三菱商事
2022シーズン① 三菱商事《後編》
何を考え何をしたかが重要 「現場のプロ」から「経営人材」へ【人事のホンネ】
人事部 採用チーム 次長 田中裕美(たなか・ひろみ)さん
2020年09月16日
(前編はこちら)
■求める人材
──求める人材について、採用ホームページには「構想力」「実行力」「倫理観」とありますね。
三菱商事は「経営人材」が育つ会社を目指しているので、これに必要な資質を持った人ということになります。経営人材というと、「全員社長になるの?」というイメージを持たれますが、そうではありません。1700社のグループ企業も含め、それぞれが携わる事業の価値を上げていくのが経営人材です。
──もともと貿易会社だった総合商社は、投資がメインになり、今は経営という流れですね。
トレーディング主体で始まり、1980年代までは100円で買ったミネラルウォーターを105円で売って5円が利益になるという仲介モデルが中心の「トレーディング期」でした。市場の変化や顧客のニーズに対応するために、国境を越えて売り手と買い手を結ぶ仲介役として幅広い産業を支えてきました。
1980年代半ばの円高不況、それに続くバブル経済とその崩壊を経て、事業環境は厳しくなりました。仲介役から一歩踏み出し、川上・川下へのマイノリティ出資によって取引を広げ、中間流通業者として付加価値を生み出す事業に取り組みました。これを「トレーディング発展期」と呼んでいます。
原材料を調達し、製品を作り、顧客にサービスが届くまでの一連の連鎖をバリューチェーンと呼びますが、2000年代に入ると、産業界全体のバリューチェーンの力学が変化し、仲介という事業モデルの変換が求められるようになりました。事業投資を加速させて事業そのものの運営に乗り出す「業態転換期」を迎えました。
2010年代半ばには、資源市況の環境が変わり、資源と非資源のリバランスやキャッシュ・フロー重視の経営を進めるようになりました。投資で成長する発想から、自ら事業に深く入り込み、三菱商事の「経営力」で主体的に価値を生み出し成長していく「事業経営」へのシフトを図っています。
このように、三菱商事は環境変化に応じてビジネスモデルを柔軟に変化させ、価値創造に取り組んできましたが、どの時代も変わらないのは、社員が会社を切り盛りし、会社の行く末を社員自ら切り開いてきたということです。社員が財産であり、社員の成長が会社の発展と一体化している会社なので、会社は社員に対し、チャレンジングな仕事=場の提供をします。それに応え、成長してくれる人材を求めています。
──事業経営のためには「構想力」「実行力」「倫理観」が必要だと?
はい。「構想力」は、本質を見抜く洞察力、変化を見通す先見性、創意工夫して戦略を練る力です。For the teamの精神で、困難を乗り越える強い心と周囲を動かすリーダーシップを持って、難しい大きいビジネスをするのが「実行力」です。「倫理観」は三菱商事の特徴の一つです。瞬間的にもうかるビジネスはありますが、社会に役立つ事業でなければ続きません。社内外の関係者と誠実さを持って信頼関係を築き、中長期的なビジネスを構築することが必要だと考えています。
──その人材をどう見極めますか。
これまでの人生で、何を考え、何をやってきて、そこから何を学んだかという点は重要だと思っています。同じことを社会に出てもやってくれると期待ができるからです。
──ビジネスでいう「PDCAサイクル」ですね。
PDCAサイクルほどきれいにまとまっていなくていいし、やってきたことの大小や成否も関係ありません。よく、三菱商事は「100人規模で全国で優勝するような部活の主将をやっていないとダメなのか」といった質問を受けますが、全くそんなことはありません。面接で話すエピソードも「このカテゴリーじゃないと」「インパクトがないといけない」ということもありません。学業でもアルバイトでも留学でも、本当に何でもよくて、話してほしいのは「何を考えて、何をしたのか」です。仮に失敗してしまったとしても「失敗から何を学び、次にどういかしたか」があると、思考と行動のプロセスが分かります。
