このあと3年間選挙なし?
岸田文雄首相はドイツでの主要7カ国首脳会議(G7サミット)に続き、スペインで開かれる北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議に日本の首相として初めて出席します。そのNATOには、スウェーデンとフィンランドの新規加盟が認められることになりました。欧州連合(EU)もウクライナなどを加盟候補国に認定。ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに国際政治が大きく動いています。一方で秋に予定されている主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)は、ロシアのプーチン大統領の参加をめぐって波乱含みです。G7、G20、NATO、EU……こうした特定の国が集まったグループや枠組みがニュースに頻繁に登場します。各グループは世界の政治や経済に大きな影響力をもっているので、それぞれの成り立ちや役割や特徴を押さえておくと日々のニュースの理解が深まります。この機会に、各グループの「基本のき」を整理し、分かりやすく解説します。(編集長・木之本敬介)
(写真は、G7首脳の前でスピーチする岸田文雄首相=2022年6月26日、ドイツ南部エルマウ)
G7共通の価値観は「民主主義」「人権の尊重」「言論の自由」
今回のG7サミットでは、ロシアのウクライナ侵攻で深刻化する世界の食糧不足への支援や、エネルギー価格高騰への対応、気候変動対策の国際的なルールづくりを主導する「気候クラブ」の年内設立方針などで合意しました。
G7は「Group of Seven」の略で、日本、米国、英国、ドイツ、フランス、イタリア、カナダの7カ国に加え、EUも参加しています。当初は世界の経済問題を話し合う場でしたが、国際政治から紛争、テロ、貧困、環境、感染症まで、テーマはあらゆる国際問題に広がりました。ソ連崩壊で東西冷戦が終わるとロシアも加わってG8になりましたが、2014年にロシアのウクライナ・クリミア半島併合でロシアを排除。再びG7に戻りました。「米国第一」を掲げたトランプ前米大統領の時代には貿易政策などをめぐって意見が対立し不協和音が目立ちましたが、国際協調を重視するバイデン大統領に代わって再結束し、ロシアのウクライナ侵攻でさらに団結した形です。
G7の根底にあるのは「民主主義」「人権の尊重」「言論の自由」という共通の価値観です。脅威の対象はロシアと、アジアで覇権を強める中国。今回も中国に対し、南シナ海などでの海洋進出の問題点を指摘し、新疆ウイグル自治区や香港での人権や自由の尊重を求めました。次回は2023年5月に広島で開かれます。次の議長国・日本の舵取りにも注目です。
(写真は、ウクライナのゼレンスキー大統領がオンラインで参加〈左上〉して行われたG7首脳の討議=2022年6月27日、ドイツ南部エルマウ)
中ロも参加 G20は政治的にバラバラ
かつてG7のGDP(国内総生産)の合計は7割近くを占め、その影響力は絶大でした。しかし、21世紀に入ると、BRICS=ブリックス(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5カ国の頭文字)と呼ばれる新興国が急成長し、G7だけで何かを決めても世界経済を動かせなくなりました。2008年にリーマン・ショックが起きると、その対応策を話し合うためにG20の首脳会議が初めて開かれました。参加したのは、G7とBRICSに、韓国、オーストラリア、メキシコ、インドネシア、サウジアラビア、トルコ、アルゼンチンを加えた19国とEUです。リーマン後の対応で中国が世界経済を引っ張るなど、G20は存在感を増し、首脳会議が毎年開かれるようになりました。世界に占める割合では、G7は人口で1割、GDPは4割強に落ちましたが、G20は人口で7割弱、GDPでは8割を占めます。
しかしG20は参加国が多いうえ、中国、ロシアという強権国家が参加しているため、政治的な問題では合意を得るのは難しく、まとまりはありません。2022年11月にインドネシアで開かれる首脳会議をめぐっては、議長国のインドネシアがロシアのプーチン大統領を招待する意向ですが、すでに米国などが反発しています。
NATOに北欧2国加盟へ、対ロで大幅増強
スペインのマドリードで6月28日に始まったNATO首脳会議には、岸田首相のほか、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの首脳が参加します。ロシアに加え、中国を念頭にインド太平洋地域の安定に向けた連携強化を確認するためで、4カ国は「パートナー国」として招待されました。
NATOは、第2次世界大戦後の東西冷戦時代に旧ソ連と東欧諸国に対抗するためにできた軍事同盟です。ソ連崩壊時に16カ国だったNATO加盟国は、その後、東欧諸国が次々に加わって今は30カ国。すでに欧州の大半の国が参加していますが、長く軍事的中立を保ってきたスウェーデンとフィンランドも加わる見通しになりました。ロシアはNATOの東への拡大を「約束違反」として反発、ウクライナ侵攻の口実にもしていますが、侵攻でロシアの脅威が格段に高まった結果、NATO拡大を促す結果となりました。
今回のNATO首脳会議では、今後10年ほどの行動指針「戦略概念」を改訂します。改訂は2010年以来で、NATOは当時、ロシアとの関係改善を探り欧州ミサイル防衛への参画すら求めていました。ところがロシアはクリミア半島を一方的に併合し、ウクライナ東部を占拠した親ロ派を支援。さらにNATOの拡大停止要求が突っぱねられたとして今年2月、ウクライナ侵攻に踏み切りました。NATOは今回、一時は「戦略的パートナー」とまで位置づけたロシアを「最大かつ直接の脅威」とし、ロシアと接する東部の防衛力強化を打ち出します。今は約4万人の即応部隊を「30万人を超える規模」にする大幅な増強です。
NATOもG7と同様に、同盟関係を軽視した米トランプ政権時代には足並みの乱れが目立ち、フランスのマクロン大統領が「脳死状態」と語るほどでしたが、バイデン政権誕生とロシアへの対応で結束を取り戻しました。
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ウクライナのEU加盟には何年も
NATOが軍事同盟であるのに対し、EUは政治・経済の連合です。欧州で起きた2度の世界大戦の反省から、「欧州統合」をうたい、農業、運輸、貿易などでの共通政策や「人、モノ、サービス、資本」の自由な移動を目標に発足し、単一通貨ユーロも導入。本部はベルギーのブリュッセルで、共通の行政府や議会もあり、今では27カ国もの人々が国境を意識せずに自由に行き来しています。2020年には英国が初めて離脱しました。
EUは6月、ウクライナと、同じくロシアの圧力を受けるモルドバを新規加盟の候補国に認定。ウクライナを新たな仲間と位置付けて支えます。ただ、国の仕組みをすべてEUの基準に合わせる必要があるためハードルは高く、加盟実現には何年もかかる見通しです。2013年加盟のクロアチアは候補国認定に1年超、加盟までさらに9年かかりました。ウクライナは戦争状態にあり、10年単位の時間を要するとの見方もあります。
ロシアはウクライナのNATO加盟の動きには猛反発しましたが、プーチン大統領はEU候補国認定については「EUは軍事機構でなく経済同盟だ。何ら反対することはない」と語りました。ただ、ラブロフ外相は「EUはロシアとの戦争のため、NATOと現代の連合を作っており注視していく」と言っており、今後どう出るかはまだわかりません。
(写真は、EU首脳会議後に記者会見する欧州委員会のフォンデアライエン委員長=2022年6月24日、ブリュッセル)
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