人事のホンネ

2026シーズン 味の素
【人事のホンネ 特別編】理系ランキング1位、総合2位の味の素 に聞く「求める人物像はありません」の真意

人事部人事グループ 採用チーム長 井上泰輔(いのうえ・たいすけ)さん(右)、同グループ 採用チーム 新卒採用リーダー 大野紗代子(おおの・さよこ)さん(左)

2025年02月26日

 2024年11月に学情が発表した就職人気企業ランキングで総合2位、理系ランキングでは1位を獲得した味の素株式会社。文系理系を問わず幅広い就活生に人気の高い同社の採用ポリシーは、多種多様な人々が集う「人財の雑木林」といいます。「求める人物像」は定めず、選考の過程では「会社の実態をなるべくリアルに伝える」ことがモットー。思い切った採用戦略を採った理由や、採用活動の考え方などを聞きました(所属・役職は2025年2月時点)。(編集長・福井洋平)

事業領域の幅広さが人気の理由

■人気の理由
 ――味の素社は学情の「就職人気企業ランキング」で理系分野では継続して1位を獲得し、2026年卒対象のランキングでは総合でも2位に入りました。人気の理由は何だと思われますか。
 井上さん 当社は食品事業だけではなく、香粧品や電子材料、飼料用アミノ酸や医薬中間体など、アミノ酸関連技術を応用した事業を展開しています。事業領域がとても幅広いので、学生時代の専攻をそのまま活かせる仕事がある、つまり間口が広いことが理由として挙げられると思います。
 また、2025年卒採用では、R&D(研究開発)や生産、Sales、財務経理、法務、デジタル情報システム、サステナビリティ情報開示など11の職種別採用を行いました。以前は事務系、技術系の区分で採用活動をしていたのですが、現在は学生がエントリーする時に職種を選べるようにしています。入社後に何の仕事をするか、ある程度わかった状態で入社できるというのも、理由の一つかもしれません。

 ――職種別採用ということは、入社したらずっとその仕事を担当するのでしょうか。
 井上 職種別採用は、入社前後のギャップをなくすことが目的です。そのため初期配属だけを約束して、2部署目以降はご自身でキャリア形成していただきます。

 大野さん 2部署目以降は、ご自身の希望と会社の異動の考えとのマッチングでキャリアを決めていきますが、初期配属からずっと同じ部署で働いている社員もいます。

■「人財の雑木林」
 ――就活生に、味の素社はどういう会社とアピールされていますか。
 井上 私たちは2024年10月から採用ホームページを変更し、「人財の雑木林」というメッセージを打ち出しています。これは、いろいろな個性をもった人たちに当社を選んでいただき、その強みが重なり合うことでさまざまな価値を見いだしていきたい、という想いを込めたメッセージです。
 同じ種類の木しかない林では、なにかの病気にかかったとき一気に枯れてしまうかもしれない。どんなときでも強い組織であるためには、多様な人材が集まっていることが大切であると考えています。この「人財の雑木林」という言葉は、私(2006年入社)が就職活動をしていたときの当社の採用メッセージです。今、本気で多様な人材を求めているからこそ、あらためてこの言葉を使うことにしました。

 ――就活生からは、どういう人が味の素社で活躍しているか、どういった人材を求めているかという質問も多いのではないでしょうか。
 井上 私たちは「求める人物像」という言葉を2026年卒採用から使っておりません。「多様な人財を求めています」というメッセージを出しているのに、求める人物像を提示するのは違和感がある――と考えたためです。
 就職活動は、選考という局面だけを見ると私たち会社側が学生を選んでいるように思われますが、私たちも学生から選ばれる立場です。いろいろな個性を持つ学生の皆さんに興味を持ってもらいたいと考えているのに、「こういう人物を求めています」と提示をするのは、学生に対して上から目線ではないか、と考えました。