コンサルとの違いはビジネスの主体となること 大きな達成感
──職種別採用(ジョブ型採用)を導入する企業が増えています。
弊社では、まずは特定分野・市場で通用する「現場のプロ」になってもらいます。その後、多様な経験を通じた早期育成、実力主義と適材適所を徹底し、経営を担ってもらうので、キャリアの中でジョブローテーションがあります。現在はジョブ型採用を行っていませんが、今後も絶対に導入しないということではありません。最初に入る部署をあらかじめ決めることで成長意欲がより高くなるのであれば、検討する意義はあると思います。
──「食品から石油」など、まったく畑違いの分野への異動もあるのですか。
はい、分野を超えて活躍できる経営人材育成を標榜(ひょうぼう)していますので、同じ分野での異動もありますが、これまでと全く違う分野への異動もあります。昔なら石油のプロになれば20年、30年後も「石油といえば三菱商事のAさん」でしたが、現在はデジタル化の波があらゆる産業に影響をおよぼし、業界と業界の垣根は低くなり、事業モデルが変化しています。この様な環境の中では、特定業界のプロフェッショナル人材だけではなく、分野を超えて事業投資を行う人材や、事業会社の経営者が必要です。まずは、「現場のプロ」として自分の持ち場で結果を出し、その後、他の分野や機能の仕事に携わり、視野を広げ、視座を高めてもらいます。
――異動のサイクルは?
育成に20年かけていた時期もありますが、今は5年から10年で「現場のプロ」になり、その後早いタイミングで経営を実践してもらいます。ずっと同じ部署ということはありません。
また、遅くとも8年目までには海外勤務をする「グローバル研修制度」もあります。海外拠点、事業会社での業務や、英語以外の言語を集中的に身に付けるための語学研修制度などのバリエーションがあります。「遅くとも」8年目までになので、早ければ2年目ぐらいで海外に出る人もいます。
■競合
──近年、トップ層と言われる学生の一番人気は総合商社ではなく外資系コンサルです。人材獲得競争はありますか。
外資系コンサルに限らず、他社と競合になることもありますが、「優秀」な人材以上に「適している人」に来てほしいんです。
コンサルと比較すると、機能が違います。車に乗っているとすると、コンサルは助手席でナビゲーションする役割、商社は自分でハンドルを握って運転する役割にたとえられるでしょうか。主体となってビジネスをするのか、アドバイス機能を発揮していくかの違いですが、どちらも魅力的で達成感のある仕事だと思います。大切なことは、みなさんの志向や適性がどちらなのかということではないでしょうか。
──「20年ぶりの人事制度改革」をしたそうですね。
目標は、分野を超えて活躍できる経営人材を育成することです。重点方針は四つありますが、皆さんが気になるのは、「社員の自律的成長と会社による成長支援」「多様な経験を通じた早期育成」でしょうか。これらを促進するために、社員一人ひとりが自分で今後のキャリアパスを考えて上司と話す「成長対話」を導入しました。自分の何を強化したいか、どんな仕事をしたいか、年1回は必ず上司と話をします。キャリアパスをより実現しやすくなった点は大きいと思います。
チーム力強く部下育てる風土 5~10年は現場にどっぷり
──「組織の三菱」「縦の三菱」といわれます。どんな会社ですか。
チーム力が強い会社ですね。それぞれの社員の個の力がしっかりしているのはもちろん、自分たちが向かっていくビジョンや目的が共有できています。部下・後輩を育てる風土が強いことも、自分の会社を好きな理由の一つです。
──組織改編の背景には、「縦の三菱」が強すぎた面も?
