人事のホンネ

株式会社 朝日新聞社

2018シーズン【第13回 朝日新聞社】
記者だけじゃない「職種のデパート」 多様さ尊重する自由な会社

人事部採用担当部長 山口智久(やまぐち・ともひさ)さん

2017年05月18日

 企業の採用担当者に直撃インタビューする人気企画「人事のホンネ」。2018シーズンの最終回は朝日新聞社です。同社は、採用選考の時期を前倒し、長年手書きだったエントリーシートをWEB提出に変え、ビジネス部門では時事問題を問う独自の筆記試験を廃止するなど、2018年卒の採用試験からやり方を大きく変えました。変更の狙いは? それでも変わらないことは? じっくり聞きました。(編集長・木之本敬介)

 ■記者、ビジネス、技術
 ――2017年入社の採用実績を教えてください。
 朝日新聞社は記者、ビジネス、技術の三つの部門別に新卒採用をしていて、記者が51人、ビジネス16人、技術11人の計78人です。男女別では、男性47人、女性31人。院卒は全体で17人です。
 2018年卒採用も、同じくらいになると思います。

 ――2018年卒は春の採用試験が終わったところだと思いますが、今年も秋採用を実施しますか。
 はい。記者部門とビジネス部門は毎年2回の採用試験を実施しています。秋といっても夏休み中ですが、留学から帰った人や、進路を考え直そうという人を歓迎しています。もちろん、春受けた人の再チャレンジも大歓迎です。春と秋の採用人数は記者部門では7対3くらいですね。

 ――近年、技術部門の採用をかなり増やしていますね。
 新聞社の技術職は、かつては記者がパソコンで打った原稿を本社に送って紙面化し、印刷、配送するシステムの構築と運用が主な仕事でした。今はそれに加えて、アプリ開発などの技術が重要になってきたので採用を増やしています。今後は人工知能(AI)による取材や記事執筆など、メディアの形が変わるでしょう。このため人工知能や自然言語処理分野の研究者も採用しています。言語の分析に詳しい人は理系と文系の融合分野の学部にもいるので、理系と限定せずに探しています。

 ――技術部門には学校推薦制度もあるんですね。
 推薦と一般公募、両方ありますが、今では推薦のほうが多いですね。大学によって、学部推薦も研究室推薦もあります。

 ――そもそも、学生は新聞社に技術系の仕事があることを知らないのでは?
 新聞社のアプリ開発などを知ってもらうため、積極的に大学を訪問して説明しています。「朝日新聞オンライン・プログラミングチャレンジ」というハッカソン(IT技術者が一定時間缶詰めになってソフトウエア開発などのアイデアを競い合うイベント)や、ワンデーインターンシップも開いてアピールしています。

 ――記者は文系が多いでしょうが、理系出身者はどのくらいいますか。
 2017年入社は51人中3人が理系です。理系の知識を生かして科学医療部で働く記者もいますが、政治部や社会部にも理系出身者がいます。理系の記者志望者には、専門分野を極めつつも幅広い関心がある人が多いですね。

 ――新聞社は記者のイメージが強いと思います。ビジネス部門の仕事を学生にどう説明していますか。
 「職種のデパート」といわれるくらい幅広い職種があることを話します。経営コンサルタント的な仕事をする販売局や、広告プランナー、イベントプロデューサー、展覧会のキュレーター、WEBデザイナー、不動産ディベロッパーなど、専門性の高いさまざまな仕事があると紹介すると驚かれますね。
 いま注目されているのは、メディアビジネス局です。2016年に広告局を改編しました。新聞広告だけではなく、デジタルやテレビにも関わるし、多彩なイベントも行います。クライアントの情報を複数のメディアを組み合わせて伝える広告会社の仕事に近づきつつあります。

