人事のホンネ

株式会社日立製作所

日立製作所〈後編〉
キャリアを自分で切り開く意識浸透 仕事に誠実な社員多い【人事のホンネ】

株式会社日立製作所 人財統括本部人事勤労本部タレントアクイジション部 中村圭佑(なかむら・けいすけ)さん

2024年10月02日

 人気企業の採用担当者に編集長が直撃インタビューする「人事のホンネ」。日本を代表する総合電機メーカー・日立製作所の後編です。2008年度に大きな赤字を出してから事業を転換し、社会課題を解決する社会イノベーション事業を推進してきました。その過程で推し進めた「ジョブ型人財マネジメント」により、社員にはキャリアを自分で考え切り開く意識が浸透してきたといいます。一方で、人々の生活に必要不可欠な社会インフラを手掛ける仕事が多いため、仕事に対して誠実な人が多い、とも。選考のフローや、日立で働くやりがいなどについてじっくり聞いてきました。(編集部・福井洋平)
(前編はこちらから




■本選考について、ES
 ──本選考はいつからスタートしますか。
 技術系も事務系もエントリーは3月、選考は6月に開始しますが、通年採用のため1年間を通じて応募を受け付けています。ポジションによっては予定人数が埋まってタイミング次第ではクローズする場合もありますが、進学などの理由で辞退者が出た場合は再オープンすることもあります。

 ──エントリー時点で提出するものはありますか。
 技術系・事務系ともに、まずはエントリーシート(ES)を提出してもらいます。一般的なESとおそらく大きな違いはなく、志望動機や、自分の強みや弱みといった内容を提出してもらいます。ESの中身があまりにも少ないとその人が日立で活躍できそうかどうか、我々のイメージが湧きづらいため、まずは、しっかり書いてもらうのが大事です。ESを出したあと、適性検査も一緒に受けてもらいます。

 ──書類選考を通過した後のフローを教えてください。
 技術系は、学生が働きたいと思っている分野で実際に働いている社員との面談を通じて、学生の能力や適性がその仕事とマッチしているかを確認する「ジョブマッチング」を行います。事務系は、グループディスカッション(GD)や面接があり、最終選考は「プレゼン選考」という流れですね。

ジョブと本人の希望、適性がマッチするかを見る

■面接
 ──最初はどれぐらいの役職の社員が面接しますか。
 技術系・事務系ともに課長と主任、課長と課長というペアが最初は多いと思います。時間は40~50分前後が多いです。

 ──面接で「ここを見る」「ここを聞く」というポイントはありますか。
 面接では、「日立でどんな仕事がしたいのか(WILL)」や「本人の特性や強み(CAN)」を中心にお話を伺いながら、日立およびそのジョブにマッチするかどうかを見ていきます。会話をしながら段階を踏んで進めていくので、必ずしも全員に同じ質問をするわけではなく、一人ひとりのこれまでのご経験や意思を深堀していく中で相互理解を深めていくことを大切にしています。

 ―─面接の内容によっては選考過程がスキップとなる学生もいるのでしょうか。
 面接の評価内容によって選考をスキップすることはないです。

 ──事務系のGDは何人ぐらいで行いますか。
 6人を基準としています。あるテーマに対して問題の洗い出し、原因の特定、課題の抽出、解決策の提案という一連の流れを話し合ってもらいます。グループディスカッションは答えが出たら合格というわけではなく、学生の発言や話し合いのプロセスをしっかり確認しています。

 ──最終面接はどの役職の方が面接するのですか。
 事務系、技術系ともに、一番多いのは部長、本部長クラスです。人事部門も一緒に面接に入って学生とコミュニケーションを取ります。
(写真は「プレゼン選考」のイメージ/日立製作所提供)
■プレゼン選考
 ──最終面接ではどういう点を見ますか。
 技術系も事務系も我々が求める人財要件があり、それが確認できるように面接は進めます。また、技術系であればそれぞれのジョブにおいて必要な知識やスキルが異なるため、これまで勉強してきた内容や研究の成果などを確認して、学生が希望しているジョブにマッチしているか、これからやりたいと思っている仕事を実現するにあたり、本人の特性・適正とマッチしているか、といった点を見ています。
 一方で事務系は、理系の学生ほど研究内容に基づく専門性が明確ではないケースが多いと思います。この点やコロナ禍という状況も踏まえて、学生時代に力を入れたこと、いわゆる「ガクチカ」を聞くのではなく、未来志向で何をしていきたいのかを問うように改めました。具体的には「日立でどのような仕事に携わりたいかという『will』」、つまり未来の観点から、それを実現するために「自分の強みや特性をどのように活かせるかという『can』」を関連付けたテーマをあらかじめ設定して当日学生にプレゼンをしてもらう「プレゼン選考」を導入し、本人の志向や希望職種とマッチしているか、を見ています。

