人事のホンネ

森ビル

2021シーズン⑦ 森ビル《後編》
東京を世界一の都市に!ダイバーシティ受容力と熱量が必要

人事部 人財開発部 チームリーダー 深野有紀(ふかの・ゆき)さん

2019年11月20日

 人気企業の採用担当者インタビュー「人事のホンネ」の2021シーズン第7弾、森ビルの後編です。東京を世界一の都市にしようと、明確な企業理念やビジョンを掲げる会社です。そんな「森ビルのDNA」って? じっくりうかがって来ました。(編集長・木之本敬介)
(前編はこちら

■面接
 ――グループディスカッション(GD)は行いますか。
 はい。テーマは申し上げられませんが、事前の知識にあまり左右されないような内容になっています。都市づくりは多くの人々や企業、行政を巻き込んでいかなければなりません。こうした人々を導き、共感と信頼を得て協働できて初めて成就する仕事です。間接的ではありますが、GDを通じて私たちの仕事に対する姿勢について感じてもらえる機会になれば嬉しいです。

 ──面接はどんな形式ですか。
 面接は複数回行っており、現場の社員や部課長、最終面接は役員も参加して行います。

 ──ポイントは?
 求める人材像という意味では、変化が激しく未来の予測が困難な時代の中で、新しいことや難しいことに挑戦でき、強力に事業を推進していくことのできる「強い個」が必要だと考えています。
 とくに、我々が推進する都市づくりの領域は非常に幅広く、さまざまな個性や才能が必要です。こうした「強い個」をまとめ、プロジェクトを推進していくためには、多様な価値観を尊重しながら、他者と協働して推進していく力が必要で、我々はそれを「ダイバーシティ受容力」と呼んでいます。そのうえで、熱意をもち、それを行動に移すことができる「熱量」、さらに、既存の枠にとらわれず、問題意識を持ち、自ら課題設定をして、課題解決に向けて具体的な行動を起こすことができる「課題設定力」が欠かせないと考えています。

 ──面接でニュースについては聞きますか。
 面接官次第ですが、直接的に聞くことはなかったとしても、新聞を読み、世の中にアンテナを張って、自分の意見を持つことは大切なので、ぜひ学生にはニュースを欠かさずチェックしてほしいですね。

■東京と地方
 ──東京以外での事業展開は?
 学生にもよく聞かれるのですが、森ビルは、都市づくりの分野で長年蓄積してきたノウハウを活用し、東京だけではなく地方都市活性化のお手伝いもグループ会社を通じて行っています。
 たとえば、香川県の「丸亀町グリーン」や愛媛県の「アエル松山」などの再開発プロジェクトがあり、それぞれの土地に根ざした文脈や潜在力をいかしつつ、新たな機能を備えた街づくりを推進することで、地方都市の活性化に貢献していると自負しています。
 海外でもプロジェクトを展開しており、2008年に誕生した中国の「上海環球金融中心」をはじめとして、現在、インドネシアのジャカルタでも市を代表する新たなランドマークとなるプロジェクトを進めています。

 ──地方勤務は?
 基本的にはありません。上海やジャカルタ、シンガポールにも拠点はありますが、ほとんどが東京勤務となります。

 ──受けに来る学生は首都圏ばかり?
 そうでもありません。社内にも九州や関西、東北、北海道の大学出身者がたくさんいますし、地方からの学生も意外に多くいます。むしろ働くのであれば東京で、と思っている学生にとっては、勤務地が都心のど真ん中である当社は魅力に感じるようです。

「森ビルらしさ」伝えるDNA研修

■社風
 ──ズバリ、どんな会社ですか。
 六本木ヒルズ、虎ノ門ヒルズなど都市を象徴するプロジェクトを手がける街づくりの会社です。
 森ビルは、「国際都市間競争に勝たなければ日本全体が沈んでしまう。その戦いを勝ち抜くためには磁力ある都市づくりが必要」だと長年にわたって訴えてきました。「都市はどうあるべきか?」ということを絶えず考え続けてきた森ビルがつくりあげてきたのが、ヒルズシリーズです。
 そのヒルズの未来形として新たに誕生するのが、2019年8月に着工した「虎ノ門・麻布台プロジェクト」です。「Modern Urban Village」をコンセプトに、一般的な開発手法とはまったく逆のアプローチで、まず広大な中央広場を街の中心に据え、オフィス、住宅、ホテル、インターナショナルスクール、商業施設、文化施設など、多様な都市機能を高度に融合させています。

