人事のホンネ

ジェーシービー(JCB)

2021シーズン⑧ ジェーシービー(JCB)《前編》
ESなし志望動機も聞かない 誰でも参加可1dayワークには1万人超!

人事部 採用・研修グループ 主任 志賀雄太(しが・ゆうた)さん、大阪支社 人事部 人事グループ 木村和幹(きむら・かずき)さん

2019年11月27日

 人気企業の採用担当者に直撃インタビューする「人事のホンネ」の2021シーズン第8弾は、ジェーシービー(JCB)です。1dayのワークショップは口コミ効果で年間1万人超が参加。本選考はエントリーシートなし、面接では志望動機を聞かないなど、他社とはひと味違う選考をしています。その狙いは?(編集長・木之本敬介)

※主な回答者は志賀さん(写真左)。木村さんの回答のみ(木村)と表記しています。

■採用実績と職種
 ──2020年卒の採用はどうでしたか。
 学生の動きが早くなり、2018年夏に行ったインターンシップの申し込みが非常に多くて驚きました。
 2020年卒の内定者は110人(男性54人、女性56人)。2019年春の入社は86人(男性33人、女性53人)でした。文系、理系いずれも歓迎ですが、これまでのところ大半が文系です。
 事業拡大にともなって採用枠を広げました。2021年卒採用は未定です。

 ──募集職種の「総合職群(G職)」と「習熟職群(S職)」って何ですか?
 「G職」はいわゆる総合職です。70以上の幅広い部署があるうえ、ジョブローテーション制なので、「ずっと営業」「一生システム」というキャリアは非常にまれです。若手だけでなく、中堅になってもジョブローテーションを繰り返しながら幅広い領域でキャリアを積むのが特徴です。
 最終的には、マネジメントだけでなく特定領域に特化したキャリアを選択することもできます。新卒時には判断できないので、経験を積みながら適性に合わせて「高度専門職」というポストを目指す働き方もあります。

 ──「S職」はいわゆる一般職?
 「エリア総合職」に近いと思います。G職と大きく違うのは転勤をともなう異動がないことです。東京エリアで採用されたら他エリアへの異動はありませんが、G職と同じように能力を発揮してもらいます。
 2020年卒111人のうち、G職が77人、S職が33人です。2019年卒はG職60人、S職26人でした。

 ──入社後に「G職」と「S職」の転換はできますか。
 職群の転換制度があり、毎年実績もあります。たとえば、結婚・出産といったライフイベントに合わせてG職からS職への転換や、入社後に自身の活躍の幅を広げるため、S職からG職へチャレンジする社員もいます。

■インターンシップ
 ──インターンシップについて教えてください。
 7月から1dayワークショップを実施しています。申し込みが年々増えて、冬までに参加者は1万人を超えます。東京では1回200人規模、大阪は100人規模で、それぞれ年間を通じて数十回規模で開催しています。
 ホームページやネット上の書き込みなど、「間接情報」はスマホでたくさん取れる時代です。だからこそ、リアルな接点から得る「直接情報」を多く持ってほしいと考え、マイページから応募すれば誰でも参加できる形式をとっています。

 ──選考しない?
 しません。その後に行う3daysインターンシップは選考型で、1dayワークショップはその入り口です。まずは一度遊びに来て、何か感じるものがあれば、ぜひ選考型のインターンに応募してもらいたい。
 内定者やインターン参加者に「どうしてうちに来たの」と聞くと、一番多いのが「口コミ」です。「先輩から聞いた」「友だちに誘われた」という学生の声をたくさん耳にします。予約のみで誰でも参加できる1dayワークショップが「きっかけ」になるケースが多いようです。

 ──複数日程のインターンの規模は?
 2019卒対象は9月と12月に東京、3月に東京と大阪で1回ずつ、5daysのインターンを計4回行いました。こちらは1回50人程度です。
 参加希望の声をたくさんいただき、できるだけ多くの学生の皆さんに参加機会を提供できるよう、2020卒対象は、3daysにして6回に開催数を増やしました。