■倍率
 ──本エントリーの倍率はどれぐらいですか。
 その年の募集状況やジョブによっても異なるため、一概に何倍というのが難しいです。2024年度入社では、新卒採用全体で695人(うち事務系150人程度)の採用を行いました。インターンシップ選考と本選考は別物になりますので、惜しくもインターンシップに漏れてしまった学生であっても、本選考で合格することは十分にあり得ます。

 ──一番絞られるのはどこのフローですか。
 どこかのハードルがものすごく高くて、そこを突破するのが大変ということではないですね。その学生とジョブがマッチするかどうかという観点で選考を進めていくのは、どこのフローであっても変わりません。

プロアクティブな行動がとれる学生はどこでも活躍できる

■求める人財像
 ―─どういう学生に入ってほしいですか。
 2021年の採用に関するニュースリリースで「求めるアビリティ」という形で「専門性」「リベラルアーツ」「ダイバーシティ」という3つの知識や素養を提示しており、ここはいまも変わっていないです。
 また、プロアクティブな行動を取れる学生はどの職場でも活躍できる素地、素養があると思います。口先だけではなく、具体的で適切な行動が取れる人です。
 これらの能力を全て兼ね備るのは難しいと思いますが、素地、素養があるかどうかは大事なポイントです。

 ──学生時代は「こういう意識で過ごしてほしい」「こういうことをやってきてほしい」というものはありますか。
 我々からお願いすることはありませんが、語学や資格の勉強など、どんなことでもやっておいたほうが良いとは思います。入社はゴールではなく、スタートです。日立は、「日立アカデミー」という社員へ教育機会を提供する企業内大学の組織があり、入社後も研修や教育が充実しています。そのため、「学生時代に必ずこれをやってください」という言い方はしていないですね。

 ──「プレゼン選考」があると、入社後もプレゼン力が必要になると感じます。これは重視されているのでしょうか。
 プレゼン力とは自分の思っていることを相手に伝える力です。日立は社会イノベーション事業を手がけているので、プロジェクトの規模が大きくなり、関わる人も多くなります。その中でコミュニケーションを取りながら、認識の齟齬がないように、一つの目標に向かって進んでいきます。そういう仕事の進め方で、相手に自分の思っていることを正しく伝える力は必要です。

■必要な専門性
 ──学生のうちに身につけるべき専門性や、必要な経験はありますか。
 希望する職種によって必要な専門性や経験は少し変わってきますが、絶対に身に着けて欲しいことや、経験してほしいことを限定してはいません。例えば、研究開発の職種は研究実績を出し、学会発表を経験しておくと良いケースもあります。しかし、設計開発の職種では、研究内容や学会発表を重視しているわけではなく、いろいろな物事にアンテナを張り、興味を持って、「これは面白そうだ」「これを組み合わせたらどうなるのだろう」という発想ができる人物を求めているケースもあります。事務系の場合も、先ほどお話しした「CAN」と「WILL」を結びつけた質問で行動特性、適正を把握しながら、ポテンシャルを測ってマッチング度合いを測りますので、「英語はTOEIC700点以上ではないと応募できません」といった縛りはないですね。

 ─―「WILL」を持つことが重要になりますね。
 自分の「WILL」を探るために、学生はインターンシップ、キャリア教育、企業の説明会などに参加して、ぼんやりと描いたものを少しずつクリアにしていくのだと思います。初めからやりたいことを一つに絞るのは難しいので、いろいろな業界や業種を見ていく中で少しずつクリアにしていけばいいと思います。ただ、「WILL」がないと、入社した後に、何がしたいか分からなくなってしまうと思います。

 ──ただ、「人事もやってみたい、営業もやってみたい」と迷う人もいると思います。
 実際にそういう方もいます。今も事務系では、職種やポジションを限定しない「オープンコース」を設けており、内定後に相談しながら職種を決めている人もいます。