独自の筆記試験やめたビジネス部門が人気 選考早めて春休み中に

■筆記試験廃止
 ――エントリーの数は?
 プレエントリーは全部門合わせて1万を超えますが、2017年卒の春採用のエントリーは2000人ほどでした。

 ――エントリー数を増やす対策は?
 2018年卒採用から、ビジネス部門では長年続けていた会社独自の筆記試験をやめて、テストセンター形式のSPI(適性検査)を導入しました。記者も含めて、エントリーシート(ES)はずっと手書きでしたが、WEBエントリーに変えました。いずれも受けやすくするための対策です。
 今までは認めていなかった複数部門の併願も、今年からできるようにしました。
 この結果、2018年卒の春採用のエントリー数は、記者部門では前年の4割増、ビジネス部門では8割増えました。

 ――そんなに増えたんですか。記者部門でも独自の筆記試験をやめたらもっと増えるのでは?
 こちらは続けます。やはり、世の中に幅広い関心があるかどうかを知りたいと思っています。小論文試験も続けます。(※記者部門も、2019年卒採用から独自の筆記試験にかわりSPI3による選考に、小論文試験は選考過程の途中での実施に変更した。)

 ――記者の職種は、一般の記者のほかに「専門記者」がありますね。
 校閲記者、写真記者、グラフィックデザイナーがあって、それぞれ若干名の募集です。校閲記者はテレビドラマ「校閲ガール」のおかげで学生の反応がよくなりました。文章が非常に好きな人が多いですね。
 いずれも学部の指定はしていませんが、グラフィックデザイナーは美術大の学生の応募が多い。新聞社のデザインの仕事はすべてパソコンで行いますが、操作は仕事をしながら覚えればいいので、入社時には絵が描けるセンスがあれば大丈夫です。
 カメラマンは、写真を専門に学んだ人より普通の学部の学生が多いですね。
 写真とグラフィックデザイナーは、実技試験も行います。

 ――記者部門で、ESと筆記試験を経て面接に進む率は?
 半分弱くらいですね。

■スケジュール前倒し
 ――採用スケジュールを教えてください。2018年卒の春採用は選考日程を前年より早めたんですよね。
 記者部門は、ESのダウンロード開始が2月17 日で締め切りは3月10日、筆記試験は3月26日でした。その後、面接を進めて4月中には内々定を出しました。ビジネス部門は少し遅れて選考を進めています。

 ――なぜ早めたんですか。
 まずは学業への配慮です。時間に余裕がある春休み中に選考を進めたほうがいいと考えました。幸い、学生の多くは、早い段階で志望を固めてくれているので、早めに内々定が決まれば残りの学生生活を有意義に過ごせます。秋採用も今までどおり授業のない夏休み中に選考します。授業などのある時期は避けたいと考えています。
 志望度が高い人は早めに決めて春採用を受けてもらい、まだまだ考えたいという人にもチャンスを残すという二段構えですね。

 ――選考時期を早めたことについて、学生の評判は?
 「対策が間に合わない」と戸惑う声が多くありました。ただ、内々定者には「これで卒論に集中できる」と喜んでもらえています。来年は今年と同じ時期に実施する予定なので、しっかり準備をしていただければと思います。

■ES
 ――WEBエントリーにして、ESの質問項目も変えましたか。
 記者部門はデジタルに関する設問を加えました。デジタル報道に生かせるスキルや経験、アイデアを聞く設問です。「朝日新聞は紙の新聞に加えてデジタルにも力を入れていく」というメッセージを込めています。デジタル分野で何をしたいのかきちんと意識してもらいたい。
 新人記者は最初、地方総局に配属になりますが、今後は東京本社のデジタル編集部にも若干配属する予定です。配属を決める際の判断材料にもします。

 ――他の項目はあまり変わらない?
 変わりませんね。重視するのはやはり、志望動機と今まで取り組んできたことの二つですね。

 ――語学力はどの程度重視していますか。
 ESに記入する欄はありますが、参考程度です。

 ――ビジネス部門のESには「自由記述欄」がありますね。
 写真やイラストで自分をアピールしてもらっています。今回WEBエントリーにしたので、パワーポイントを活用した人もいました。この欄は、普段の姿が見られるので社内の評判はいいですね。
 普段の姿といえば、本当は面接に「リクルートスーツで来ないでください」と言いたい。あるいは「あなたらしい服装と髪型で来てください」とか。女子学生の髪形はみんな同じですからね。内定した後に普段着を見ると、革ジャンを着てくる女子がいたりして、「この学生は結構ファンキーだったんだ」と分かるときがあります(笑)。