 ──それぞれの内容は?
 1dayワークショップは3時間半しかないので、JCBの事業や働く社員の思いをグループワークを通じて知ってもらいます。秋の1dayワークショップではボードゲーム形式で遊び感覚で競いながら、決済事業における当社の立ち位置や、他社との関係性を疑似体験します。
 3daysインターンシップは、世界をフィールドにした新規事業の企画立案です。人事部の担当者が、学生に3日間付きっきりで仕事への向き合い方を指導しフィードバックします。「対学生」ではなく「対部下」「対後輩」と同じ意識で、ときに厳しく、ときに励ましながら一緒に走ります。「一つのプロジェクトを君たちにまかせる」という形で、スケジュールから自分たちで考え、必要な情報は自分たちで取ります。

 ──ワンデーは1万人超で、3daysは200~300人ですね。どうやって絞るのですか。
 1dayワークショップ参加者にWEB適性検査を受けてもらい、通過者をグループディスカッション(GD)で選考します。

 ──本選考では、3days参加者を優遇しますか。
 2020年卒では参加者の面接回数を少なくしました。通常は、①グループ面接 ②GD ③管理職面接 ④最終面接の4ステップですが、①と②を省略しました。

決済通じ事業者・ユーザー巻き込むビジネス どこまでいっても「人」

■エントリーと適性検査
 ──2020年卒採用のスケジュールを教えてください。
 2月までインターンをして、3月4日から東京、大阪、札幌、仙台、名古屋、福岡で企業説明会をたくさん開きました。選考に進むには説明会参加が必須です。プロジェクト動画などを取り入れて現場のイメージを伝えました。
 留学中やスケジュールの都合で直接参加できない学生に向けには、WEB説明会も実施しています。実際にWEB説明会経由で当社に内定した学生もいます。

 ――エントリーシート(ES)を見せてください。
 当社は「直接しっかり会って、人と人で」という考えなので、ESはありません。

 ――えっ! いつなくしたのですか。
 昔からありません。「人で判断したい」ということに尽きます。決済を通じて、さまざまな事業者、ユーザーを巻き込んでビジネスする会社です。どこまでいっても「人」だし、社員が誇り。活字ではなく、直接会ったときの感性を大事にして仲間集めをしたいんです。
 ただ、何もないと面接でゼロから聞かないといけないので、ちょっとした自己紹介を書くWEB履歴書に、経歴、学生時代に力をいれたこと(ガクチカ)、強み、弱みなどを書いてもらいます。あくまで面接のツールで、選考の判断には使いませんから安心してください。

 ――エントリーのフローは?
 説明会に参加後、G職かS職かを選んでWEB適性検査を受けます。2020卒採用では、説明会参加から「5日以内」にマイページで適性検査を受けてもらいました。最後の期限は3月末で、4月末からグループ面接、GDを始めました。

 ──「5日以内」は短いですね。決断を迫るのですか。
 「皆さんの機会を平等にするため」です。当社の選考フローに乗るには、企業説明会の参加が必須です。学生の皆さんも説明会を聞いて「受ける」「受けない」を判断するため、3月末締め切りとかにすると、遅く参加した学生の受検期限が短くなってしまいます。学生もこの時期はとても忙しいので、説明会に参加するスケジュールによる不平等を避けるため、一律「5日以内」としています。

 ――適性検査で面接に進む人を決めるのですね。
 すべての人と会いたいが、なかなか難しい。ここは頑張って一つハードルを越えてほしいと思います。

 ──自宅でのWEB適性検査だと誰が受けたか分かりませんよね。
 学生を信じています(笑)。テストセンター受検にしないのは、学生の負荷を減らすためと、一度受けたものを各社使い回すのではなく、JCBにしっかり向き合ってほしいからです。マイページからJCBの採用試験だけのために受けてもらいます。

最終面接前に「面談」で迷いや不安、本音聞く

■志望動機と面談
 ──面接の特徴は?
 当社の面接では志望動機を聞かないことでしょうか。

 ──えっ? ずっと聞かないのですか。
 最初から最後まで聞きません。知りたいのはパーソナリティーです。志望動機を聞いても、学生のパーソナリティーが見えるとは限りません。その分、今まで何を頑張って、どんな思いで過ごしてきたか、今何を考えているかを聞きたい。「今後のキャリアをどう考えているの?」「だからJCBを選んでくれたんだね」と話が広がるうちに志望動機に話が及ぶことはありますが。

