人事のホンネ

TOTO

2022シーズン③ TOTO《後編》
「就活プロ」でなく胆力ある人求む 生活の根幹に関わる会社【人事のホンネ】

人財本部 人財開発部 人財採用グループ 羽田野孟(はだの・はじめ)さん

2020年10月14日

 人気企業の採用担当者インタビュー「人事のホンネ」2022シーズン第3弾、TOTOの後編です。万全の準備で会社ごとに演じ分けるような「就活プロ」の学生ではなく、不器用でも自分に合う会社を真剣に探している学生に会いたいそうです。毎日、しかも長年にわたって使う商品ならではの苦労もうかがいました。(編集長・木之本敬介)

(前編はこちら

■スケジュール
 ──採用スケジュールを教えてください。
 2019年の年末からエントリー受付を始め、3月から面接、これが第1クールです。企画職、営業・企画職、技術職、デザイン職があり、企画職および営業・企画職は5クール、技術職は6クール、デザイン職は2クール行いました。5~6クールは秋採用です。春採用の内々定は6月ごろまでに決まりました。

 ──5クール、6クールまで設定したのはなぜ?
 社内に「就活プロが集まる会社はイヤだよね」という意見がありました。「就活プロ」と呼んでいるのはGDや面接を練習し尽くして「この会社にはこうやって言おう。TOTOはお堅そうだから自分の真面目な部分を強くアピールしよう」と対策しすぎている学生です。訓練して成果を出すのも大事ですが、大学までの偏差値的な感覚が強いと会社に入ってから活躍できないかもしれません。3クールまでの就活前半は、内定をたくさん取ることが目的になっている学生が多い気がします。内定をたくさんもらえば自己肯定感は高まりますが、会社に入ったら関係ないし、本当に自分に合った会社に入ることが大事です。
 一緒に働きたいなと思う人は「就活プロ」とは違います。「就活がうまくいかなくて」「やっぱり金融じゃなかった」という人や、部活動で時間がなくてそれでも自分に合う会社を探している人が、最後に現れるように思います。そんな学生と出会いたくて募集期間を延ばしました。

 ──会えましたか。
 会えました。部活動を一生懸命やっていた人、「もう一度自分を見つめ直して就活し直しました」という人、海外留学中のコロナ禍で帰国できなかったけれども日本企業で働きたい人などに内定を出しました。もちろん、1クールや2クールでも「就活プロ」は減って胆力があるタイプが残ったと思います。

■求める人材
 ──学生を見極めるポイントは?
 「準備していない部分をどれだけ引き出せるか」です。学生時代に頑張ったことや志望動機はある程度準備してきますが、どうしてそう思ったのか、「原体験」を深掘りします。ぶっちゃけて「本当に興味があるのは住宅設備とは違うんじゃない?」と聞くと、「いや、実は〇〇で……」と新しい価値観が分かることがあります。価値観や物の見方を引き出してどういう人か知りたいと思っています。
 「住宅設備が好き」「人の生活を支えることに興味があります」といっても、業界から日本を支えたい人もビジネスを推進したい人もいます。「いつ思ったの?」「就活のとき? 以前から?」と聞くと、「昔、体が不自由なおばあちゃんと一緒に住んでいました」「お腹が弱くてけっこうトイレにお世話になっていました」など、いろんな体験が出てきます。そこで「トイレにお世話になったって、どんな少年時代だったの?」と深掘りしていくと、どう育ってきたのか、どんな思いで生きてきたのか、ひもとくことができます。一つの質問から広げて全体像を見る形です。

 ──求める人物像は?
 採用ホームページ(HP)に「自律人財」と書いていますが、自分で考えて目標に向かって頑張れる人です。総合職で入社すると、営業か、トイレやウォシュレットをつくるセクションに配属されるのか、間接部門で活躍するのか分かりません。会社生活の中でのさまざまな出会いやご縁をいかしながら、いろんな場所、仕事で頑張る素養のある人、懐の広い人、いろんなことに興味を持っている人が必要です。個人的には、それが社会人になっても成長し続ける人の特徴ではないかとも感じています。
 選考の場面を例に挙げると、野球や研究など一つのことに深く取り組んできた人なら、社会に出たとき「野球や研究を軸に、ほかに興味を持てるか」を探ります。

