会社説明会で成長する新入社員
デメリットも、あります。たとえば、まえの会社ではこうだった、という経験がつよすぎて、あたらしい会社の風土になじむのに時間がかかるのです。もしかしたら、ずうっとなじめないかもしれません。また、たとえば、あなたが大学を卒業して入社し、30歳になって社内でそれなりの地位になったとします。独身です。そこへ、中途採用で新入社員がきます。その人は、自分より年上、さらに、扶養家族もいる。そんな人に、いろいろ指示するのって気をつかいませんか? バシッと注意できますか? 仕事がスムーズにすすまなくなる可能性がでてくるのです。
愛知県の春日市にある「キタガワ工芸」は、創業およそ45年。全国のパチンコホールに、企画・製作した装飾品などを納めている会社です。社員はおよそ120人で、女性が2割です。デザイン、企画、商品開発、生産などの部門にわかれています。
2代目社長の北川誠治さん(49)は、当初、中途採用に力をいれていました。ところが、どうも、先にふれたデメリットの部分が強く出すぎました。
北川さんは、若い人にかけようと考えます。2006年ごろから、新卒採用に本腰をいれはじめました。北川さんは、毎年、決意をあらたにするようになったのだそうです。
〈しっかり経営して、40年後、この子たちがしあわせな定年退職をむかえられるようにするぞ!〉
キタガワ工芸の会社説明会では、入社したばかりの社員に話をさせています。ついちょっと前まで就活をしていた社員は、就活中のみなさんの思いを、よーく分かっています。年代も近いので、就活中のみなさんも、質問をしやすいだろう、という配慮もあります。また、説明する社員は、真剣に準備にしなくてはなりません。会社のこと、そして、いちばん大事なのは、キタガワ工芸の企業理念を、しっかり理解することだといいます。
キタガワ工芸は、ふたつの理念を掲げています。
「われわれは顧客に対し、繁栄と喜びをもたらす製品を供給することによって社会に貢献する」
「われわれは全社員にとって能力を十分発揮できる職場をつくるとともに、社員ひとりひとりの成長と家族をふくめた個人の幸せを通して、組織集団の繁栄を実現する」
こんなふうに書くと、みなさんは、ふつうのことじゃないか、と思うでしょうか。または、何が言いたいのか、ちんぷんかんぷん、と思うでしょうか。まったく予備知識がない就活中のみなさんに、分かりやすく説明するのは、たいへんです。これを入社したばかりの社員たちにさせるのです。まかされた社員たちは、おおいに成長していくのだそうです。
もっとも、就活中のみなさんからは、ほとんど質問が出ないんだそうで……。何事もそうです。みなさん、積極的にいきましょう。
入社してからも、北川さんの会社は、1年先輩の人たちが、いろいろ教えてくれます。たとえば、名刺の配り方、電話の取り方、さらに、会社の業務の流れなどです。
さらに、「ジョブローテーション」と名付けた方法をとっています。人間それぞれ、得意不得意があります。自分に合わない仕事をしていても、なかなか成長できないものです。そこで、入社から1年半~2年は、さまざまな部署をまわって経験を積んでいく、という仕組みです。
みなさんの中には、パチンコホールに入ったことがない、という人がたくさんいると思います。でも、なーんにも知らない人が、想定外のすばらしい商品を開発したり、斬新なデザインをしたりするのだそうです。また、いまはパチンコ関係の売り上げが9割を占めていますが、力をいれはじめているのは、大手スーパー、大手小売店などの仕事です。ぞくぞくと、仕事の発注がきています。デザイン、設計、営業、そして製作。若い力が、ますます必要になっています。
だから、北川さんはいいます。
「パチンコは、ふるくからの社員にお任せ。みなさんには、あらたな分野をゆだねたいと思っています。おおいに力を発揮してください」
世の中には、若い力に期待している中小企業経営者は、星の数ほどいます。きっと、みなさんと、その経営者とは、赤い糸で結ばれています。
苦しくったって、悲しくったって、就活の中では平気だもん
さあみなさん、その赤い糸を探して、踏ん張りましょう!