 ──志望動機を聞かないメリットってありますか。
 答えが準備できるような質問より、エピソードや学生時代の活動についてしっかり聞いたほうが学生のことを判断できます。加えて、内定者や選考中の学生からは「志望動機を聞かないのがJCBの良さだと思う」との声を聞きます。就活中の一時的な考えではなく「人としての自分の考えを聞こうとしている」と感じるようで評判が良い。「志望動機を聞かない」ことも、先輩からの口コミでわりと有名みたいです。

 ──お二人のときも聞かれなかった?
 2012年度入社の私のときも聞かれませんでした。
 (木村)私は2015年度入社です。「とはいえ、聞かれるかもしれないな」と思って一応用意しましたが、そのまま持って帰りました(笑)。

 ──多くの会社は、志望動機から「熱意」を確かめます。
 熱意は必要ですが、志望動機でなくても確認できます。面接の最後に「何でも思うことを言って」という時間を作ると、そこで熱意をPRする学生もいます。
 (木村)2020年卒採用では、最終面接の前、全員に人事部員が30分ほど「面談」しました。不安なこと、迷っていることを言ったり、何でも聞いたりできる場です。「働く覚悟」を持ってもらうためです。

 ――「面談」では評価はしないのですね。
 就活では、一気に駆け抜けてしまう学生が多いと思います。そこで、途中で息を整えてコミュニケーションをしっかりとる場を設けました。JCBというフィールドで働きたいのか、JCBの社員と働きたいのか、本当に入社したいのか……、考えを整理する機会です。
 一番の理由は、学生の本音を聞きたいから。面接の場では評価されたいし受かりたい。志望度を聞けば「御社が一番です」となりますよね(笑)。でも嘘はついてほしくないし、JCBに分からないところがあれば解決したうえで最終面接に臨んでほしい。そのためには選考に関係ない場が必要。「仕事のイメージが湧かない」と言われれば現場の社員に会ってもらい、JCBに限らず就活の相談にも乗ります。

 ──面談の効果は?
 無理に決断を迫る必要がなくなりました。面談次第で最終面接の日程を柔軟に変えました。面談後に自分の思いを消化して「JCBに本当に行きたい」となれば最終面接をします。逆に「まだ整理できない」「本気で向き合えない」「まだ他社も受けてみたい」ということなら待ちます。内定者からも、内定しなかった学生からも「面談でしっかり話を聞いてもらえて気持ちの整理ができ、ありがたかった」という声をたくさんもらいました。面談を通じて企業理解を深め自身とのマッチングを再確認した結果、最終面接を受けない選択をした人もいますが、それはそれで良かったと思います。
後編に続く)

(写真・大嶋千尋)

みなさんに一言!

 「全力でやってほしい」が一番のメッセージです。学生の皆さんにも「転職」というキーワードが当たり前になり、多様なキャリアを積むことを思い描く方もいると思います。ただ、当面の「ファーストキャリア」として選んだとしても、その会社に3年から5年いるでしょうから、最初の仕事の選択はその後に大きな影響力を持ちます。決して短期的な選択をしているわけではなく、10年、20年、もっといえば40年、その先の生き方を選ぶのが今なのだと思います。ですから、自分のこととしてしっかりとらえ、変に効率的、合理的に考えるのではなく、「感覚」も大事にして就活してほしいと思います。(志賀さん)

 大事なキーワードは「し続ける」ですね。就活は長期化していますが、それでも長い人生から見れば一瞬です。「疲れたから休憩しよう」という学生もいると思いますが、動き続けることが大切です。私は就活前の世界一周で、世界を見たことが大きな経験になりました。自分の足で動き続け、考え続けることは、社会人になっても必要な能力です。日ごろのふとしたニュースから「自分だったらこうするな」と考えるのも、良い練習になると思いますよ。(木村さん)

ジェーシービー(JCB)

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