 ――「普段着で来て」とは言わないのですか。
 どうしようかと思っています。「あなたらしい格好」と指示したら、学生はどう対応すべきかマニュアル的に考え込んでしまうかもしれないので。

 ――学生が面接に自分らしい服装で来たら?
 「今日はどうしてその服で来たんですか」というような質問をして、人柄を知るきっかけになりそうですね。

特定のテーマきっかけに幅広い関心を 40代女性社員の8割が子育て中

■面接
 ――面接の形式、回数を教えてください。
 一般記者の面接は3回です。1次は学生1人に対して社員が2人で聞きます。2次面接は、学生6人によるグループディスカッション(GD)をし、その後にまた学生1人を社員2人で面接します。最終は学生1人に対して複数の役員クラスが質問します。
 時間は1次は20分、2次はGD40分、面接20分くらいです。

 ――グループディスカッションのテーマはどんな内容ですか。
 過去には「消費増税延期に賛成か反対か」「リクルートスーツは必要か」「移民受け入れに賛成?」「若い人に新聞を読んでもらうには」「日本にカジノは必要か」などを出しました。世論が賛成と反対に分かれるテーマが多いですね

 ――どういうところを見ますか。
 「論理立てて議論を建設的な方向に導いているか」「人の意見を尊重しているか」を重視します。発言の回数だけでは判断しません。もちろん話しぶりにも注目します。同世代と話すときと面接とでは違いますから。
 他人を非難したり、自分の意見を押し通そうとしたりする人もいました。自分の意見を持つことは大切ですが、記者は人の話を聞く職業ですから、まずは聞く耳を持たねばなりません。

 ――3回の面接、それぞれのポイントを教えてください。
 1次ではコミュニケーション能力、仕事への理解度や志望の強さを見ています。新聞社は言論機関でもあるので「◯◯を主張したい」という人も多いのですが、メインの役割は報道機関として「取材して事実を伝える」ことです。まず、そこを理解しているかどうか。主張だけで頭でっかちになっていないかは確かめます。
 2次では、いろいろなことに関心があるか、使命感や公共心があるかを見ます。いつでも現場に行って、歴史的な瞬間に立ち会えるのが記者の醍醐味なので、それを自らの使命として感じられる人かどうかを見ています。
 最終面接は総合的な確認です。学生からは「最終面接が一番きつい」と言われています。1次、2次はフレンドリーに楽しく進んで、最終面接でいきなりすごい数の質問が飛んできます。多種多様な質問に食らいついていけるかどうか。時間は20分ほどです。

 ――ビジネス部門は?
 基本は一緒で、1次、2次、最終です。2次でGDを行います。

 ――記者とビジネスを併願できるようになって両方受けた学生もいると思います。迷う学生もいるのでは?
 最近、相対的にはビジネス部門の人気が高まっています。イベントや展覧会などメディアに関するビジネスをしたい、ということですね。記者志望の学生にビジネスの仕事を話すと「そちらのほうが面白そうだ」と考える人も多いですね。
 最終的には、ジャーナリズムそのものに関わりたいか、あるいはビジネスをやりたいかという違いだと思います。記者志望者は、お金もうけより、いろんな所に取材に行ってとことん追求したい、という行動力がある感じですね。

 ――学生は行動力をどうアピールするのでしょう?
 驚いたのは「北朝鮮へ行ってきた」という学生です。あるいはパレスチナに留学していたとか。
 ただ、そういう特別な人ばかりではなく、国内を含めていろいろな所に行きたいといった幅広い関心がある人を採用したいと思っています。地方出身の学生も積極的に採りたい。そういう学生は地に足が着いている気がします。

