人事のホンネ

大日本印刷(DNP)

2021シーズン② 大日本印刷(DNP)《前編》
文理一緒に新しいモノづくり 「自分」だけのESは厳しい

人財開発部 採用・キャリア育成グループ 中村瑞穂(なかむら・みずほ)さん 飯田拓(いいだ・たく)さん

2019年09月04日

 人気企業の採用担当者に直撃インタビューする「人事のホンネ」の2021シーズン第2弾は、大日本印刷(DNP)です。「文系と理系、営業と技術系が一緒に働く、一緒に新しいモノをつくる」会社なんだとか。だから、「自分」しか登場しないエントリーシート(ES)だと、活躍するイメージが浮かばないそうです。君のESはどうかな?(編集長・木之本敬介)

■2020年卒採用
 ──2020年卒の採用はいかがでしたか。
 中村さん(写真右) 選考を通過した学生へのフォローに力を入れました。最近は「こことここに内定もらった。さてどうしよう」と、そこから考える学生が増えたので、選考を通過した学生と、1対1の面談を2~3年前から始めたんです。選考中は「どんな仕事?」「やりがいは?」と聞いてきた学生が、配属、転勤、給料のことや「こことここに内定したけど、決められない」といった悩みを打ち明けてきます。私は「ぜひDNPに来て!」という姿勢ではなく、「そもそも、どういう軸で就活してたの?」「一番大事にしていることは?」と本人が決められるように、頭の中にあるモヤモヤしたものを一緒に整理していきます。また、本人が決めるうえで必要な材料も提供しています。DNPの選考では、どんなところをどう評価したのかフィードバックしたり、具体的な働き方がイメージできていない学生には、OB・OGを紹介したりもします。
 時間も労力もかかりますが、入社を決めてくれている学生も、辞退する学生も、納得感を持って自分で決断することに意味があると思っているので続けています。残念ながら辞退した学生も、DNPで評価されたことが、これから社会に出ていくうえで自信となってくれたら嬉しいですし、当社はBtoB(企業間取引)中心の企業で、彼らが行く会社の多くは得意先企業です。DNPといつか一緒に仕事をしたいと思ってもらえるよう、お別れする場合も、“感じ良く”を心がけています。

 ──どんな会社が多いのですか。
 中村 当社は事業が幅広くて、いろんな会社と仕事をしているため、採用が重なるのも全業界です。食品、飲料、銀行、損保、保険、家電、化粧品、コンサル、広告……あらゆる業界に行きます。

 ――技術系の今年の特徴は?
 飯田さん(写真左) 推薦枠の応募が減り、自由応募が増えました。例年8割を占める推薦での採用が6~7割でした。情報過多で学生が絞り切れないからだと思います。推薦は「ここに行きたい」という強い思いがないと受けられませんから。WEBや説明会など、学生が企業に触れる機会が多く、「受けようかな」という企業がどんどん増えてなかなか絞れない。何社か受けながら選ぶ人が増えたように思います。

■採用実績と就活スケジュール
 ──採用実績を教えてください。
 飯田 2019年春の入社は、事務系96人、技術系92人、デザイン系9人の計197人。男性6割、女性が4割です。理系は8~9割が院卒です。
 2020年卒の内定者数は、事務系96人、技術系95人、デザイン系若干名の見込みです。デザイン系は主に美大出身者です。

 ──就活ルールが形骸化し、「新卒一括採用から通年採用へ」とも言われます。大学1~2年生に内定を出す会社もあります。通年採用導入の予定は?
 中村 3月の卒業時期は変わらないので、中途採用のような通年採用にはならないと思います。今も事務系は3月にエントリーを開始して、8月まで半年間採用しています。若いときは毎日いろんなものを吸収し日々成長していますから、考え方も変わってきます。19歳のときに行きたい企業と、22歳になったときに行きたい企業も当然変わると思います。

 ──エントリーの受付回数は?
 中村 事務系は3回です。1期が4月中旬、2期が5月末、3期が7月中旬の締め切りです。
 3期は海外留学から帰国する学生のために設けていますが、留学していない学生も来ます。「どうして?」と聞くと「内々定は持っているけど、よく考えると違うかもしれない」と自分の可能性を探っている学生が多い。「本当に3月に情報解禁、6月に内定だと思っていた」という学生や、体育会系の学生も来ます。体育会系は春の就活時期が大会とドンピシャなので。「自分は高値で売れる!」と思っていたのに惨敗した学生は、反省してきちんと自己分析や企業分析をして来ます。ユニークな学生に出会えるのでやって良かったですね。