いまの味の素社に足りない強み持つ人欲しい

■歓迎要素
 ――そのなかでも、たとえばこういう人が欲しい、というイメージはあるでしょうか。
 井上 いまの味の素社にはない視点や目線を持っている人、味の素社に足りない強みを持っている人に、ぜひ当社を選んでいただきたいと考えています。当社は2022年に就任した前社長(現会長)の方針で「中期経営計画」の策定をやめ、2030年に自分たちが「ありたい姿」を掲げようということになりました。各組織が「ありたい姿」を考え、バックキャスト(目標から逆算して現在やるべきことを考える手法)でなにが必要なのかを考えていったときに、現状からの積み上げだと「ありたい姿」に届かないと感じた組織が多く、人材面においても「新卒採用やキャリア採用で社外から人材獲得をしたい」という相談を数多くいただきました。
 高い目標に向かって挑戦していこうとしたときには、これまで大事にしてきた考え方や文化・風土にマッチする方だけを集めていては、たどりつけない世界があるのではないかと考えました。いま新卒採用の募集要項では「Ajinomoto Group Wayに共感いただける方を歓迎します」という「歓迎要素」を掲げています。

 ――Ajinomoto Group Wayとは何でしょうか。
 井上 当社で働く社員が大切にしている「新しい価値の創造」「開拓者精神」「社会への貢献」「人を大切にする」の4つの価値観のことです。また会社のパーパス(志)として「アミノサイエンス®で人・社会・地球のWell-beingに貢献する」と掲げています。学生の皆さまにとって、味の素社は食品メーカーというイメージが強いと思いますが、私たちは食以外にもさまざまなアプローチでWell-beingの実現を目指しています。

 ――「歓迎要素」は、職種によって違うのでしょうか。
 井上 例えば、生産部門では「モノづくりに取り組みたい気持ちがある」、営業部門では「困難にもめげず、新しいことにチャレンジすることを楽しめる」といったように、職種ごとの歓迎要素はありますが、全職種共通の歓迎要素はこの一文だけです。

ギャップなくすため「リアル」を伝える

■味の素社の強み
 ――就活生が味の素社と一緒に受けている会社は、どういったところが多いですか。
 大野 食品メーカー以外にも素材、化学、自動車、電機、製薬、消費財メーカーなど、多岐にわたります。さきほど述べたように、当社にはほぼすべての専門性の方にご活躍いただけるフィールドが広がっているので、その方の志向によって競合他社も変わってきます。

 ――競合他社と比較して、味の素社の強みはどこにあると思われますか。
 井上 ひとつは、ブランド力だと思います。120年近い歴史を持つ当社の先人たちが、いろいろな商品やサービスを通して、生活者との信頼関係を積み重ねてきた歴史がとても大きいと思います。また「味の素スタジアム」のネーミングライツや、アスリートのサポート活動などを長く続けてきたことで、スポーツに関心の高い学生の間での知名度も高いと感じます。味の素社に入社してスポーツに関わりたい、という学生も多くいらっしゃいます。

■リアルを伝える
 ――「求める人物像」を設定しないなかで、就活生にはどういうメッセージを伝えていくのでしょうか。
 井上 当社を選んでいただいた学生も、受け入れる組織も、双方が不幸にならないために「リアル」を伝えるということを大切にしています。私たち採用チームが掲げている唯一の採用方針は「こんなはずじゃなかった…という入社前後のギャップを生まない採用活動をする」ことです。「味の素社を選んでください」「ぜひ入社してください」と思うと、キラキラしたことを言いたくなってしまう。そうではなく、当社のリアルをしっかりと伝えたうえで、“社会人人生の一歩目を踏み出す会社”として選んでいただけるように努めています。
 そのために、例えば採用活動の中でワークショップや社員交流会などを用意しており、内々定のご縁をいただくまでに、多くの社員の話が聞けるようにしています。参加する社員には「仕事で大変だと思うことは大変だと伝えてほしい」「ぜひリアルな話をしてほしい」とお願いしています。

