたちに期待することがあります。それは「成長」です。
だから、この会社は、社員たちに「成長」を義務づけています。社員たちは「成長手帳」というのを持っています。自分で目標を決めて、自分自身と闘うことを義務づけるのです。
その目標は、人間としての成長です。
たとえば、こんな成長が期待されています。
コミュニケーションが下手だったのに、人まえで話せるようになった!
苦手な人がいたんだけど、その人とつきあえるようになった!
逆境に弱かったけれど、今回は立ち向かえた!
さらに、社員たちは出勤日に毎日、レポートをネットで会社に提出します。はたらいていて何があったのか、自分はどう対応して、何を学んで、どんな課題が残ったのか、などを書いて提出するのです。大家族の「父親」である社長は、毎日、「子どもたち」のレポートをすべてチェックします。
社長は、社員たちひとりひとりが抱えている課題を知っています。成長ぶりも知っています。レポートの行間も読めるようになったのだそうです。「元気がないな」「悩んでいるな」「うまくいってるな」などと。そして、ちょっとしたときに、それぞれの社員に声をかけるようにしています。
社長がわたしを見てくれているんだ、と思うと、社員はうれしくなるものです。大企業では、ぜったいにありえない気持ちを味わえます。
さらにさらに、毎年一回、全社員を対象にした「成長コンテスト」を行います。コンテストのグランプリ受賞者には、けっこうな額の賞金がでます。ふだんは目立たない縁の下の力持ちみたいな社員が、グランプリになることが多いとか。
賞金の額を聞いて、わたしはびっくりしました。いくらなのかですって? ここでは、伏せておきます。成長するのはお金のためではありません、しあわせになるためなのですから。
入社3年目の西岡瞳さんは、昨年、グランプリは逃したものの、上位に入りました。
「わたしはあるデパートの店で副店長をしていました。それまでは、何か課題があると、すべて自分ひとりで解決しようとしていました。でも、それは間違っていました。店のスタッフにお願いし、相談することが大切だったんです」
彼女はいま、広報秘書室に異動してがんばっています。
この会社は、毎年、10~20人を採用しています。ほしい人材は、まじめに努力してくれる人、チャレンジしてくれる人、そしてみんなのために努力を惜しまない人。だとか。
社長は言います。「社員どうしが信じ合って、助け合って、難局を乗り越える。苦しみは分かち合う。楽しさ、喜びは共有する。うちは、そういう会社です」
「俺が俺が、私が私が、という個人主義的な人は、うちにはいりません。よその会社で、能力を発揮してください」