三井物産株式会社
2015シーズン【第6回 三井物産】
新聞読むだけでなく考えよ! 人生で成し遂げたいこと見いだせ
三井物産 人事総務部人材開発室 室長 中野真寿(なかの・まさとし)さん
2013年11月27日
――2013年度入社、14年度入社予定の採用実績を教えてください。
2013年度入社は、担当職(総合職)が137人(うち女性が26名)、業務職(一般職)は28名。2014年度は、担当職133人(女性26名)、業務職は27人の160人。例年、担当職は130から140人位でしょうか。当社はグローバル通年採用を行っていて、春に加えて夏も選考をしています。海外では欧州、米国、中国、韓国、台湾と世界中で採用活動をしています。春だけで100人強、夏は7月に20人前後、グローバルで15から20人を採用しています。世界で採用する人材としては、外国人も日本人の海外留学生もいます。
――総エントリー数は何人くらいですか。
プレエントリーは2万人、本エントリーは1万人くらいですね。今年は例年に比べてもう少し学生が考えていることを聞きたい、という思いからエントリーシート(ES)の項目を増やしたところ、結果として商社業界や当社の志望度が高い学生に絞り込まれ、本エントリー数は減りました。本当に入りたいという人はどんなに長くても書いてくれると思いますが、それほど志望が高くない人はやめてしまう。そういう要因もあっての減少だと思います。
――ESのハードルを上げたわけですね。具体的にはどう変えたのですか。
質問する項目と、それぞれの書く分量を増やしました。全体で800字を1800字にしたイメージ。項目は「志望動機」などで、オーソドックスな質問です。一つの項目につき400字程度。そして最後に「なぜ三井物産に入りたいのか」を200字で聞いて計1800字です。字数を増やしたので、エントリーの受付期間は延ばしました。
――職種について教えてください。
総合職と一般職を、当社ではそれぞれ担当職と業務職と呼んでいます。担当職の女性は全体の2割で近年あまり変わっていません。正直、調整はしていません。いい人がいれば採る。男性だからとか女性だからとかはありません。応募も2割ぐらいが女性です。
業務職は最近30名前後で全員女性です。女性である必要はなく、エントリーされる男性もいますが、説明会に来て、周りが女性ばかりで帰る方もいます。
――学生を見て、準備などの面で男女に違いは感じますか。
女性の方が受け答えなどがしっかりしていますね。総じて準備をしっかりしているイメージです。
■選考の流れと求める人材
――2015年新卒採用のスケジュールは?
経団連の倫理憲章に準じて行いますから、12月1日採用広報開始、ESは2月半ばから3月初めに締め切り、4月1日から面接を開始します。現在の面接は1対1が3回、その後最終面接が2対1です。面接員は現場で活躍する社員がメーンですが、人事総務部の社員も入ります。ESや能力試験、英語ができる、できないということだけでなく、人物本位でその人をしっかり見るためです。それで1対1面接を3回しています。時間は何次面接かによって違いますが1回20~30分くらい。内々定は4月の中旬前ごろに出します。現在はグループディスカッションや集団面接はしていません。
――面接前には書類選考がありますよね。
書類選考と筆記試験ですね。適性と言語、非言語、英語です。時事問題的なものはありません。用意した会場に集まって受けてもらいます。ESと筆記試験で足切りをしますが、偏差値だけでばっさりと落としたりはしません。偏差値とESの内容をしっかり加味して決めます。英語試験はありますが、できないからだめということはありません。英語力は後から勉強すれば補えるものですので。素地というか素質、ポテンシャルを持っている人を英語力だけで落としたくない。できなければ後から頑張ってください、と言います。面接には、1次で4000人弱呼んでいます。できるだけ多くの人に会いたいと思っています。
――どんな人材を求めていますか。
好奇心旺盛な人、失敗を恐れないで挑戦する意欲がある人。新しいものをつくり出して、世の中を良くしたい人。ゼロからつくり出すには力がいりますから、意志、信念が固い人です。夢や目標をしっかり持ち、仕事を通じて実現していこうと思っている人ですね。
――それに対して、実際にエントリーする学生の志望動機で多いパターンは?
