人事のホンネ

住友林業株式会社

2023シーズン⑧ 住友林業《前編》
「林業→製材→商社→建築→販売」全部やる 自己PRシートで価値観見る【人事のホンネ】

人事部 採用グループ グループマネージャー 三浦将太(みうら・しょうた)さん

2021年12月01日

 人気企業の採用担当者に編集長が直撃インタビューする「人事のホンネ」の2023シーズン第8弾は、住友林業です。住宅メーカーのイメージが強かったのですが、実は、木を植えて育てるところから、製材してトレーディングし、家を建てて売るところまで、一貫して行っている世界でもほとんど例のない会社です。それだけに、林業、商社、建築、営業と職種も実に多彩。ボードゲームで学ぶインターンシップや、学生の価値観や個性を見る自己PRシートなど、採用選考もユニークです。(編集長・木之本敬介)

■コロナ禍での2022卒採用
 ──2022年卒の採用を振り返って、いかがでしたか。
 2021年卒採用は新型コロナウイルスに翻弄(ほんろう)されましたが、コロナ禍2年目だった2022年卒採用では、早い段階から「1回は必ず対面で会おう」と決めました。やはり対面でないと人柄は分からないことと、学生にも当社の雰囲気をよりリアルに感じてもらえる機会を一度は担保しようということです。
 2021年卒は最終面接がやむをえずWEBになりましたが、それまでにイベントなどで最低でも1回は対面で会っていたので、「学生の安心安全も考慮しWEBでやりましょう」と切り替えられました。今回はインターンシップやイベントは対面とWEBの両方で準備しておいて状況に応じて切り替え、最終面接だけは全員対面で行いました。

 ――今年は最終面接まですべてオンラインで「まだ内定者に一度も会えていない」という会社も多くあります。
 最終面接で話すと、「実はこれがすべての就職活動の中で初めての対面面接なんです」という学生も少なからずいました。
 当社も内定式は初めてWEBで行いました。内定者同士が触れ合い、語り合って絆を深められなかった点は今なお気がかりではあります。

■インターンシップ
 ──コロナ禍で工夫したことはありますか。
 チャレンジしたのは全職種共通のインターンシップです。ずいぶん前から「住友林業のビジネスモデル体感ボードゲーム」をやってきたのですが、それをWEB化しオンラインで実施しました。

 ──体感ボードゲームとは?
 「人生ゲーム」みたいなもので、木を植えて育てて、製材してトレーディングして、家を建ててお客様に販売する――という経済活動を、いかに環境・社会に配慮しながら持続可能に展開するか、という住友林業の一連のビジネスモデルをボードゲームにしたものです。チームごとに社名や社長、副社長、経理部長役を決めて、「1000ゴールド」を元手に業績を競う会社対抗戦です。植林にたくさん投資するか、それとも植林はそこそこにして製材にお金をかけるかは戦略次第。お金ばかりに執着する会社は立ち行かなくなるゲーム設計になっているのが肝です(笑)。以前は会議室に10卓くらい用意して、3人1組の4チーム対抗でボードを囲んで行っていましたが、これをWEBゲームにしました。うまくいくか心配でしたが、参加者の評価は高かったのでやってみてよかったですね。

 ──仕事内容を面白く学べそうですね。
 コロナ禍が完全に収束したら、また対面型で復活させたいですね。
 この職種共通インターンのほか、職種別にも実施していて、「住宅営業職」と「業務企画職」が2日間、「建築技術職」は4日間、それぞれ約100人参加しました。9月と2月にほぼ同じ内容で行いますが、業務企画職だけは夏に「住友林業とSGDsとの繋がりをベースにした新規事業考案」というテーマで実施し、冬は内容をさらに深めた応用編にしています。

 ──内定者に占めるインターン経験者の割合は?
 「住宅営業職」と「業務企画職」は3~5割くらい、「建築技術職」は7割ほどを占めます。

「人に寄り添う、人生に関わる仕事」やりたい人来て

■職種別採用
 ──職種別採用をしていますね。職種について教えてください。
 「業務企画職」「住宅営業職」「建築技術職」に「事務企画職」を加えた4職種で募集しています。
 「住宅営業職」はBtoC(消費者向けビジネス)の営業ですね。「住友林業の家」のブランドで展開する戸建て注文住宅を販売する提案営業のスペシャリストです。「建築技術職」は住宅営業職が受注した住友林業の家を設計し、施工する建築技術のスペシャリストです。