 ──技術系のエントリーの時期は?
 飯田 大学によって推薦状を発行する時期が違うので、それに合わせて3月から6月上旬まで受け付けていました。

何を見て課題解決にどう行動したか、分かりやすく書いて

■インターンシップ
 ──インターンシップについて教えてください。
 中村 当社はインターンの定義をきちんと守り続けている会社のひとつだと思います。事務系は学年・学部不問で、インターンが選考ルートになっていることもありません。1~2年生にもむしろ来てほしいと思っています。実際は3年生が多いのですが、誰でもウェルカムです。
 2019年の夏はワンデーインターンシップを実施しました。社員が主導するワーク形式で、1回35~40人。夏だけで400~500人で、冬も同じくらいの人数を受け入れる予定です。「新しい価値を創出する印刷会社って面白い」と思ってほしいので、当社のつくり出している価値を丁寧に説明してワークにつなげています。

 ──技術系のインターンは?
 飯田 職場体験をしています。ほとんどの学生が研究職志望ですが、研究だけで会社は成り立ちません。「研究以外にもこういうことが世の中に必要なんだ」と、現場を分かってもらいたい。研究でも他のメンバーとの協力が必要です。「研究ってラボにこもるものではないんだな」と分かれば、当社だけでなく他社に行っても役立ちます。
 夏が2週間、冬は1週間で1回30~40人です。書類選考と面接で決めます。実際に職場に入るので、本人の資質を見たいし、思いが壮大すぎる学生には「それは期待しすぎだよ」と抑える目的もあります。

■ES
 ──2020年卒採用のエントリー数は?
 中村 会員登録(プレエントリー)が約2万人で、本エントリーは事務系が3000人くらいです。
 飯田 技術系は本エントリーが500~600人です。

 ──ESはWEB入力ですね。事務系は「学生時代に最も力を入れたこと」(ガクチカ)が800字も!
 中村 他社でも当たり前に聞かれる内容なので、あまりストレスにはならないと思います。コピペできますからね(笑)。よく学生から「留学やボランティアをしていません」と相談されますが、派手なエピソードは一切必要ありません。アルバイトやサークル活動でも、良いと思う学生はたくさんいます。内容が大事です。
 たとえば、登場人物が「自分」しかいないエピソードは厳しいです。当社は職種は分かれていますが、文系・理系が一緒に働きます。営業1人がセールストークでモノを売るわけじゃなく、全然違う能力を持った人たちが一緒に新しいモノをつくる会社です。「自分」しか出てこないESを読んでも、当社で活躍するイメージが湧かないですね。毎年数千枚読んでいると、書き方が上手だと思う学生は年々増えているように感じます。

 ──上手なESが多い中で、分かれ目は?
 中村 自分の目で何を見て、何を課題として、その解決のためにどう行動して、その結果どうなったかがわかりやすく書いてあると、その人がどんな人かイメージしやすいですね。そうすると会ってみたくなる確率は高くなります。

 ──技術系のESの「研究テーマの内容」は1000字ですか!
 飯田 学会に論文を出している学生にとってはそれほど多い文字数ではないと思います。分かりやすく書くことが大事です。自分のすごさをアピールしたい気持ちは分かりますが、ESなので初めて読む人のことを考えてほしいですね。

 ──「自分自身を売り込むキャッチフレーズ」の欄があります。狙いは?
 飯田 他の欄が比較的コピペしやすいテーマなので、1カ所くらいは考えてもらおうと設けました。自分はどんな人間で、「みんなの中でこういう立場です」という点をキャッチフレーズ化してもらえれば。面白いかどうかより、その理由を知りたい。1人だけでの活動しかしていない学生は難しいですね。主役である必要はないし、「潤滑油」のようなフレーズを期待しているわけでもありません。チームのどういう立場で、どういうことに気を使える人かを見ています。
 自分を認識したうえでどう行動しているか、周囲をどう気にして行動しているかは、会社で研究や技術に関わる仕事をするときに関係してくるので、普段からできているかを知りたい。「先生に言われてやっています」「みんなが言うから従っています」ではなく、「みんなの状況を考えて、自分はこう意識しています」という人が会社でも活躍してくれると思います。

