汚職の罪は重いが……
またまた、「汚職」に関するニュースが世間を騒がせています。今週の「週間ニュースまとめ」でもとりあげていますが、風力発電を手がける会社が秋本真利衆院議員に約3千万円を渡した疑惑がもたれており、東京地検特捜部が収賄の疑いでこの衆院議員の事務所を家宅捜索しました。衆院議員は外務省ナンバー3の役職である外務政務官を辞職し、自民党も離党しています。会社側は、このお金は賄賂ではないと否定しています。
汚職とは、「政治家や公務員が賄賂をもらって、自らの利益のために地位や職権を濫用すること」です。ほんらい公共、すなわちみんなのために働く政治家や公務員が、お金などをもらって特定の人だけのために働くことが「汚職」です。賄賂を送ったほうは贈賄罪、もらったほうは収賄罪となり、贈賄側は3年以下の懲役または250万円以下の罰金、収賄は最も重くて7年以下の懲役(受託収賄罪)に問われるというかなり重い罪です。それでも汚職がなくならないのは、それだけ政治家が地位や職権を濫用することに「うまみ」があるからです。どういうときに「うまみ」が発生するのでしょうか。「汚職」が発生する構造について考えてみましょう。志望業界について調べを深めるときにも、きっと役に立つはずです。(編集長・福井洋平)
●洋上風力発電めぐり贈収賄疑惑 今後の捜査に注目を【週間ニュースまとめ7月31日~8月6日】はこちらから
(写真=収賄の疑いがもたれている秋本衆院議員の地元事務所の家宅捜索を終え、段ボール箱を運び出す東京地検の係官ら=2023年8月4日、千葉県佐倉市)
国会の質問が「職務」にあたる
こんかいの汚職疑惑の舞台となっているのは「洋上風力発電」です。
政府はいま、2050年に脱炭素社会を実現するという目標を掲げています。そこで欠かせないのが再生可能エネルギー(再エネ)です。特に海の上に風車を立てて発電する洋上風力発電は安定的に大量の電気を作れるため、再エネ拡大の「切り札」とされており、政府も高い期待を寄せています。日本は風力発電の導入が欧州に比べて遅れており、政府は導入促進のため2018年に「再エネ海域利用法」を成立させました。国が洋上風力発電をすすめる「促進区域」を指定して事業者を公募し、選ばれた企業に最長30年間の独占利用を許可すること、などが主な内容です。
脱炭素社会という流れのなかでまちがいなく今後需要が高まっていく分野であり、しかも公募に選ばれると最長30年間の独占利用が許可される――。洋上風力発電が事業者にとって、政府保証つきの「うまみ」のあるビジネスとなったことが見てとれます。コストもかかるし技術的な課題も多く、独占利用権くらいの「うまみ」がなければ参加が難しいという側面もありますが、意欲のある事業者ならぜひ公募に選ばれたい案件になったことは間違いありません。今回秋本議員に資金を提供した疑惑が持たれている風力発電会社は青森県の陸奥湾での事業を計画していたといい、秋本議員は2019年の衆院予算委員会分科会で「この法律に基づく洋上風力が青森県でもしっかりと展開されるべきだ」「過度な、必要でもない規制をかければ違った意味で国益を損ねる」と主張していました。東京地検特捜部は、こういった秋本議員の国会での質問が「職務」にあたり収賄罪が成立するとみて捜査をすすめています。
参入障壁高い分野に汚職の土壌
このように、政府がかかわって業者を選んだり、規制が多く高い参入障壁ができたりしている事業分野は、選ばれた業者にとってはそれ以降の競争がほとんどなく「うまみ」が大きい分野となります。そこで動くお金の額が大きければ、つかまるリスクを背負ってでも賄賂を送ろうとする業者が出る可能性も高くなるでしょう。
戦後最大の汚職事件とも言われる「リクルート事件」を知っていますでしょうか。リクルートの創業者が、値上がり確実という子会社の未公開株を政治家や実業家などにばらまいた事件です。彼は、当時自由化された通信業界への参入をめざしていたといいます。しかしなかなかうまくいかず、手がかりを求めるなかで当時民営化されたNTT(日本電信電話)の会長や幹部に未公開株を渡し、それが贈収賄罪に問われました。旧電電公社が独占的に張り巡らしてきた電話回線網を受け継いだNTTは民間企業ながら公益的な性格も持ち、役職員は「みなし公務員」として贈収賄罪が適用されます。通信事業に参加するには多額の投資が必要なため事業者も少なく、そこに入り込めば逆に大きなビジネスチャンスが転がり込む分野でもありました。
(写真・強制捜査を前に報道陣がつめかけたリクルート本社=1989年)
公益通報者保護法も知っておこう
最近では、東京五輪にまつわる汚職事件がニュースをにぎわせました。大会組織委員会の元理事が、五輪のスポンサー選びに強い影響力を持ち、企業から賄賂をもらっていたという事件です。五輪のスポンサーになると、大会のエンブレムやマスコットを使ったPRができたり、大会関連グッズの利用権が得られたりします。選ばれることによるメリットも大きく、そこに汚職の生まれる土壌がありました。
汚職は、会社にとって大きなメリットが得られると判断したときに発生します。どんな業界、業種でも、汚職の舞台となる可能性はつねにあります。政治家は賄賂をもらい、会社は大きな仕事を得て、ここにはウィンウィンの関係が生まれます。しかし賄賂によって業者の選考がゆがめられたり、不当に高い金額で事業が落札されたりすれば、国民に不利益をもたらすことになります。汚職が生まれる背景や、そのデメリットについて、ぜひ考えてみてください。自分が志望する業界でかつて汚職事件がなかったか、あった場合はその経緯を調べてみるのもよいでしょう。
コンプライアンスを意識する企業では、汚職に限らずコンプライアンス違反を知ったときに社内で通報できる内部通報制度をもっているところもあります。しかし、人事での報復を恐れて使えないという声もあります。そんなときは、「公益通報者保護法」にもとづき行政機関に通報するという方法もあります。こういう知識もぜひ身につけておいてください。
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(写真・収賄の疑いで東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の元理事宅に家宅捜索に入る東京地検特捜部の係官ら=2022年7月)
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