中島隆の輝く中小企業を探して 略歴

2015年10月21日

ブルンジ支援に女子ラグビーサポート、LGBTも大歓迎! 多様性で戦う不動産会社(第32回)

 東京の霞が関にあるオフィスビルの3階に、「オンズグループ」という会社があります。マンションや一戸建て住宅の企画、開発、販売、管理などをしています。
 オンズは、フランス語で「11」の意味。いまから12年まえ、新井健太郎社長(45)ら11人が起業したので、この名をつけたとか。

 ただの不動産会社ではありません。
 マンションを買って住んでいるうちに、仕事の都合で転勤することになるかもしれません。そこでスムーズに賃貸できるように、と会社をつくりました。
 マンションを買った人も、いずれは年をとります。そのとき、介護のいらない身体でいられたらどんなにいいでしょう。それには、体力をはぐくむリハビリ施設が必要ですね。また、マンションに住むお年寄りたちと子どもたちが交流できたら、どんなにいいでしょう。そう考えて保育園や託児所、介護施設の運営などをする会社もつくりました。

(社長の新井健太郎さん。いつも笑顔の人です。「オンズコンファイアンス」は、グループにあるマンション企画の会社です)

 ここで終わったら、みなさんはなぜこの会社を取り上げたの?と思うでしょう。
 じつはこの会社、社会貢献に全力投球をしているんです。それも、目立ちたいから、会社のイメージを上げたいから、とかいうのではありません。心の底から、社会への感謝を表したい、というのです。

 みなさんは、ブルンジという国を知っていますか? アフリカの内陸部にある、世界の最貧国のひとつです。はげしい内戦で、子どもたちも武器をもって闘っていた国です。
 そんな子どもたちの心をいやしたい。勉強をさせたい。職業訓練をさせたい。そして、それぞれの未来をつかませてあげたい。オンズグループは、日本のNPOと組み、昨年夏、ブルンジに「オンズ自立支援センター」をつくりました。

(ブルンジにできた「オンズ自立支援センター」のまえで、子どもたちと=オンズグループ提供)

 内戦の激しかった国といえば、ルワンダが知られています。映画にもなりました。でも,ブルンジもたいへんだと聞き、新井社長は考えたのです。

「世界からあまり目を向けられていないブルンジで活動をする、それが本当の社会への感謝じゃないか」

 社会人の女子ラグビーチーム「東京フェニックス・ラグビークラブ」の支援も始めました。社会からのイメージアップ、広告効果をかんがえたらプロチームを支援した方がいいかもしれません。でも、アマチュアスポーツを支援することこそが、社会への感謝じゃないか、と考えたのです。

 東日本大震災の被災地支援もしています。お中元やお歳暮は、宮城・石巻のたらこ工場から「復興石巻たらこ」を直接、お届け先に送っています。営業の社員の左胸には、東北支援のピンバッジがつけられています。震災を風化させたくない、わたしたちは忘れません、お客さまも忘れないで下さい! という思いです。
 ほかにもあるのですが、このへんにしておきます。

(活動を支援している社会人女子ラグビーチーム「東京フェニックス」のみなさん。日本代表もいて、つえーっす=オンズグループ提供)

 でも、この会社がなぜ、社会への感謝を強調しているのでしょうか。それは、起業したメンバー11人のひとり、新井社長の思いがあります。

 千葉県の柏市に育ちます。野球や陸上、バドミントン、いろいろかじりました。高校を卒業してから1年間はバイトの日々。21歳でインテリアの会社に入り、不動産会社などに転職します。1997年にいまの会社の前身である会社をたちあげ独立。そして2003年、同僚たち10人を誘って、いまの会社をつくったのです。
 最初はマンション販売だけを手がけていました。社長になった新井さんはこう思っていました。
 〈11人ではじめたはいいけれど、10人の社員たちを食べさせてあげられる力が、ボクにあるのだろうか〉
 幸い会社づとめをしていたころのつてがあり、マンションの仕入れなどに便宜をはかってくれました。お客さんにも恵まれ、会社はうまく回りました。
 ここで新井さんは思ったのです。
 〈ボクたちは1年間、食べることができた。これは、応援してくれたすべての人たちのおかげだ。社会のおかげだ〉

 いくつかの会社をつくり、グループと名乗るにふさわしくなってきました。そしてまた、新井さんは思いました。
 〈うちの会社が形を変えて生き残ってこれたのは、社会のおかげだ〉
 社会への恩返しをはじめたのは、そんな新井さんの思いが重なった結果、というわけです。

(オフィスにあるジュースの自動販売機。一本につき約10円がカンボジアの子どもたちに寄付されます)

 そんなオンズグループですが、社員たちみんなの理解をもとに、ことし、こんな宣言をしました。
 「LGBT歓迎企業になります!」
 レズビアンのL、ゲイのG、バイセクシャル(両性愛者)のB、トランスジェンダー(心と体の性の不一致)のT。それら頭文字をあわせたのがLGBTです。

 この会社では、7年ほどまえ、見た目は男性だが戸籍上は女性、である中山貴将さんという人を雇っていました。残念ながら、中山さんは性適合手術を受けたのち、体調不良で退職してしまいました。
 新井社長は、中山さんを評価していました。昼の仕事をこなすのに、男も女も関係ないじゃないか、と思っていたのです。

 おそらく、このコラムを読んでいる若いみなさんには、LGBTへの抵抗感はあまりない、と推測します。アメリカの企業社会では、LGBTの人が堂々とカミングアウトして大活躍しています。でも、日本の社会では残念ながら抵抗感が強い、とくに年配になればなるほど強いのが実情です。

 そんな世の中を変えるきっかけの一つになるのも社会への恩返しじゃないか。新井社長はそう思ったのでした。この7月、NPO法人「性同一性障害支援機構」の理事長になっている中山さんらに講演してもらい、社員たちと「LGBT歓迎」を確認しあったのです。

 「取引先、お客さま、LGBTでしたら、堂々と言ってくださってかまいません。まったく問題ありません、むしろ歓迎です」

 そして、採用です。新井社長はいいます。
 「LGBTの学生さん、うちは大歓迎です。いっしょに楽しく働きませんか?」
 この方針の背景には、じつは経営戦略があります。企業は、いろいろな人材、多様性があればあるほど、強くなります。いろいろな発想が生まれ、そして、ピンチに立ったときにも打たれ強くなるものです。

 同じよう家庭環境、学校をでた人材をあつめたところで、その企業は、どこを切っても同じ「金太郎飴」です。そこから新しい発想は、生まれてきません。ピンチに立ったとき、打たれ弱い。それは、日本の有名大企業の苦境をみたら、わかると思います。
 もちろんこの会社、新卒募集はLGBT限定というわけではありません。採用は毎年10人ほど。性格重視、人柄重視、だそうです。
 みなさん、日本の企業社会を寛容でやさしい世界に変えていきませんか?

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