人事のホンネ

株式会社サイバーエージェント

2020シーズン【第2回 サイバーエージェント】(前編)
リクルーター300人が全力採用!インターンで「DRAFT生」選抜

採用育成本部 新卒採用チーム ビジネスコースマネージャー 武内美香(たけうち・みか)さん

2018年09月04日

 人気企業の採用担当者に直撃インタビューする「人事のホンネ」2020シーズンの第2弾は、日本を代表するIT企業サイバーエージェント(Cyber Agent)です。採用直結の選抜型インターンシップ「DRAFT」など新たなイベントを次々に打ち出し就活戦線に切り込んでいます。ユニークな採用手法の狙いや成果について、根掘り葉掘り聞いてきました。(編集長・木之本敬介)

■2019卒採用ふり返り
 ──2019年卒採用はいかがでしたか。
 「YJC」という取り組みを初めて行いました。「良い人を、自分たちで、ちゃんと採用する」の略です(笑)。「リクルーター300人が全員人事(部)」という仕組みをつくりました。従来の採用は人事が採用戦略を立て、母集団を形成し、見極めをして上にあげる段階で社員に入ってもらう形でした。それを全部、現場の社員も一緒にやるのがYJCです。

 ――なぜYJCを?
 サイバーエージェント(CA)には「採用に全力を尽くす」というミッションがあり、社長の藤田晋が自ら採用の現場に赴き、役員などのキーマンが積極的に関わってきました。ただ、会社が大きくなるにつれ藤田が面接に出られなくなり、採用メンバー同士も互いの顔が分からなくなってきたということもあり、2017年10月に「改めて採用に全力を尽くしてやっていこう」とYJC導入が決まりました。やってみたら、前年の1.5倍のペースで内定の承諾者が出て大成功。イベントの数は半年で100回を超えました。

 ──人事の採用チームは何人ですか。
 社員は10人。前年まではこの10人が中心となってリクルーターを巻き込んでいましたが、YJC以降は現場の社員が企画して集客して見極めもしています。採用チームは戦略に集中するようになり、根本的に変わりました。
 CAでは採用チームに入ること自体が「誉れ」で、活躍している人でないと入れません。社員5000人から選ばれたリクルーター300人は「とっておきの社員」です。2019年卒採用終了後には「YJC総会」という表彰式を開き、活躍した人にスポットを当てました。

 ──2019年卒の就活戦線の特徴は?
 動きが早かったですね。すべての会社が6月以前に内々定を出しているように感じました。私たちも前年より「1.5倍速く」を目標に掲げました。2017年は12月時点で20人の内定承諾者がいたので、今回は30人を目標にしました。2018年卒選考がすべて終わったのは2017年8月でしたが、2019年卒選考は2018年6月末に終わったので目標は達成できました。

インターン経由の採用増やしたい

■採用実績
 ──2019年卒採用の内定者数を教えてください。
 約230人です。ビジネスコース約150人、エンジニアコース約70人、デザイナーコース約10人です。男女比はビジネスコースは半々くらいです。デザイナーはほぼ全員女性、エンジニアはほぼ全員男性です。

 ──2018年卒よりかなり増やしましたね。
 2018年卒の入社は150人ほどでした。広告部門が好調なため、2019年卒はビジネスコースの採用を増やしました。2020年卒採用も200人くらいを予定しています。

 ──学部の指定は?
 学部も学歴も不問です。ただ、エンジニアコースとデザイナーコースはポテンシャル(潜在能力)採用ではなく実績採用です。エンジニアは修士卒、学部卒が半々くらいの割合となっています。情報系の専攻が多いですが情報以外の理系や、文系で入社する人もいます。デザイナーは芸大、美大の人が多いですね。

 ──日本の企業のほとんどが新卒はポテンシャル採用です。働いたことがない学生の実績をどう評価するのですか。
 最近の学生はかなり良い成果物をつくっています。学生時代につくったものを見せてもらい、それをベースに採用します。大学での研究も評価対象です。この方法で就活マーケットにおけるエンジニアトップ層を採用するつもりです。そもそもエンジニアのマーケットは人数が少なく他社と取り合いになるので、1年生、2年生のうちから発掘しないといけないと思っています。