志望動機は「海外で仕事がしたい」と書く人が圧倒的に多いですね。次に、うちの採用ホームページでうたっている「良い仕事」に共感して、「自分も仕事を通じて社会貢献したい」という人ですね。企業はボランティア活動をしているわけではありませんので、新しいものをつくり出して世の中を良くしていくという気持ちが大切です。あとはうちのOBに会って「その人と一緒に働きたい」。そういうパターンが多い。「海外」と「良い仕事」いう切り口が多い。基本的に商社に行きたいという人は海外で仕事がしたい、という人ですね。
――求める人材とはマッチしているんですね? その中で選考のポイントは?
ESの内容がいくらきれいに書かれていても、会ったらESの内容と全然ちがう人はたくさんいます。自分の意思で書いているのか、なんとなく周りの人の言葉を借りてコピペしているのかは、ESを見ればある程度わかります。会えばもっとわかる。ESは実体験に基づいているのかどうかが重要です。面接での受け答えも同じ。お化粧してもはがれますからね。その人の生き様みたいなものが本当にある人は、何をどんな角度から聞いても、しっかり自分の軸で答えられる。そこで説明に窮したりすると、「本当にそうなのかな」と思います。ESで見えない部分を確かめるのが面接ですが、ESを見ただけでもある程度そういうところは見えてきます。
――うわべだけ飾ってくる学生が多いのですね?
皆さんに伺えば、自分の夢を語ってくれるし、自分のやりたいことは当然志望動機に入っている。どうしてそう考えるのか、何の経験に基づいて話しているのかを聞くと、しっかりと答えられない。なぜそう考えるのか、この人はどういう人間なのかを知るための質問です。でも、有名な会社に入りたい、一生安定して給料もいい、そこに入るにはこんな準備しなくてはいけない、だから就活塾に行って、ネクタイの締め方からはじまり、「こんなことを聞かれたらこう答えれば印象がいい」――とか教えられるのでしょうか。
そういう人は、会って話をしたらすぐわかります。学生に聞きたいのは「本当に自分のやりたいこと」は何ですか、ということ。それは普通に学生生活を何となく過ごしているだけじゃ語れないのではないかと思います。自分の考えや意見と違う人に出会って刺激されたり、自分の常識が通用しない所に行って多様な経験をしてみたりしないと、自分の価値観はできないのでないかと。「俺は、私はこういうことがしたい!」。そう自信を持って思えるように、いろんな経験を積んでほしい。
失敗も大事です。誰でも成功したいが、失敗して初めて自分を改めたり、気づくことがある。社会人になってからもそうです。失敗して会社に迷惑を掛けることもある。ただ、それを糧に新しい挑戦をしなくてはならないし、それがあったからこそ次の成功につながる。面接でも「最近怒られたり、失敗したりしたことある?」と聞いたことがありますが、みなさんあまりないんですね。怒られたからいい、という話でもないですが……。
――マニュアル頼みの就活生が増えているんでしょうか。
それはあまり感じません。ただ、昔に比べて1カ月の短期海外留学やボランティア活動をしたことがある学生が増えました。就活に有利だと教えられるのでしょうか。そういう経験は、した方がいいと思いますが、履き違えてほしくないのは、「行ったこと」が大事なのではないということ。「行って何を感じて、それが自分の生き様にどう影響したのか」を考えてほしい。
経験の大きさではない、どれだけ興味をもって取り組み、何を得たか
――インターンシップは実施していますか。
現状はしていません。
ただ、「キャリア大学」というNPO法人の活動に参画しており、今年は大学1年生60人を招待してキャリア教育を実施しました。これは学生に早いうちから就業観を持ってもらいたいという試みで、夏休みを利用して30社くらいが参画しています。今年からこの活動が始まりました。「商社とは何か」とか「当社の歴史」を教えても学生はつまらないと思うので、出来るだけ生の商社マン・ウーマンに接して楽しんでもらおうと工夫をしてみました。夜中のメキシコとインドの駐在員にスカイプでつないで学生と直接会話してもらい、当社の社員が学生時代に感じていたこと、仕事への想い等、いろいろと質疑応答してもらいました。世界の裏側で切磋琢磨している社員と会話が出来るライブ感もあって、楽しんでもらえたのではないかと思います。何年後かにあの時こんな楽しい話があったなぁと思い出し、「商社っておもしろい」と思ってもらえるきっかけにつながればいいなと思います。
――若手社員が事実上の選考や学生への働きかけをするリクルーター制は?