 ──研究内容は仕事に直結しますか。
 飯田 必ずしも直結はしません。世の中が大きく変わっていく中でDNPが大事にしているのは研究そのものより、世の中のことに疑問を持ち、課題を解決するために工夫し、実際に手を動かすというプロセスです。課題を見つけて、どう対処するかを考え、主因を調べるという経験をしていれば、どんな仕事でも活躍できると思います。

派手なエピソードは不要 「なぜそう思った?」「どう行動?」「どうなった?」

■面接
 ──面接の形式は?
 中村 事務系は1次が書類選考、2次がグループワーク(GW)、3次、4次が面接です。
 GWは5~6人で正解のないテーマについて30分ほど議論をし、チームで1つの結論を出します。たとえば、「空き地があります。何をつくったら地域の人が喜んでくれますか」といった内容で、ジムか、温泉か、商業施設がいいのかを選びます。地域の情報としてグラフや住民の声などのデータを渡し、どういう軸でどう考えてどう結論を出すかを見ています。

 ──評価のポイントは?
 中村 たくさん発言すればいいわけではなく、発言の内容をじっくり見ます。たとえば、発言が少なくても、たまに発した二言三言が議論の方向性を決める大事な発言だった人は通りやすいかもしれませんね。面接官はどのタイミングで誰が何を話したかを細かく見ています。ただ単純に、進行役や書記、タイムキーパーをすれば通るというものではありません。
 今は「営業は元気があればいい」という時代ではなく、頭を使わなくてはいけません。営業にはスーパーマンとは言わないまでも、たくさんの素養が求められます。ロジカルな思考力があり、潤滑油にもなれて、リーダーシップを発揮してみんなを引っ張っていく。時間やお金、人の管理もするし、創造力やデータ分析力も必要。
 営業が舵取りを間違ったら、スタッフや技術系がどんなに優秀でも仕事は取れません。ですから、GWでの行動や、発言の中身をしっかり見ています。

 ──面接ではどこを見ますか。
 中村 3次は部長クラス2人との個人面接で20分。4次は役員との1対1の個人面接で15分くらいです。
 やはりエピソードの派手さを求めているわけではなく、ある出来事について「自分はこう思って、こう行動した」という点を見るので、個人面接ではESのガクチカを掘り下げます。「どうしてそう思った?」「どう行動したの?」「周囲の反応は?」「結果、どうなった?」と、ベテラン面接官がどんどん掘り下げるインタビュー形式ですね。「引き出してくれる」「自分を理解してくれようとしている」と思うようで学生に好評です。

 ──技術系の面接は?
 飯田 面接は2回。1次面接は学生1人対面接官2人の技術面接で45分くらい、2次面接は1対1の役員面接で15分くらいです。
 技術面接は現場の部課長クラスが研究を中心に話を聞きます。学生の研究の中身がズバリ分かる面接官とは限りません。途中で面接官の雰囲気を見て、話を合わせることも大事です。内定者からは高評価ですね。
後編に続く)

(写真・大嶋千尋)

みなさんに一言!

 会社に入ってからずっと一つのことをやり続けるケースは少ないので、一つの研究を一生したいなら博士課程に進んだほうがいいと思います。自分で「これしかない」と思っていても、修士の学生でも4年生からの3年間しか研究していないし、入社後の年数のほうがはるかに長い。ですから、今の研究の延長線上にある自分の思いや、自分がどこに価値を持っていくのかを考えてほしい。そのほうが人生は楽しいし、いい会社人生を送れると思います。頑張ってください。(飯田さん)

 内定がゴールだと思う気持ちも分かりますが、10年後に自分がどうなりたいかのイメージがないと、どんなに良い企業に入っても幸せになれないかもしれません。まずは就職活動という機会に、しっかり自分と向き合って、自分が将来どうなりたいかを考えてみてください。そして、そんな自分を実現するにはどう生きればいいのか、何をしたらいいのかを落とし込みながら企業選びをしてほしいと思います。(中村さん)

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