人事のホンネ

JR西日本(西日本旅客鉄道)

2021シーズン④ JR西日本(西日本旅客鉄道)《前編》
ホテル、IT、運転士…多彩な職種 インフラ支える「使命感」必要

人事部(労務・厚生・健康) 蒲 拓郎(がま・たくろう)さん 伊地知 平(いぢち・たいら)さん

2019年10月02日

 人気企業の採用担当者に直撃インタビューする「人事のホンネ」の2021シーズン第4弾は、JR西日本(西日本旅客鉄道)です。日本を代表する鉄道会社ですが、不動産、ショッピングセンター、ホテル、飲食などなど、実に多彩な職種が。ただ、どの仕事にも共通するのは、インフラを担う「使命感」だそうです。(編集長・木之本敬介)

■2020年卒採用
 ――お二人の役割分担を教えてください。
 蒲さん(写真右) 私は前年まで「総合職」担当でしたが、今は「プロフェッショナル職」を担当しています。
 伊地知さん(写真左) 私は今年、人事部に来て総合職担当になりました。

 ──2020年卒の採用はいかがでしたか。
 蒲 早期化が進みました。非常に早い段階から学生が企業研究をし、選考慣れしている印象を受けました。3月1日を待たずして「出来上がっている学生」が多いと感じました。ただ、JR西日本は鉄道というインフラ企業なのでイメージしやすい一方、利用者として知っている仕事は一部で、学生にはなじみの少ない技術系の仕事や事務系の仕事もあります。就活が早まると、「知っているがゆえに分かった気になっている」部分があるかもしれません。

 ──内定者数を教えてください。
 蒲 内定者は、総合職約110人、プロフェッショナル職の四大・短大卒生が約300人です。男女比は75%対25%。あらゆる分野で女性が活躍しています。
 プロフェッショナル職には「運輸」と「技術」があります。「運輸」には運転士コースと駅務コースがあり、女性比率を40%以上にしようとしています。

 ──文系・理系で応募できる職種は限定されていますか。
 伊地知 どの職種についても全学部・全学科を対象としています。プロフェッショナル職の「技術」の内定者にも文系の学生がいるので、文系・理系問わず、いろんな人に受けてもらいたいと思っています。
 蒲 文系出身でも多くの社員が「技術」で活躍しています。当社には鉄道固有の技術が多く、鉄道車両や電気、施設に関する知識などを学生時代に専門的に学んでいる人はまずいません。だから入社後の教育に力を入れていて、研修センターで一から鉄道固有の技術を学びます。

 ──2019年春入社の実績は?
 蒲 総合職136人、プロフェッショナル職の四大・短大卒生は297人でした。

■職種
 ──総合職もプロフェッショナル職も職種が細かく分かれているそうですが、いつ決まるんですか。
 伊地知 総合職には「事務系」と「技術系」があります。募集は一括で行い、エントリーシート(ES)などで希望職種を聞きます。
 事務系には「鉄道」と、不動産、ショッピングセンター、ホテル、駅ナカの物販・飲食などを手がける「創造」があります。技術系には、「運輸」「車両」「施設」「電気」「IT」があり、「施設」はさらに「土木」「建築」「駅機械システム」と分かれています。配属は入社後に決めます。
 蒲 プロフェッショナル職には「運輸」と「技術」がありますが、大卒の場合、募集は一括です。選考の過程でどんな働き方をしたいか本人の希望を聞き、内定の段階でどちらかに決まります。「運輸」はさらに「駅務」「運転士」、技術は「車両」「施設」「電気」という専門職に分かれますが、こちらは入社時に正式決定します。

 ──運転士は子どもの憧れの仕事ですが、「大卒運転士」も多いのでしょうか。
 蒲 今は大卒のほうが多いですね。「高卒より大卒」を優先的に採用しているわけではなく、大卒の応募者が多いためです。

「学業がJR西日本でどういかせるか」書いて

■インターンシップ
 ──インターンシップについて教えてください。
 伊地知 ワンデーかツーデーの短い期間で、細かく分かれた系統ごとに行います。1回20~40人程度で、3~4回実施します。系統によっては大阪だけでなく東京などでも行い、昨年度の参加者はトータルで約800人です。