 ――「幅広い関心」があるかどうかは、どうやって判断しますか。
 さまざまな質問に臨機応変に答えられるかどうか。ESで「私は○○がやりたい」と絞り込みすぎて、面接でもそれしか話さないようだと厳しいですね。
 内定者の中に「ずっとアフリカに行っていた」という学生がいました。ESに書いていたのですが、面接で聞くと、「アフリカを選んだのは、社会の中心ではない所からの視点に興味があったから」と言い、別の分野の「中心ではない所」に話が広がっていく。そうすると「この人は幅広いな」とわかります。
 逆に、「貧困問題を追求したい」という人がいました。「私は日雇い労働者が多い街に行って、フィールドワークやボランティアをやっていました。これを世に訴えたい」と言い出して、そこから一歩も出ない。私たちが他の話題を振って引っ張り上げようとしても、「いや、やはり私はこれです」と。そうなると、あまり広がりがないとなってしまう。
 貧困問題を取材したいという学生は最近とても多くいます。
 
 ――朝日新聞が貧困問題の報道に力を入れているから、という面もありますよね。
 そうですね。ただ、今は貧困問題を前面に打ち出していますが、入社して一つのテーマにずっと関わるわけではありません。政治家の不正の追及など、伝統的なジャーナリズムの仕事もあります。
 いろいろなテーマについて取材して記事を書いて世に問うのが新聞記者の仕事のベースです。だから、一つの問題だけでなく、いろいろなことに関心があるという幅の広さが大切です。一般紙の全国紙を舞台に、いろいろなテーマに取り組める可能性にワクワクを感じてもらいたい。「私は児童虐待の問題を世の中に訴えたいんです」というだけなら、朝日新聞に入らなくても、メディアで働かなくてもできます。特定の分野に関心を持ったことをきっかけに、記者という仕事そのものに興味を持ってもらえれば嬉しいですね。

 ――「記者になりたいんです。何でもやります」という人はどうですか。
 何色にも染まるかもしれないのでいいのですが、「ではどうして記者なのか」と問い続けていけば、本気度や向き不向きもわかります。

 ――面接では時事問題についてたくさん質問しますか。
 それほど聞いていません。ある特定のテーマについて、「このことを知っていますか」と知識の有無を問う質問はしません。ただ、社会への関心の幅広さを知るために、そのときに話題になっていることを聞くことはあります。時事の知識は筆記試験でもわかりますし。

■働き方
 ――「働き方改革」が話題です。新聞記者は勤務時間が長く、休みもとりにくいイメージがあります。
 歴史的出来事が起きている最中は不眠不休で働くことはありますが、何もない時はできるだけ休みようにしてメリハリをつけています。事件事故対応で忙しい社会部でも、今は「ノー残業デー」を設けています。
 昔は大きな事件があると「とにかく全員現場に行け」となりました。ただ、これからはうまくマネジメントしていかなければなりません。たとえば横浜総局では2016年に障害者施設での殺傷事件などがあり、大変忙しかったのですが、繁忙期でないときは交代できちんと休みをとるようにしていました。
 
 ――子育てをしながら働く女性記者も増えてきましたね。
 そうですね、社会部などの忙しい部署でも活躍しています。残業を免除する制度や短時間勤務制度も活用し両立を図っています。
 現在、40代の女性社員の8割が子どもを育てています。女子学生の中には「新聞社に入ったら子どもは諦めなくては」と考えている人が多いので、このデータを示して「そんなことはないですよ」と説明しています。制度も整えていて、とくに育児休業は法定では1年半のところ当社は2年以上、2歳の春までとれます。

 ――とはいえ、大変なときもありますよね。
 先進的な支援はしていますが、新聞社員として使命感を持って働かねばならないときもあります。歴史が大きく動いているとき、大事件が発生したとき、あるいは災害時に自分が被災しても情報を届けなければならないとき。これが仕事のやりがいにもつながりますが、それなりの覚悟も必要です。社会のために役立って初めて、人から感謝もされますから。
 仕事のやりがいについては学生の関心も強いですね。東日本大震災のとき、会社や社員、販売店などが被災しつつ、翌朝の3月12日には東北に新聞を届けた話をすると、みんなの表情が変わりますね。

