人事のホンネ

大日本印刷(DNP)

2021シーズン② 大日本印刷(DNP)《後編》
「紙にインク」だけじゃない 「情報を届ける」幅広い仕事

人財開発部 採用・キャリア育成グループ 中村瑞穂(なかむら・みずほ)さん 飯田拓(いいだ・たく)さん

2019年09月11日

 人気企業の採用担当者インタビュー「人事のホンネ」の2021シーズン第2弾、大日本印刷(DNP)の後編です。印刷会社と聞いて「紙とインク」しかイメージできない人はいませんか? 事業領域を見るとカタカナだらけで、新しいことをたくさんやっているようです。いったい何の会社?(編集長・木之本敬介)
(前編はこちら

■アンテナ
 ──世の中への関心、アンテナを張ることは大事ですか。
 中村 絶対に大事ですね。「何にでも興味を持ってみる」「とりあえず見てみる、やってみる」と、世の中の変化に敏感になることは大事です。会社で仕事ばかりしていても新しいことは生まれません。たとえば、18時に仕事が終わって飲みに行くと「水曜日って18時に居酒屋がこんなに混んでるんだ。ノー残業デーが広まっているからビール会社に新たな提案をしてみよう」と考えてみる。
 平日に早く仕事を終えてカラオケに行ったらカラオケ店がすいていた。カラオケでは女性も思い切り歌うから冬でも汗をかき、化粧が落ちたり髪のカールが取れたりします。空いている部屋を化粧品メーカーや美容家電メーカーに貸し出して、新商品をまず使ってもらう提案をしてみようとか。「仕事のアイデアは仕事ばっかりしていても出ないよ」と学生に言っています。

 ──世の中の変化に敏感かどうかの判断は?
 中村 学生の志向はなかなか測れないので、私たちが求めるものを言い続けるしかありません。そこに共感してもらえる学生は、DNPに合うんだと思います。
 私たちは子どものころから「時間割」を基準に、みんなと同じ行動をすることに慣れてしまっています。ただ仕事はそういうわけにはいきません。誰も指示してくれないし、決めてくれないし、毎日自分で考えて動かないといけません。だから、「やって」と言われたことだけをひたすらやり続けることに喜びを感じる学生は、そもそも当社を選ばないですね。

■何の会社?
 ──事業分野を見ると、「マーケティングコミュニケーション」「情報セキュリティ」「イメージングコミュニケーション」「生活空間マテリアル」など、印刷会社とは思えない展開をしています。いったい何の会社ですか。
 中村 印刷会社です(笑)。みなさんは「紙にインクを乗せるのが印刷」と思っている。「印刷」という言葉の受け取り方にギャップがあると思うんです。私たちは印刷技術を活かして、たとえば再生医療の事業も行っています。印刷は幅広いんです。

 ──すいているカラオケ店の活用法を提案するのも印刷?
 飯田 「情報を届ける」のが印刷の仕事なんです。カラオケ店の例も、紙には印刷しませんが、「場所の有効活用」という情報を企業に届けて、一緒に新しい価値をつくっていく我々の仕事です。次のステップとして、カラオケ店を利用する人に「化粧品サンプルや美容機器がありますよ」という情報を届けなくてはいけません。
 本は単なる印刷物ではなく、情報を伝える最先端技術でした。今はネットですね。時代を経て見せ方は変わりますが、印刷会社は印刷会社です。

 ──「伝える」「広める」会社なんですね。
 中村 私たちの強みは「P&I(Printing&Information)」にあります。学生からは「紙の本が売れなくなったからいろんなことを始めたんだな」と思われるんですが、「軸は印刷」ということはブレていません。ずっと変わっていないのです。
 飯田 昔から幅広くいろんなことをしていました。「紙とインクだけ」という概念をはずしてもらえれば。