 ――新しいことが好き?
 もともと森ビルには、既成概念を打ち破り、常に新しいことにチャレンジする企業風土があります。都市づくりのトップランナーとしてイノベーションを起こし、自らの手で未来を切り開いてきました。森ビルが最初に挑戦したもので、現在世の中のスタンダードとなっているものもたくさんあります。
 こうした「森ビルらしさ」「森ビルのDNA」を少しでも学生に伝えたいと思っています。

 ──深野さんはDNAに共感したから入社したのですか。
 はい。理念やビジョンがしっかりしている点にひかれましたし、そのために新しい挑戦をし続けていることも魅力的でした。現在も、ヒルズを舞台に様々な実証実験も進めていて、非常に幅広い分野でトップランナーたちと手を組んで研究をしています。

 ──ビジョンや理念は研修で教育するんですか。
 組織として「森ビルらしさ」を強化していくことは非常に重要です。会社説明会といった場で入社前から理解を深めてもらっていますし、入社後も「社長講話」や「社長コラム」など、トップ自らが情報発信する機会も多々あります。
 研修としては、森ビルの理念を伝えるDNA研修という位置づけで、様々な機会を設けています。1年目には「事例演習」という研修を数カ月かけて行っています。実際の敷地を題材にグループごとに一つのプロジェクトをつくりあげる研修で、商品企画から採算計算、管理計画まで行い、最後は、社員の前で発表して採点もされます。このほか、ビル管理の現場を2週間かけて体験する「ビル実習」や地域のお祭りに参加する「祭礼研修」等、1年間を通じて学び、成長する機会を設けています。

 ――DNA研修はその後も?
 DNA研修の一つである「街育(まちいく)研修」は、入社3年目の夏休みに六本木の街の魅力や裏側を紹介するツアーを運営するもので、子どもから大人まで幅広い年齢層の一般の人に向けてそれぞれのチームが工夫を凝らしたツアーを企画・運営します。子どもからの素朴な疑問にも、森ビルの代表として答えなければならないので、会社や街のことを一生懸命に調べることになります。普段は現場の業務が中心になっている社員の学び直しの場にもなっています。ほかにも、入社4年目向けの「若手社員よ!社長と語ろう」という企画もあり、社長と社員がお酒を飲みながらコミュニケーションをとって、経営者の問題意識や関心事を自ら社員にダイレクトに伝えています。

大勢の関係者を巻き込む仕事 喜び・感動分かち合う

■やりがいと厳しさ
 ──森ビルの仕事のやりがいと厳しさは?
 都市づくりは本当に面白い仕事です。そして歴史的に見ても、都市の重要性は今、非常に高まっています。グローバル化が進み、世界の都市間競争が激しくなる中で、「日本、そして東京の未来を輝かせるには、世界の人々や企業や資本をひき付ける都市が不可欠だ」という認識がようやく広まってきました。そんな中で、「都市を創り、都市を育む仕事」を通じて人々や企業を元気にし、東京を世界で一番の都市にしたいと本気で考えて取り組んできた森ビルで、都市づくりに携われることは非常にやりがいのある仕事です。
 ただし、新しいものを生み出すことは簡単ではありません。一人ひとりが考えて考えて考え抜かなければ、答えにたどり着くことはできません。そして、たくさんの関係者を巻き込んで進めていかなければなりません。ただ、だからこそ街が出来上がったとき、たくさんの人々と喜びや感動を分かち合うことができるのだと思います。

 ──宅地建物取引士(宅建)の資格を入社1年目に取得するのが目標だそうですね。
 なかなか100%取得とはいきませんが、みんな頑張っています。新入社員は受験が必須で、社内講習も受けてもらいます。不動産会社として最低限の知識は持っていてほしいので。ほかにも、新入社員は簿記の試験を受けてもらっています。