 大野 就活生からこれまで大変だったことは何かと聞かれると、オブラートに包んで話をする社員が多いです。採用担当からは、「大変だったことは大変だった、いやなことはいやだったと率直に学生に伝えてほしい」と徹底してお願いをしています。また、面接官はあくまで数多くいる社員のごく一部ですので、自身の考えを学生に伝えるときはあくまで「私個人としては」という前提をおいてほしいと伝えています。

■仕事で大変だったこと
 ――ちなみに、お2人がこれまでのお仕事で大変だったことは何ですか。
 大野 私と井上は4年前に採用チームに異動してきたのですが、そのとき前任者全員が別部署に異動していて、新たに集まった採用にかかわったことがない社員だけで採用活動を組み立てなければいけなかったことです。

 井上 採用チームの中に、採用活動の進め方も過去の事例も知っている人が誰もいない、という状況はつらかったです。今振り返ると、前例にとらわれずに採用活動の設計ができたという点ではとても良かったのですが、あの時期に戻りたいですか? と聞かれたら戻りたくないですね。

味の素社以外の会社、業種も見てほしい

■採用方法
 ――エントリー時に必要なのは何ですか。
 大野 エントリーシート(ES)と適正検査は全職種共通で必須ですが、専門性が必要なR&Dや生産、デジタル情報システムなどに関しては研究レポートという形で、学校で研究されている内容についても別途提出いただきます。

■ES、面接
 ――ESでは何を聞きますか。
 大野 職種によって変えています。例えばSales/Businessだと「目の前の人の心を動かし、行動を変え成果を創出した経験」を問いますが、R&Dだと「前例や慣習にとらわれず、主体的に行動を起こした経験」を問います。

 井上 「学生時代に力を入れたこと」という聞き方はあまりしていないです。たとえば営業職に求められることは、商談相手から生活者、そして社内まで「人を動かす」ことです。そうすると、これまで人を動かした経験はあるか、そのためにどういったことを考え、打ち手を講じたのか、ということを確認することになります。R&Dであれば今までにないものを生み出す仕事になるので、やはりそういう経験があるか、そのためにどういう工夫をしてきたのかということをお伺いします。

 ――面接は何回程度行いますか。
 大野 職種ごとに異なりますが、平均で3~4回です。一定数の社員の目は通るようにしています。また入社前後のギャップを生まないように、必ず各職場で働いている社員の目を入れるようにしています。職場で求めている人材と我々が考えていることにずれがあってはいけないので、必ず選考に加わっていただきます。

■他の会社も必ず見て欲しい
 大野 また採用チームでは「たとえ今、味の素社が一番大好きで絶対味の素社に入りたいと思っていたとしても、就職活動という良い機会を活用してぜひいろいろな企業、業界を見て欲しい」と考えています。そして「そのうえでやっぱり味の素社がいいと思ってもらえたら、我々は本当に嬉しいです」と就活生にはお伝えをしています。

 井上 ほかの企業や業界を見たうえで「やっぱり味の素社がいい」と思ってくださったのなら、その思考のプロセスがそのまま志望動機になってくると思います。だから、どの就活イベントでも最後に必ず「他の業界や企業も見て下さい、その中で味の素社の良さも分かってもらえたら嬉しい」と伝えています。

 ――そんな中で、どういう魅力を感じて就活生は味の素に来るのですか。
 大野 圧倒的に人の魅力、味の素社の社員さんと一緒に働きたいという方が多いです。

 井上 とても嬉しいことなのですが、選考過程で出会う社員は、たくさんいる社員のほんの一握りです。みなさんが魅力を感じた人とは異なる考え方や価値観を持っている社員もたくさんいます。一方でみなさんが「素敵だな」「一緒に働きたいな」と思った社員が働いているということも事実です、といったメッセージはちゃんとお伝えするようにしています。

