ロシア、中国の首脳は欠席したが
今回は、9月10日までインドで開かれていた「G20」を取り上げます。これまで就活ニュースペーパーでも何度か取り上げていますが、こういった国際的な会議の動きをチェックし、世界の情勢についておおまかな知識を得ておくことは今後の就活やビジネスに大きく役立ちます。逆に、知っておかないと恥をかくことにもなりかねません。今回のG20の大きなトピックは、ロシアや中国の首脳が欠席するなかで開催初日に「首脳宣言」を採択したことです。そこには、ウクライナ侵攻を続けるロシアに対する「非難」の文言が盛り込まれませんでした。昨年の世界の大国を相手どって合意形成に成功したインドの国際社会での存在感は増した と考えられます。ニュースを通じて、G20の評価をあらためて確認しておきましょう。(編集部・福井洋平)
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(写真・主要20カ国首脳会議の日程を終え、メディアセンターを訪れたインドのモディ首相=2023年9月10日、インド・ニューデリー)
G20とG7の違いをおさえよう
改めて、G20とは何かについて説明します。これは今年5月に日本の広島で開かれた「G7」とは別の枠組みです。
G7は「Group of 7」の略で、日本、米国、英国、ドイツ、フランス、イタリア、カナダの7カ国を指します。G7サミットには、この7カ国の首脳に加えて、EU 首脳も参加しています。一時期ロシアも参加していましたが、2014年にロシアがウクライナのクリミア半島を「併合」したことで排除されました。G7サミットでは、国際政治から感染症対策まで幅広いテーマが話し合われます。ロシアや中国が参加していないことから、両国に対抗する枠組みとしてもとらえられます。
一方のG20は、G7にロシアと中国、そのほかインドや南アフリカ、韓国、インドネシアなどの新興国も加えた枠組みです。もともとは アジア通貨危機(1999年)をきっかけに20カ国・地域の財務相・中央銀行総裁が集まる会議として始まりました。そして2008年のリーマン・ショックを受けて首脳級が集まる会議に格上げされ、米ワシントンで第1回G20サミットが開催されました。G7は1990年代前半には世界のGDPの7割を占めていましたが、いまでは4割程度にまで後退しています。一方、G20に枠組みを広げると8割程度となります。G7以外の国の存在感は年々、重くなっているのです。
G20はもともと経済的な問題 を話し合う場として始まりましたが、現在は経済に限らず政治や環境など幅広い分野の問題が議論されています。しかし、自由、民主主義、人権などの基本的価値を共有する主要先進国が集まるG7に比べて、政治体制も経済状況も大きく異なる国々が集まるG20は、 政治的な分野で合意を作ることは非常に難しいといえます。ましてや現在は、ウクライナ侵攻を続けるロシアとそれを容認する中国、そして侵攻に反対するG7が集まるわけですから、合意を形成するのは容易ではありません。
インドは「グローバルサウス」のリーダーに
今年の議長国であるインドは、G20にかなり力を入れてきました。今年1月の段階で、街中にG20のロゴが描かれた看板が並んでいたそうです。インドはいま、「グローバルサウス」諸国のリーダーとしてのアピールを強めていっています。グローバルサウスについては4月の就活ニュースペーパーでも特集しましたが、アジア、アフリカ、中南米などの新興国や発展途上国の総称で、北半球の先進国に対し南半球の国が多いことからこう呼ばれています。経済的な発展状況もさまざまで、政治的にもウクライナに侵攻しているロシアへの非難を控え、欧米主導の経済制裁に加わらない国も多くみられます。大国間の争いに巻き込まれないように距離をとりつつ、自分たちの存在感をアピールしていきたいという各国の思惑があり、インドはその思いをくみ取る形でリーダーシップを発揮しようとしているのです。
グローバルサウスの国々に対して、中国+ロシア陣営は年々影響力を強めてきています。中国とロシアにインド、ブラジル、南アフリカが加わる新興5カ国(BRICS)は21世紀に急成長を遂げた新興国のトップランナー的枠組みですが、ここに今年8月、アルゼンチン、エチオピア、エジプト、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の6カ国が参加しました。中国+ロシア陣営が有力なグローバルサウス国を囲い込もうとする動きの一環ととらえられています。一方でアメリカは、中国+ロシア陣営に対抗するため、アメリカに加え日本とオーストラリア、インドが加わるQUAD(クアッド)という枠組みを立ち上げています。インドはどちらの枠組みにも加わっており、両陣営の間を取り持つことができるポジションにいます。
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(写真・インドの首都ニューデリー中心部では、G20サミットの開催を前にモディ首相の写真付きの看板が至る所に設置されていた=2023年9月6日)
インドの存在感は大きくなった
今回は中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領がともにG20を欠席。共同宣言の採択すら危ぶまれていました。もし採択されなければG20史上初のことです。議長国であるインドの顔をつぶし、G20の枠組みを壊すような選択は、欧米陣営であってもできなかったと考えられます。インドはそのポジションをうまく利用しました。今回の共同宣言には昨年のG20で採択された、ロシアのウクライナ侵略行為に対する「非難」の文言は盛り込まれませんでしたが、すべての国で「領土獲得のための武力による威嚇や行使を控えなければならない」と明記。アメリカはこの宣言を「G20が難しい問題にも共に対処できることを示した」(サリバン大統領補佐官)と評価しています。
また、G20の期間中、アメリカのバイデン大統領はインドのモディ首相らと会談。インドと 中東、欧州などと、新たなインフラ構想で協力する覚書を発表しました。これらの地域を鉄路や海路で結ぶ「経済回廊」を整備するという内容です。これは、中国が「一帯一路」という巨大経済圏構想をすすめてグローバルサウス各国への影響力を強めていることへの対抗軸と考えられます。インドの協力を得るためには、G20の枠組みを保ってインドの顔を立てることも必要とアメリカ側は考えたかもしれません。ウクライナ問題のほかにも気候変動や再生可能エネルギー、最貧国の債務救済といった問題で踏み込んだ議論はできなかったという評価がありますが、一方でG20の枠組みを保ったインドの存在感は相当に大きくなったと見ることができます。
グローバルサウスに対する日本の強みとは
日本も、中国の存在を念頭においてグローバルサウスとの連携を強めたいと考えており、岸田首相はモディ首相との連携を強調しました。今後、アメリカのように巨大な経済力を背景に交渉することは難しいでしょうが、日本は欧米にはない強みもあります。グローバルサウス諸国は旧植民地が多く、旧宗主国である欧米諸国に反発する態度を年々強めています。日本もアジアや太平洋で植民地支配を行っていましたが、欧米よりはフラットな立場でグローバルサウスと接することができるといいます。また、第二次世界大戦後は平和主義外交を貫き、草の根の協力の努力を積み上げてきたことも、欧米諸国より好感を持たれる理由となっているのです。今後、インドをはじめとするグローバルサウスの存在感は増す一方でしょう。日本とグローバルサウスの関係性は、日本の外交姿勢や国際貢献のあり方とも密接につながっています。そういう観点で見ると、外交や国際関係のニュースがより身近に感じられるのではないでしょうか。
(写真・G20サミットを終え帰国した岸田文雄首相=2023年9月11日、羽田空港)
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