人事のホンネ

株式会社日立製作所

日立製作所〈前編〉
「適所適財」のジョブ型人財マネジメントはビジネスをドライブさせるため【人事のホンネ】

株式会社日立製作所 人財統括本部人事勤労本部タレントアクイジション部 中村圭佑(なかむら・けいすけ)さん

2024年09月27日

 人気企業の採用担当者に編集長が直撃インタビューする「人事のホンネ」。今回は、日本を代表する総合電機メーカーの日立製作所が登場します。日立製作所は新卒採用時、ほとんどの採用について入社後の職種を特定して採用する「ジョブ型」の採用を行っています。社会課題を解決する社会イノベーション事業をグローバルに推進していくため、より社員全員が主体的にキャリア形成に取り組めるよう、日本国内の人事制度について世界的に主流となっているジョブ型の人財マネジメントを導入。10年以上かけて制度を浸透させています。今回は入社以来人事にたずさわり、ジョブ型の人事制度構築を担ってきた中村圭佑さんにジョブ型採用とは何か、じっくり話を聞きました。(編集長・福井洋平)

技術系はすべてジョブ型採用 事務系もジョブ型採用を選択できるように

■中村さんについて
 ──まずは、中村さんのご経歴を教えて下さい。
 2006年に日立製作所に入社し、最初は神奈川県横浜市の戸塚区にある事業所に配属になり、人事・労務の仕事につきました。日立はジョブローテーションをせず、会社全体でスペシャリストを育てていくという考えです。私も入社以来現在まで、人事・労務の仕事を続けています。
 2013年に本社に異動し、従業員の処遇制度を企画立案する処遇企画グループに配属になりました。そこではジョブ型人財マネジメントの取り組みの一つとして、国内管理職の処遇制度の改訂を行いました。その後、2018年に採用を管掌するタレントアクイジション部に異動して事務系職種(以下、事務系)の採用を担当し、今は技術系職種(以下、技術系)の採用を担当しています。

 ──タレントアクイジション部とはどういった部署ですか。
 もともとは本社の「採用グループ」という名前でしたが、ジョブ型人財マネジメントのもとで、我々のやりたいことは新卒採用だけではなくキャリア採用も含めて人を適切な方法で採用し、適職に配置していくことと考え、部の名前もより広義の意味にしようということで「タレントアクイジション部」と名前が変わりました。

■今年度入社について
 ──新卒採用(2024年4月)の入社実績について教えてください。
 新卒採用全体で695人です。

 ──2025年度の採用も終わりましたか。
 海外留学、年度途中の進路変更等の方もいらっしゃるため、採用は通年で行っており、(9月時点で)まだ続けている部門もあります。

 ――日立は、新卒採用についてもすべてジョブ型、つまり職種や職務を特定して募集する形をとっているのでしょうか。
 技術系は全てジョブ型採用です。事務系は職種を限定する「職種別コース」の採用が2024年は約40%で、約60%は今までと同じような「オープンコース」、つまり職種を限定しない採用で、内定後に相談をしながら配属を決めています。2025年度の採用からは職種だけでなく特定事業分野や勤務地もあらかじめ開示して募集を行う「ポジション別コース」を設けますが、それぞれのコースでの採用人数をあらかじめ決めるわけではないので、コース別の採用割合は年々変わっていくと思います。

 ──技術系、事務系の募集職種を教えて下さい。
 技術系の主な募集職種は研究開発、設計開発、システムエンジニアなどです。事務系では営業、人事、調達、経理財務、事業企画、広報宣伝など、学生もイメージしやすい職種です。

ビジネスをドライブさせるためにジョブ型採用が必要

■新卒採用でなぜジョブ型採用を?
 ――そもそもなぜ、新卒採用でジョブ型が必要なのでしょうか。
 ビジネスをさらに拡大し、ドライブするために必要だからです。日立は2008年度に当時製造業として最大の赤字を出しました。この赤字をきっかけに事業を見直し、モノづくり中心の事業から、日立の強みであるIT・OT(制御・運用技術)・プロダクトを組み合わせてグローバルに社会課題を解決する社会イノベーション事業を推進することになりました。グローバルに事業を推進するには、人財マネジメントの軸も揃えていく必要があります。いわゆる日本で主流な働き方である、職務を限定せずに人に仕事を割り当てる「メンバーシップ型」を改め、職務を明確化・限定してその仕事に人をアサインする「ジョブ型」に転換し、全社員が力を発揮できるように人事制度や評価を見直してきました。
 「ジョブ型」を実現するためには、それぞれのポジションに必要な適性や能力は何なのかを明確にしたうえで「適所適財」を実現することが必要です。個を尊重して、個の強みを生かし、個人の働きがいや個人と組織のパフォーマンスを最大化しようとする中で、新卒採用も「ジョブ型」に変えてきているのです。
 我々はこうした思いで採用活動でも「ジョブ型」を推進していますが、学生目線で見ると職種やポジション別の採用はいわゆる「配属ガチャ」の解消につながります。事務系職種はいま「オープンコース」の採用もしていますが、年々、職種を限定できるコースへのエントリーが増えています。ジョブ型採用を理由に「日立で働くことに決めました」と言って入社してくる学生も増えています。今までのような「就社(会社に入る)」ではなく「就職(仕事に就く)」、つまり「ジョブ型」に視点を移してきているように思います。