その課題感はありました。昨今、産業の垣根を越えた新たなビジネスが構築されるパターンが続出していることもあり、2019年度に大きな組織改革をして、営業グループを7から10に改変しました。新しい10グループで横通しのコミュニケーションを活発化し、新たなネットワークを作り、新しいビジネスモデルを作ることを目指しています。
──やりがいと厳しさを教えてください。
どのビジネスをやっても「面白い」と感じながら仕事をする社員が多いと思います。熱意と情熱を持って入社して、「すぐアウトプットしなきゃ」と思う人もいますが、インプットもしっかりやらないとアウトプットできません。急ぎすぎないでほしいですね。最初の5年から10年は現場にどっぷりつかって商材やステークホルダーと向き合って、壁を乗り越えながら成長していく。これはやりがいがあって、本当に面白いんです。また、ローテーションがあると、新しい業界の知識をつけたり、ネットワークをつくったり、毎回勉強しなきゃいけないので大変です。転職したのかな、と感じるくらいの異動もありますが、これは厳しさであり成長の場でもあります。その成長をいかして、経済・環境・社会にインパクトを与える仕事をできることが、三菱商事での大きなやりがいの一つだと思います。
■田中さんの就活と仕事
──田中さんはどんな就活を?
2003年入社です。大学は外国語学部で、専攻していたスペイン語を使って仕事をしたいと思って総合商社を中心にメーカーも受けました。三菱商事に決めた理由は「人」です。社員訪問でいろいろな社員に会って「こういう人たちと働きたいな」と思いました。人に対する壁が低いんです。学生の意見なのにちゃんと聞いてくれて、自分もこういう姿勢で働きたいと。だから、「扱う商材やビジネスモデルにはこだわりません」と言っていました。
──入社後の経歴を教えてください。
金属資源の部門が長く、トレーディングや事業投資を担当しました。鉄鉱石担当のとき、チリに3年半駐在し首都・サンチャゴから現場に通いました。経理やIR(投資家向け広報)といったコーポレート部門も経験し、2019年11月から人事部です。
──異動は希望したのですか。
両方あります。石炭部門からIRへの異動は上司に言われました。まったく畑違いに見えますが、中国の経済が急成長した時期で、石炭の需要が高まり価格も急上昇していました。三菱商事の中で石炭ビジネスの影響が大きくなったので、投資家に石炭や金属の話をきちんとできる人間を異動させようとしたようです。私は一つの分野をぐっと深めるほうが好きなんですが、視野を広げられるきっかけを与えてもらったことはありがたいと後々思いました。今回の人事部への異動は、自分の希望がかなった形です。
──一番印象に残っている仕事は?
やはりチリ駐在です。現場である鉄鉱山が近いので、株主として経営に携わるのがどういうことなのかを肌で感じました。鉱山でトラックを運転する人や鉄鉱石を加工する人がいて、「この人たちがこの先もここで働けるだろうか。家族を養えるだろうか」と考え、自分たちの経営にかかっているんだと直に感じられる良い経験でした。チリ駐在員のうち、鉄鉱石担当は4人でしたが、数千人規模の社員を抱える鉄鉱石の会社の株主として経営に携わっていました。
(写真・岸本絢)
みなさんに一言!
就職活動は自分のそれまでの人生を振り返るすごく良い機会だと、実体験からも思います。就活を楽しんでできる人が強い。面接でうまくいかないこともあると思いますが、落ち込んだときほど人と話すようにして、新しい見方や情報を入れることが大事です。凝り固まった視点で見るのではなく、たとえば商社なら事業会社に出向する、海外に行くというキャリアパスは想像できますから、そういう経験をしている社員の話を聞くとか、深さだけでなく幅も持たせて就活をするといいと思います。就活で出会った人と20年近く経った今もつながっているので、大変だけど楽しい期間なんだと思ってもらえたら嬉しいです。
三菱商事
【商社】
三菱商事は、世界約90の国・地域に広がる当社の拠点と約1700の連結事業会社と協働しながらビジネスを展開しています。 天然ガス、総合素材、石油・化学、金属資源、産業インフラ、自動車・モビリティ、食品産業、コンシューマー産業、電力ソリューション、複合都市開発の10グループ体制で、幅広い産業を事業領域としており、貿易のみならず、パートナーと共に、世界中の現場で開発や生産・製造などの役割も自ら担っています。これからも私たちは、常に公明正大で品格のある行動を信条に、豊かな社会の実現に貢献することを目指し、さらなる成長に向けて全力で取り組んでいきます。
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