
■面接
――面接の形式、回数を教えてください。
一般記者の面接は3回です。1次は学生1人に対して社員が2人で聞きます。2次面接は、学生6人によるグループディスカッション(GD)をし、その後にまた学生1人を社員2人で面接します。最終は学生1人に対して複数の役員クラスが質問します。
時間は1次は20分、2次はGD40分、面接20分くらいです。
――グループディスカッションのテーマはどんな内容ですか。
過去には「消費増税延期に賛成か反対か」「リクルートスーツは必要か」「移民受け入れに賛成?」「若い人に新聞を読んでもらうには」「日本にカジノは必要か」などを出しました。世論が賛成と反対に分かれるテーマが多いですね
――どういうところを見ますか。
「論理立てて議論を建設的な方向に導いているか」「人の意見を尊重しているか」を重視します。発言の回数だけでは判断しません。もちろん話しぶりにも注目します。同世代と話すときと面接とでは違いますから。
他人を非難したり、自分の意見を押し通そうとしたりする人もいました。自分の意見を持つことは大切ですが、記者は人の話を聞く職業ですから、まずは聞く耳を持たねばなりません。
――3回の面接、それぞれのポイントを教えてください。
1次ではコミュニケーション能力、仕事への理解度や志望の強さを見ています。新聞社は言論機関でもあるので「◯◯を主張したい」という人も多いのですが、メインの役割は報道機関として「取材して事実を伝える」ことです。まず、そこを理解しているかどうか。主張だけで頭でっかちになっていないかは確かめます。
2次では、いろいろなことに関心があるか、使命感や公共心があるかを見ます。いつでも現場に行って、歴史的な瞬間に立ち会えるのが記者の醍醐味なので、それを自らの使命として感じられる人かどうかを見ています。
最終面接は総合的な確認です。学生からは「最終面接が一番きつい」と言われています。1次、2次はフレンドリーに楽しく進んで、最終面接でいきなりすごい数の質問が飛んできます。多種多様な質問に食らいついていけるかどうか。時間は20分ほどです。
――ビジネス部門は?
基本は一緒で、1次、2次、最終です。2次でGDを行います。
――記者とビジネスを併願できるようになって両方受けた学生もいると思います。迷う学生もいるのでは?
最近、相対的にはビジネス部門の人気が高まっています。イベントや展覧会などメディアに関するビジネスをしたい、ということですね。記者志望の学生にビジネスの仕事を話すと「そちらのほうが面白そうだ」と考える人も多いですね。
最終的には、ジャーナリズムそのものに関わりたいか、あるいはビジネスをやりたいかという違いだと思います。記者志望者は、お金もうけより、いろんな所に取材に行ってとことん追求したい、という行動力がある感じですね。
――学生は行動力をどうアピールするのでしょう?
驚いたのは「北朝鮮へ行ってきた」という学生です。あるいはパレスチナに留学していたとか。
ただ、そういう特別な人ばかりではなく、国内を含めていろいろな所に行きたいといった幅広い関心がある人を採用したいと思っています。地方出身の学生も積極的に採りたい。そういう学生は地に足が着いている気がします。
――「幅広い関心」があるかどうかは、どうやって判断しますか。
さまざまな質問に臨機応変に答えられるかどうか。ESで「私は○○がやりたい」と絞り込みすぎて、面接でもそれしか話さないようだと厳しいですね。
内定者の中に「ずっとアフリカに行っていた」という学生がいました。ESに書いていたのですが、面接で聞くと、「アフリカを選んだのは、社会の中心ではない所からの視点に興味があったから」と言い、別の分野の「中心ではない所」に話が広がっていく。そうすると「この人は幅広いな」とわかります。
逆に、「貧困問題を追求したい」という人がいました。「私は日雇い労働者が多い街に行って、フィールドワークやボランティアをやっていました。これを世に訴えたい」と言い出して、そこから一歩も出ない。私たちが他の話題を振って引っ張り上げようとしても、「いや、やはり私はこれです」と。そうなると、あまり広がりがないとなってしまう。
貧困問題を取材したいという学生は最近とても多くいます。
――朝日新聞が貧困問題の報道に力を入れているから、という面もありますよね。
そうですね。ただ、今は貧困問題を前面に打ち出していますが、入社して一つのテーマにずっと関わるわけではありません。政治家の不正の追及など、伝統的なジャーナリズムの仕事もあります。
いろいろなテーマについて取材して記事を書いて世に問うのが新聞記者の仕事のベースです。だから、一つの問題だけでなく、いろいろなことに関心があるという幅の広さが大切です。一般紙の全国紙を舞台に、いろいろなテーマに取り組める可能性にワクワクを感じてもらいたい。「私は児童虐待の問題を世の中に訴えたいんです」というだけなら、朝日新聞に入らなくても、メディアで働かなくてもできます。特定の分野に関心を持ったことをきっかけに、記者という仕事そのものに興味を持ってもらえれば嬉しいですね。
――「記者になりたいんです。何でもやります」という人はどうですか。
何色にも染まるかもしれないのでいいのですが、「ではどうして記者なのか」と問い続けていけば、本気度や向き不向きもわかります。
――面接では時事問題についてたくさん質問しますか。
それほど聞いていません。ある特定のテーマについて、「このことを知っていますか」と知識の有無を問う質問はしません。ただ、社会への関心の幅広さを知るために、そのときに話題になっていることを聞くことはあります。時事の知識は筆記試験でもわかりますし。
■働き方
――「働き方改革」が話題です。新聞記者は勤務時間が長く、休みもとりにくいイメージがあります。
歴史的出来事が起きている最中は不眠不休で働くことはありますが、何もない時はできるだけ休みようにしてメリハリをつけています。事件事故対応で忙しい社会部でも、今は「ノー残業デー」を設けています。
昔は大きな事件があると「とにかく全員現場に行け」となりました。ただ、これからはうまくマネジメントしていかなければなりません。たとえば横浜総局では2016年に障害者施設での殺傷事件などがあり、大変忙しかったのですが、繁忙期でないときは交代できちんと休みをとるようにしていました。
――子育てをしながら働く女性記者も増えてきましたね。
そうですね、社会部などの忙しい部署でも活躍しています。残業を免除する制度や短時間勤務制度も活用し両立を図っています。
現在、40代の女性社員の8割が子どもを育てています。女子学生の中には「新聞社に入ったら子どもは諦めなくては」と考えている人が多いので、このデータを示して「そんなことはないですよ」と説明しています。制度も整えていて、とくに育児休業は法定では1年半のところ当社は2年以上、2歳の春までとれます。
――とはいえ、大変なときもありますよね。
先進的な支援はしていますが、新聞社員として使命感を持って働かねばならないときもあります。歴史が大きく動いているとき、大事件が発生したとき、あるいは災害時に自分が被災しても情報を届けなければならないとき。これが仕事のやりがいにもつながりますが、それなりの覚悟も必要です。社会のために役立って初めて、人から感謝もされますから。
仕事のやりがいについては学生の関心も強いですね。東日本大震災のとき、会社や社員、販売店などが被災しつつ、翌朝の3月12日には東北に新聞を届けた話をすると、みんなの表情が変わりますね。