やっていません。OB・OG訪問を勧めています。12月1日から大学のキャリアセンターに社員の名簿を配り、自分の大学のOB・OGがいない場合は名簿を見て連絡をもらう形です。OB・OG訪問の情報は採用には活用していません。OB・OGは6年目までの若手社員。名簿を配っている大学は、十数校です。
――会社説明会やセミナーはどんな形式ですか。
12月1日以降、大学別に講演に行ったり、留学生を集めたセミナーをやったり、六本木のアークヒルズで5000人規模の自社説明会をしたりしています。合同説明会にブースを出すこともあります。
――欲しい人材は採れていますか。
永遠の課題ですよね。採用試験が終わったときは良い学生を採れたという満足感はあります。入社後に育成で成長する人もたくさんいます。ただ、採用時点で納得感があるかどうかが重要だと思ってます。説明会に現場の社員に協力してもらい、会社の特徴とか仕事のやりがい、実態を話してもらう。それで興味を持ってきてくれる人が受けに来てくれているんだと思います。
――選考に大学名は関係ありますか。
関係ありません。内定者は有名大学が多いのは確かですが、自然体で選考して結果的にそうなっているだけですね。本当にフェアにやっています。早慶はエントリー数も多いので、それに比例していることはあるのかもしれません。できるだけ多くの、いろんな大学から、多様な人材、個性的な人を採りたいので、関西、北海道、東北、九州など説明に行ける大学には行っています。
――ESは誰が読むのですか。ES評価のポイントは?
ESは採用担当者が全てに目を通して読んでいます。見るポイントは、文章能力と設問にしっかりと応えているかどうか。言いっ放しでなく、起承転結が見たいですね。
空白が多いESは感心しません。もっと書きたいことはないのかなぁ、もっとアピールしたいことがあるのではないだろうか、と思います。あと誤字脱字は印象がよくないですね。
――面接ではどこを見ますか。
礼儀とか面接に臨む態度は基本だと思います。面接で見るポイントは、その人が本質を見抜ける人か、考える力を持っているか、しっかり説明できるか等です。日ごろから考えていないと、そういう説明はできないので。何かアンダーラインを引いて覚えてきても、その先を深く聞いてみると、残念ながら説明に窮してしまう人がいる。新聞などから知識はいくらでも取れますが、その知識を自分の考えに落とし込んで自分の言葉にしているか、その説明能力ですね。
もう一つ、人物を見るときの視点は、お客さんに可愛がられるか、自分の部下として一緒に働きたいかという点ですね。これは、どの会社も変わらないと思いますけど。
面接員研修はやっています。こういうポイントでみてください、こういう質問はしないでください、深掘りの仕方、例えばこういう例があります。そういう程度ですね。
――英語力についてはさきほどもうかがいましたが、英語ができなくて内定した学生もいるんですか。
英語は必要ですが、流暢に話せなくたって通じるものは通じるし、片言しか話せなくても「こいつと仕事がしたい。肩組みたい」と思わせる人間力ってあるじゃないですか。だからうちは英語だけでは落とさない。
実際、TOEICの得点が初級レベルとか、英語が苦手な人でも入社しています。入ってから大変ですが、入社後はみんな当社のボーダーラインをクリアするレベルに達しています。そういうことだと思うんですよ。いくらTOEICの得点が満点だろうが、どんなに履歴書がすばらしくても、それだけでは判断しない、ということです。