終身雇用のイメージはなくなった

■ジョブ型人財マネジメントによる変化
 ──ジョブ型採用の施策を打ってこられて、社内が変わったと思われますか。
 ジョブ型人財マネジメントへの変革という大きな枠組みの中において、ジョブ型採用は一つの施策ですが、他にも職能等級制度、目標管理の仕組みなど、多くの制度や仕組みを変えてきています。それによって社員にも「自分のキャリアは自分で考えていく必要があるよね」と少しずつ理解をされてきていると感じます。社内公募に手を挙げ、自ら違うポジションに異動する人も増えています。

 ──社内公募ではどういう異動がありますか。
 かなりバラバラです。例えばタレントアクイジション部では、システムエンジニアをしていた人が手を挙げて異動してきて、一緒に働いています。私が最先端の研究、例えば生成AIの知識がないのに開発分野に行くというのは難しいとは思いますけれども、求める要件に合致すれば職種は関係なく異動が成立します。
(写真は社内の仕事風景/日立製作所提供)
 ──「自分のキャリアを自分で考える」という社内の意識の変化が出てきたことで、会社が活気づいたとか感じられることはありますか。
 「就社」や「会社都合の異動が全て」といった終身雇用のイメージは今はありません。自分のキャリアを自分でつくっていくにあたり、やりたいことがあれば、そのポジションを探します。そうすればそのポジションには何が必要か、ジョブディスクリプションを通じて分かるため、必要なことを勉強する、手を挙げる、というマインドが少しずつできあがってきていると思います。今まではそういう仕組みがなかったので、やりたいことがほかに見つかった人は転職していました。自分で手を挙げて異動することが一般的ではないと、外に出ていくしかありません。それが、社員としても社内で異動が叶い、会社としても人的リソースをうまく「適所適財」で活用できるようになったのは、とてもいいことだと思います。

■社内転職の意識
 ──自分のキャリアは自分でつくっていこうという意識を持っている人の割合は、年齢によって差がありますか。
 データを取ったわけではありませんが、入社年次が浅い人ほど、そういう意識が強い感覚はあります。実際に転職する気はなくても、転職サイトに登録して、どういうポジションが市場に出ているのか定期的にチェックしている人も多いと聞いています。

 ──「社内で転職するのもありだな」と思ってもらえれば、御社としてもいいということですね。
 はい。社員にはせっかく一緒に働くという決断をしてもらっていますし、「日立アカデミー」で教育の機会を得ることもできます。会社としても、しっかり教育コストをかけてきた人が外に流出するよりも、社内の新しいポジションで活躍してもらった方がいいですよね。

赤字期を経て会社の意識大きく変わる

■中村さんの就活
 ──中村さんの就活時代を振り返ってください。
 入社は2006年で、就活では電機メーカーや食品、化学などさまざまな業界を見ました。当時は今みたいにスマートフォン・ノートパソコンを1人1台持っている時代ではなく、情報の入手手段が限られていました。特に私は田舎の出身で「情報が入ってこない。どうやって入手したらいいのだろう」「知っているということは、すごく強いことだな」と昔から感じていて、それが当時、情報通信に力を入れていた日立に興味を持つきっかけになりました。日立は情報通信技術だけを強みとする会社とは異なり、モノづくりの技術に加え、モノを思った通りに動かすための制御システムもつくっているので、より面白そうだと思いました。日立のことをいろいろ調べて、その幅広いビジネス領域により興味が出ました。ありがたいことに順調に選考が進み、日立から内定が出て、就職活動を終えました。営業職を第一に希望していましたが、複数の希望を選択する中に人事の領域も入れていました。

──採用方法はいまとはだいぶ違ったんですか。
 だいぶ違いましたね。当時は一括の「マス採用」でした。内定後に配属面談をして、入社直前の3月に配属の連絡が来ます。入社後はすぐにOJTがはじまりました。

──基本的に新入社員は事業を行う部門に配属されるのですか。
 そうですね。特に初任地で本社勤務は少ないと思います。いまはIT・デジタル事業を行う「デジタルシステム&サービス」というセクターへの配属がかなり割合としては多いです。

■入社後の経歴
 ──2006年以降、会社は激変期を乗り越えてきました。
 入社して3年後に、当時製造業最大の赤字が出ました。でも、私は経営に近い仕事の経験が浅く、普段の業務で何か実感するというよりもニュースや新聞で知るインパクトの方が大きかったですね。
 会社の中は赤字以降でかなり変わりました。大きかったのは選択と集中で事業そのものを変えていく、形を変えていくという転換です。「日立は社会イノベーション事業をグローバルに展開していく」という方針が打ち出され、それに伴って人財マネジメントが必要だ、変えていこうとなったのがここ15年ぐらいの流れです。