 ──面接でニュースについては聞きますか。
 流れの中で話題になることが頻繁にありますね。懐の深い人は、自分の世界よりさらに外に関心がある人が多いので、そうした意識があるかどうかを見ています。自分自身もそうなのですが、自分の関心のある話題だけスマホでクリックして読む人が増えているので、昨今のニュースについて幅広い見識を持つ学生に会うと、思わず感心してしまいます。

スタンプ集めのようなインターンじゃもったいない

■インターンシップ
 ──インターンシップについて教えてください。
 2021年卒向けのインターンシップは、「営業・企画職」が半日のワークで、夏と秋に東京・大阪・名古屋で開き、のべ約900人が参加しました。
 技術職は夏と秋に加え、冬の5日間のインターンでは研究や実験をしてもらいました。「〇〇の仮説を調べる」とお題を渡して検証のうえ結果を報告してもらいました。冬のインターンは1~2月に100人程度が参加しました。

 ──2022年卒対象のインターンは?
 検討中です。「インターンに早く参加することが就活成功の鍵」と言われますが、少し違うのではないかと思い始めています。早くから情報を集めるのは大切ですが、手段が目的化している学生が増えた気がします。何も準備がないうちにラジオ体操のスタンプ集めのような感覚で来てもらうのは、学生のみなさん自身に得るものがなく、もったいない。ある程度自己分析が進み、就活への関心が高まったタイミングで働きかけたいと考えています。

 ──他社が走り出している中で勇気がいりますね。
 乗り遅れる怖さは感じますが、拙速に他社との付き合いでやるのではなく、本質的に考えることも重要だと思います。インターンに代わるイベントも秋以降に開く予定で、学生の皆さんがTOTOやその業界で働いてみたいかどうかを判断できるような、身近な内容にしたいと思っています。皆さんの中にある程度、就活の軸ができた段階で、TOTOの知らなかった面を知ることができたり、自分が働くイメージを醸成できたりするコンテンツを提供します。

■職種と働き方
 ──「総合職」採用ですが、募集職種欄に「営業・企画職」「企画職」「技術職」とありますね。
 完全なジョブ型ではありませんが、2021年卒採用から「営業・企画職」から分けて「企画職」を設けました。「営業・企画職」は、入社初期の配属で8割程度が営業、残りの2割が事業部・間接部門となりますが、従来は同じ区分で採用していました。「企画職」は、入社初期の配属は「事業部または間接部門から始めたい」という人向けです。応募数は多くなく、内定したのは2人でした。
 営業は全国の支社に配属になりますが、企画職の部門は多くが本社・北九州市にあります。募集要項に「主な勤務地:福岡県北九州市」と書いたので、「都心の眺めのいいオフィスでコーヒーを飲みながらマーケティングしたい」というような人は応募しません(笑)。たとえば事業部は生産ラインの計画をつくったり、原材料の調達・購買をしたりするすごく大事な仕事です。間接部門においても、法務であれば製品を生み出す技術・ノウハウを知的財産権として守っていくなどそれぞれに重要な役目があります。個人的には、日本のものづくりの強みはこういった部分にもあるのだと思っています。

 ──「働き方改革」にはどう取り組んでいますか。
 有給休暇取得や残業管理は徹底しています。一定の時間になればパソコンの電源が強制的にシャットダウンされたり、オフィスの電気も消えます。ただ、最近は学生のワークライフバランス重視の傾向が強くて、「定時に帰れることが善」になりすぎているかなと。もちろん必要以上に残業を強要することはありませんが、自ら「少し残業して資料をちゃんとつくりたい」「問題を調べておきたい」ということもありますし、誤解を恐れずに言えば、仕事に夢中になっているときほど、時間を忘れてしまうものだとも思います。そこが学生に理解されず、「残業させる会社はただちに悪だ」となるのを危惧しています。

 ──ずばり、どんな会社ですか。
 仕事に対して、根が真面目な人が多いと思います。協調性があって穏やかな社員が多い半面、腹の中では「これをやりたい」「私はこう思っている」と自分をしっかり持っている頑固な人が多いかもしれません。

 ──北九州に本社がある良しあしは?
 良くも悪くも東京とは温度差があるかもしれません。製造拠点の多くが九州に集まっているので、特に技術職においては、九州で生まれた人、Uターンしたい人、九州で働きたいという人が多いと思います。ただ、全体で見ると社員は全国から集まっていますね。社員はTOTO単体で8200人、海外も入れると34000人くらいです。