 ──インターンはどんな内容ですか。
 伊地知 当社の概要や、そもそもの鉄道のことについて伝え、実際にどんな働き方があるのかを先輩との座談会で知ってもらいます。さらに、グループワーク(GW)で、たとえば「人口減少でお客様が少なくなる中で、鉄道の利用者を増やすためにはどんな営業施策をとるべきか」といった課題に取り組んでもらいます。技術系の一部は施設見学もします。「車両」なら、網干(あぼし、兵庫県姫路市)や博多にある新幹線の車両基地で仕事を感じてもらうカリキュラムがあります。

■採用スケジュール
 ──経団連主導から政府主導に変わる「就活ルール」についてはどうお考えですか。
 伊地知 私は「学生の間にできることをやろう」と考えて、いろんな価値観を知るために旅行やアルバイト、学業にも打ち込みましたが、今の学生は就活早期化にともなって、そうした時間が少なくなっているのかもしれません。一方で、学生が本当に行きたい会社を見極めようと早めに動いて企業理解を深め、企業との相互理解が深まるのは良いことだとも思います。

 ──2020年卒採用では、3月1日の広報解禁の後、ESの締め切りはいつごろでしたか。
 蒲 総合職は3回に分けて3月中旬、3月下旬、4月上旬と、前年より早めました。早めに出したら有利ということはありません。
 プロフェッショナル職の締め切りは4月下旬の1回だけ。「夏季採用」も行いました。

■エントリーシート
 ──ESを拝見します。総合職のESに「あなたが学生生活や学業で取り組んだことを具体的に書いてください。その経緯をJR西日本にどのようにいかしたいと思いますか」とあります。あえて「学業で」を入れたのはなぜ?
 蒲 ただ「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」を聞くと、サークル、アルバイトなどが多くなり、学業のことを書く学生は少ない。それでも人となりは分かりますが、みんな似た内容になりがちです。自由にアピールしてもらうため、今回から、学業とサークルなど学業以外に取り組んでいることの二つの切り口を設けました。

 ──学業も似たり寄ったりの内容になりませんか。
 蒲 いえ、非常に面白いことを学んでいると感じますよ。たとえば、街づくり、人と人との関係づくり、語学を通した異文化交流などさまざまです。同じような内容になることはなく、「学業がJR西日本でどういかせるか」も踏まえて書いてくれているので思いを感じます。
 以前は「ガクチカ」「そのいかし方」に加えて、「自分の人となりを自由に表現してください」でしたが、「学業」にテーマを絞ることで、少しでも学生の皆さんが書きやすいエントリーシートになればと思い、変更しました。

 ──総合職の志望動機はどんなものが多いのでしょう?
 伊地知 日々多くのお客様にご利用いただくインフラなので、「鉄道が小さいころから好き」といった当社に親近感を感じてくれる学生もいれば、「日々利用する中で社会を支える重要性を感じる」など当社の社会的使命に共感してくれる学生もいるなどさまざまです。

 ――どのようにして、ESの良さを判断しているのですか。
 伊地知 一概にどんなESが良いというのはありませんが、批判的にというか、良い意味で「ここを改善すべきだ」と厳しく言ってくれる学生も必要と考えています。自分ならこうしたいというような思いは印象に残ります。
 面接で当社に対する具体的な改善点をあげる学生もいました。たとえば、訪日外国人のお客様に対するアプローチの仕方を提案した学生がいました。ひとくくりに「訪日外国人のお客様」と捉えるのではなく、「それぞれの旅行目的に合わせた特典つき切符を売ってはどうか」との提案でした。当社に関わる社会環境の変化をしっかりと把握したうえで、具体的な提言までしてくれたので、より当社に対する思いを感じました。

 ──プロフェッショナル職の志望動機は「運転士に憧れて」が多い?
 蒲 総合職と同様、学生によってさまざまです。昔からの憧れであったり、インフラとしての社会性であったり、「地域の鉄道を担う使命感にひかれた」という学生もいます。

 ──プロフェッショナル職のESには、希望系統、併願の欄があります。
 蒲 運輸の中に「運転士」「駅務」、技術にも「車両」「施設」「電気」と業務がたくさんあるので、学生が何に興味を持っているかを書く欄です。たとえば「運輸」を選んだ人は、第1希望が「運転士」なのか「駅務」なのか。併願で「運輸」を選んでいるが「技術」も併願するのか。「技術」についても第1希望は「車両」「施設」「電気」のどれか。そういったことを書いてもらいます。