――印象に残った学生はいますか。
社内の売店でカルガモどら焼きを売っているんですが、「買って帰った方がいいですか?」っていう学生がいました(笑)。「どっちでも構いませんよ。美味しいと思いますので買っていかれたらいかがですか」と言いました。売店の売り上げには貢献してくれますが、選考には関係ありませんよね(笑)。OB・OG訪問について「何人会えば受かりますか」って、ちょっと本質とはずれた質問をした学生もいましたね。
それから、学生時代に力を注いだ経験を語ってくれる人もいます。別にコンビニのアルバイトで経験したことでも何でも良いと思いますが、経験の大きさや小ささという問題でもなく、その事にどれだけ興味をもって取り組み、そこから何を得たのか、が大切なんです。どうしても学生はやってきた経験の大きさばかりに意識がいくことが多いのかなと。
自分が成長できる、やりがいのある仕事に尽きない会社
――OB・OG訪問は必須ですか。
いえ、必須ではありません。でもやっておいた方がいいですよね。やらないと会社の雰囲気や仕事の内容、どんな人が働いているのかわからないと思います。会えば面接でも話しやすいでしょう。しかし、OB・OG訪問をした、しない、会った人数が選考に関係することは一切ありません。
ただ、内定者にアンケートをすると、「OB・OG訪問が参考になりました」という答えが多くあります。人や仕事の魅力が直接伝わるんです。そういう結果は出ています。
――志望動機では、エネルギーとか、食糧とか、具体的にやりたい分野を挙げた方が有利ですか。
「これがやりたい」と言う人もいれば、言わない人もいます。それはどっちでもいい。たとえば「エネルギーの領域で、インフラ事業をやって安定的なエネルギーを日本に供給したい」と皆さん言いますが、聞きたいのは、なぜそれをしたいのか、その先に何をしたいのかです。あなたはこの会社に入ってどんな「夢」を成し遂げたいのか。日本人の生活を豊かにするのか、世の中で困っている人の力になりたいのか。大きな目標があって、それを落とし込んでいくと、「だから自分は水の事業がやりたい」となる。それがあるかないかでだいぶ違う。どの分野でもいい。僕はこういう人間です、だからこの会社でこういうことがやりたい、という漠然とした内容でも納得感があればいいんです。
――最近の学生は、企業研究をよくしていますか。
していると思います。僕らが就職したときは、送られてきた冊子に付いたハガキを出すと、やっと会社案内が送られてくるという時代でしたが、今はどんな情報でも、いくらでもどこからでも取れる。企業研究はしていると思います。でも知識だけで終わらせたらダメですよね。考えて、脳に汗をかかせないと。会社に入ると正解のない仕事が多くあります。いろんなことにぶつかりながら、最善の策を自分で見つけなくてはならない。そうすると考えなくてはならないんですね。だから、「考える力」を持っている人が必要なんです。突き詰めると日本の教育問題になりますが、自分で考える努力をする、そのクセをつける必要がある。新聞を読むと知識は付きますが、それを読んで自分で考え、いろんな人と議論して自分の考えとどう違うのか、それで自分の軸を持つことが大事。こう書いてありましただけでなくて、それに対して自分はどう考えるのかしっかり答えてほしい。すると「なるほど、こういう考え方だからこの人はこういう発言をするんだ」と伝わります。
――内定者が競合する会社は?