■他社との違い
 ──同業他社との違いは?
 森ビルの都市づくりや企業風土は同業他社とは圧倒的に違うと思います。売り上げや資産などの企業規模においては同業他社の方が大きいかもしれませんが、社会における存在感や世間に対する影響力は森ビルも引けを取らないのではないでしょうか。国内外からも非常に注目されていて、国や自治体なども森ビルに都市政策の知恵を求めてきますし、メディアでもよく取り上げられます。
 高い評価を得ている理由は、長年にわたって都市に対して真っすぐに向き合ってきたからです。都市全体を広い視野で捉え、未来を見据えたうえで、「これからの東京はどうあるべきなのか?」「東京に足りないものは何か?」を考えながら都市づくりに取り組んでいます。
 こうした視野をもって、既成概念に捉われず民間最大級の再開発に挑戦し、さまざまな「ヒルズ」を創ることができました。「森ビルらしさ」を突き詰め、やっとたどり着いた答えの集積を永々と積み重ねてきたことが都市づくりのトップランナーといわれる理由であり、森ビルの存在意義だと言えます。

 ――「既存概念に捉われず」は具体的にどんなところに表れていますか。
 約400件の地権者と再開発に取り組んだ六本木ヒルズや道路と一体開発した虎ノ門ヒルズの再開発手法もそうですが、本来は最も高い賃料がとれる六本木ヒルズの最上階にあえて森美術館を配置して「文化都心」の象徴としたことも森ビルらしさを表していると思います。最近の例ではお台場のデジタルアートミュージアムがあります。あれだけの規模の現代アートのミュージアムをつくれるのは森ビルだからこそだと思います。

 ──採用で競合するのは?
 同業他社のディベロッパー、ゼネコンのほか、広告代理店や商社、インフラ、鉄道などでしょうか。「大きなプロジェクトがしたい」「社会を変える仕事がしたい」という学生が多く、省庁を受ける学生もいますね。このほか、理系の学生ですとメーカー志望も多いのですが、最終的に当社を志望する学生は、「何のためにつくるのか」というそもそもの目的意識をもって”都市づくり”に携わり、発注者として自分の意思を反映しやすいことを理由にあげています。

■就活とこれまでの仕事
 ──深野さんはどんな就活をして森ビルに?
 中途採用です。新卒時には出版社に入社して、森ビルは取材先でした。当時から、熱い思いとビジョンを強く感じ転職しました。森ビルに入社した当初は広報に配属となり、10年ほど報道担当をしていました。人事に異動して採用担当になったのは、2018年です。

 ──印象的な仕事は?
 虎ノ門ヒルズ開業やGINZA SIXのオープニング時のメディア対応も印象的ですが、一番は「ヒルズ街育プロジェクト」でしょうか。先ほど、入社3年目を対象とした「街育研修」をご紹介しましたが、きっかけは広報室で立ち上げた「ヒルズ街育プロジェクト」でした。2007年に初開催したのですが、当初は参加者もなかなか集まらなかったり、社内の認知度もなかったりと苦労しました。今では、年に50回、計1500人をご案内する大きなプロジェクトになっています。その街育プロジェクトに研修担当としても携われるのは不思議な感覚です。

(写真・山本友来)

みなさんに一言!

 就活は、学生の皆さんにとって、たくさんの会社を見たり、企業研究をしたりする非常に良い機会です。企業側は会社のことを知ってもらうために、いろんな情報提供をします。どんどん自分で吸収して、学んで、たくさんの経験を積んでください。就活テクニックに頼らず、惑わされず、自分を出して臨んでください。

森ビル

【ディベロッパー】

 東京・港区を拠点として都市再開発事業を行う総合ディベロッパー。職・住・学・遊・憩などの様々な都市機能が集約されたコンパクトシティを創り、育むことで、首都・東京の磁力を高めることを目指している。細分化された土地を集約し、建物を高層化することで、地上部に緑地や人々の交流の場を創出する「Vertical Garden City-立体緑園都市」を都市づくりの理念として掲げ、国内ではアークヒルズ、六本木ヒルズ、虎ノ門ヒルズ森タワー、海外では上海環球金融中心等、数々の都市再開発事業を手掛ける。他にも、不動産賃貸・管理事業、分譲事業、コンサルティング事業なども行う。