新規事業考えるメディアラボは独自採用へ 新しい形のメディアに挑戦

 ■社風と新聞のこれから
 ――朝日新聞社はどんな会社ですか。
 自由な会社です。会社説明会で、いろいろな社員が最初に言うのも「自由」という言葉です。記者、ビジネス、技術の3部門すべてそうです。現場から何を提案してもいい、自由な会社だと思います。
 
 ――トップダウンよりボトムアップということですね。一方で、社内の部署間の連携が乏しい縦割り構造が指摘されることもあります。
 確かに縦割りはあるかもしれません。ただ今後はなくなっていく気がします。なぜなら、メディアの形が変わっていくからです。これまでは各部署がそれぞれの役割を最大限に発揮していれば良かったのですが、新しい分野の仕事が増えています。そういう局面では、部門を超えて、それぞれの知恵を出し合う必要があります。
 良い例が、新規事業を考える「メディアラボ」です。幅広い部署から社員が集まって来て、新しいことをやろうとしています。

 ――メディアラボを志望する学生はいますか。
 メディアラボとしての採用は、2017年秋に独自に行おうと検討しています。メディアラボが欲しい人材は、学生ベンチャーなど、起業経験がある人です。失敗した経験でもいいので、何か新しいことをしたい人に受けてほしいですね。ハッカソンなどイベントの形を通した採用活動を考えています。
 人数は若干名ですね。社会人でも新卒でも、あるいは大学2年生、3年生でも構いません。ベンチャー企業が狙うような人材です。

 ――通常の試験で入社した場合の配属について教えてください。
 記者職の場合、原則として地方総局で4年間働きます。大都市近郊や地方の大都市にある拠点総局で1年間基礎を固めた後、他の総局で3年間というパターンが基本です。若いうちに、事件担当や高校野球担当、行政担当などを一通り経験することが多いですね。
 その後に、東京、大阪、名古屋、西部の各本社の社会部や経済部など専門的な部門に行きます。本人の希望と適性を見て担当が決まります。
 ビジネス部門の場合は、入社後3カ月間、メディアビジネス、販売、企画事業、デジタル、管理本部の各部門で研修します。やはり、本人の希望と適性をみて最初の配属が決まります。

 ――新聞やメディアはこれからどうなっていくと思いますか。
 朝日新聞は伝統を守りつつ、新しい形のメディアに挑戦していきます。技術の進歩とともに、ニュースの届け方や集め方も変わるでしょう。場合によっては、一般の方に取材してもらうこともあるかもしれません。
 どんな世界が待っているかは分かりませんが、ジャーナリズムの基本的な役割は残るでしょう。最近、一部のウェブサイトで、不正確な記事や他のサイトからの無断転用が問題になり、サービスが中止されるケースがありました。自ら取材をする伝統的なメディアは、その点では信用力がありますから、それを背景に新しい情報流通の形を模索したいと思っています。

 ――ジャーナリズムの面で、朝日新聞の特徴や他紙との違いはどこでしょうか。
 言論の多様性を尊重しているところです。読者からの投稿欄「声」のページでそれがよく分かります。たとえば安保法制が問題になったとき、朝日新聞は社説では反対しましたが、隣にある「声」欄では賛成する方の意見もきちんと紹介しました。
 これは単なる「両論併記」ではありません。おかしいことに対してはおかしいと言い、世の中をある色に染めようとする力に対してはあらがいながらも、自由な言論空間を保つことを追求している、ということだと思います。編集部門の会議でも、「多様な意見や言論が保たれているか」は日々かなり議論されています。

 ――朝日新聞はリベラルな新聞だと言われていますが、世界的にはリベラリズムの退潮が話題になっています。そういう時代における存在意義をどう考えますか。
 朝日新聞がリベラルかどうかは分かりませんが、要するに「多様な言論を守る」ということですね。それが生命線です。今の世の中で多様な言論を守ろうとすると、リベラルに見えてしまう。自らリベラルであろうとしているのではなく、いろいろな人の意見を尊重しようとすると、そうならざるを得ない時代だと思います。