 ──職種名の通りという印象ですね。「業務企画職」はどんな職種ですか?
 一般的にいう事務系総合職に近いのが「業務企画職」です。ただ、細かくはさらにゼネラリストの商社営業、管理企画と、スペシャリストの山林管理、製造管理、研究開発の五つに分かれています。採用数の多い商社営業系と管理企画系の仕事は国内外の多岐に渡ります。管理企画系は、住友林業のさまざまな事業本部に所属し、既存事業を管理推進しながら、新規事業の企画などにも携わります。商社営業系は、専門商社のBtoB(企業間取引)営業として木材や建材の仕入れや販売を担います。ジョブローテーションによってさまざまな部門を経験する総合職です。

 ――職種によって仕事内容が全然違いますね。
 だからインターンのプログラムもその特性によって変えています。「住宅営業職」では、学生に当社の住宅の提案型営業を疑似体験するワークに挑戦してもらいます。お客様の信頼を獲得するところから始め、潜在ニーズを試行錯誤しながら引き出し、形にして提案まで持っていく、自由設計の注文住宅ならではの営業の仕事を体験します。
 「業務企画職」では、本業を通じて経済・環境・社会に貢献する住友林業としての新規事業考案ワークを、「建築技術職」では設計演習ワークをやります。

 ──「建築技術職」の設計演習ワークとは?
 まず「クイックパース研修」を行います。今はPCを使って設計するのが一般的ですが、自由設計の当社の設計職には、パースといってお客様が頭の中で思い描く理想の家についてヒアリングしながら手を動かし、目の前でスケッチしてお客様のイメージを形にするスキルが求められます。今回この研修も初めてWEB化して、当社設計士がZoomの画面越しに指導しました。後半では、顧客ヒアリングからご要望を整理し、実際にプランを作成して、ご提案するところまでの体験をしてもらいます。設計演習までオンライン化することには正直心配もあったのですが、実施後のアンケートでは「講師の手元が画面にアップで映って技術がリアルに体感できた」「鉛筆が紙の上を走る音まで聞こえて迫力があった」とおおむね好評で、オンラインならではのメリットがあることを再認識できました。

 ──ハウスメーカーのイメージが強いですが、学生の認知や人気はどうですか?
 実際に住宅購入を検討される30代以上の層には一定の認知がありますが、学生に対しては必ずしも高くないと思います。住宅って、日々生活する場所ですが、「商品」としては学生に身近じゃありませんよね。実際に自分で建てたことのある人はまずいないし、コンビニでも売っていない(笑)。就活を始めたころには就職先の選択肢に入りにくい業界であり仕事ではないかと思っています。一方で、「営業職全般」を志向する学生は多く、実は「BtoCで人に寄り添う提案型営業」により携わりたい、という人は潜在的にたくさんいます。ですから、我々としてはそんな仕事の価値ややりがいを、インターン等でわかりやすく提示することに注力しています。就活と自己分析が深まるプロセスの中で「営業をやりたいと思っていたけど、本当にやりたいのはBtoBじゃなくてBtoCなんだな」とか、「自分は人に寄り添う、人生に関わる仕事がしたいんだな」と気付いて当社のドアをたたいてもらえると、嬉しいですね。

■選考スケジュール
 ──2022年卒採用の選考スケジュールを教えてください。
 3月スタートで、エントリーシート(ES)の締め切りは4月初めです。6月1日以降には内々定を出しました。

 ──選考がさらに早まって、大手でも年内から面接を始める企業もあるようですが。
 前倒しは考えていません。早めたところで、学生の志望度を維持し続ける時間がただ延びるだけですし、何より学生のみなさんの学業の妨げになりますから。大学生は勉強や部活に注力するのが一番です。そういう活動を頑張った人に来てもらいたいですね。

「好奇心と創造的思考力」求む 就活・採用は「価値観の交感」

■採用実績
 ──2022年卒採用の内定者数を教えてください。
 135人です。2023年卒はまだこれからですが、2022年卒並みではないかと思います。

 ──男女比はどのくらいですか。
 だいたい7対3です。今後は女性の採用をさらに伸ばし中長期的には半々にまで持っていきたいと考えています。

 ──文理の割合は?
 135人のうち約6割が文系、4割が理系です。理系は大半が建築系で「建築技術職」です。「業務企画職」の中の山林管理や研究開発も理系ですね。山林管理は農学部林学科の学生が主です。もちろん業務企画職のゼネラリストや、住宅営業職の中にも理系の学生はいますよ。