やはり同業他社さんですね。残念ながら当社を辞退するケースもあります。うちの社員100人に聞いたら100人が皆、「なぜうちに来ないんだろう。こんなに面白い会社なのに」って言うと思います。うちは自分が成長できる、やりがいのある仕事に尽きない会社だと思います。本当にそうなんですよ。他社を選ぶ学生の理由を聞くと「業界で業績が上位だから」「親に言われたから」という人がいます。うちは個性を大事にする会社ですが「自分は個性的なところよりは、上から言われたことをみんなと同じ方向を向いてやる方が合っていると思う」と。そういう人は当社に入社しても仕事が面白くないと思いますので自分に合った会社に行かれた方が良いと思いますが、そういう人でなければ「絶対うちの方が楽しいぞ」って言ってあげたいですね。一時の業績や他人の言葉に惑わされず、自分が本当にやりがいを持って働ける舞台はどこか、自分が成長できる会社がどこか、自分の夢を実現できる会社はどこか、しっかり考えてほしいですね。
――他の業界はどうですか。
社会貢献色が強い会社が近年は多いですね。不動産業界も最近はあります。外資系は選考時期が早いからか、あまりありません。
――今の2年生から就活時期が後ろ倒しされます。どう対応しますか。
就職活動の早期化・長期化は学生の本分である学業を妨げているという考えから、当社は後ろ倒しを2009年から提唱しています。ですから我々は賛成です。就活の期間を短くして、その間に勉強とか留学とか、いろんな経験をして自分を見つめ直して就活に臨んでほしい。親が言ったからとか、イメージがいいからではなく、自分が何をやりたいかを考える時間に使ってほしい。一夜漬けの会社選びではなかなか自分を語れないのではないでしょうか。
――総合商社の仕事はとても多岐にわたるので、学生にはわかりにくい面があります。
世界や時代の環境に応じて業態が変わっていくので説明は難しい。12の営業本部に分かれた事業領域の中で、世界148拠点のネットワークと情報力を生かして、国と国、会社と会社、人と人をつなげ、資源を開発し、プラントを作り、会社を立ち上げ、多種多様な商品を販売し、プロジェクトを多角的に展開しています。簡単に言うと「世界中の人々が必要としているモノ、コトをお届けする仕事」です。
――入社後の研修制度について教えてください。
入社前1週間と入社後2週間の全体研修でビジネスマナーを学びます、名刺の渡し方、あいさつの仕方、電話の取り方など。その後もダイバーシティーの研修などがあり、最後は北海道の社有林に植樹します。自分の夢や初心を書いた札をかけ、その木と一緒に成長する。社長と一緒に行きます。当社の育成は基本はオン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)。10日間ほどの新入社員研修の後はすぐに現場へ。現場に放り込んで「先輩の背中を見て育つ」のが伝統です。 社長とは「アクティブトークウエンズデイ」という毎月開くイベントで話すことができます。本社地下の食堂に千数百人の社員が集まって話をする会です。本部によって違う事業をしているので、お互い何やっているかわからなくなり壁ができることもある。立ち話ですが、その壁を取っ払うことで新しい仕事が始まることもあります。自由参加です。幹部が来るので「ちょっといいですか」と隣に行って話すこともできます。2005年からですから、もう8年くらい、毎月第3水曜日に開いています。
修羅場、土壇場、正念場を経験させる「修業生制度」
――配属はどう決めるのですか、希望は聞きますか。
10月1日の内定式後の部門説明会で各本部の代表が説明し、10月末ごろ内定者から配属部署の希望を聞きます。第3志望まで一応聞きますが、会社が部門のニーズと本人の適性をみて決めるので希望通りにはなるとは限らないと繰り返し言っています。結果的に希望通りになる人もいますが。最初から海外への配属はありません。6年間は教育期間で、本部の中でしっかり育成していく方針です。
――若いときから海外勤務があるそうですね。
「早期海外派遣制度」といって、入社5年目までに必ず3カ月から1年行かせる。若いうちに気付きと修羅場みたいなものを経験させるのが大きな目的の一つです。これは研修ではなく仕事。支店や関係会社で実務をやる。
