中島隆の輝く中小企業を探して 略歴

2013年12月13日

創業70年の町工場が始めた「数楽アート」(第2回)

「町工場は待ち工場であってはならない」

 みなさんは、中小のものづくり会社に、どんなイメージをもっているでしょうか。
 大きな会社向けに部品だとか機械だとかをつくっている、いわゆる下請け仕事ってやつをしているんだろ、というイメージがあるでしょう。
 下請け仕事というのも、かなり奥が深く、どこにもできない仕事をしている会社もたくさんあります、そのことについては、別の回にふれるとして……。

 さて、羽田空港がある東京の大田区は、町工場が集まっている土地です。その数、およそ4千。その区の大森という地に、「大橋製作所」という創業70年ほどの会社があります。資本金9千600万円、従業員は100人ほどです。
 世界的なメーカー向けに産業用の機械をつくったり、部品をつくったり。ここまでなら、日本が誇る優秀な中小メーカー、という位置づけということになります。
 これで終わっちゃあ、はじめたばかりのコラムがすたるっちゅうもんです。
z=axyの数楽アート  この会社で3年ほどまえに作り始めたのが、置物です。一般の消費者向けにつくっている置物です。ただの置物ではありません。数学とのコラボレーションなのです。名付けて、「数楽アート」。
 わたしのような文系人間にとって、理解できる関数といえば、y=x、という世界がぎりぎりです。
 z=axy、z=-a(x+y)。
 ここまでになると、わたしの頭では、ちんぷんかんぷん。立体になるんだろうな、ぐらいは理解できますが……。それぞれ、馬の鞍の形、つくしの頭のような放物線を描く形になるそうです。これが美しい。光にあてると、キラッと輝きます。大きさは20cm四方ほど。お値段は1万円台から。

 社長の大橋正義さんは、かねてから「町工場は待ち工場であってはならない」という問題意識の人でした。彼は、ある大学の数学の先生に用があって、研究室にいきます。そこに飾ってあったのが、紙でつくった例の関数の立体でした。その先生と話しているうちに、数楽アートをつくることにしたのです。
 待っているのではなく、大学に行く、という行動から、このアートは生まれたのでした。
 大橋製作所には、世界のメーカーに認められている技術があります。関数の世界を忠実に表現するのは、わけもないことでした。中小の製造業だって、消費者に向けて、いい商品をつくっているんです。

 大橋さんの会社では、ここ10年、おおいときには8人を採用してきました。大学院修了、大卒、高卒と、まんべんなく。
 入社してほしい人材について、大橋さんは、こう語ります。
 「未知の問題に直面したとき、できないと言うまえに可能性を追求する人。また、困難や失敗があっても、その体験を蓄積して手応えや喜びを感じて生きている人。さらに、……」
 ほかにも、いろいろ挙げているのですが、長くなってしまいますので、残念ながら割愛します。

 さて、数楽アートは、その美しさと珍しさで、いろいろなテレビ番組のセットとして使われてきました。
 そうそう、放送中のドラマ「相棒 シーズン12」のセットにも使われたことがあるそうですよ。
 どこに使われたんでしょうか。気になりますねえ。気になるのは、ぼくの悪い癖。
 見過ごしてしまいました、僕としたことが。
(相棒を見ている人なら、この言い回し、聞き覚えがあると思いますがねえ……。お粗末でした)