人事のホンネ

宇宙航空研究開発機構(JAXA)

 人気企業・団体の採用担当者インタビュー「人事のホンネ」2022シーズン第11弾、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の後編です。民間企業では経験できないスケールの大きなプロジェクトに携われるのがJAXAの魅力。今では、その成功にとどまらず、生活を豊かに、安全に、便利にする「新しい価値」を生み出すことが目標だといいます。(編集長・木之本敬介)

(前編はこちら

■求める人材
 ――求める人材像について、改めて教えてください。
 求める人材像については、JAXAのWEBサイトに「人材育成実施方針」を公開していて、二つの力が必要だと書いています。一つは「専門力」。何かしらの専門家であってほしい。専門力は絶対に必要です。
 もう一つが「提案力」。二つ意味合いがあって、一つ目は「付加価値」ですね。宇宙航空の研究開発をすることで何の価値を社会に提供できるのかが非常に強く問われます。その新しい価値を生み出していく力です。二つ目は「協業」です。今、JAXAは30~40のプロジェクトを同時並行で行っていますが、ほぼすべて共同プロジェクトで単独のプロジェクトは一つもないと思います。国内、海外、いろんなところと一緒にやっています。以前はモノをつくる組織としての共同だったのが、だんだんそのプロジェクトで得たデータを使ってもらうために共同するようになりました。以前はモノができてから「じゃあどうぞ」ということもありましたが、今は最初から一緒にプロジェクトを立ち上げることがあります。新しい価値を生み出すことと、一緒に協同してそれを実現すること。この二つの能力を合わせて「提案力」といっています。

 ──その能力をどう判断しますか。
 将来のことを聞くのは難しいので、そういう経験をしてきたか、です。どんなレベルでもかまわないので、何か新しい価値をどう生み出したか、もしくは考えてきたか。誰かと一緒に何かをしてきたか、そこの成功体験や失敗体験を話してもらいます。

 ──JAXAって、どんな組織ですか。
 以前は課せられた使命を確実に果たすこと、ミッションを成功させることに最大の価値があったのですが、今は「社会にどんな価値を提供できるのか」が大事になり、そこを目指す組織になっています。ミッションを確実に行う人材も必要ですし、それを達成するとみなさんの生活がどう豊かになるのか、安全になるのか、便利になるのかという思いが必要ですね。
 もちろん、エンジニアとして「とにかくこれをやりたい」というのも大事ですが、それが他者にとって何の利益になるのかというところに一定の価値観を持っていることが大事です。

 ──「宇宙好き」の度合いは大事ですか。
 正直に言ってしまうと、来年の就職に影響があるかもしれないんですが……(笑)。大前提として宇宙が嫌いでうちに来る人はいないと思います。宇宙にネガティブな印象を持っているとキャリアとしては難しいし、あまり楽しい人生じゃないだろうなと。ただ、そこを選考で重視しているかというと、実はそうでもありません。繰り返しになりますが、求める人材の幅が広くなっているからです。
 でも、さきほどの漁業や海洋資源でもそうですが、その分野を専門に学んできた人たちに、JAXAに入るイメージがないと思うんです。そこにギャップがあって、「JAXAはそういう人材を求めています。宇宙でこんなことができるんですよ」とリーチしていきたい。今まではそこまで宇宙のことを考えたことがなかった人でも、宇宙という場を使って自分の専門性で世の中に貢献できる、そういうキャリアもあると知ってもらえれば本当にありがたいです。

 ──そういう学生へのアプローチは?
 JAXAに関心のない層に自分が候補者かもしれないと気づいてもらう、ホームページを見てもらうのが非常に難しい。大金があればCMをバンバン打てるんですけれども、いかんせんお金がないので(笑)。一つはSNSですね。JAXA、「はやぶさ」と「はやぶさ2」、若田光一宇宙飛行士等の公式ツイッターには、一定数のフォロワーがいるので、そこで「工学系じゃない人も求めていますよ」というメッセージを拡散してもらっています。

 ──文系ではどんな人が来ますか。
 「公的機関」というところに魅力を感じ公的なところで貢献したい、あるいは「グローバル」という視点から国際的な場で活躍したい人が多いです。あとは「未知」というキーワードですね。新しい領域でチャレンジしたいという人もいます。ただ、技術系もそうですが、日常業務は非常に地道ですので、イメージと実際とのギャップが過度にないかということも確認しています。

民間ではできない大きなスケールの価値提供 成長する機会・人脈が豊富

■ニュース
 ──面接でニュースについては聞きますか。
 最低限、社会常識は持っていてほしいと思います。技術系集団なので技術的なところにはアンテナを張っていてほしい。どういう技術が最近注目されたか、その技術を使ったら何が実現でき、社会がどう変わるか、というアンテナは磨いてほしいですね。

 ──2022年卒の電気系職種の募集をすでに始めていますね。
 はい。DX(デジタルトランスフォーメーション)化の流れを受けて、電気系の人材獲得競争が激しくなっています。新卒社員に1000万円支払うような会社もあるので、先駆けたいと思って早めました。
 処遇では勝てませんが、うちには成長する機会や人脈があります。JAXAが就職先としていかに魅力的かを理解してもらえればありがたいのですが。

 ──内定が競合する企業・団体は?
 宇宙関連の企業が多いのですが、だんだんバラエティーに富んできました。

■インターンシップ
 ──インターンシップについて教えてください。
 2020年の夏はコロナでインターンができませんでした。就活の一環とは位置付けておらず、就業体験として例年実施しています。
 2021年2月にはワンデーのWEBセミナーを実施します。会社紹介と対談です。

 ──2022年卒向けには新しいインターンを考えていますか。
 インターンの機会はできる限り提供していきたいと思っています。ただJAXAの場合、施設や試験設備を使う現場に来てもらうところに特色がありました。WEBインターンで何を提供できるか、またコロナの状況によって、これらの現場でも職員がテレワークベースとなった場合は難しいかもしれません。

■やりがいと厳しさ
 ──JAXAの仕事のやりがいは何でしょう?
 JAXAでしかできない経験が豊富にあります。JAXAは今までにないものを新しく社会に提供します。他社でも新製品は常にそういう心構えで出していると思いますが、JAXAではプラットフォームづくりなど、より大きなスケールで考えられます。種出しをして、つくりあげて、運用まで持っていく。上流から下流まで関われる。この機会は他社では難しいかもしれません。

 ──逆に厳しさは?
 結果がなかなか分からないところです。今までにないものについて、「これができたら社会が変わるんですよ」と価値を理解してもらうのはすごく難しい。でも理解してもらって、立ち上げて、実現まで持っていきますが、その成否には常にリスクが伴う。そういう難しさや辛さはありますね。

 ──どんな風土ですか。会社なら社風ですね。
 上司にガンガンものを言います(笑)。テクニカルに正しいことが正しいので「それって最適じゃない。こちらのほうがいいですよね」といったことは、全員が何のちゅうちょもなく言います。思ったことを言えないという場面は、僕は見たことがないですね。ただ、それが通るかというと、さまざまな観点から議論され段階を踏んで、最後は組織として意志決定することになります。