 ──これまでのキャリアでは、会社の変革などさまざまなことがあったと思いますが、一番大変だったことは何ですか。
 私は、日立がジョブ型の人財マネジメントをはじめた頃に本社に異動してきて、処遇企画グループで管理職の処遇制度を変える仕事をしました。グローバルグレードに沿ってどう「ジョブ型」の制度にフィットさせるのかを考えるのが大変でした。その後の採用担当としては、コロナ禍もあって採用活動を全面オンラインに急遽切り替えた対応もあり、これも未知の大変さがありましたね。

 ──どうやって、大変なことを乗り越えられてきたのですか。
 目の前のこと、やらないといけないことだけを見ていたら、走り抜けていたというイメージの方が近いですね。「こんなことをして乗り越えました」と言えるとカッコいいなと思うのですが、正直、突っ走っていたら乗り超えていたという感覚です。

 ──「ジョブ型」に転換するという会社の動きは、すぐに理解できましたか。
 そうですね。ビジネスの変革に併せて人財マネジメントも変えないといけない、だから我々の部門から変わっていこうと、認識を共有したうえで進めていたので違和感はありませんでした。
 当時の中西社長のリーダーシップも強かったです。また、それぞれの役員をはじめとするリーダーたちが自部門に方針を噛み砕いて説明し、それぞれの部門で何をするべきなのか、しっかりとクリアにして、丁寧なコミュニケーションを取ったからこそ、この変革は実現できたのだと思います。

普段の生活を裏方になって支える仕事

(写真は社内の仕事風景/日立製作所提供)
■日立の社風
 ──日立の社風とは。
 日立製作所だけでも3万人弱の従業員がいるので、一言では難しいのですが、私が思うに仕事に誠実な人が非常に多いのかなという気はします。
 社会イノベーション事業という言い方をしていますが、分かりやすくいうと普段の生活を裏方として支える社会インフラを我々は手がけています。普段の生活で、日立のロゴはあまり見ないと思います。表に出てくるようなB to Cのビジネスよりも、B to BやB to G(ガバメント)のビジネスを多く行っています。電気が安定的に供給できるようにシステムを提供したり、電車が遅れないような運行管理システムを手掛けていたりなどです。官公庁、地方自治体、金融機関など、我々はいろいろなお客さまとビジネスをしています。さらに、現在は気候変動や都市化の問題などで、お客様・社会の課題が複雑化するなかでも、一緒に向き合って解決していきます。社会インフラを止めないという使命感や、複雑な課題でもしっかりと向き合い解決しようとする力が一人ひとりにあるからこそ、誠実な社風、社員の人柄になるのかなと思います。

■日立で働くやりがい
 ──日立で働くやりがいを教えてください。
 グローバル化やデジタル化が急速に進む中、お客様のニーズを把握してお客様が抱える課題や社会課題を解決する社会イノベーション事業を展開しているのが日立です。グローバル規模で人々の生活を支えることができる会社は、実は世界で見ても少ないのではないかと思います。そのような仕事にチャレンジし、自分の仕事で社会をより良くしていくことを実感できるのは、日立で働くやりがいの大きな部分ではないかと思います。

(インタビュー写真・大嶋千尋)

みなさんに一言!

 世界中の人たちの普段の生活がより良く変わるとき、それを変えるのは日立でありたいと思っています。日立では皆さんが思っている以上に規模が大きく、影響力がある仕事にチャレンジできる環境があります。社会を変えたいと思っている皆さん、ぜひ一緒に日立で働きましょう。

株式会社日立製作所

【重電】

日立は、データとテクノロジーでサステナブルな社会を実現する社会イノベーション事業を推進しています。お客さまのDXを支援する「デジタルシステム&サービス」、エネルギーや鉄道で脱炭素社会の実現に貢献する「グリーンエナジー&モビリティ」、幅広い産業でプロダクトをデジタルでつなぎソリューションを提供する「コネクティブインダストリーズ」という3セクターの事業体制のもと、ITやOT(制御・運用技術)、プロダクトを活用するLumadaソリューションを通じてお客さまや社会の課題を解決します。デジタル、グリーン、イノベーションを原動力に、お客さまとの協創で成長をめざします。