人気企業・団体の採用担当者に直撃インタビューする「人事のホンネ」の2022シーズン第11弾は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)です。小惑星探査機「はやぶさ2」の大成功などで注目を集める国立の研究開発法人。技術系中心の組織ですが、事務系の採用もあります。事業の変化にともない、求める人材は、データ分析など一見宇宙とは関係なさそうな分野に広がっています。オンラインでのインタビューでお届けします。(編集長・木之本敬介)
■「はやぶさ2」
──「はやぶさ2」の大成功、おめでとうございます! すごかったですね。
そうですね。プロジェクトは「100点以上」の結果が出るので、ありがたいですね。
──松村さんは技術者・研究者ですからプロジェクトと一心同体かと思いますが、JAXA内は大騒ぎだったのでしょうね。
みんなが明るい雰囲気になるのは事実なんですが、部門が違うとあんまり認識していないこともあります(笑)。初代「はやぶさ」が非常にインパクトがあった一方、今回は順調にいったこともあり、比較的淡々と「成功したんだ」という感じです。
ただ、オーストラリアで帰還カプセルを回収する際には2週間の隔離期間があるなど、コロナ禍でどうやって安全を確保するかを考えました。万が一、回収班に感染者が出たら回収できなくなるので、そのリスクをどう回避するのか、2班体制にしたほうがいいのか、といろんな準備がありました。帰還カプセルが無事に回収でき、さらに小惑星リュウグウのサンプルが採取できていたので、ホッとしたところが大きいのも事実です。
■採用実績
──採用実績を教えてください。
2020年入社は、技術系24人、事務系5人の計29人でした。博士10人、修士13人、大卒5人、高専1人です。男女別では、男性17人、女性12人でした。
2021年卒の内定者は、技術系27人、事務系9人の計36人。博士9人、修士19人、大卒8人で、男女別では、男性17人、女性19人で、初めて女性が多数になりました。最近、事務系は半分以上が女性です。技術系はそもそも学生の比率として男性が多いのでそこまでいきませんが、今回は技術系でも女性が多かったですね。
■WEB面接、説明会
──前代未聞のコロナ禍の採用でした。
正直、そこまでコロナ禍という状況を意識することはなく、あまり影響はありませんでした。
──従来からWEB面接をしていたのですか。
はい。中途採用では遠方だったり時間的な都合があったりするので、従来からWEB面接を行うことが多くWEB面接のプロセスを一通り確立していました。新卒採用も従来から海外の大学の人はWEB面接だったので、初めてではなく、手順やツール、WEB面接のシステム、選考官の習熟度なども含め経験がありました。新卒採用全員をWEB面接にしたのは初めてですが、3人やるのか、数十人やるのかという人数の違い程度でした。
──説明会はどうされましたか。
コロナ以前から、対面説明会の学生へのリーチの物足りなさ、人数に限りがあることが課題でした。「JAXAに興味を持ってくれている人」以外に情報をどう届けるかを考え、2021年卒採用ではコロナに関係なくWEB説明会を予定していました。
実際にやってみると、対面の説明会会場のキャパシティーを超える数の学生がアクセスしてくれました。対面の合同説明会だと数十人しか入れませんが、WEBの登録者数は300~400人になりました。WEB説明会は録画・再生もできるので、しばらくホームページ(HP)で公開したままにして再利用もできました。
──その後のスケジュールは3月からエントリー開始、3月中に締め切り、4月以降に説明会ですか。
はい。スケジュールは変わりませんでした。4月初めくらいから選考を始めて内々定は6月に出しました。
──2020年は「はやぶさ2」の成功、野口聡一さんの3度目の国際宇宙ステーション(ISS)滞在など、宇宙関係の話題が多くJAXAへの注目度が高かったので、エントリーが増えたのでは?
就職ではみなさん、人生としてのキャリアを考えているので、その年のトピックによってエントリー数が増減することはあまりないですね。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)
2022シーズン⑪ 宇宙航空研究開発機構(JAXA)《前編》
衛星・ロケットで「何する」? データ分析など幅広い人材必要【人事のホンネ】
人事部 人事課 課長 松村祐介(まつむら・ゆうすけ)さん
2021年02月10日
研究テーマを深く聞く 事務系は知見得たプロセスが大事
■ES
──エントリーシート(ES)はどんな内容ですか。
特徴的なのは、卒論や修論などの研究テーマについて、どんな専門性を学んできたか、どういう成果を上げてきたのか、深く聞いています。技術系だと、どんなレベルであれ従来の学説に何かしらの価値を付加しないと論文になりません。どんなに小さなことでもいいのですが、自分の論文で社会にどんな価値が付加されたのか、内容や技術がどのくらい先進的か、斬新か、本質的か、どれくらい理解が深まっているか。そうした専門性について書いてもらいます。
──世の中にどう役立つかが大事?