 ──海外駐在の人数は?
 現在、海外駐在しているのは数百名。グローバル志向の学生は半分くらいで、「いつかは海外に」という人も多くいます。ただ、入社数年で海外に行くことは少なく経験を積んでからになります。あまり「グローバル、グローバル」とキラキラしていないのがTOTOらしさかもしれません(笑)。

10年単位で毎日使ってもらう商品 だからこそのこだわり

■やりがいと厳しさ
 ──TOTOの仕事のやりがいと厳しさは?
 やりがいと厳しさは表裏一体です。事業そのものが、水環境、ユニバーサルデザイン、SDGsなど環境や人の生活の根幹にダイレクトに関わる点がやりがいです。住環境に関わることなので、お客様が喜ぶところを見たり、自分でもその良さを体感したりしやすいことはモチベーションになります。
 厳しさは、品質へのこだわりだと思います。10年単位で毎日必ず使っていただく商品なので、中途半端は絶対に許されません。同時に、お客様とは長年のお付き合いになりますので、どんな状況でも真摯に対応できる誠実さも必要です。ここはTOTOの企業理念に深く通じているので、共感できない人には当社は向かないと思います。

■就活と仕事
 ──羽田野さんはどんな就活を?
 2013年入社です。あまり業界を絞らずに活動していました。軸は「日本の強みになる事業を持っている会社」「社会へのインパクトが大きい会社」でした。いくつか内定をもらい、最後はTOTOとベンチャー企業で迷ったんですが、決め手となったのは「大きい会社」です。事業の規模観、集まっている人材、自分が会社の中で与えるインパクトなど、大きな会社でしか経験できないことがあります。TOTOはグローバルに戦略的に仕事を進めていける会社だと思ったし、トイレは絶対に必要なコンテンツなので世界中に広げていけると思いました。

 ──大きなことを成し遂げたかったのですか。
 「日本を盛り上げなければ」という謎の使命感を感じていました(笑)。大学時代に海外に行って日本の良さを実感していたので、地球規模で何かできる会社に入りたいと。あとは純粋にトイレや住空間のデザイン、プロダクトが好きでした。

 ──羽田野さんの「原体験」は?
 大学までずっと愛知県の実家に住んでいました。家も部屋も古く、自分の思い通りにならないし、山の中だし……。そんな不満な状況からクリエイトできることに興味を持ち、住宅メーカーも見ていました。

 ──入社後の経歴を教えてください。
 ずっと「人財本部」です。北九州の本社で労務管理、人事評価、要員計画などを担当し、2019年から東京で採用担当です。もともと、人事部門を希望したわけではないのですが、教育学部卒で心理学を専攻しており、人とデータに親しんでいたことが影響したようです。印象的なのは、国内外のTOTOグループ全体の10~20年先も見据えて、要員計画をつくった仕事ですね。初めて経営層と関わって、数字が合わずに思いがけず夜遅くまで仕事したり、いろんな部門を訪ねて状況を確認したり、手も足も動かして仕事をしました。プレッシャーも大きかったのですが、自分の頑張りがそのまま会社の経営に関わるんだと肌で感じた経験でした。

 ──いずれは海外での仕事を?
 学生に説明しながら、私自身もキャリアで迷っています(笑)。入社時は海外営業をしたいと思っていたので思いは強くあります。TOTOのコンテンツにはいいものが多いので、事業部も視野に入れています。キッチンのような、トイレと比べるとあまり知られていない事業部に入って一から頑張りたいという気持ちもあります。

(写真・岸本絢)

みなさんに一言!

 コロナで就活への不安、不満が大きいと思いますが、逆にこの大変な期間はチャンスだと思います。就活中はすごくナーバスになって、「なんで落ちたんだろう」とか「なんで私は内定が取れないんだ」と悩むかもしれません。でも、社会に出たらそんな横並びの評価ではなく、自分が納得できるか、自分に勝てるかがあなたの成功の鍵になります。内定社数などにこだわらず、本当に自分が入りたい会社を見つけてください。TOTOに合う人・合わない人、興味がある人・ない人がいると思いますが、TOTOの良さはお客様を第一に考えて、お客様が喜ぶこと、社会にとって良いことを真面目に取り組んでいること。それを実現するための事業がたくさんあります。海外でもいろんな新しい事業に取り組んでいるので、興味があればぜひ受けに来てください。

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