中島隆の輝く中小企業を探して 略歴

2015年08月05日

社員70人でグループ会社4つ! 歯車にならない会社(第31回)

 8月になりました。暑い日々ですが、就職活動、負けないでくださいね。
 さて、このコラムをつづってきたなかで、わたしが強調してきたことがあります。
 それは、中小企業に入社したら、あなたはすぐに戦力として活躍できる、いや、活躍しなくてはならないということです。

 社員が何千人、何万人もいる大企業ですと、間違いなく、しばらくは、もしかしたらかなりの間、もしかしたらずーーーっと、組織の歯車にならなくてはなりません。おそらくあなたがいなくても、組織は回ります。
 ごくごく細かい分野の仕事を、いくつか、すこしずつ、人事異動をともなってこなしていくことになるでしょう。
 アイデアが浮かんだとしても、なかなか採用されません。だって、社長、副社長、専務、常務、取締役、部長、課長、係長……。上司がたくさんいるのですから。

 ところが、中小企業は違います。社員の数がすくないのですから、あなたは歯車ではありません。いいえ歯車であることは許されないのです。
 ひとりでいくつもの仕事をこなさなくてはならないでしょう。たいへんかもしれませんが、知識をたくわえることができます。経験も積むことができます。そして、社会人として、会社員としての実力もつくでしょう。
 アイデアが浮かんだら、採用される可能性が、かなりあります。だって、たくさん上司がいるわけではないのですから。

 だから、あなたが有名大企業を志望していたけれどダメだったとしても、なーーんてことありません。組織の歯車になることなんか、こっちから願い下げだね、と思えばいいんです。
 中小企業を志望しているあなた、または結果として中小企業に入社することになったあなた、おめでとうございます。あなたは積極果敢な社会人になる道を歩むのです。もしかしたら、あなたのちょっとしたアイデアが、世の中を動かすかもしれませんよ。

 京都府の長岡京市に「日本グリーンパックス」という会社があります。会社設立は1969年、東京、神奈川、静岡に営業所があります。官公庁とともにゴミの減量化にとりくんだり、企業や一般家庭に、さまざまな省エネの仕組みを提案したりしています。人と環境にやさしい入浴剤や家庭用洗剤なども開発し、売っています。地球環境のために、をキーワードにさまざまな事業をする商社といっていいでしょう。

 社員は、グループ会社もふくめて70人ほどです。わざわざ「グループ会社もふくめて」とかきましたが、ここに意味があります。
エコビジネス、太陽光ビジネスなどのグループ会社が4つもあるのです。この会社の規模のわりには、グループ会社が多すぎる感じがします。ところが、ここが、この会社の味のあるところなのです。

 社長の山中利一さん(57)は言います。
「社員が『こんな新事業をしたい』と提案してきて、なるほどと思わせてくれたなら、独立させているんです」
山中さんは、社員にあたらしいことを生み出す人間になってもらいたい、のだそうです。「はたらく理由、それは、経済的なやりがいと精神的なやりがいを求めて、ということでしょう。経済的なやりがいは給与ですね。でも、カネだけじゃあないんです」
「カネがもらえるからと、奴隷のようになって働きますか? 精神的なやりがいがなければ、苦しいだけです」
 「だから、会社という道具をつかって、精神的なやりがいも手に入れてほしい。それには、自分がしたいことを見つけて、グループ会社をつくらせるのが一番だと思うのです。資本金は、もちろん会社が出します」
 (社長の山中さん。「『分かった、やってみろ』と簡単にゴーサインをだしてしまいます。OKだしてから悩む、それも社長の仕事です」)
 わざわざグループ会社をつくらずに会社の中の一事業として運用したほうが効率がいい、そんな場合もあるそうです。
 「でも、事業には多様性が必要だと思うんですよね。多様性がなければ生物は死滅してしまう。それと同じです」
 ものづくりの町、東大阪市の町工場に、山中さんは生まれました。大学を卒業後、有名な大手商社に入社します。ある日、その会社の人事の人から「遊びに来ないか」といわれたので、普段着で顔をだすと、まわりはみんな、スーツの学生たち、就職の面接だとはしらずに行ったのです。そして、面接では、志望動機などを聞かれていきます。山中さんは、なぜここに来たのと聞かれたので、正直に答えました。「きのう電話をもらったからです」。志望動機なんかないので、はちゃめちゃな面接になったそうです。そこがかえって良かったのでしょう。

 ヨーロッパに長期出張して営業の仕事をするのですが、売り上げ目標を達成したのに会社から「もっとヨーロッパを回れ」という命令をうけ、「もう帰る、やめたるわこんな会社」と切れて帰国したそうです。クビかなあ、最低でも左遷やろな。そう思って会社に顔をだします。ところが、上司たちは意外に優しく、山中さんのことを認めてくれた部署もありました。
 山中さんは思います。「言いたいことは言えばいい、ということではない。きちんと仕事をしなくては、きっと引き留めてくれなかったはずだ」

 その商社を38歳でやめ、家業の町工場をつぎ、仕事のつながりがあった日本グリーンパックスに請われて入社、2002年に社長になりました。
山中さんは言います。
「わたしは好き勝手なことをしてきました。だから、うちの社員たちにも会社をつくって自立させたい。社会を変えるような新しい事業を創出できる人間にしたいんです。ただし、業績がわるくて債務超過がつづくようなら廃業だぞ、と言っていますけれどね、ははは」
 (会社の中には、グループ会社の表札も。この会社は、太陽光ビジネスを手がけます)
 京都の大学を卒業し、2年まえに入社した井上貴志さん(25)。自治体のゴミ袋事業をふりだしに、公園のベンチなどにつかわれる廃プラスチックをつかったエコ建材「擬木(ぎぼく)」の事業などを担当してきました。
 「はじめから上司に相談するのはNG。まずは、すべて自分で考えさせられます。20代は力をつける時期だと思っています。会社をつくっていいということは、ひとりひとりが社長候補ということです。この会社ではたらくだいご味です」
 (井上さん。もっているのは、手がけている廃プラをつかった「擬木」。「私は人とのコミュニケーションが苦手でした。でも、今は大丈夫です。いやあ、鍛えられました」)
最後に、社長の山中さんから、みなさんへのメッセージです。
「ネット社会になって、いろいろな情報を仕入れていますね。でも、仕入れる情報が多すぎるからかもしれませんが、自分の力を見切っている方がいます。日本の将来を見切っている方がいます。もっと自分を信じましょう、社会を信じましょう。何も考えず、どーーんと行ってみましょう!」

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