中島隆の輝く中小企業を探して 略歴

2016年03月02日

社長の善し悪しは「失敗談を語れるか」だ! LEDレンタル会社の「社長失格」エピソード(第34回)

 会社の合同説明会やセミナーなどで中小企業の話を聞きにいくと、大企業ではめったにない経験ができる場合があります。セミナーに社長が来ることが多く、直接、話を聞くチャンスがあることです。

 大企業ではほとんどの場合、何年かに一度、社長が代わります。なので、社長がどんな人物かを知ったところで、就職活動には関係ありません。
 さらに、大企業に就職した場合、入社して社長と話ができるなんて、若いうちは入社式ぐらいです。新入社員と社長の距離は、とーーーーーーーおいのです。

 ところが、中小企業は、ちがいます。
 多くの場合、社長は何十年と代わりません。そもそも、会社をつくったのが社長その人、かもしれません。さらに、入社したら社長としょっちゅう顔を合わせることになります。
ということは、社長がどんな人物か、それは新入社員にとってきわめて重要なことなのです。新入社員と社長の距離は、ちかい、きわめて近いのです。
 就職先として中小企業をえらぶときは、社長の人間力を見定めてからにしましょう。
 学生であるみなさんには、社長という人間を見極める権利があるのです。

 社長の人間力を見極めるポイント、それは、自身の大失敗、挫折について惜しみなく話をする度量があるかないか、です。これは、何人もの中小企業経営者に、じっくり話を聞いてきた私が出した結論です。
 東京は池袋に、「コーウェル」という会社があります。日本中の照明をLEDにすることで、地球にやさしい社会づくりを目指している会社です。
 みなさん、LEDって知ってますね? さすがです。
 電気代が安くすみ、寿命も長いLED。あえて欠点をいうのなら、ふつうの白熱電球より高価だ、ということでしょうか。

 たとえば、明るく照らされる商店街、そこにある照明を、白熱電球からLEDに変えるとすると、たくさんのLEDが必要になります。お金がかかりますので、導入に尻込みするかもしれません。
 そこで、この会社は、LEDのレンタル、という手法をあみだしました。これなら、かなり安上がりですむ、というわけです。

 現在、コーウェルのレンタルをつかっている店は2万店舗をこえています。提携会社とあわせると4万店舗ちかくにのぼっています。
 この会社は2009年に設立され、社員は100人です。起業したのは現社長の宮本健治さん(46)です。
 宮本さん(写真)は、明るく、潔い人です。マラソン好きのスポーツマンでもあります。
 宮本さんは、胸をはっていうのです。
 「わたしは会社経営に失敗し、破産したことがあります。社長失格、の男なんです」
 工業高校を卒業し、コピー機などをつくる「リコー」に入社、営業マンとして頭角をあらわしました。3年でやめて父親が経営する貿易会社に入り、LED事業をはじめます。そして30歳のときに親子は衝突、宮本さんは会社をやめ、LEDをつかった看板の会社をはじめます。全国にたくさんの店舗を展開している量販店チェーンにLED看板をおさめ、大成功しました。

 2008年秋、リーマン・ショックがおこります。そして、会社は倒産、自分は破産しました。ですが、宮本さんは、LED事業を貫いていきます。
 東日本大震災によって原発の運転がとまり、電力不足だという理由で、街から明かりが消えていきました。
 宮本さんは思うのです。
 〈原発を再稼働したほうがいいのかどうか、ぼくには分からない。ただ言えることがある〉
〈照明をLEDに変えれば、原発がなくても快適に暮らせるんだ!〉

 そして、いまがあります。宮本さんはいいます。
 「わたしは、一度、会社を倒産させ、破産もしました。おおくの方が助けてくれたから、いまがあります。わたしは、LED事業で社会に恩返しをしているつもりです。そして、うちの社員たちの人間力を育むことで、社会への恩返しをしているつもりです」
(コーウェル社員のみなさん)

 社員の人間力を育む方法のひとつとして、営業の部署にチーム制を導入しています。成功談、失敗談をチームで共有し、なぜうまくいったのか、なぜうまくいかなかったのか、をみんなで考え、次へと生かしていくのです。
 レンタルという事業は、簡単ではありません。
 どうか使って下さい、と土下座して頼み込み、無理やり使ってもらったところで、翌月に解約されるのが関の山だからです。事業の信頼だけでなく、社員を心から信頼してもらう必要があるわけです。

 新卒採用は、毎年20人ほど。営業部の豊田匠(たくみ)さんは、昨年春、大学を卒業して入社しました。
 就職活動をすすめていくうちに、コーウェルの企業紹介動画を見る機会に恵まれました。そのタイトルがなんと「社長失格」。宮本さんは、倒産経験などを、学生たちにオープンにしていたのです。
 豊田さん(写真右)はいいます。
 「社長の覚悟を知りました。そして、会社への親近感、安心感を覚えました」
 いまは、営業マンとして東京中をかけめぐる日々です。
 「お客さまには経営者の方々が多いのですが、営業マンとして足りないところを指摘されるし、良かったところはほめてもくださる。日々、人間として成長している自分を感じています」
 「わたしにとって、社長はお父さんみたいな存在です。リーダーシップはあるし、口だけではなく自ら先頭に立って行動で示してくれます」

 宮本さんの倒産から復活への物語をはじめると、ものすごく長くなってしまいますので、ここでは省きます。
 ちかく、わたしが朝日新聞デジタルで連載しているコラム「魂の中小企業」で描く予定です。興味のある方は、お読みいただければと思います。宣伝してしまいました、すいません。
 最後に、みなさんが中小企業の社長の人間力を見定めるときに使える手頃な手段を、お教えしましょう。それは、インターネットです。自分でキーワードを考えて検索してみると、いろいろな社長のインタビューにたどりつきます。おおいに読んで参考にしましょう。
 そして、社長を見定めましょう。それは、あなたの権利なのです。

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