■エントリー
 ──2022年卒のプレエントリー、本エントリーの数は何人くらいでしたか。
 プレエントリーは約2万人でした。近年徐々に増えています。本エントリーは4000人程度で横ばいです。
 就活の早期化とコロナ禍の影響で、企業研究や自己分析に費やす時間が増え、より思考が深まった結果、本当にエントリーしたい企業だけを選択するようになったのだと思います。インターン参加が広まったことも影響しているでしょう。以前のように「とりあえずエントリー」するのではなく、「ここ!」という絞り込みが厳格になったのはないでしょうか。

 ──求める人物像を教えてください。
 当社では「本気で考え、本気で行動し、その先にある感動をつかめ。」という採用ステートメントを掲げています。職種共通で求めたいのは「好奇心と創造的思考力」。顧客ニーズの変化や多様な価値観、専門外の分野のトレンドなどにも日ごろから関心を持つことが、新たな課題発見と価値創造につながると考えています。ニューノーマル時代がやってきて、価値観が変化する中、国内でも海外でも、柔軟に適応し、相手に向き合い、本気で考え、粘り強く問題解決へ導くことができる人を採用したいですね。

 ──その人物を見極めるESはどんな内容ですか。
 ESはごく一般的なスタイルではないでしょうか。志望動機や学生時代に力を入れたこと(ガクチカ)などシンプルな内容です。当社では、ESだけでなく、自己PRシートも出してもらいます。

 ――自己PRシートはけっこうな分量ですね。手書きですか。
 手書きでもパソコンで打ち込んでも、どちらでも構いません。「自由にアピールしてください」と言っているので。手書きの字でびっしりと想いを表現してくれる人、得意の毛筆の楷書体で表現する人、色鮮やかにデザインする人、いろんな人がいます。上半身裸の自慢の筋肉の写真を貼ってきた男子もいました(笑)。最近はだんだんデジタルで表現する人が増えてきました。手書きとデジタルで良しあしはなく、やっぱり内容ですね。デジタルでも単に派手なだけの人もいます。一方、一見素朴で無骨だけれども、自分が本気で伝えたいことや、伝える相手へのリスペクトがあふれている人もいます。こういう要素って、隠せないというか、アナログだろうがデジタルだろうが、対面だろうがWEBだろうが、自然とにじみ出るものだなあと、いつも感じます。

 ──自己PRシートの狙いは?
 これは長く続けているのですが、当社に興味を持ってくれたみなさんの価値観や個性をより具体的に見たいということに尽きます。就活や採用って「価値観の交感」だと思うんです。どんな人でも、自分の価値観と著しくかけ離れた環境や組織の中で長く居続けることって、しんどいですよね? 住友林業の採用広報やイベント、WEBサイトでは、必ず最初に「経営理念」を紹介し、当社が大切にしていることを伝えています。一方、学生にはみなさんなりの価値観や信念があると思います。通りいっぺんのESのフォーマットだけでなく、自由な真っ白な何の制約もないところで自分を表現してもらうと、その人の信念や価値観が表れます。偽らない、お互いの価値観を感じ合うことで、ミスマッチの少ない、より良い出会いが生まれるのではないかと思います。
後編に続く

(写真・大嶋千尋)

みなさんに一言!

 まずは「本音」で勝負、それから「修正力」が大事だと思います。というのも、僕は楽天イーグルスの田中将大投手のファンなのですが、彼が優れているのは「修正力」です。1、2回で打ち込まれるんですが、「自分と対話」してピッチングを修正して最後に勝ちます。会社の仕事もそうですが、最初からは絶対にうまくはいきません。就活もPDCAサイクル(Plan計画→Do実行→Check評価→Action改善の順に行う業務管理手法)を回すといいと思います。まずESを書いてみる、面接を受けてみる。うまくいかないなら自問自答して、「本当に本音で書けているかどうか」「偽った自分になっていないかどうか」を考えてみてください。学生のみなさんと話していて感じるのは、自己分析した自分のイメージを行きたい会社に重ね合わせようとして、「こうなりたい自分」にカッコよく変換している人が多いことです。そうすると、ミスマッチにつながります。とことん自分と対話し、自分の信念を大切にして、本当の自分で就活に向かっていってください。

住友林業株式会社

【林業、商社、住宅建設・販売】

 1691年創業。国土の約1/800の社有林を保有し国内・海外での山林経営をはじめ、木材建材商社として国内売上NO.1、木造注文住宅ではリーディングカンパニーの地位を築いています。近年では木造の中大規模建築や環太平洋地域を中心とする海外事業など、成長が見込まれる事業分野に経営資源を投入し、安定的な収益基盤の構築に取り組んでいます。木を植え、育て、使って、また植えるという稀有なビジネスモデルで持続可能な循環型事業を行っています。(写真は、祖業の地の「別子銅山」)