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2023年03月30日

科学技術

H3の打ち上げ失敗で、後れを取る日本 「技術大国」はどうなる?【時事まとめ】

「イプシロン」6号機に続き成功せず

 次世代の基幹ロケット「H3」の初号機の打ち上げが、失敗に終わりました。2022年10月の小型ロケット「イプシロン」6号機に続く失敗です。世界では民間企業がロケット開発の中心に躍り出て、民間ロケットによる宇宙旅行も現実のものとなりつつあります。今回の失敗で、日本のロケット開発は世界に大きく遅れをとることになりそうです。(教育事業部次長・竹中和正)

(写真・打ち上げられたH3ロケット初号機。13分55秒後に破壊信号が出された=2023年3月7日)

打ち上げから13分55秒後、破壊指令

 新型ロケット「H3」の初号機は、3月7日、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられました。主エンジンなどがある第1段は分離しましたが、第2段エンジンの着火が確認できず、打ち上げから13分55秒後、信号を送って意図的に爆破させました。載せていた地球観測衛星「だいち3号」も失われました。

 第2段部分などは、フィリピンの東方沖の海上に落下したとみられています。機体の残骸を海底から回収する予定はなく、原因究明の作業は難航しそうです。打ち上げの再開には年単位の時間がかかるおそれもあり、日本のロケット開発は大幅に遅れる可能性が高くなっています。

(写真・地球観測衛星「だいち3号」)

費用半額目指した、H2Aの後継機

 H3は、現在運用中のH2Aの後継機です。H2Aは、2001年の初号機打ち上げ以降、46号機まで打ち上げられていますが、失敗は6号機の1回のみ。97.8%という高い成功率を誇り、日本の主力ロケットとして、宇宙開発を支えてきました。小惑星探査機「はやぶさ2」を打ち上げたのもH2Aです。

 ただ、H2Aは成功率こそ高いものの、打ち上げ費用が1回あたり約100億円と、他国のロケットに比べると割高です。そのため、世界的に人工衛星の打ち上げが増えているにもかかわらず、海外や民間からの打ち上げの受注はわずかでした。

 その弱点を克服する後継機として計画されたのが、H3です。H3は部品の総数を減らし、電子部品の9割を自動車用の既製品を使うなど工夫を凝らして、費用を半額の約50億円に抑えることを目標に開発が進められました。

 しかし、主エンジンの開発は難航。2回の延期を経て臨んだ2月17日の打ち上げでも、主エンジンは着火したものの、補助する固体ロケットブースターが着火せず中止に。2週間で必要な対策を取り、改めて打ち上げに臨みましたが、失敗に終わりました。実は日本のロケットは、2022年10月にも、固体燃料ロケット「イプシロン」6号機が打ち上げに失敗したばかり。相次ぐ打ち上げ失敗に、関係者の間では危機感が高まっています。

(写真・JAXAの筑波宇宙センターに展示されている歴代の日本の主力ロケットの模型。右からH3、H2B、H2A、H2ロケット)

世界は民間ロケットによる宇宙旅行時代

 世界に目を向ければ、かつては大国が威信をかけていたロケット開発も、いまや主役は民間企業に移っています。アメリカでも、米航空宇宙局(NASA)は月や火星の探査に注力。地球近くでの宇宙開発は、民間企業に任せています。以前はNASAのスペースシャトルが担っていた国際宇宙ステーション(ISS)への宇宙飛行士の輸送も、いまは民間のロケットが行っています。

 2021年は民間の29人が宇宙旅行を楽しみ、「宇宙旅行元年」と言われました。この宇宙旅行を中心となって支えているのも民間のロケットです。

 2021年7月11日、米企業ヴァージン・ギャラクティックが、飛行機型の宇宙船「スペースシップ2」に実業家らを乗せて打ち上げ、上空86kmの宇宙空間まで到達させることに成功しました。その9日後には、米アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏が立ち上げた宇宙企業ブルーオリジンが、米テキサス州で顧客を乗せた宇宙船を自社のロケット「ニューシェパード」で打ち上げ、宇宙旅行を成功させます。さらに9月には、米宇宙企業スペースXが、民間人4人を乗せた宇宙船で3日間地球を周回する本格的な宇宙旅行を実現させました。スペースXは、電気自動車のテスラ社のCEO、イーロン・マスク氏が創業した宇宙ベンチャーです。

 スペースXは、打ち上げに使ったロケットを回収し、再度打ち上げることに世界で初めて成功。さらには100人乗りの大型宇宙船「スターシップ」で、月旅行も計画しています。衣料品通販サイト「ZOZO」元社長の前澤友作さんも、スペースXのロケットで、月周回旅行に行くと発表しています。

 まだまだ宇宙旅行のチケットは何億円という高額ですが、一般の人でも宇宙に行ける日は、すぐそこまで近づいています。

(写真・月や火星への有人飛行を目指す米宇宙企業スペースXの次世代大型宇宙船スターシップの原型機。最大で100人乗りを予定している)

「技術大国」日本は過去

 ロケットに限らず、日本の技術力は、近年陰りが否めません。
 
 今年2月、三菱重工業が、国産初のジェット旅客機「スペースジェット(旧MRJ)」の開発を断念すると発表しました。航空機産業を日本のものづくりの新たな柱に育てようと、国も支援した「国家プロジェクト」でしたが、開始から15年で撤退に追い込まれました。

 新型コロナウイルス感染症の流行を受け、みなさんワクチンを打ったと思いますが、日本で使われたワクチンはすべて欧米のメーカーが開発したものだったことを不思議に感じた人もいるのではないでしょうか。もちろん日本のメーカーもワクチンを開発していなかったわけではありません。しかし、開発のスピードは欧米企業に比べて遅く、日本メーカーが開発した国産ワクチンの承認申請が初めて出たのは2022年11月です。残念ながら2023年3月現在、承認された国産ワクチンはまだありません(海外の製薬会社が開発し、日本の製薬会社が生産したワクチンはあります)。

 かつて日本は「技術大国」として知られ、SONYのウォークマンのように、日本製品は世界中で人気を集めていました。しかし、いまはどうでしょうか。スマートフォンやスマートウォッチ、SNSなどウェブ上のサービスにしても、目立つのは海外企業のブランドばかり。日本企業の影が薄い分野が目立ちます。

 日本は、名目国内総生産(GDP)でも近くドイツに抜かれて、世界4位に転落する可能性が指摘されています。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」といわれた勢いは失われ、先進国内での地位の低下は否めません。

 もちろんロケット打ち上げの失敗と、ワクチン開発の遅れには、それぞれ異なる理由や背景があるでしょう。また、日本の停滞の原因は、国や企業の研究機関だけにあるのではなく、教育や政治、社会制度など、さまざまな分野が問題を抱えているといえます。
 「技術大国」日本の立て直しは容易ではありません。その鍵を握るのは、若いちからです。アメリカ経済を牽引するGAFAも、もとは若者が立ち上げたベンチャー企業です。これからの日本の行く末も、みなさん若い世代にかかっているのです。

(写真・三菱重工業が開発を断念した国産ジェット機)