「産業のコメ」半導体は経済と軍事両面で重要に
これから就活をして社会に出て行くうえで、ぜひ知ってほしいキーワードが「半導体」です。半導体はパソコンやスマホなどの電子機器にたくさん使われ、「産業のコメ」とも呼ばれています。デジタル化が加速する中、次世代の競争力を決める技術の中核でもある半導体は経済と軍事の両面で重要度が増し、アメリカや中国といった世界の大国が主導権争いを繰り広げています。半導体は、いまや世界を動かす重要な存在なのです。海外勢に押されて振るわなかった日本の半導体業界も生産体制の強化をすすめ、活発な採用活動を行っています。
これまで就活ニュースペーパーでも何度も半導体についてとりあげ、今年9月には人手不足のニュースも「業界研究ニュース」で紹介しています。半導体にかかわる業界はメーカー以外にも幅広く、半導体をめぐる動きは経済や国際情勢にも大きく影響します。改めて半導体の「基本のき」を知り、最新の情報にアンテナを張っておきましょう。下記の過去記事もこれを機にぜひチェックしてみてください。(編集部・福井洋平)
●「半導体ウォーズ」何が起きてる? 基礎から学ぼう【2021年11月12日の時事まとめ】はこちら
●活況を呈する半導体業界、採用増だが人手不足は深刻【2023年9月7日の業界研究ニュース】はこちら
半導体の基本をおさらい
過去の就活ニュースペーパーでも何度か解説していますが、改めて「半導体」とは何かについて簡単におさらいします。
・半導体とは、電流を通す鉄、銅など「導体」と、電流を通さないゴム、ガラスなど「絶縁体」の中間の性質がある物質のことです。温度が低いときは絶縁体のように電流を通しませんが、温度が高くなると導体のように電流を通します。代表的な半導体物質であるシリコンを用いて、コンピューターなど電子機器の心臓部を担う集積回路(IC)がつくられていて、一般的にはICなど半導体を使った部品を広い意味で「半導体」と呼んでいます。
・日本は1980年代に半導体で世界トップのシェアを握りましたがいまは凋落し、韓国やアメリカのメーカーが世界トップを争っています。ただ、日本企業が強い分野もあります。たとえば日立製作所、三菱電機、NECの半導体部門が統合してできたルネサスエレクトロニクスは車載用マイコンに強みをもっています。また、半導体製造装置では東京エレクトロンやアドバンテストが世界の上位に入り、半導体の基板になるシリコンウェハーは信越化学工業が世界トップシェアです。
・半導体の開発競争は厳しく、最先端の工場をつくるためには巨額の設備投資が必要です。そのため、開発や設計など各企業が得意分野に特化する「水平分業」が世界的に進みました。アメリカは1990年には世界の製造シェアの37%を握っていましたが、水平分業が進んで製造分野は台湾や韓国に移転が進み、2020年にはアメリカの製造シェアは約10%まで落ち込みました。現在は台湾が半導体製造のシェアの5割以上を占めており、特に最先端の半導体は9割 以上を占めています。
(写真・シリコン製の半導体ウェハー)
自分の国で半導体を製造する
いま、世界はアメリカと中国の対立、ロシアのウクライナ侵攻やイスラエル情勢の緊迫化など、不安定要素に満ちています。対立が激しくなり、半導体の輸入ができなくなれば、国の存亡にすらかかわってきてしまいます。そのため、アメリカや中国をはじめ世界では政府が補助金を出し、自分の国で半導体を製造できるようにする動きが活発になっています。アメリカでは半導体産業に527億ドル(約7.9兆円)を巨額の補助金などの形で投入することを決め、半導体の世界大手が工場の建設ラッシュにわいています。日本でも、経済産業省は2030年までに半導体関連産業の国内売上高を今の3倍となる15兆円に引き上げる目標を発表。世界的 半導体メーカーの台湾積体電路製造(TSMC)の熊本工場建設に最大4760億円、国内大手キオクシアの四日市工場に最大929億円、米半導体大手マイクロン・テクノロジーの子会社の広島工場に最大1920億円を補助することを決めています。
半導体めぐり争うアメリカと中国
半導体業界は世界の情勢と密接に関連し、日本経済もその動きに大きく影響されます。いちばん大きく影響を受けるのは米中関係でしょう。アメリカではトランプ前大統領が激しい中国批判を繰り広げていましたが、そのトランプ氏を破った現大統領のバイデン氏もトランプ政権期からの対応を変えていません。2022年10月には先端半導体やその製造装置の中国への輸出を原則禁止し、さらに厳格化する方向です。今年1月の日米首脳会談でバイデン氏は岸田首相に、日本が強い半導体製造装置の輸出を制限するため、規制に足並みをそろえるよう求めています。半導体製造装置の最大の輸出先は中国で、すでにアメリカの出方を見越して対応を進めているといいますが、今後の影響については未知数です。
一方の中国は、レアメタル(希少金属)を道具に米国などに圧力をかけています。今年8月からは米国の動きへの対抗措置として、レアメタルの一種で半導体の材料となるガリウムの輸出規制を強化しました。そんな中、中国の日系企業でレアメタルを担当している中国人社員が取引先中国企業の中国人社員とともに中国当局に拘束されたことが10月に判明しています。情報流出が疑われた可能性がある、とのことですが詳細はおおやけになっておらず、中国に進出している企業の間に不安が広がっています。
(写真・窒化ガリウムを使った電源用トランジスタ部品)
記憶に新しい半導体不足騒動
東芝の半導体部門が分離し、NAND型フラッシュメモリーに強みをもつキオクシアホールディングスは、アメリカのウエスタンデジタル(WD)の半導体製造部門と統合をすすめており、実現すればNAND型フラッシュメモリーで世界トップの韓国・サムスン電子に並ぶ規模になります。ただこの統合は各国の規制当局の承認を得る必要があり、ここでも中国が厳しい姿勢で臨む可能性があります。米中対立が半導体産業に与える影響はこのように広範囲にわたってくるのです。
コロナ禍で巣ごもり需要が高まり半導体が世界的に不足、自動車から家電までさまざまな製品が品薄になったことは記憶に新しいところです。日常生活から世界の覇権争いまでさまざまな分野にかかわる半導体については、今後の動きにも注目しておきましょう。企業選びや企業研究、今後のビジネスの動きを占う上でも大きく役立つはずです。
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