多様なバックグラウンド持つ社員が集う

■味の素社はどんな会社?
 ――まさに、リアルを伝えるということですね。お2人からみて、味の素社はどんな会社だと思われますか。
 井上 率直に、いろいろな人が働いている会社だと思います。価値観も考え方もバックグラウンドも全然違う人たちと、何か一つの目標に向かって議論していく会社です。社員みんなが、地球や、社会や、家族など、誰かのために仕事をしようとしている、そういう会社だと思います。

 大野 井上同様、多様なバックグラウンドを持った社員が非常に多いと感じています。私はR&D出身なのですが、そのなかでも専門性の幅がすごく広く、そういう方々と一つの事業をつくりあげていくおもしろさは入社1年目から感じています。もうひとつは、業務に対して真摯に向き合っている社員が非常に多いと感じます。

■味の素社入社の理由
 ――お2人が味の素社に入社された理由を教えて下さい。
 大野 理由は3つありまして、1つ目は人です。自身の業務に対してすごく真摯に、意欲的に取り組まれている方が多いというところに、非常に魅力を感じました。2つ目は、1年目から研究テーマを任されるということを選考過程で知り、若手のうちからいろいろ任されて育ててもらえる環境で働くのは面白そうだと思ったことです。3つ目は冒頭お話ししたとおり、事業領域が広いということです。この会社に入ると、自分が今取り組んでいること以外にもいろいろなことにチャレンジできると考えて、最終的に味の素社に決めました。

 井上 私は、どの会社に進むと自分が一番幸せになれるだろうと考えました。就職活動をしているときは、「自分が幸せでないと、誰かの幸せのために頑張れないのでは?」と思っていました。では自分の幸せって何だろう?と考えたときに、「興味がある仕事ができて」「そこそこ稼げて」「世の中に必要とされている」という3つが掛け合わさった企業で働けたら幸せだろう、という考えに至り、面接でお伝えしました。今思えば、そんな考えの私を受け入れてくれた味の素社の当時の採用方針は、まさに「人財の雑木林」だったのではないかと思います。

■社歴
 ――会社ではどんなことをやってきましたか。
 井上 私は入社から15年間、営業部門で働いてきました。「ほんだし®」や「CookDo®」、「クノール®カップスープ」などいわゆる家庭用商品を販売する仕事で、最初は岩手県の北東北営業所で3年間勤務しました。そのあとは東京にある広域営業部で3年、名古屋支社で3年。そのあと東京支社で6年間営業内勤の仕事をしました。

 大野 私はR&D出身で、神奈川県川崎市にあるバイオ・ファイン研究所の動物栄養グループというところで働いていました。反芻動物などに対して当社が作った機能性物質などの効果を評価していました。私は研究所の中で2回産休育休を取らせていただきましたが、取得するのも当たり前の環境でしたし、引き継ぎをするときも「本当に体調優先でね」という温かい言葉をかけていただく方ばかりだったので、この会社に入ってよかったと感じました。

みなさんに一言!

(大野さん)
 大学時代はサークルやアルバイト、部活動、趣味、勉強などいろいろやっていることがあると思います。自分自身ではなんとなく始めたと感じているかもしれませんが、突き詰めていけば必ず、何らかの思考があって行動に移しているはずだと思います。
 自分がこれまでやってきたことについて、どんなことを楽しいと感じるのか、どういう気持ち、状況で自分は行動をするのかをしっかり振り返る。その行動の中で、自分自身で何か工夫したことはなかったかを考えてみてください。平たく言うと自己分析となるのですが、就職活動を良い機会と前向きに捉えて、じっくり自分自身を見つめて考えていただければと思います。

(井上さん)
 学生時代に勉強、部活、サークル、ボランティア、なんでもいいのですが、やっていることにとことんのめり込んでほしいと思っています。そのなかで「所属するコミュニティでこういう役割を担い、こんなメンバーと一緒にこんなことをして、こういうことができた」というような体験ができれば、それはきっと仕事でも再現性が生まれてくるはずです。周りの人が羨むような大きなエピソードはなくてもいいと思います。ぜひ、今やっていることにのめりこんで、素敵な学生生活を送っていただければと思います。