■インターンシップについて
 ──インターンシップは職種に合わせて展開していますか。
 そうですね。インターンシップの場合も「ジョブディスクリプション」(業務内容を詳しく記載したもの)といって、あらかじめ学生に「こんなことをするよ」「こういう仕事の内容だよ」と明示をして、選んでもらっています。

 ──インターンシップは夏と冬、あわせて何種類ぐらい設定されていますか。
 弊社では三省合意を踏まえて、2週間以上の就業体験ができるものをインターンシップと呼んでいます。国内の昨年度(2023年度)のジョブ型のインターンシップは技術系と事務系あわせて673テーマで行いました。
 学生に実際の日立の働き方や社員、雰囲気を知ってもらいたいので、そうした場を可能な限り多く提供したいと思っています。学生も実際に就業体験をしてみることで、自分の事前のイメージと合っていたのか、違っていたのか、違っていたのであればどういう仕事なら自分によりマッチするのかを考え、自分のキャリアをもう一度見直すきっかけになると思います。我々としては、結果的に採用選考でのミスマッチを減らせると考えています。

インターンシップはあくまでキャリアを考えてもらう機会に

■インターンシップ経由の採用数
 ──今は、インターンシップ経験者の採用数も増えていると思います。
 2024年卒(インターンシップは2022年度に実施)は144人で、全体の5分の1強ですね。学生がインターンシップを通じてキャリアを考え、日立を知ったうえで応募してくれる人が増えるのであれば、我々としても喜ばしいですね。この数字を300人、400人にしていくという目標があるわけではありませんが、事実としてインターンシップ経験者の採用数は年々増えていますし、そのことを我々もポジティブに捉えています。

 ──学生は「インターンシップを受けないと本選考に行けないのでは」と不安に思うかもしれません。
 それは全くないです。2024年卒でも500人くらいはインターンシップを経ずに日立に入社しています。あくまでもインターンシップは、学生に対してキャリアを考える機会を提供する場です。

 ──2025年卒採用からは、インターンシップからの選考直結が可能になりますが、日立ではインターンシップに参加したら本選考で有利になるといったルートはありますか。
 ありません。あくまでインターンシップは日立や仕事に対する理解を促進するための就業体験という位置づけです。

 ──インターンシップの募集はいつごろからスタートしますか。
 2024年は6月から夏のインターンシップに向けた募集を開始し、8月、9月に実施しました。この先の冬は10月下旬から募集を開始し、1月、2月に受け入れを予定していますが、今年度は昨年度よりも多く合計で約1000名程度を受け入れる見込みです。
(写真は2023年実施のジョブ型インターンシップ/日立製作所提供)
■インターンシップの選考
 ──インターンシップの選考は誰がするのですか。
 インターンシップを受け入れる職場の社員が実施します。

 ──選考はどのように行いますか。
 まずインターンシップサイトからエントリーしてもらいます。テーマの数が多いため選考過程や面談の方法は若干異なりますが、基本的には最初は書類審査です。その後、適性検査、面談などを実施して、最後にどの学生に実際に職場に入ってもらうのかを決めます。

 ──技術系のインターンシップは2001年から行われているのですね。
 そうですね。技術系ではその頃から、弊社がジョブを提示して、学生に選んでもらっています。ただ、学生により分かりやすいように部門を分けてジョブを掲示するなど、少しずつ変えてきています。