「役に立つ」という社会への実利面でも、「今まで分からなかったことが新たに分かった」という真理追究的なことでも構いません。「授業を受けて既存の理論を勉強しました」だけではプラスアルファがありません。それにプラスして、その人の価値や意欲を知りたいですね。さらに実績があれば言うことはありません。
──専門分野は、航空宇宙工学、宇宙物理学といった宇宙や航空に関する学生が多いのですか。
そうした志望者が一定数いるのも事実ですが、実は「宇宙」という学問分野はないんです。天文学や惑星物理学はサイエンスとしてはありますが、工学系では宇宙を学ぶのではなく、材料、制御、電気、構造といった分野を学びます。そこで何をつくるのか、電車か、冷蔵庫か、人工衛星かという違いで、専門分野として「宇宙」という区分はありません。
──採用HPにある内定者の専攻分野で、機械系が33パーセントと一番多いのはそういう理由なんですね。
衛星やロケットをつくるのがプロジェクトの一つの柱なので、それを確実に達成する人材を確保する必要はあります。でも、従来に比べると「衛星やロケットをつくって何をするのか?」ということが圧倒的に問われるようになっています。昔は「ロケット打ち上げ初成功」といったことに大きな意義がありましたが、今や打ち上げは民間である程度安価にできるようにもなっており、そのプロジェクトでいったい何をするのか、収集したデータをどうするのか、誰が使うのか、そのデータは社会に何の価値を付加できるのか、というところが非常に大事です。そのため機械系・電気系だけでなく、データ分析ができる人、地球科学を学んできた人など幅広い人材を必要としています。
──求める人材像が変わって来たのですね。
機械系、電気系の人材も当然必要ですが、採用のウエイトは少しずつ下がっています。代わりに、データ分析、地球科学、生命科学など、いろんな分野に広がっています。
──どんなデータを使うのでしょう?
たとえば地球を観測したデータは、農業、林業、漁業関係、災害監視などいろんな分野で使うので、それぞれの分野に応じて加工します。各分野の人たちがどこに価値を感じるのか、データにどんな付加価値をつけたら喜んでもらえるのかを知っていないといけません。その専門分野の知見があることが重要です。
地球観測衛星はおよそ90分で地球を1周するので、短時間で地球全面を測れます。海水面の温度は何とリンクしているのか。たとえば魚群とリンクしていてある温度のところにスポットがあって、そこにどんな魚群が集まりやすい、といった相関関係を読み解くと漁業関係者にとって非常に価値のあるデータになります。出航30分前に太平洋全域の温度データが港に届くとすると、どの辺りに魚群がいるかが分かり、そこに行って魚群探知機で範囲を狭めればヒット率が上がるとか。
どんなセンサーを乗せれば温度が測れるかを考えるのはエンジニアですが、温度と魚群の関係となると漁業・海洋の研究者になるわけです。
──事務系の研究テーマはどのくらい重視しますか。
技術系だと「機械をやっていました」「材料をやっていたので、材料工学の知見で事業に貢献します」となりますが、事務系だと「商学の知見を業務にいかします」などとダイレクトにはなりません。でも、そこで得た知見や、知見を得たプロセスなどは大事です。
──ESの他の項目は?
志望動機、JAXAでどういった貢献をしたいか、どういう役割を担いたいかというキャリア志向ですね。
──ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)より学業を重視しますか。
ガクチカは、A4サイズ1枚に自由に書いてもらいます。文字だけでなく画像やグラフを入れるなど、どう使ってもかまいません。PDF化して送信してもらいます。
学業もガクチカの一つですが、どれだけ自分の能力を高めてきてJAXAに入った後に貢献してもらえるか、JAXAでさらに能力を向上する潜在力があるか、それらを何をもって示してもらうかですね。
──エントリーシート(ES)はどんな内容ですか。
特徴的なのは、卒論や修論などの研究テーマについて、どんな専門性を学んできたか、どういう成果を上げてきたのか、深く聞いています。技術系だと、どんなレベルであれ従来の学説に何かしらの価値を付加しないと論文になりません。どんなに小さなことでもいいのですが、自分の論文で社会にどんな価値が付加されたのか、内容や技術がどのくらい先進的か、斬新か、本質的か、どれくらい理解が深まっているか。そうした専門性について書いてもらいます。
──世の中にどう役立つかが大事?