 ──学生に伝わりますか。
 中村 「印刷会社か。紙でしょ、ないな」と学生にシャットダウンされてしまったらもう無理ですね。そこで、学生が企業を絞る前からインターンシップを行ったり、説明会を行ったりしています。まだ学生が「とりあえず、いろんな会社のことを知っておこう」という時期ですね。本格的な就活モードになると、行きたい会社のことしか聞いてくれなくなるので。

広告会社は「空中戦」、印刷会社は「地上戦」 売り場の情報発信が得意

■人気ランキング
 ──2020年卒生のあさがくナビ就職人気企業ランキングでトップ10入りし、9位でした。
 中村 早期告知でやっと事業内容や仕事の面白さが浸透したのかな。「本が好きです」という一部の学生ばかりでなく、いろんな学生が来てくれています。ただのイメージやうわさだけでなく、ちゃんと自分の目で見て自分で考える学生が増えたのかもしれません。1回でも合説に来てくれれば、学生の印刷会社に対するイメージを崩す自信があります。最初に期待していなかった分、興味の伸びしろは大きい。

 ──広告会社も幅広い事業をやっています。印刷会社との違いは?
 中村 当社はメーカーで、工場も自社製品もあるので、広告会社とは違います。ただ、「情報を届ける」というところで、似ていると感じる学生は多いかもしれませんね。
 広告会社は「空中戦」で、当社は「地上戦」でしょうか。「おいしい紅茶が新発売」というときに、テレビなどで広く告知するのは広告会社の仕事ですが、店頭で手に取ってもらわないと購買には結びつかないですよね。たまたま立ち寄ったスーパーやコンビニでも、当社がその商品を目立たせるようにしておけば、「あっ、あの紅茶だ」と買ってくれます。より購買に結びつきやすい売り場での情報発信は、当社のほうが得意かもしれません。

■やりがいと厳しさ
 ──仕事の面白さ、やりがいは?
 飯田 やりがい、面白さは「伝え方」をつくることですね。先ほどの例のようにスーパーで人々が商品に出会える方法をつくるのも大日本印刷の仕事です。伝え方を自分で考えて形にしていく面白さがあります。
 中村 文系・理系が一緒に働く面白さもあります。文系だけだと「やりたい」視点、理系だけだと「技術的にできる、できない」という視点になりがち。文理が合わさると「今はできないけど、こうすればできる」「3年後ならできるかもしれない」という強みになるので、掛け合わせの面白さが出てきますね。

 ──厳しさ、難しさは?
 中村 その裏返しです。文系・理系は生きてきたバックグラウンドが全然違うし、持っている知識も違います。異分子が一緒に何かをするのは、口で言うより何倍も大変です。
 営業について言うと、ビールやお菓子のようにもともとあるモノを売っているわけではない。「じゃあ、どうつくっていく? どう実現させていく?」から始めるので、当社の営業は「仕事を取る前より、取った後がめちゃくちゃキツい」と言います。既存の商品を売るメーカーの営業は、商品を売ったら発注書を発行して終わりということも多いと思いますが、当社の営業は、そこからチーム一丸となってモノ作り・コト作りを開始していきます。いろんな専門知識を持った人を巻き込みながら、川上から川下まで船頭をするので大変です。
 でも、よくドラマで見るような売り上げ成績のグラフを社内の壁に貼るようなことはないし、「みんなでチームになって何か面白いモノをつくりたい」「世の中に何か新しい価値をつくり出したい」と思う学生は来てくれます。

時間つぶしに入った説明会で「私、ここだな」

■就活と印象的な仕事
 ──お二人はなぜこの会社に?
 中村 私は2006年入社で、50~60社にエントリーするのが当たり前な時代でした。今でこそ当社はCMを流したり、広告を出したりして、知っている学生も増えましたが、当時はまだまだ学生の中では知る人ぞ知る企業。実は私は知りませんでした。学内説明会で某家電メーカーの説明を聞きたかったけど満席で、隣の大日本印刷の教室は席が空いていました。「立ち見は大変だから、ここで時間をつぶして家電メーカーの次の回を待とう」と。期待していなかった分、面白くて……。「私、ここだな」と思って家電メーカーの説明は聞かずに帰ったのを今でも覚えています。
 飯田 入社は2008年で、当社がルーブル美術館と新しい美術鑑賞体験の仕組みをつくる共同プロジェクトを打ち出していた時期です。情報系の大学院にいて、「情報を使って新しい意見をつくる」「情報をより分かりやすく相手に伝える」ことに興味がありました。売り手市場だったこともあり、やりたいことに絞って、受けたのは3~4社です。大日本印刷の選考が早く、最初に決まりました。

