
(前編はこちら)
■求める人材
――求める人材像について、改めて教えてください。
求める人材像については、JAXAのWEBサイトに「人材育成実施方針」を公開していて、二つの力が必要だと書いています。一つは「専門力」。何かしらの専門家であってほしい。専門力は絶対に必要です。
もう一つが「提案力」。二つ意味合いがあって、一つ目は「付加価値」ですね。宇宙航空の研究開発をすることで何の価値を社会に提供できるのかが非常に強く問われます。その新しい価値を生み出していく力です。二つ目は「協業」です。今、JAXAは30~40のプロジェクトを同時並行で行っていますが、ほぼすべて共同プロジェクトで単独のプロジェクトは一つもないと思います。国内、海外、いろんなところと一緒にやっています。以前はモノをつくる組織としての共同だったのが、だんだんそのプロジェクトで得たデータを使ってもらうために共同するようになりました。以前はモノができてから「じゃあどうぞ」ということもありましたが、今は最初から一緒にプロジェクトを立ち上げることがあります。新しい価値を生み出すことと、一緒に協同してそれを実現すること。この二つの能力を合わせて「提案力」といっています。
──その能力をどう判断しますか。
将来のことを聞くのは難しいので、そういう経験をしてきたか、です。どんなレベルでもかまわないので、何か新しい価値をどう生み出したか、もしくは考えてきたか。誰かと一緒に何かをしてきたか、そこの成功体験や失敗体験を話してもらいます。
──JAXAって、どんな組織ですか。
以前は課せられた使命を確実に果たすこと、ミッションを成功させることに最大の価値があったのですが、今は「社会にどんな価値を提供できるのか」が大事になり、そこを目指す組織になっています。ミッションを確実に行う人材も必要ですし、それを達成するとみなさんの生活がどう豊かになるのか、安全になるのか、便利になるのかという思いが必要ですね。
もちろん、エンジニアとして「とにかくこれをやりたい」というのも大事ですが、それが他者にとって何の利益になるのかというところに一定の価値観を持っていることが大事です。
──「宇宙好き」の度合いは大事ですか。
正直に言ってしまうと、来年の就職に影響があるかもしれないんですが……(笑)。大前提として宇宙が嫌いでうちに来る人はいないと思います。宇宙にネガティブな印象を持っているとキャリアとしては難しいし、あまり楽しい人生じゃないだろうなと。ただ、そこを選考で重視しているかというと、実はそうでもありません。繰り返しになりますが、求める人材の幅が広くなっているからです。
でも、さきほどの漁業や海洋資源でもそうですが、その分野を専門に学んできた人たちに、JAXAに入るイメージがないと思うんです。そこにギャップがあって、「JAXAはそういう人材を求めています。宇宙でこんなことができるんですよ」とリーチしていきたい。今まではそこまで宇宙のことを考えたことがなかった人でも、宇宙という場を使って自分の専門性で世の中に貢献できる、そういうキャリアもあると知ってもらえれば本当にありがたいです。
──そういう学生へのアプローチは?
JAXAに関心のない層に自分が候補者かもしれないと気づいてもらう、ホームページを見てもらうのが非常に難しい。大金があればCMをバンバン打てるんですけれども、いかんせんお金がないので(笑)。一つはSNSですね。JAXA、「はやぶさ」と「はやぶさ2」、若田光一宇宙飛行士等の公式ツイッターには、一定数のフォロワーがいるので、そこで「工学系じゃない人も求めていますよ」というメッセージを拡散してもらっています。
──文系ではどんな人が来ますか。
「公的機関」というところに魅力を感じ公的なところで貢献したい、あるいは「グローバル」という視点から国際的な場で活躍したい人が多いです。あとは「未知」というキーワードですね。新しい領域でチャレンジしたいという人もいます。ただ、技術系もそうですが、日常業務は非常に地道ですので、イメージと実際とのギャップが過度にないかということも確認しています。…続きを読む