■就活と仕事
 ――山口さん自身の就活について教えてください。
 入社は1994年です。高校時代から記者になりたいという思いがありました。
「一つのことをずっと続ける」自分が想像できず、幅広いことに興味がありました。いろいろな所に行ってみたい、という気持ちも強かった。なんとなく自分はビジネスには向いていないかな、とも思いました。
 新聞社やテレビ局に軒並み応募して、他の全国紙と民放キー局にも受かりました。

 ――新聞を選んだ理由は。
 放送局の場合、職種別の採用ではないので、入社後に何を担当するか分からないし、「記者として鍛えられるのは新聞かな」とも感じました。

 ――入社後の経歴を教えてください。
 最初の地方勤務は、京都に2年、高松に3年。その後、大阪本社科学部(現科学医療部)に3年、東京本社経済部に3年半、生活部(現文化くらし報道部)に5年いて記事を書きました。
 その後デスク(次長)になりました。デスクは、記者が書いた原稿を確認するとともに、取材や紙面作りの指示や判断をする役割です。経済、科学医療、特別報道の各部などでデスクをしました。2016年の5月から人事部で採用を担当しています。

 ――最も印象的な仕事は?
 国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)を担当したことです。2008年にポーランドであったCOP14、2009年にデンマークであったCOP15、2010年にメキシコであったCOP16は現地で取材しました。約190カ国の交渉を追いつつ、日本との時差を考えながら記事を書く。最初は専門用語が飛び交い苦労しましたが、やりがいは大きかったです。

 ――どういう点にやりがいがありましたか。
 難しい問題を、かみ砕いて分かりやすく伝えることですね。交渉過程をそのまま書くと、読者には何のことか分からないので、自分なりに解釈して組み立て直しました。そのためには、深く理解しないとならないので、国際会議に慣れた百戦錬磨のプレーヤーへの取材を繰り返しました。
 国際会議では、日本の外務省の話をそのまま書けば楽で、派手な見出しにできますし、実際にそういう記事も多い。ただ、私は正確に書こうと、自分自身のネタ元を発掘しました。各国政府やNGO(非政府組織)の中に知り合いを増やし、本質を書くように努力しました。その結果、関係者や専門家から評価され、「朝日新聞が一番きちんと書いている」とも言っていただきました。小さいころ父親の仕事の関係で米国にいたので、幸い英語での取材には苦労しませんでした。

みなさんに一言!

 「習うより慣れろ」と言いますが、とりあえずいろいろとやってみてください。自分に何が向いているのかは、考えるより「実際にやってみたら向いていた」ということが多い。人生は長いので、「今この会社に入らないと終わりだ」というふうに自分を追い込まないでください。
 「全然知らなかった会社に入ってみたら、結構面白いことをやっていた」ということもあります。就活で自己分析をし過ぎて、「自分はこういう人間だ」というフィクションに縛られないでください。あまり考えすぎず、頭よりもハートで会社を感じてもよいと思います。
 そのうえで朝日新聞の話をすると、とても幅広いことをやっているので、何をやりたいのか悩みながら入ってもらっても、きっと社内で面白いものが見つかると思います。
朝日新聞社は、新卒に限らず29歳まで受けられます。正社員の3分の1は新卒ではありません。卒業後に他の仕事をしている方も、歓迎しています。

株式会社 朝日新聞社

【マスコミ・出版・印刷】

 朝日新聞社はまもなく創刊140年、朝刊約630万部、夕刊約300万部の新聞を発行する日本を代表する報道機関です。さらに「朝日新聞デジタル」での各種コンテンツの配信、文化・スポーツ、教育事業などを展開する「総合メディア企業」でもあります。特に世の中の隠された事実を掘り起こす「調査報道」に注力し、正確で信頼できる情報を発信しています。記者だけでなく、ビジネス、技術と仕事は多彩で「職種のデパート」とも呼ばれます。感動を伝えたい方、世の中の問題を一緒に考えたい方、そして活躍の舞台を全国、世界に求める方をお待ちしています。