 ──希望エリアとは?
 蒲 当社の仕事はJR西日本の全エリアが対象ですが、プロフェッショナル職はキャリアステップの過程で一定のエリアに根ざして働きます。エリアは、金沢、京阪神、北近畿(福知山、豊岡、舞鶴、篠山の周辺)、和歌山・泉南、山陰、岡山、広島、福岡です。どのエリアを希望しているかをESの段階で聞きます。

「鉄ちゃん」も、そうでない人も歓迎

■求める人物像
 ──総合職とプロフェッショナル職で「求める人材」は違いますか。
 蒲 共通するのは「使命感」です。インフラ企業なので、地域交通も含めて担っていく、社会性の高い仕事をする使命感です。
 加えて、総合職には会社のこれからの変革、経営に関わってもらいたいので、「覚悟、志、経営視点、創造力、推進力」が必要です。プロフェッショナル職は「誠実、挑戦、リーダーシップ」ですね。

 ──学生にどんな「経営視点」を求めるのですか。
 蒲 目の前の目標だけでなく、中長期的な目標や全体最適をしっかり考えられることが経営視点に繋がると考えています。

 ──志望者には「鉄道オタク」が多いのでしょうか。
 蒲 こちらから「鉄ちゃんですか」と聞くわけではないので分かりませんが、鉄道好きの学生もいると思います。学生からは「鉄ちゃんは採用しないんですか」とよく聞かれますが、明確に「そんなことはないよ」と言います。趣味として鉄道を好きであることとビジネスマンとしての仕事ぶりは完全に別ですから。
 実際の仕事では、鉄道好きが仕事のスキルアップにつながることもあります。たとえば、お客様から駅名や車両について聞かれたとき、それらの知識を有していればそれだけで仕事が早くなります。時と場合を見極めて、その知識をビジネスにいかしてもらえれば、その人の力になります。

 ──お二人は「鉄ちゃん」?
 蒲 いわゆる鉄ちゃんではないかもしれませんが、飛行機や車より鉄道が好きで、プラレールが好きでした。
 伊地知 僕は違うかな。社員もいろいろです。鉄ちゃんもいるし、逆に「車で移動するほうが好き」という人もいます。そういう人のほうが鉄道と車の違いを客観的に理解できるので、どちらにも良い面があると思います。「どうやってビジネスにいかせるか」が重要です。
後編に続く)

(写真・MIKIKO)

みなさんに一言!

 大事なのは「自分らしさ」です。いろんなものを見て、いろんな情報を集めて、惑わされることもあるかと思います。でも、大事なのは自分が何をしたいか、それを就職で実現できるか。それを実現できる会社と出会うことです。自分を会社に合わせる必要性はありません。会社の規模でも収益でもなく、自分の本当の姿と合う会社に出会って就職するのが、間違いなく一番幸せな就活です。「就活は入り口」だと、働き始めて実感しています。(蒲さん)

 就活生は忙しいと思いますが、目標や目的意識を持って進んでもらいたいと思います。周りに言われてセミナーに出ることもあるかもしれませんが、その繰り返しでは日々が過ぎていくだけ。「明日のセミナーでは隣に座った学生の就活状況を聞いて自分の位置を確認してみよう」とか、「次は就活セミナーに参加している社員と話して自分の就活の軸を聞いてもらおう」とか、何か目的意識をもって臨まないと、就活は意外とすぐに終わってしまいます。日々の目標を持って、1日1日を充実した就活にしてもらえればと思います。(伊地知さん)

JR西日本(西日本旅客鉄道)

【鉄道】

 JR西日本は鉄道を中心とした事業を展開しており、安全を第一に、お客様から安心、信頼していただける企業となることをめざした事業運営を進めています。また、毎日約500万人ものお客様にご利用いただいている鉄道ネットワークや約1200もの「駅」という拠点を活かし、さまざまなビジネス(物販・飲食、ホテル、ショッピングセンター、不動産など)を展開することで、地域の発展や活性化に貢献しています。