 ──コースと配属の関係は?
 配属部門は大まかに分けると「広告」「メディア」「ゲーム」「スタートアップ」の四つです。ビジネスコースは半数以上が広告に配属されます。デザイナーとエンジニアは主にメディア、ゲームに配属され、インターネットテレビ局の「AbemaTV」や「シャドウバース」などのゲームを担当します。ビジネスも3分の1くらいがメディア、ゲームに配属され、残りがスタートアップにいきます。

■インターンシップ
 ──インターンシップに力を入れていますね。
 ビジネスコースでは、「DRAFT」と呼ぶ選抜型インターンシップを取り入れています。年間約3000人が応募して、実際にインターンに参加できるのは約300人。その中の最も活躍した約30人を「DRAFT生」として認定します。「DRAFT生」イコール「内定」ではありませんが、「あなたは優秀です」と認定するものです。
 4回目のDRAFTでしたが、認知度が高まり、CAに興味がなくても「DRAFT生になりたい」という動機で受ける人が増え、今回は半々くらいの割合でした。

 ──「DRAFT生に選ばれたらどの会社にも入れる」といった勲章的な意味合いも?
 はい。DRAFT生はプロカメラマンが撮影し、「リーダーシップを発揮した」「論理的思考が素晴らしい」など評価をコーポレイトサイトに掲載します。当社がこの学生は優秀だとお墨付きを与えているんですね(笑)。
 コーポレイトサイトに載って、他の企業の方から次々に連絡が来たDRAFT生もいたそうです。DRAFT生の条件は「TOEIC○○点」といった分かりやすい基準ではなく、課題に取り組む姿勢や成果、性格を総合的に判断して優秀な方を選んでいます。

 ─―興味がなかった学生もDRAFTを通じてCAに入りたくなる?
 実はそれが狙いです。CAは20~30代が中心の会社で派手という企業イメージが強く、優秀な学生が「そんな派手な雰囲気は苦手」と尻込みしてしまう場合があります。誤解を解くため、インターンはCA志望者だけではなく優秀な人が受けるものだとリブランディングする狙いがありました。

 ──DRAFTでは具体的に何をするのですか。
 営業系や企画系など10数種類のインターン参加者の中から、優秀な人たちだけを集めてDRAFTに選抜します。2018年卒採用では新規事業案を社長にプレゼンしてもらい、実際に優勝メンバーによる内定者だけの子会社を設立し、女性の子会社社長も誕生しました。今は事業の立ち上げのため開発に取り組んでいて、単なる「会社ごっこ」ではありません。

 ──採用はインターン経由がメインですか。
 今はインターンと本選考が半々くらいですが、もう少しインターンの割合を増やしたいと思っています。
 3年生の6月ごろ夏のインターンの選考会が始まり、年末まで実施します。YJCが始まり、私たちも学生も「お互いのことをもっと知りたい」と思って本選考の途中からインターンに参加してもらうケースもあり、内定者の多くが何かしらのインターンに参加していたと思います。給与が出る長期就業型のインターンに参加する人もいます。

「何を成し遂げたい?」夢を深掘りして価値観感じ取る

■本選考
 ──本選考について教えてください。エントリーシート(ES)はないそうですね。
 11月ごろから6月末ごろまでが本選考の時期です。選考会と面接がベースで、選考会はグループディスカッションではなく「トライアウト」形式です。選考会の予約ではWEBで200~300字の自己紹介を記入してもらいますが、それで落とすことはありません。

 ──志望動機は?
 書く欄はありますが、さほど重視していません。とにかく1対1で会うことを大事にしています。学生も社員に会わずに「この会社に行きたい」と思えるはずがありませんよね。
 過去にESで選考したこともありますが、求める人材とギャップが生じたのでやめました。学生には「ESやSPI(適性検査)、TOEICの点数で落とすことはありません。あなたたちの内面を見せて」と伝えています。同時に私たちも学生に選考される立場なので、「あなたたちの目でよく見て、一緒に働きたい会社かどうか見極めて」とも言っています。

 ──応募者全員に会うのですか。
 地方の学生や、研究が忙しく来社できない学生のために、2019年卒採用ではオンラインで面接をした人も数多くいます。

 ――トライアウトでは具体的に何をするのですか。
 学生一人ひとりにテーマを出して、その場でプレゼンしてもらい、すぐにフィードバックします。さらに、その場でブラッシュアップして再提案してもらいます。時間内なら何回再提案しても構いません。最初の提案は甘かったが見違えるほどの再提案をした人、素直で吸収力があって何度もチャレンジする人もいれば、フィードバックを繰り返すうちに諦めてしまう人もいます。実際の仕事は何度も上司に提案してフィードバックをもらって良いものにしていきます。「とにかく良いものを出したい」と何度もチャレンジしてくれる人はCAのカルチャーに合っていますね。