「役に立つ」という社会への実利面でも、「今まで分からなかったことが新たに分かった」という真理追究的なことでも構いません。「授業を受けて既存の理論を勉強しました」だけではプラスアルファがありません。それにプラスして、その人の価値や意欲を知りたいですね。さらに実績があれば言うことはありません。
──専門分野は、航空宇宙工学、宇宙物理学といった宇宙や航空に関する学生が多いのですか。
そうした志望者が一定数いるのも事実ですが、実は「宇宙」という学問分野はないんです。天文学や惑星物理学はサイエンスとしてはありますが、工学系では宇宙を学ぶのではなく、材料、制御、電気、構造といった分野を学びます。そこで何をつくるのか、電車か、冷蔵庫か、人工衛星かという違いで、専門分野として「宇宙」という区分はありません。
──採用HPにある内定者の専攻分野で、機械系が33パーセントと一番多いのはそういう理由なんですね。
衛星やロケットをつくるのがプロジェクトの一つの柱なので、それを確実に達成する人材を確保する必要はあります。でも、従来に比べると「衛星やロケットをつくって何をするのか?」ということが圧倒的に問われるようになっています。昔は「ロケット打ち上げ初成功」といったことに大きな意義がありましたが、今や打ち上げは民間である程度安価にできるようにもなっており、そのプロジェクトでいったい何をするのか、収集したデータをどうするのか、誰が使うのか、そのデータは社会に何の価値を付加できるのか、というところが非常に大事です。そのため機械系・電気系だけでなく、データ分析ができる人、地球科学を学んできた人など幅広い人材を必要としています。
──求める人材像が変わって来たのですね。
機械系、電気系の人材も当然必要ですが、採用のウエイトは少しずつ下がっています。代わりに、データ分析、地球科学、生命科学など、いろんな分野に広がっています。
──どんなデータを使うのでしょう?
たとえば地球を観測したデータは、農業、林業、漁業関係、災害監視などいろんな分野で使うので、それぞれの分野に応じて加工します。各分野の人たちがどこに価値を感じるのか、データにどんな付加価値をつけたら喜んでもらえるのかを知っていないといけません。その専門分野の知見があることが重要です。
地球観測衛星はおよそ90分で地球を1周するので、短時間で地球全面を測れます。海水面の温度は何とリンクしているのか。たとえば魚群とリンクしていてある温度のところにスポットがあって、そこにどんな魚群が集まりやすい、といった相関関係を読み解くと漁業関係者にとって非常に価値のあるデータになります。出航30分前に太平洋全域の温度データが港に届くとすると、どの辺りに魚群がいるかが分かり、そこに行って魚群探知機で範囲を狭めればヒット率が上がるとか。
どんなセンサーを乗せれば温度が測れるかを考えるのはエンジニアですが、温度と魚群の関係となると漁業・海洋の研究者になるわけです。
──事務系の研究テーマはどのくらい重視しますか。
技術系だと「機械をやっていました」「材料をやっていたので、材料工学の知見で事業に貢献します」となりますが、事務系だと「商学の知見を業務にいかします」などとダイレクトにはなりません。でも、そこで得た知見や、知見を得たプロセスなどは大事です。
──ESの他の項目は?
志望動機、JAXAでどういった貢献をしたいか、どういう役割を担いたいかというキャリア志向ですね。
──ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)より学業を重視しますか。
ガクチカは、A4サイズ1枚に自由に書いてもらいます。文字だけでなく画像やグラフを入れるなど、どう使ってもかまいません。PDF化して送信してもらいます。
学業もガクチカの一つですが、どれだけ自分の能力を高めてきてJAXAに入った後に貢献してもらえるか、JAXAでさらに能力を向上する潜在力があるか、それらを何をもって示してもらうかですね。
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