「修業生制度」というものもあり、1年間はその国の大学に派遣して言語、文化を学び、2年目は現地店で働く。修羅場、土壇場、正念場を経験させるのが目的です。あとはビジネススクールの研修員に出す制度もあります。
――早期派遣は別にして、総合職社員の何割が海外駐在を経験しますか。
ほとんど一度は行くと思います。基本的に総合商社はみんなそうだと思いますよ。
――部署の人気に偏りはあるんですか。
「社会貢献したい」という人が多いので、インフラ事業を扱う本部とか、水、電力の事業を希望する人が多い。最近では病院事業、コンシューマーサービスも多いですね。時代によって変わりますが、地域に関しては今は欧米よりアフリカですね。昔はフランスとか欧米が多かったが、発展途上国に興味を持つ方が多いですね。
――商社の仕事の理想と現実、やりがいと厳しさを教えてください。
世界が舞台です。舞台は大きく、やれる事業領域も多い。あとは自分の信念、意欲、挑戦心次第。自分の夢、成し遂げたいことをここで実現してほしい。ただ、商社マンって海外を飛び回って格好いいというイメージがあると思いますが、現実は厳しい。楽しいことばかりではないし、新しい価値を生み出すとか、人がやったことがないことに挑戦するのは、産みの苦しみではないが簡単じゃないですよね。案件によっては徹夜続きになることもあるし、上司から叱られたり、厳しく指導されたりすることもある。仲良しグループではないので。仕事を生み出すということは厳しいことです。それはどの会社でも同じだと思いますよ。だけど、厳しい分だけ喜びも大きい。私も自分の仕事で泣いて感動したことがあります。当社は面白い仕事に尽きません。
先ほどの「キャリア大学」で印象的な発言がありました。スカイプで対話した社員が学生に言ったんです。「大学時代は楽しいですよね。今が一番楽しくて、会社に入るとつまらないと考えていませんか?でも、会社って大学よりもっと楽しいですよ」と。私もそう思います。
――社員の家族は入社できないんですね。
どこの商社もそうだと思います。公平性の観点からですね。兄弟とかが入社すると、人事や異動が難しくなることが起るかもしれない。そこはきっぱり分けないと。ということで、同業他社さんに行っています(笑)。コネ入社も一切ありません。一切きっぱり断っていますのでまったくありません。人物本位でフェアにやっています。面接で実力勝負です。
――中野さんのお仕事の経歴を教えてください。
人事総務部に来るまで、コンシューマーサービス事業本部で23年間ずっと営業をしてきました。昔の繊維部ですね。原料の糸ではなく製品商売。お客さまから受注して衣料品を海外で生産したり、世界中で新しいブランドを見つけてきて事業展開したり、ライセンス契約したり、そういう会社を買収したり、合弁会社を創って経営したり。そういう事業をずっとやってきました。
――中野さんは、なぜ商社に?
学生時代は部活動に真剣に取り組んでいたので僕もあまり深く考えていませんでした。ただ小さい時に海外に住んでいたこともあって、海外で働きたいとか、海外の人のために何かしたいという思いがものすごくありました。頭の中に浮かんできたというか。当時は海外に一番幅広く仕事をしていたのが商社で、それだけといえばそれだけ。もう一つは、僕が大学時代に所属していた体育会サッカー部の先輩がいろんな商社に入っていましたが、うちのOBに魅せられたからです。こういう人と一緒に働きたいと思いました。学生にも当社のOBのことをよく言われるんですが、これは僕もすごく大きかった。商社でも肌に合わない会社は受けなかったんです。その二つの軸で受けて入社しました。
今と違う仕事を選ぶとしたら、建築家……でしょうか。自分の仕事が形として世の中に残るので。でもビジネスマンだったらやっぱり商社ですかね。自分の仕事が世の中に影響を与えて、同じように世界中に事業として残りますから。
商社は男性のイメージが強いと思いますが、男女の差はありません。最近では女性の担当職も多くなってきました。女性はライフイベントがあるので、復帰しやすい制度など働きやすい環境は整っていると思います。ただ、働きやすいというだけでなく、厳しさと覚悟を持って仕事に臨む気持ちが大切です。その覚悟があれば、男女関係なく自分の夢を当社で実現できるのではないでしょうか。