 ──なぜトライアウト形式?
 グループディスカッションだと、エッジのある学生やものすごく優秀な学生が1人いるだけで他の人が引っ張られて実力を出せない場合があります。トライアウト形式にして、個々の能力や性格が明確に分かるようになりました。また、1対1でフィードバックもする形にしました。社員がフィードバックしたことに対し、「この点は納得がいきません」と良い意味で噛みついてくる子もいて面白いですよ。

 ──テーマはどのようなものですか。
 2019年卒採用では3テーマ用意しました。弊社はいろんな事業をしているので、広告系、新規事業系、マネジメント系などから選んでもらいました。たとえば「あなたが内定者でつくる子会社の社長になった場合、チームには年上の部下もいますが、どんなビジョンを掲げて、どんなマネジメントをしますか」といった内容です。

■面接
 ──次は面接ですね。
 面接は4~5回で、人間性や内面を見ます。「何をしてきたか」「将来何をやりたいか」だけではなく、「どんな人間になりたいか」「何を成し遂げたいか」を聞き、面接官自身が「この人を自分のチームに入れたいと思うか」で選んでもらいます。

 ──多くの会社は「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」を聞いて過去から未来を推測します。
 「学生時代に何をしましたか」と聞くと、ピンポイントのことしか聞けません。「今何を大事にしていますか」「夢は何ですか」と聞くと、「じゃあ、どうしてその夢を持つようになったのか」と深掘りでき、人間形成に関わった時期のことを話してくれます。大事なことが大学時代にある人、幼少期にある人、ずーっと続けてきたスポーツにある人とさまざまです。
 「どういう頑張り方をしたか」「何かを頑張るときモチベーションの源泉となるものは」と聞くとエピソードを話してくれるので、そこから価値観を感じ取ります。

 ──面接は全部1対1?
 基本的には1対1で20~30分です。トライアウトが1次で、2次が人事面接、3次では現場責任者や子会社社長が面接。4次で人事が志望度やCAでどう活躍したいかを聞き、最終面接前には面談もします。

 ──世の中への関心は重視しますか。
 努力できる人は情報収集が必要になればできるので、それができる素質があるかどうかを見ます。たとえば体育会系の人はITに詳しくないし、パソコンの使い方が分からない人もいます。ただ、20代で執行役員になったとある社員はアマゾンを知らなかったし、フェイスブックは本だと思っていたほど情報リテラシーが全くありませんでした(笑)。情報リテラシーが高ければ優秀というわけではないし、「IT、ネットが好きかどうか」も採用基準ではありません。

 ――IT業界ではネクタイなしのカジュアルな服装が普通だと思います。面接のときの就活生の服装についてのお考えは?
 服装は選考基準に一切関係ありません。学生にも面接時の服装については「自由にお越しください」と伝えています。あくまで企業文化に合うかどうか、専門職であればそのスキルなどを重視しています。

 ――実際には、どんな服装で来る学生が多いですか。
 インターン経験者は社内の雰囲気も、服装が選考基準に関係ないこともわかっているので、私服で来るケースがほとんどですね。
後編に続く)

(写真・山本友来)

みなさんに一言!

 今の学生は経験値は高いのですが、一番大切なのは「自分がどんな人間になりたいか」「何を大事にしたいか」という価値観だと思います。就職活動というより就社活動という意識でCAに来る人も多いのですが、CAがどんな会社か判断するのは自分です。私たちはインターンシップで能力よりも人間性を見ています。失敗しても構わないから、たくさんチャレンジしてください。入社してからも自己分析は永遠に続くので、就活は自己分析する良い機会だと思って頑張ってください。

株式会社サイバーエージェント

【通信・インターネット関連】

 1998年設立。インターネット黎明期より広告事業で成長し、2000年に東証マザーズ上場。以来、インターネット領域ではゲーム事業、「アメーバブログ」「AbemaTV」といったメディア事業と、事業領域を拡大させています。「21世紀を代表する会社を創る」というビジョンのもと、常に新規事業を創出し、M&Aに頼らない自前成長を特徴としており、人材を競争力ととらえ、人と事業を成長させる仕組みを取り入れています。