 ──印象に残っている仕事を教えてください。
 中村 最初、営業部に配属され、2011年から人財開発部です。営業部では飲料メーカーの営業担当で、クライアントが発売する商品をいかに魅力的に伝えるか、が私の仕事でした。具体的には、ポスターの印刷だけでなく、キャンペーンの企画や商品の年間販促計画を立てるなど、時間に追われて大変なこともたくさんありましたが、楽しい仕事でした。自分が好きな仕事や楽しい仕事ができたし、社長賞を取るような仕事にも関わらせてもらえました。
 今でも鮮明に覚えているのは、1年目の夏に1人で行った工場での印刷立ち合いです。ポスターなんて、印刷機のボタンを押せば簡単に出てくると思っていたのですが、思い通りの色が全然出ない。9時間たっても刷り上がらない。どうしていいか分からず、工場でひたすら泣いていました。深夜0時までいましたが、終電の時間でタイムアップ。とりあえず帰宅し、翌朝出社すると完璧な刷りあがりのポスターが机の上に置いてありました。工場の人が徹夜で他の印刷機を止めて仕上げてくれてたんです。これは美談ではなく、営業として絶対にやってはいけないこと。自分への戒めになりました。それと同時に、工場の人に対するリスペクトや、メーカーに勤めている誇りを感じた、私のDNP人生の原点となった出来事です。

 ──飯田さんは?
 飯田 最初は企画開発で、4年間ほど顧客の持つ商品データベースを設計・導入していました。その後、研究部門でAR(拡張現実)やVR(仮想現実)を担当。AR体験が新しい事業になると考え、ARを活用した道案内システムなどを研究開発していました。その後、新規事業の部門に移り、3年前から採用を担当しています。
 印象に残っているのは、駅や商業施設で人が自然に目的地にたどりつける道案内システムを考えたことです。駅や大型商業施設などにいるとき、行きたい場所を入力したり、チケットをかざしたりすると「○○線に乗り換えてください」という情報が出る仕組みです。BtoB事業なのでそれまでは企業の反応がメインでしたが、道案内は生活者一人ひとりのリアルな反応が分かって面白かったですね。

(写真・大嶋千尋)

みなさんに一言!

 会社に入ってからずっと一つのことをやり続けるケースは少ないので、一つの研究を一生したいなら博士課程に進んだほうがいいと思います。自分で「これしかない」と思っていても、修士の学生でも4年生からの3年間しか研究していないし、入社後の年数のほうがはるかに長い。ですから、今の研究の延長線上にある自分の思いや、自分がどこに価値を持っていくのかを考えてほしい。そのほうが人生は楽しいし、いい会社人生を送れると思います。頑張ってください。(飯田さん)

 内定がゴールだと思う気持ちも分かりますが、10年後に自分がどうなりたいかのイメージがないと、どんなに良い企業に入っても幸せになれないかもしれません。まずは就職活動という機会に、しっかり自分と向き合って、自分が将来どうなりたいかを考えてみてください。そして、そんな自分を実現するにはどう生きればいいのか、何をしたらいいのかを落とし込みながら企業選びをしてほしいと思います。(中村さん)

大日本印刷(DNP)

【印刷】

 DNP大日本印刷は、約3万社の顧客企業や生活者に対し、幅広い事業分野で多様な製品やサービスを提供する世界最大規模の総合印刷会社です。印刷(Printing)と情報(Information)の掛け合わせを強みとして、社会課題を解決し、人々の期待に応える新しい価値の創造に向けて事業を展開しています。