――印象に残っている仕事について聞かせてください。
23年間営業一筋でしたので、たくさんありますが一つ紹介します。海外は香港に2000年の12月から4年8カ月勤務しました。さっきの涙の話は香港の話です。だれも挑戦したことがない事業でした。それまで僕は欧米のブランドを日本にもってくる仕事をずっとやってきた。それはそれでやりがいがあった。でも日本にもいいブランドがある。日本人として日本のブランドを世の中に広めたい、そういう気持ちが強くなりました。当時はまだ中国がWTOに加盟しておらず、市場を開放していなかった。しかし、世の中の動きを予想すると、将来中国は市場を開放して間違いなく巨大小売市場に変貌すると思ったんです。その中国を狙っていました。当時の中国人は香港に憧れをもっていましたので、まずは香港を攻める必要があるはずだと。ある日本の大手ブランドに行って社長に直談判しました。世界に出ていくべきではないか、一緒にやりましょうと話したところ、私たちの熱意に共感して即決してくれた。何億円という事業にお金を出してくれて、香港に一緒に会社をつくり、ブランドを展開しました。
現地にお店をつくって、多店舗展開し、そこにお客さんが買いに来てくれて笑顔が増えていく。社内に反対論もありましたが、自分の信念があり、会社にも貢献できると思っていたから、必死で説得しました。
涙を流したのは2回。社長が「やりましょう」と言ってくれた瞬間。上司や同僚と抱き合って握手して泣きました。もう1回は、そこからお店を開くまでに苦しい時期もあって、ほんとに売れるのかという心配もありましたが、オープン日の何時間も前から行列が出来、お店のオープン後、お客さんがお金を払って喜んでいる姿を見た時ですね。
生き様とか成し遂げたいことって、いろんな形があると思います。たとえば「仕事を通じて世界の人を豊かにしたい」という夢があったとします。自分で新しい会社をつくって、ある商品を世の中に届ける。貴重なお金を払ってそれを買って笑顔で帰ってくれる人がいる。自分がこの仕事をしていなければ、あの時反対されて諦めていたら、この人たちにこの商品を届けることはなかった、この人たちはこうやって笑っていないんだなぁ、と思うときがあるんです。そういう場面に触れると、涙が出てきますよ。その瞬間、夢がかなう訳ですから。お客さんが喜んでくれて、自分にもやりがいあって、結果的にその国のためになっている。そういうことが一番のやりがいにつながっているんじゃないでしょうか。人それぞれでしょうが、僕はそうですね。
みなさんに一言!
最近の学生には内定がゴールみたいになっている人がいます。それは違います。就活塾とかキャリアセンターで面接の準備をするのも重要でしょうが、もっと大事なことがあります。内定は自分が成し遂げたい夢のスタートラインなんだから。就職は自分を見つめ直すいい機会だと思います。「自分が人生で何を成し遂げたいのか」。それを見つけだして会社選びをしてほしい。そのためには学生時代にいろんな経験をすることです。自分の常識が非常識だと思われる国に行ってみたり、蛇口をひねっても水がでてこない地域、水が足りなくて飲めない環境を味わってみたり。いろんな経験をしてみないと、自分の価値観として出て来ない。ほんとに自分が何をやりたいのかを知るには、いろんな経験をして、自分探しをして、自分の価値観をしっかり定めてほしい。それをやれば本当に自分が入りたい会社が見つかるでしょうし、面接で何を聞かれても答えられるのではないでしょうか。みなさんにお会いできるのを楽しみにしています。頑張って下さい。
三井物産株式会社
【商社】
鉄鋼製品、金属資源、プロジェクト、機械・輸送システム、化学品、エネルギー、食糧、食品事業、コンシューマーサービス、次世代・機能推進の各分野において、全世界に広がる営業拠点とネットワーク、情報力などを生かし、多種多様な商品販売とそれを支えるロジスティクス、ファイナンス、さらには国際的なプロジェクト案件の構築など、各種事業を多角的に展開
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2024/10/14 更新
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