 ──人事部門でも学生をインターンシップで受け入れていますか。
 はい。今年の夏は我々のタレントアクイジション部でも2名受け入れました。タレントアクイジション部の活動全般を説明して仕事の全体感を掴んでもらったうえで実際の打合せにも参加してもらい、どのような仕事をしているのかを聞いて・見て・知ってもらうことに加え、学生に対するPRを現状のコンテンツを踏まえてどのようにブラッシュアップすべきか、どのような新しい施策を取り入れるべきかを企画立案してプレゼンしてもらいました。学生自身も実際の仕事を深く知ることができて有意義だったと言ってくれ、我々としても気づきが多く、双方にとって貴重で有意義なインターンシップにすることができたと思います。
 他のインターンシップでも同じように、話を聞くだけではなく実際の職場に入って仕事を学生自身が体験できるコンテンツにしています。

 ──学生には幅広い職種を見てもらうということですね。会社としてはそれぞれのインターンシップの準備も必要になりますね。
 そうですね。我々はジョブ型採用を推進する側なのでインターンシップの重要性を理解していますが、他部署にも協力してもらわないといけません。我々から社内各部署に説明して、説得して、理解してもらうことも学生を受け入れるまでのプロセスとしてはすごく大事です。

学生に100%の理解度は求めない

■インターンシップの選考でどこを見るか
 ──面談では具体的にどのようなところを見ますか。
 それぞれの職種で詳細なガイドをしている訳ではありませんが、各職場のマネージャークラスが選考に入ることが多いので、学生の話を聞いたうえで、ジョブの中身・職場と、どれぐらいマッチするかを判断してもらっています。

 ──学生にはジョブディスクリプションの理解の深さを求めますか。
 ジョブディスクリプションを見ることでその仕事に関する全てのことが理解できる訳ではありませんが、学生が「こんなことができるのだな」と、自分のやりたいことと合っているかどうかを判断することはできる内容になっています。なので、ジョブディスクリプションそのものの理解の深さというよりも、学生のやりたいこととマッチしているかの方が重要だと思っています。
 選考を行う面談官は学生とのコミュニケーションの中で、どんな就業体験をしたいのかを聞き、志望するジョブの領域とマッチしそうかどうかを確認しています。学生がジョブをあまり理解できていなかったとしても、面談をしている社員は自分がやっている仕事なので中身が分かっています。学生のイメージとインターンシップで体験してもらう内容がマッチしているかどうかは面談官が聞き出して確認するので、最初から学生に100%の理解を求めるということではないです。

 ──例えば、タレントアクイジション部ではどういう提示をしていますか。
 母集団形成をしていくうえで、日立のインターンシップのブランディング施策の提案をしてもらいます、という提示を行って募集をしています。

 ──配属ガチャという話もありますが、やりたいことを固めている学生は増えていますか。
 インターンシップに応募する段階でも、自分のキャリアについて考えはじめている学生は年々増えてきていると実感しています。

 ──学生は職種やポジションの希望をどこで固めるのでしょうか。
 会社説明会や短期間のキャリア教育の場、あとはいろいろな会社の社員と接する機会などを早い段階からうまく活用して、少しずつ情報収集している学生が増えています。自分自身のキャリアについてはすぐに決められるものではないので、少し時間もかけながら、徐々に固めていくという学生が多いと思います。

 ──インターンシップの倍率はどれぐらいですか。
 2023年度は技術系が8.8倍、事務系が34.3倍でした。我々もなるべく多くの人を受け入れるのが理想だとは思うのですが、どうしても受け入れ数には限界があるので、受け入れられない学生が出てきてしまいます。ワンデイで行うワークショップや社員と接する座談会などを多く設けていますので、いろいろな情報を得ながら日立と合うかどうかを見てもらえるとうれしいですね。

(後編はこちらから

(インタビュー写真・大嶋千尋)

みなさんに一言!

 世界中の人たちの普段の生活がより良く変わるとき、それを変えるのは日立でありたいと思っています。日立では皆さんが思っている以上に規模が大きく、影響力がある仕事にチャレンジできる環境があります。社会を変えたいと思っている皆さん、ぜひ一緒に日立で働きましょう。

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【重電】

日立は、データとテクノロジーでサステナブルな社会を実現する社会イノベーション事業を推進しています。お客さまのDXを支援する「デジタルシステム&サービス」、エネルギーや鉄道で脱炭素社会の実現に貢献する「グリーンエナジー&モビリティ」、幅広い産業でプロダクトをデジタルでつなぎソリューションを提供する「コネクティブインダストリーズ」という3セクターの事業体制のもと、ITやOT(制御・運用技術)、プロダクトを活用するLumadaソリューションを通じてお客さまや社会の課題を解決します。デジタル、グリーン、イノベーションを原動力に、お客さまとの協創で成長をめざします。