
■ベネッセの人材育成は
――入社後の配属について教えてください。
採用するときに配属先を約束することはなく、どこにでも配属される可能性があります。3大配属先は、学校向けの営業、進研ゼミなどダイレクトメール(DM)の営業、進研ゼミの教材製作で、これで8割強を占めます。あとは「たまひよ」やIT関係など周辺部門です。管理系は経理に毎年1名配属しています。勤務地は東京が8割で、営業の一部が地方です。岡山本社には高校事業部の本部機能とコールセンターや物流部門の一部があります。
10月の内定式前後の面談で本人の志向は聞いています。なぜベネッセに入ったのか。何をやりたいのか。話をしてみると、「こどもチャレンジ」しかやりたくない、英語の編集しかやりたくない、絶対海外に行きたいなど、こだわりが強い人がいますが、弊社の仕事はもっと幅広い領域があります。そうした人の将来の可能性を広げる意図もあります。
また「内定者プロジェクト」という入社前研修もあります。内定者をチームに分け、社内の特定の事業の内容を現場でヒアリングしてまとめ、秋の合宿で発表します。現場のリアリティーを体感することで入社前にギャップをなくし、就職活動の時点では思ってもみなかった仕事を知ってもらう機会にもなります。
――入社後の研修制度は。
岡山で2週間、東京で1週間、ベネッセ社員としての心構えやマナーを学び、事業理解を深めます。全員研修は4月20日前後に終わり、営業系の人たちは現場に配属されます。編集系の「進研ゼミ」に配属されると、編集者研修などをGW前までやって連休明けに配属。その後、受け入れ部門で専門用語や事業理解などの研修が続き、6月末くらいにかけて徐々に仕事が立ち上がっていくイメージです。その後は、半年後の振り返り研修、3年目研修、標準6年目前後での昇格研修があり、その間にビジネス基礎研修、例えばマーケティング、ファイナンス、ロジカルシンキングなどを受けてもらいます。デジタル・IT系は随時社内で実施している研修があるので、各自必要に応じて受講します。
――部門間異動はありますか。
4~8年目の社員を対象に、最初の配属先と違う部門や職種に異動する「ジョブチャレンジ」という取り組みに力を入れています。希望は聞きますが、部門を変えるか職種を変えるかは会社主導です。全く違う部署や仕事に一度は行くようにしています。
――これからの時代のベネッセでの仕事のやりがいと厳しさについて教えてください。
いま掲げているのはグローバル化とデジタル化です。デジタル化の波の中、デジタル系企業や新興勢力が増えてきており業績も厳しくなってきています。そんな状況をどう変えていくかが大きな課題ですし、変えていくプロセスそのものがやりがいになるはずです。新人が変化を起こしていくのは大変なことですが、3年から5年後にはガラッと変わってないといけない。その時にはみなさんに新しいベネッセの主力になって欲しいと思っています。
――教育のデジタル化は、かつて言われたほどは進んでないのでは。
確かにそうですが、携帯のキャリア各社(NTTドコモ、au、ソフトバンクなど)が参入し、ゲーム会社なども教育コンテンツを出し始めています。加えて、塾と家庭学習の垣根が低くなってきています。塾の講義をネットで受講できるようになり、家庭学習か塾かの二者択一ではなく、塾の講義を家で受けるという選択肢も出てきて、ベネッセが提供する家庭学習の価値も改めて問われています。新しい試みとして、進研ゼミでも映像コンテンツには力を入れており、中1生には4月からベネッセ仕様のタブレット端末を付録で配り、ライブ授業を配信しています。
――デジタル化への対応はなぜ難しいのでしょう。
紙の編集と発想が全然違うからです。真逆なんです。情報を編集して限られたスペースに固定化させるのが紙の編集の発想ですよね。デジタルはコンテンツをどう流動化させるかという発想です。情報を固定化させるために様々な紙編集のスキルがあるわけですが、デジタルの場合はダメならすぐ変える、どんどん情報を流動化させるためのスキルが必要になってきます。どうやって鮮度を保っていくかが大事です。これまでやってきたこととスタンスや発想が全然変わってきます。
――グローバル化の方は、アジアを中心に海外に積極展開していますね。
はい。中国の立ち上げはいったん成功しました。2006年に進出し、いま会員が50万人くらい。台湾・韓国は会員数が少なく、他の国はまだ立ち上がっていません。インドネシア、アメリカ、ブラジルに足がかりを作って模索していますが、まだまだこれからですね。
――海外勤務もありますか?
現時点で、新卒や若手の配属はありません。現地の人のための教育コンテンツづくりは日本人にはできないので、駐在の日本人は少なく、多くを現地採用しています。販売のチャネル開拓のような話であれば日本人社員を派遣してという話もしやすいですが、現地の人が何に困っていて、どんな教育システムや文化価値観の中で生きていて、そこにどんな教育サービスが必要かをゼロから考えようとすると、なかなか日本人だけでというわけにはいきません。日本でのノウハウを生かしながらも、現地の人を巻き込みながら広げるビジネスなんです。
――ベネッセは教育業界の最大手ですが、採用におけるライバル企業はどこでしょう?
教育系の他社とはあまり競合しません。採用選考でよく競合する相手にリクルートさんがあります。教育生活出版系ですね。弊社が採りたい「挑戦者人材」だと外資系金融や商社、大手広告代理店と競合しますが、教育の領域でビジネスをする面白さや意義をもっと伝えていきたいと思います。
■澤さんの仕事について
――澤さんの経歴を教えてください。
新卒で大手コンビニに就職し、直営店の店長をしていました。経営の仕事がしたくて入ったのですが、経営といっても商売ではなく裏方で仕組みを作る方が自分に合っていたんですね。なので2年半で思い切って会社を辞め、WEB製作会社の人事担当に転職しました。小さい会社の人事の方が経営に近いのではないかと考えたからです。その後、3年半勤め退職、国内のビジネススクールに2年間通学し、2007年にベネッセに入社しました。所属は人財部で人事の仕事をしていますが、人事スタッフよりも経営スタッフとしての意識の方が強いかもしれません。経営の意思決定をサポートするスタッフとして人事部にいるという意味です。研修担当、経営者人材育成担当を経て、3年前から異動配置や要員計画に携わっています。この4月からは採用も担当しています。
――新卒のときの会社選びを振り返って。
もっといろんな業界をみればよかったですね。「経営の仕事をしたい」という動機は何だったのか。選択肢は色々あったはずですが、直接的に経営の仕事ができるコンビニの店長は当時の私には魅力的でした。
――ビジネススクールを卒業した時の会社選びは?
二つの軸がありました。一つは「人を軸とした会社」です。技術中心の会社よりは、人の集合で成り立っている会社が良かった。というのは、私のバックボーンは人事の仕事なので、人に関心の高い会社に入りたいと考えました。もう一つは、「長い目で見て変化が起きそうな会社」です。中途採用で外から入る以上、何かが変わらないと意味がない。ベネッセは少子化で大きな事業構造の転換が起こりそうな点が魅力的でした。
――ベネッセに入社して印象的な仕事は?
会社の中枢を担う経営人材の育成や役員候補の選抜ピックアップは、なかなか得られない経験でした。経営者が何を考えているか、自分も経営者の視点で向き合いながら仕事をできたことが面白かったですね。